
この記事では、需給調整市場で蓄電所が得る収入が、どこから出て、誰を通って、オーナーの手元に届くのかを解説します。待機に対価が出るという市場の性格と、途中で差し引かれる費用もあわせて整理します。
需給調整市場は「待機」を買う市場
需給調整市場は、周波数を保つための調整力を、一般送配電事業者があらかじめ確保しておく市場です。取引されるのは電力量ではなく、いざというときにすぐ出力を変えられる状態で待機すること(ΔkW)です。
そのため、約定した時間に正しく待機していれば、実際に放電しなくても対価が支払われます。電気を売った量に応じてお金が入る卸電力市場とは、収入の成り立ちが大きく違います。蓄電池は応答が速く、最も速い一次調整力で強みを発揮します。
| 項目 | 待機の対価(ΔkW) | 放電の対価(kWh) |
|---|---|---|
| 主な市場 | 需給調整市場 | 卸電力市場(JEPX) |
| お金が出る条件 | 約定した時間に正しく待機すること | 実際に電気を出すこと |
| 蓄電所での位置づけ | 収入の中心 | 約定しなかった時間の補い |
お金はどこから来て、どこへ流れるか
調整力を買うのは一般送配電事業者です。蓄電所は単独で入札するのではなく、アグリゲーター(特定卸供給事業者)を通じて市場に参加するのが一般的です。アグリゲーターが複数の設備を束ねて入札し、約定代金を受け取り、手数料などを差し引いた残りがオーナーに支払われます。
調整力の提供は蓄電所から送配電事業者へ、お金はその逆向きに流れます。
約定代金の計算の考え方
約定代金は、30分ごとの単価×出力×約定したコマ数で計算されます。単価には上限があり、2026年9月1日の実需給分からは、一次調整力などが1kWあたり10円、二次調整力②・三次調整力①が7.21円とされています。上限は「最高でもその価格」という意味で、その価格で約定するわけではありません。
オーナーの手元に届くまでに差し引かれるもの
- アグリゲーター手数料収益の10%前後が多い。計算の基礎を確認する
- 充電の電力費・損失待機と応動で失う電力量を買い足す費用
- ペナルティ応動が基準を満たさなかった場合にかかる
- 保守・監視、保険などオーナーが別途負担する運営の費用
約定代金がそのまま手取りになるわけではありません。アグリゲーター手数料は計算の基礎が売上か運用益かで変わりますし、充電の電力費やペナルティを誰が負担するかは契約によって異なります。また、運用月から入金までは数か月かかるのが一般的です。
低圧の蓄電所の場合
出力49.9kW級の低圧蓄電所も、収益の中心は需給調整市場の一次調整力、つまり待機の対価です。卸電力市場の値差は副次的な位置づけです。低圧の需給調整市場への参入は2026年4月に解禁されました。
低圧の設備は1基では規模が小さいため、アグリゲーターが多数の設備を束ねて入札します。そのエリアで束ねが成立しているか、成立の見込みがあるかが、収入を得られるかどうかの前提になります。
収入の見通しを立てるときの考え方
待機の対価は、単価と約定したコマ数で決まります。単価には上限がありますが、実際の単価は市場の状況によって変わります。上限に近い単価が続く前提ではなく、何円まで下がっても成り立つかという見方で収支を確かめることが大切です。
約定率、つまり入札したコマのうち実際に落札された割合も、収入を大きく左右します。案件の資料で収益を見るときは、単価、1日の約定コマ数、約定率、充電の電力費などの前提がすべて開示されているかを確認します。前提が示されていない試算は、比べようがありません。
また、お金の流れの途中にいるアグリゲーターの条件によって、同じ約定代金でもオーナーの手取りは変わります。市場の仕組みとあわせて、委託先との契約内容を確かめることが、収入の見通しを正しく持つための近道です。
なお、需給調整市場は2026年に前日取引への移行と上限価格の引き下げが行われるなど、制度の見直しが続いている市場です。制度が変わったときに、試算の前提がどう変わるのかを説明してもらえるかどうかも、委託先を選ぶうえでの目安になります。
まとめ
- 需給調整市場は待機(ΔkW)を買う市場で、約定した時間に待機していれば放電しなくても対価が出ます。
- お金は送配電事業者からアグリゲーターを通ってオーナーに届きます。
- 手数料、充電の電力費、ペナルティなどが差し引かれ、入金まで数か月かかるのが一般的です。
- 低圧も収益の中心は一次調整力で、束ねの成立が前提になります。
出力49.9kWの低圧蓄電所については、低圧蓄電所のご案内をご覧ください。
出典
- 電力需給調整力取引所(EPRX) 公表資料
- 資源エネルギー庁 需給調整市場のΔkW上限価格について(2026年7月)
※本記事は制度と市場の一般的な解説です。個別の投資を勧めるものではありません。