
蓄電所の広告では「想定利回り20%超」といった数字を見かけることがあります。この記事では、そうした数字がどんな前提で作られているかを確かめるために、売上の計算式、差し引く費用、利回りの分母、試算を見るときの3つの問いを順に解説します。
利回りの数字そのものが誤っているとは限りません。条件によっては高い数字が出る場合もあります。重要なのは、その数字を支えている前提を一つずつ確かめることです。
需給調整市場の売上の基本式
需給調整市場の売上は、出力、単価、約定したコマ数で決まります。市場は30分ごとに取引され、1日48コマ、1年で17,520コマあります。このうち何コマ落札できたかの割合が約定率です。
売上 = 出力 × 17,520コマ × 単価 × 約定率
以下の数字はこの式による単純な計算例で、見積りや収益の見込みではありません。
| 規模 | 単価 | 約定率 | 年間売上(計算例) |
|---|---|---|---|
| 高圧2MW | 10円 | 9割 | 約3.15億円 |
| 高圧2MW | 10円 | 7割 | 約2.45億円 |
| 高圧2MW | 5円 | 9割 | 約1.58億円 |
| 低圧49.9kW | 10円 | 9割 | 約787万円 |
| 低圧49.9kW | 5円 | 9割 | 約393万円 |
単価と約定率の置き方によって、同じ設備でも売上は大きく変わります。低圧の場合も、約定率を7割にすればさらに下がります。
この表から分かるとおり、約定率が9割から7割に下がるだけで、売上は約2割強減ります。単価が10円から5円になれば、約定率が同じでも売上はほぼ半分です。試算を見るときは、まずこの2つの数字がどう置かれているかを確認します。
- 出力高圧2MW、低圧49.9kWなど
- コマ数30分単位、1年で17,520コマ
- 単価上限は2026年9月から10円
- 約定率9割を超える置き方は楽観的
売上=出力×17,520コマ×単価×約定率
試算の単価は「いつの数字か」を確かめる
試算で最も重要なのが単価です。一次調整力の上限価格は、19.51円から15円に、そして2026年9月から10円に引き下げられました。以前の高い単価のまま計算された試算もあるため、使われている単価が、いつの、どの商品の、どのエリアの数字なのかを必ず確かめる必要があります。
また、10円は上限価格です。最高でも10円という意味であり、その価格で売れ続けることを意味しません。
上限価格が下がる前に作られた試算や、上限価格そのものを平均単価として置いた試算は、現在の市場の前提とずれている可能性があります。単価の出所を尋ね、根拠となる資料を確認することが基本です。
売上から差し引く費用
売上から差し引く費用は多岐にわたります。
- アグリゲーターの手数料(収益の10%前後が多い)
- 充電の電力費と損失(充放電の往復効率は85〜90%程度で、その分の電気を買い足す)
- 発電側課金
- 保守と監視、保険、固定資産税
- 借地の場合の地代
- 電池の劣化と機器の更新
- 事業終了時の撤去費用
これらがすべて織り込まれているかどうかで、試算の信頼性は大きく変わります。
なかでも、充電にかかる電力費と、電池の劣化や機器の更新は、長い運転期間を通じて効いてくる費用です。初年度の数字だけでなく、運転期間全体でどう扱われているかも確認しておく必要があります。
手数料は収益の10%前後が多い。ほかに充電費・保守・地代・撤去費。
表面利回りと実質利回り、そして分母
表面利回りは、売上を投資額で割ったものです。上記の費用を差し引いた後の実質利回りとは、大きく異なります。
分母となる投資額の範囲も確かめる必要があります。土地代と工事費負担金が含まれているかどうかです。工事費負担金は数千万円から億単位になることもあり、含めるかどうかで利回りの見え方が変わります。同じ利回りの数字でも、比べている中身が異なる場合があります。
複数の案件を比較する場合は、利回りの数字を並べる前に、表面か実質か、分母に何が入っているかを揃えることが欠かせません。前提が揃っていない比較は、判断を誤らせる原因になります。
試算を見るときの3つの問い
- 単価の前提:上限に近い単価が続く前提か、下がっていく前提か。
- 約定率:何%で置いているか。9割を超える約定率は楽観的なことが多いといえます。
- 下振れの試算:単価を2割、3割下げた試算もあるか。下振れしても投資を回収できるかで、案件の強さが分かります。
この3つの問いに対して、根拠を示して答えられる売り手であれば、試算の前提を開示する姿勢があると考えられます。逆に、回答が得られない場合は、その点を判断材料のひとつにします。
前提を厳しくしても変わらない蓄電池の評価
前提を厳しく見ても、蓄電池が調整力の市場で高く評価されているという事実は変わりません。2025年度の一次調整力では、蓄電池の平均落札単価が月ごとに8.82円から13.52円、火力は2.05円から3.39円でした。速く正確に応答できる蓄電池にしか担えない役割があることが、数字に表れています。
利回りの数字の大きさではなく、前提がすべて開示され、下振れにも耐える案件かどうかで判断することが重要です。
前提を厳しく置いた試算で回収の見通しが立つ案件は、市場の変化に対しても耐性があるといえます。広告の数字をそのまま受け取るのではなく、売上の式に当てはめて自分で検算し、費用と分母の中身を一つずつ確認する。この手順を踏むことで、案件ごとの違いが具体的に見えてきます。蓄電所は、前提を確かめたうえで選べば、今も投資を検討する価値のある資産です。
まとめ
- 売上は「出力×17,520コマ×単価×約定率」で、単価と約定率の置き方で大きく変わります。
- 一次調整力の上限価格は2026年9月から10円です。試算の単価がいつの数字かを確かめます。
- 手数料・充電費・劣化・撤去などの費用と、投資額に土地代・工事費負担金が含まれるかを確認します。
- 単価の前提、約定率、下振れの試算の3点を確かめることで、案件の強さが見えてきます。
出力49.9kWの低圧蓄電所については、低圧蓄電所のご案内をご覧ください。
出典
- 電力需給調整力取引所(EPRX)「2025年度の取引実績について」(2026年6月)
- 電力需給調整力取引所(EPRX)「需給調整市場のΔkW上限価格について」(2026年7月)
- ※売上の数字は「出力×17,520コマ×単価×約定率」の計算例で、見積りや収益の見込みではありません。
※本記事は制度と市場の一般的な解説です。個別の投資を勧めるものではありません。