
この記事では、蓄電池の導入が日本より先に進んだ海外の市場で、蓄電池の収益の形がどう変わったのかを解説します。そのうえで、日本で蓄電所の計画を考えるときに何を読み取ればよいのかを整理します。
先行した市場で何が起きたか
英国、米国テキサス州、豪州は、系統用蓄電池の導入が早く進んだ市場です。これらの市場でも、当初、蓄電池の主な収入は調整力でした。応答の速い蓄電池は、周波数を保つための調整力の担い手として高く評価されたためです。
しかし、蓄電池の設備量が増え、調整力の必要量を超えたところで、調整力の単価が下がりました。その後、収益の中心は卸電力市場の値差へ移っています。
- 蓄電池が増える調整力の担い手として導入が進む
- 必要量を超える調整力の需要には上限がある
- 単価が下がる売り手が多く、調整力の価格が下落
- 収益の中心が値差へ卸電力市場で充電・放電の差を取る
なぜ調整力の単価は下がるのか
調整力は、周波数を保つために一般送配電事業者などが必要な量だけ確保するものです。必要な量はあらかじめ決まっていて、設備が増えたからといって買われる量が増えるわけではありません。
そのため、売り手である蓄電池が必要量を上回るほど増えると、限られた枠を多くの設備が取り合うことになり、単価は下がります。調整力の市場は、規模に限りがある市場だといえます。
値差の市場は性格が違う
これに対して、卸電力市場の値差は、電気が安い時間と高い時間の差から生まれます。再生可能エネルギーが増えると、日中の電気が安くなり、夕方に高くなる日が増えます。値差を取る収益は、調整力のような固定の枠に縛られない一方、日々の価格の動きに左右されます。
調整力(待機の対価)
- 必要量が決まっている市場
- 導入初期は単価が高い
- 設備が増えると単価が下がりやすい
卸電力の値差
- 安い時間と高い時間の差から生まれる
- 再エネが増えると機会が増える
- 日々の価格の動きに左右される
日本への含意
日本でも同じ流れになると見込まれています。国内では2026年に需給調整市場の上限価格が引き下げられ、2026年9月1日の実需給分から一次調整力などが1kWあたり10円、二次調整力②・三次調整力①が7.21円となりました。単価は落ち着きましたが、蓄電池が調整力の中心的な担い手であることは変わりません。
一方で、高圧以上の系統用蓄電池の接続の申込みは急増しています。申込みのすべてが運転を始めるわけではありませんが、運転を始める設備が増えるにつれて、調整力の単価には下がる力が働くと考えるのが自然です。
計画で意識したいこと
- 上限に近い単価が続く前提ではなく、何円まで下がっても成り立つかという見方で収支を確認します。
- 調整力だけでなく、卸電力市場の値差でも収入を得られる設備と運用になっているかを確認します。
- 単価が高い時期に運転を始めた案件ほど、初期の数年で多く回収できるという面があります。
低圧の蓄電所で考える場合
出力49.9kW級の低圧蓄電所では、収益の中心は需給調整市場の一次調整力(待機の対価)で、卸電力市場の値差は副次的です。海外の流れを踏まえると、低圧でも、調整力の単価が下がった場合の収支を確かめておくことが大切です。
海外の経験から学べること
海外の経験から読み取れるのは、蓄電池の収益は市場の成熟とともに形を変えるということです。導入初期に高い単価で得られた収入が、そのまま長く続くとは限りません。
そのため、収支を見るときは、調整力の単価が高い前提だけでなく、単価が下がった場合や、収益の中心が卸電力の値差に移った場合でも計画が成り立つかを確かめておくことが大切です。複数の単価で試算されているかどうかは、案件資料の質を見分ける手がかりにもなります。
一方で、市場の変化はすぐに起きるとは限らず、どの時期にどの程度進むかは見通しにくいものです。過度に楽観も悲観もせず、前提を開示した試算で判断する姿勢が求められます。
海外の事例は、市場の制度や電源の構成が日本と異なるため、そのまま当てはめることはできません。それでも、調整力の必要量に限りがあるという構造は共通しており、日本の計画を考えるうえで参考になる経験といえます。
まとめ
- 英国、テキサス州、豪州では、蓄電池が調整力の必要量を超えると単価が下がりました。
- その後、収益の中心は卸電力市場の値差へ移っています。
- 日本でも同じ流れが見込まれ、単価が下がっても成り立つかで収支を見ることが大切です。
- 早く運転を始めた案件ほど、単価の高い時期に回収しやすいという面があります。
出力49.9kWの低圧蓄電所については、低圧蓄電所のご案内をご覧ください。
出典
- Potomac Economics(ERCOT独立市場監視)State of the Market Report 2024
- Modo Energy(英国の蓄電池収益指数)
- AEMO Quarterly Energy Dynamics
- 資源エネルギー庁 需給調整市場のΔkW上限価格について(2026年7月)
※本記事は制度と市場の一般的な解説です。個別の投資を勧めるものではありません。