
蓄電所への投資を検討する方から、「太陽光のように収入を固定できないのか」という質問をよくいただきます。この記事では、長期脱炭素電源オークションとトーリング契約という2つの仕組みの中身と、2メガワット級の蓄電所の場合はどのように考えればよいのかを整理します。
太陽光の固定価格買取制度との違い
太陽光発電には固定価格買取制度があり、20年間、決まった価格で電気を買い取ってもらうことができました。収入の見通しが立てやすいことが、太陽光投資が広がった大きな理由のひとつです。
蓄電所にも、収入を固定に近づける仕組みはあります。ただし、2メガワット級の蓄電所には、ほとんど届かないのが実情です。以下、仕組みごとに見ていきます。
長期脱炭素電源オークション
長期脱炭素電源オークション
- 容量の収入を原則20年間
- 他市場収益の約9割を還付
- 蓄電池は3万kW以上
トーリング契約
- 20年間の固定料金
- 運用の権利を渡す
- 30MW級の特別高圧
市場運用
- アグリゲーター経由
- 市場の単価で変動
- 2MW級の基本の形
長期脱炭素電源オークションは、電力広域的運営推進機関が実施するオークションです。落札すると、容量の収入を原則20年間受け取ることができます。
他市場の収益の約9割を還付する仕組み
一見すると固定価格買取制度に似ていますが、大きな違いがあります。ほかの市場で得た収益の約9割を還付する仕組みになっている点です。そのため、市場が好調なときの上振れ分はほとんど手元に残りません。収益を伸ばすための制度というより、固定費を回収するための保険に近い性格のものと考えたほうが実態に合っています。
参加要件
蓄電池の参加要件は3万キロワット以上で、1日1回、6時間以上の連続運転も求められます。2メガワットの蓄電所は、そもそも参加することができません。
なお、オークションで落札できるかどうかは入札の結果次第であり、参加すれば必ず収入が得られるわけではありません。大型の案件にとっても、事業計画の一部として位置づける仕組みといえます。
トーリング契約
トーリング契約は、契約の相手方が20年間の固定料金を支払う代わりに、蓄電池をどのように動かすかの権利を持つ契約です。オーナーから見ると、収入が固定されることになります。
国内では東京ガスが中心となっており、宮崎や北海道などで、30メガワット級の蓄電所と20年の契約を結んでいます。対象は特別高圧の大型案件です。
税制との両立には注意が必要
設備を貸し付ける形の契約になると、即時償却が使える大胆な投資促進税制の対象から外れる可能性があります。収入の固定と税制の活用を同時に実現するのは、簡単ではありません。契約の形を決める段階で、税制への影響もあわせて確かめておく必要があります。
| 仕組み | 収入の形 | 主な対象・要件 |
|---|---|---|
| 長期脱炭素電源オークション | 容量の収入を原則20年間(他市場収益の約9割を還付) | 蓄電池は3万kW以上、1日1回6時間以上の連続運転 |
| トーリング契約 | 相手方が20年間の固定料金を支払う | 30MW級が中心、特別高圧の大型案件 |
| アグリゲーターを通じた市場運用 | 市場の単価で変動 | 2MW級の蓄電所の基本の形 |
このように、収入を固定する仕組みはいずれも大型の案件を想定したものです。規模が大きい案件ほど、長期の契約を結ぶ相手方にとっても管理の手間に見合う取引になるため、こうした仕組みが成り立ちやすいと考えられます。
2メガワット級の蓄電所の収入はどう考えるか
収入は市場の単価で変動する。手数料とペナルティの負担は契約で確かめる。
2メガワット級の蓄電所は長期脱炭素電源オークションに参加できず、トーリング契約も30メガワット以上が中心です。アグリゲーターが固定収入を保証するメニューも、公開情報では見当たりません。
したがって、2メガワット級の蓄電所は、アグリゲーターを通じて市場で運用するのが基本の形になります。収入は市場の単価に応じて変動します。この前提を受け入れたうえで、変動にどう備えるかを考えることが重要です。
収入のブレを小さくする4つの方法
- 複数の市場を組み合わせる。需給調整市場だけに頼らず、卸電力市場と容量市場を組み合わせて収入源を分散します。
- 単価が下がっても回収できる収支で組む。単価が2割、3割下がった場合でも投資を回収できるかどうかを確かめておきます。
- アグリゲーターとの契約条件を確かめる。手数料の計算方法と、ペナルティを誰が負担するのかを契約前に確認します。
- 単価が高い時期に早く運転を始める。運転開始の時期は、収入に直接影響します。
これらの方法は、いずれも収入そのものを固定するものではありません。市場の変動を前提としたうえで、想定より単価が下がった場合でも事業が成り立つように備えるための考え方です。収支計画を検討する際は、楽観的な前提だけでなく、下振れした場合の数字も並べて比べることが大切です。
特にアグリゲーターとの契約は、運用の成果がオーナーの収入に直結する部分です。手数料が収入に対する割合なのか固定額なのか、市場で求められる条件を満たせなかった場合のペナルティがどちらの負担になるのかによって、同じ運用成績でも手元に残る金額は変わります。
収入を固定できないことは、確かにリスクです。一方で、だからこそ早く動いた案件と、強い収支で組んだ案件との差がはっきりと表れます。
調整力が不足しているという構造は変わっておらず、蓄電池はその担い手として高く評価されています。市場で稼ぐことを前提に、下振れに強い案件を選ぶことができれば、蓄電所は十分に検討に値する投資対象です。
収入の仕組みを理解したうえで、どの程度の変動まで許容できるかを事前に決めておくことが、投資判断の出発点になります。
まとめ
- 長期脱炭素電源オークションは容量の収入を原則20年間受け取れますが、他市場の収益の約9割を還付する仕組みで、蓄電池は3万kW以上が要件です。
- トーリング契約は20年間の固定料金を受け取る代わりに運用の権利を渡す契約で、30MW級の特別高圧案件が中心です。貸付けの形になると税制の対象から外れる可能性があります。
- 2MW級の蓄電所は、アグリゲーターを通じた市場運用が基本で、収入は市場の単価で動きます。
- 市場の組み合わせ、単価下落に耐える収支、契約条件の確認、早期の運転開始で、収入のブレを小さくできます。
出典
- 電力広域的運営推進機関 長期脱炭素電源オークション 概要説明会資料(2025年7月)
- 東京ガス プレスリリース(2025年6月30日)
※本記事は制度と市場の一般的な解説です。個別の投資を勧めるものではありません。