補助金・助成金

電動車のダイナミックプライシング実証事業とは|充電シフト実証の内容と成果

川田 幸寛・

この記事は2026年10月時点の情報です。「ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業」は、一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)が執行した国の補助事業で、令和2年度から令和4年度まで実施されました。SIIのウェブサイトでは令和4年度事業を最後に同名事業の掲載はなく、2026年10月時点で公募は行われていません。令和4年度の成果報告は2023年5月に公開されています。

本記事では、この実証事業の目的と仕組み、令和4年度の公募内容と補助額、実証で得られた成果を過去の実績として整理します。あわせて、電気料金の変動に合わせて電気自動車(EV)を充電する考え方と、2026年度の関連する支援制度の状況を紹介します。

ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシング(DP)とは、電力の需給状況に応じて、時間帯ごとに電気料金の単価が変動する料金の仕組みです。本実証事業では、小売電気事業者が卸電力市場(日本卸電力取引所、JEPX)の価格などに連動した時間帯別の料金メニュー(DPメニュー)を設定し、電動車の利用者に充電時間の移動(充電シフト)を促しました。

電気の使い方を変えて需要のパターンを変える取組は、ディマンド・リスポンス(DR)と呼ばれます。資源エネルギー庁は、DRを需要を減らす「下げDR」と、需要を増やす「上げDR」に区分しており、再生可能エネルギーの発電が多い時間帯にEVや蓄電池を充電して余剰電力を吸収することは、上げDRの例として示されています。DPメニューによる充電シフトは、料金によって需要を動かす「電気料金型」のDRにあたります。

実証事業の目的

SIIは、本事業の目的を、再エネ電気を最大限活用するため、卸電力市場価格等に合わせて電動車の充電時間のシフトを促し、その実施内容のデータ等を取得して効果を検証することで、分散型エネルギーリソース(DER)を活用した安定かつ効率的な電力システムの構築と、再生可能エネルギーの普及拡大を図ることとしています。

令和4年度の正式な事業名は「蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業費補助金(ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業)」です。

過去の実績:令和4年度の事業内容

令和4年度は、「DP提供事業」と「充放電設備導入事業」の2つで構成されていました。

DP提供事業

小売電気事業者がDPメニューを実証参加者に提供し、電動車の充電行動のデータを取得・分析する事業です。補助対象事業者は、日本国内で事業活動を営む法人で、小売電気事業者が単独で、または小売電気事業者を含むコンソーシアムで申請しました。公募期間は2022年4月11日〜4月28日でした。

区分 主な内容 補助率 上限額
実証経費(実証協力費を除く) 人件費、旅費、会議費、リース料、委託・外注費など 1/2以内 1申請あたり3,000万円
機械装置等の導入費 設計費、設備費、工事費
実証協力費 実証参加電動車ごとに充電時間をシフトする実証への協力に要する経費 定額 実証参加者または電動車あたり6万円
計測器・通信装置等の経費 基礎充電設備付近に設置する計測器、通信装置、充放電を自動化する装置等の設備費・工事費 定額 設備費と工事費の合計で20万円

基礎充電設備とは、自宅など電動車を保管する場所で充電するための設備です。実証参加者には、充電シフト実証の期間を30日間以上とし、そのうち一定日数以上はDPメニューを適用することが求められました。

充放電設備導入事業

DP提供事業に参加する実証参加者が、電気自動車の電気を住宅などで使えるV2H充放電設備を新たに導入し、基礎充電設備として実証に参加する事業です。V2H充放電設備の購入費は補助率1/2以内・上限75万円、工事費は定額で上限40万円(個人)または95万円(法人)でした。申請受付は、DP提供事業の補助事業者の交付決定日以降、2022年11月30日までとされていました。

採択された事業者

令和4年度のDP提供事業では、株式会社メディオテック、MCリテールエナジー株式会社、アークエルテクノロジーズ株式会社がコンソーシアムリーダー兼小売電気事業者として採択され、自動車メーカーやエネルギー事業者などを含む計12社が実証協力者として参加しました(2022年6月9日公表)。

実証で得られた主な成果(令和4年度成果報告より)

以下は、SIIが公開しているアークエルテクノロジーズ株式会社の令和4年度成果報告に記載された内容の要約です。

料金メニューと情報提供の仕組み

  • 毎月固定の基本料金を設定したうえで、JEPXと連動した電力を提供し、電力量料金の単価を30分ごとに変える48コマのメニューと、180分ごとに区切る8コマのメニューを、別々の利用者に提供しました。
  • LINEアプリとウェブページで、毎日定刻に料金の告知と充電行動の勧奨を行いました。
  • V2Hなどの充放電設備を自動制御する仕組みも構築しました。

分析結果

  • DPの価格が高い夕方を避けて充電する傾向がみられ、安い時間帯だけでなく高い時間帯も価格シグナルとして示すことが有効な可能性があるとしています。
  • 市場連動型の電力メニューと、利用者のライフスタイルに合わせた充電勧奨により、価格が安く再エネ比率が高い時間帯での充電へ行動変容を促すことができたと報告しています。
  • 充放電の自動制御については、特に深夜帯の充放電で利便性が高いとの声があった一方、経済性はEVの稼働率に左右され、日常的に長時間稼働する車両では効果が限定的で、平時の稼働率が低い車両でより大きな経済性が得られることが示唆されたとしています。
  • 前日の充電実績の通知は開始時点で効果がある可能性が示された一方、継続すると効果が低減する可能性もあり、通知の内容や頻度には検討の余地があるとしています。

実ビジネス化に向けた課題

  • 市場価格の高騰リスクを利用者に全面的に転嫁することはDPメニューの普及を妨げると推定され、上限価格の設定と基本料金の設計により、事業者と利用者でリスクを分担するメニュー設計が必要とされています。
  • 48コマと8コマのメニューでは、後者の方が市場価格の見通しや電力調達価格の安定性で高い水準が求められるとしています。
  • 事業者が計測機器を個別に設置してデータを取得する方法は、事業者・利用者の負担が大きく、規模を拡大する際の課題になると考えられるとしています。

各事業者の成果報告と、電力系統への影響等を分析した分析調査事業報告書は、SIIの「成果報告について」のページで公開されています。

2026年度の関連する支援制度

電動車の充電シフト実証事業そのものは公募されていませんが、DRやEVの充放電に関連して、2026年度には次のような国の事業が実施されています(2026年10月23日時点)。

事業 概要 状況
令和7年度補正 V2H充放電設備・外部給電器補助金(一般社団法人次世代自動車振興センター) V2H充放電設備などの導入を支援 2026年8月28日に交付申請受付終了のお知らせを掲載
令和7年度補正 ディマンドリスポンスの拡大に向けたIoT化推進事業(SII) DRに活用されていない既存リソースのIoT化を支援し、アグリゲーターが遠隔監視・制御できるようにする事業 2026年10月9日に交付決定の公表を開始
令和7年度補正 スマートメーターを活用したディマンドリスポンス実証事業(SII) スマートメーターのIoTルートを活用したDRの実証・セキュリティ検証・環境構築 公募は2026年5月15日に終了

このほか、SIIは令和7年度補正の家庭用蓄電システム導入支援事業なども実施しています。各事業の対象者や要件は、それぞれの公式ページで確認してください。

個人がDPの考え方を生かすには

実証事業のような補助は現在ありませんが、市場価格に連動する料金メニューや時間帯別料金メニューは、小売電気事業者が独自に提供している場合があります。こうしたメニューを利用する場合は、実証で示された課題も踏まえ、次の点を確認しておくことが大切です。

  • 単価がどの指標(JEPX価格など)に連動し、どの時間単位で変わるか
  • 市場価格が高騰した場合の上限価格の有無と、基本料金の水準
  • 翌日の料金の通知方法と、充電器やV2Hの自動制御に対応しているか
  • EVの利用時間帯(日中に長時間使うか、自宅に停めている時間が長いか)

よくある質問

ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業は、今も申請できますか?

できません。本事業は令和2年度から令和4年度まで実施され、2026年10月時点で公募は行われていません。

電気代のダイナミックプライシングとは何ですか?

電力の需要・供給の状況に応じて、一定の時間ごとに電気料金の単価が変動する仕組みです。本実証事業では、JEPXの価格に連動して30分ごとまたは180分ごとに単価が変わるメニューが使われました。

V2Hとは何ですか?

Vehicle to Homeの略で、電気自動車などに蓄えた電気を住宅で使えるようにする充放電設備です。電気料金が安い時間帯に充電し、高い時間帯に住宅へ放電する使い方ができます。

まとめ

ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業は、卸電力市場価格に連動した料金メニューで電動車の充電時間を動かせるかを検証した、令和2年度から令和4年度までの国の補助事業です。実証では、価格シグナルと利用者に合わせた充電勧奨によって、安く再エネ比率の高い時間帯への充電シフトを促せた一方、価格高騰リスクの分担やデータ取得の負担といった課題も示されました。現在、同事業の公募はありませんが、DRやV2Hに関する支援は別の事業として実施されているため、最新の情報は各執行団体の公式サイトで確認してください。

参考資料

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。

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