昼に発電した太陽光の環境価値で、夜に使う電気まで「再エネ」にできるのか。

この問いが、企業の脱炭素と電力調達のルールを揺さぶっています。GHG ProtocolのScope2改訂では、再エネを買った量に加えて、発電した時間と場所を重視する案が議論されています。

ただし、2026年10月4日時点でHourly Matchingの最終採用や適用開始は決まっていません。GHG Protocolは公開意見募集の結果を踏まえ、複数の報告アプローチも検討しています。公式発表

日本企業が今、押さえたいのは「証書がなくなる」という話ではなく、将来の調達に備えて何を把握しておくかです。

Scope2改訂で「年間再エネ100%」はどう変わる?非化石証書・PPA・蓄電池への影響【2026年10月】

Scope2とは、購入した電気などに伴う排出量

Scope2は、企業が購入して使用する電力・蒸気・熱・冷熱の生成に伴う間接的な温室効果ガス排出量です。工場が自ら燃料を燃やすScope1とは区別されます。

現行のGHG Protocolには、大きく二つの算定方法があります。

  • Location-based(ロケーション基準):使っている地域の電力系統の平均的な排出係数などで計算する。

  • Market-based(マーケット基準):電力契約や、品質要件を満たす環境価値などを反映して計算する。

契約的手段や供給者別データが利用できる市場で事業を行う企業には、両方の数値を報告する仕組みがあります。現行Scope 2 Guidance

2025年の改訂案は、両方法での報告という構造を維持しつつ、算定に使うデータや品質要件を見直すものでした。以下では、電力調達に関わる二つの論点を取り上げます。改訂案の全体像

Scope2改訂で「年間再エネ100%」はどう変わる?非化石証書・PPA・蓄電池への影響【2026年10月】

① Hourly Matching:「年間の量」から「同じ時間」へ

年間の電力使用量が1万MWhの企業を考えてみます。現行の品質要件などを満たす年間1万MWh分の再エネ属性を確保すれば、Market-basedの排出量を大幅に下げられる場合があります。

しかし、太陽光の発電が昼に集中していても、その企業は夜に電気を使うかもしれません。年間の合計がそろっていても、発電と使用の時間はそろいません。

Hourly Matchingは、この対応を1時間単位で確認する考え方です。たとえば13時台に100kWh使った需要には、同じ時間帯の適格な電源属性を対応させる、というイメージです。

ここで大切なのは、すべての企業に24時間再エネ100%を義務付ける案と読み替えないことです。対応する属性を確保できない時間は、別の適格な属性や所定の排出係数を使って算定する考え方です。時間ごとの要件は、証書などで裏付けるMarket-basedの主張について提案されています。Hourly Matchingの公式解説

また、2025年案には時間別データを推計する負荷プロファイル、小規模組織への免除、段階的導入や既存契約への移行措置も含まれていました。実務負担をどう抑えるかも、制度設計の一部です。実行可能性に関する提案

② Deliverability:「どこで発電したか」も確認する

Deliverabilityは、その発電所の電力が、需要拠点を供給する電力系統に合理的に届き得るかを考えるものです。

同じ国の証書だからよい、という判断から、系統の接続や送電可能性を踏まえた確認へ進む案と理解すると分かりやすいでしょう。電子を個別に追跡するという意味ではありません。定義された領域や、領域外からの供給可能性を示す証拠などを使う考え方です。

2025年案は、時間と地理の対応をより厳密にして、企業の算定結果と電力系統の実態との結び付きを強めようとしています。ただし、日本のどの範囲が適格な境界になるかを、現時点で一律に断定することはできません。改訂案の地理的要件

非化石証書・PPA・蓄電池への影響をどう考えるか

Scope2改訂で「年間再エネ100%」はどう変わる?非化石証書・PPA・蓄電池への影響【2026年10月】

日本企業への実務的な影響として考えられるのは、証書やPPAの属性情報を、需要拠点の情報と結び付けて管理する必要性が高まることです。

2025年案は、証書や契約的手段をなくす提案ではありません。発電時期や供給可能性などの条件を見直す提案です。日本の非化石証書が将来どのように扱われるかは、最終基準と証書制度・データの対応を確認する必要があります。提案の対象と要件

PPAも、発電所との契約量だけでなく、発電する時間、所在地、需要との対応を確認することが判断材料になります。太陽光中心の調達では、夜間需要にどう対応するかが論点になるでしょう。

そこで、昼の再エネを蓄えて夜に使う蓄電池、異なる時間に発電する電源、需要を動かす取り組みを組み合わせる意味が大きくなる可能性があります。これは改訂案が採用された場合の事業上の示唆です。蓄電池は発電源ではなく、充電した電気の属性、損失、記録なども確認事項です。導入だけでScope2が自動的にゼロになるわけではありません。

調達量をそろえるだけでなく、自社の需要パターンに合う電源の組み合わせを考える。改訂論議は、その準備を始めるきっかけになります。

企業回答の82%が「低支持」。でも改訂全体への反対ではない

2026年7月29日に公表された意見集計では、Hourly Matching要件への設問に回答した909件のうち、支持(5段階の4〜5)が22%、支持なし・低支持(1〜2)が70%でした。

「Company」区分の回答429件では、支持12%、支持なし・低支持82%。Deliverability要件の企業回答413件では、支持19%、支持なし・低支持71%でした。公開集計 Table 19・27(PDF)

この数字は、各設問に回答した企業区分の集計です。世界の全企業を代表する調査でも、Scope2改訂全体への賛否でもありません。

集計では、データの可用性、監査・管理負担、地域間の違い、調達市場への影響などが論点になりました。精度を高める目的と、企業が実行できる仕組みとの両立が課題です。意見集計(PDF)

最新の日程は2027年に意見募集、2028年に統合基準公表の予定

GHG ProtocolとISOは2026年7月、企業のGHG算定基準を統合する方針を発表しました。Scope1・2・3やActions and Market Instrumentsの作業と、ISO 14064-1をまとめる計画です。統合基準に関する公式発表

2026年10月4日時点の公表日程は、次のとおりです。

  • 2027年第2四半期:統合基準の公開意見募集。

  • 2028年第4四半期:統合企業基準の公表。

どちらも予定であり、公表予定日と適用開始日は別です。「2027年からHourly Matchingが義務になる」と捉えることはできません。開示制度や目標設定プログラムが何を採用するかも、それぞれの判断を確認する必要があります。最新日程・今後の進め方に関するFAQ

Scope2改訂で「年間再エネ100%」はどう変わる?非化石証書・PPA・蓄電池への影響【2026年10月】

日本企業が今、準備しておきたい三つのこと

最終要件が固まる前でも、調達や開示に役立つ準備は進められます。私たちは、まず次の三つを勧めます。

1.拠点別の電力データを確認する。

どの拠点で、何時に、どれだけ使っているか。時間別・30分値などを取得できるか、保存期間は十分か、電力会社や計測機器から取り出せるかを把握します。最初から全拠点をそろえる必要はありません。大口需要の拠点から確認すれば、調達検討にも使えます。

2.証書・PPAの属性と契約条件を棚卸しする。

発電所、地域、電源種、発電期間、環境価値の帰属、償却・使用の記録、二重計上の防止などを整理します。長期契約では、基準変更時のデータ提供や条件見直しについて、何が決められているかも確認します。

3.環境部門と電力調達・設備担当で情報を共有する。

将来、時間や場所の対応が重視されれば、算定と調達はさらに近づきます。省エネ、需要を動かす運用、PPA、蓄電池などを、費用と実際の運用条件を含めて比較できる状態を作ることが有効です。

これは確定していないルールへの先回り投資を一律に勧めるものではありません。現在の契約とデータを把握し、次の案が出たときに自社への影響を判断できるようにする準備です。

Scope2改訂の論点は、企業の「電気の買い方」に及びます。最終要件を見極めながら、自社が電気を使う時間と場所を把握する。その土台が、これからの調達判断を支えます。


本記事は株式会社タンソーマンGX公式による、2026年10月4日時点の公開一次資料に基づく解説です。将来への影響と準備の提案は、改訂案を踏まえた当社の考察です。見出し画像・本文図版は生成AIを用いて作成したイメージです。図版内のグラフ等は説明用の仮例で、実測値ではありません。

※本記事は、株式会社タンソーマンGXの公式note(2026年10月4日掲載)からの転載です。noteで読む