
この記事では、需給調整市場の一次調整力で、蓄電池と火力発電の落札単価に差がついた理由を説明します。数字が示している市場の性格と、投資を検討する際にその数字をどう読めばよいかが分かります。
2025年度の一次調整力の単価
2025年度の需給調整市場では、一次調整力で蓄電池の月別の平均落札単価が8.82〜13.52円/ΔkW・30分でした。これに対して、火力発電は2.05〜3.39円でした。同じ一次調整力という商品でありながら、蓄電池のほうが高い単価で落札されています。
単位は円/ΔkW・30分。棒の長さは各範囲の上限で比べた。EPRX 2025年度取引実績。
一次調整力は「速さ」と「正確さ」の商品
一次調整力は、周波数の変化を設備自身が検知し、10秒以内に自動で出力を変える最も速い調整力です。電力網の周波数は、使う量と発電する量がずれた瞬間に乱れ始めます。一次調整力は、その最初の揺れを打ち消す役割を担います。
蓄電池は、指令から1秒以内に出力を変えられます。燃料も要らず、充電と放電の切り替えも速く行えます。火力発電は燃料を燃やして出力を変えるため、変化の速さには限りがあります。速く正確に応える設備ほど、この商品では高く評価されます。
なぜ単価に差がつくのか
需給調整市場では、一般送配電事業者が必要とする調整力を、入札の中から選んで確保します。同じ商品でも、設備によって応え方や調達の仕組みに違いがあり、落札される単価にも差が出ます。解説ブックでは、この差を「速く正確に応える設備ほど高く評価される市場の性格が、数字に出ている」と説明しています。
再エネが増えるほど、周波数の細かい揺れは増えます。一方で、脱炭素の流れの中で調整力の担い手だった火力は減っていきます。調整力の担い手が火力から蓄電池へ移りつつあることが、単価の差の背景にあります。
数字を読むときの注意点
この単価の差は、蓄電池が一次調整力で重要な役割を担っていることを示すものです。ただし、投資の判断に使う際には、次の点に注意が必要です。
- 過去の実績であること:2025年度の数字であり、将来の単価を約束するものではありません。
- 上限価格が下がったこと:2026年3月14日に一次などの上限が19.51円から15.00円に、9月1日の実需給分からは10円に引き下げられました。2025年度と同じ水準の単価が続くとは限りません。
- 月別の平均であること:月ごとの平均であり、時間帯やエリアによって単価は違います。
- 約定率は別であること:単価が高くても、約定するコマが少なければ収入は増えません。
投資の検討で生かすには
単価の差から読み取れるのは、蓄電池が一次調整力の主な担い手であり、速さと正確さが価値として認められているという市場の性格です。一方、収支の試算では、上限より低い単価と、現実的な約定率を前提に置くことが基本です。複数の単価で試算し、単価が何円まで下がっても成り立つかを確かめると、案件の強さが見えてきます。
また、速さと正確さを価値に変えるには、約定した時間に確実に待機・応動できることが前提です。アセスメントで評価を満たさなければペナルティがかかります。設備の稼働率と通信の安定性も、単価と同じくらい大切な要素です。
火力が不要になるわけではない
単価の差は、火力発電の役割がなくなったことを意味するものではありません。蓄電池は充電した分しか放電できず、長い時間にわたって出力を出し続けることは得意ではありません。電力網全体では、速さが求められる場面と、長く出し続けることが求められる場面があり、それぞれに適した設備が組み合わされています。蓄電池の強みは、速さと正確さが最も求められる一次調整力で特に生きる、と理解するのが適切です。こうした設備ごとの役割分担を知っておくと、蓄電池の収入がどの市場から生まれているのかを、より落ち着いて捉えられます。
まとめ
- 2025年度の一次調整力では、蓄電池の月別平均落札単価が火力を大きく上回りました。
- 一次調整力は速さと正確さの商品で、1秒以内に応える蓄電池が高く評価されています。
- 上限価格の引き下げ後は、過去の単価をそのまま将来に当てはめないことが大切です。
- 収支は上限より低い単価と現実的な約定率で組み、稼働の確実さも確かめます。
出典
- 株式会社タンソーマンGX「系統用蓄電池 投資の基礎解説ブック 高圧編」(2026年10月)
- 株式会社タンソーマンGX「系統用蓄電池 投資の基礎解説ブック 低圧編」(2026年10月)
- 電力需給調整力取引所(EPRX)2025年度取引実績(解説ブックでの引用による)
※本記事は制度と市場の一般的な解説です。個別の投資を勧めるものではありません。