
この記事では、「節税になるのだから、蓄電所を多少高く買ってもよい」という考えが、なぜ逆効果になりうるのかが分かります。即時償却が使える大胆な投資促進税制の要件のうち投資利益率に注目し、取得価額との関係を順に説明します。
よく聞かれる考え方
蓄電所の投資を検討する法人の方から、「税制を使えば初年度に大きく償却できるので、価格が多少高くても実質の負担は変わらない」という声を聞くことがあります。売り手の側から、同じような説明を受けることもあるかもしれません。
しかし、税制の要件を確かめると、この考え方は成り立たないことが分かります。むしろ、税制を使う前提であればあるほど、価格の妥当性が重要になります。
大胆な投資促進税制の仕組み
大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)は、令和8年度の税制改正で創設された制度です。系統用蓄電池を含む設備投資について、即時償却または税額控除を選べます。
この制度を使うには、いくつかの要件を満たす必要があります。その一つが収益性の要件で、年平均の投資利益率が15%以上の見込みであることが求められます。投資利益率は、営業利益の増加額と減価償却費の年平均を、設備の取得価額で割って求めます。
また、手続きとして、経済産業大臣の確認を受けてから設備を取得する必要があり、確認前に取得した設備は対象外とされています。
高く買うほど要件から遠ざかる
ここで注目したいのは、投資利益率の分母が設備の取得価額だという点です。同じ蓄電所で、得られる収益が変わらないとすれば、取得価額が高いほど分母が大きくなり、投資利益率は下がります。
- 取得価額が上がる同じ設備を高く買う
- 投資利益率が下がる分母が大きくなり、収益は変わらない
- 15%要件から遠ざかる税制が使えなくなるおそれ
投資利益率=(営業利益の増加額+減価償却費)の年平均 ÷ 設備の取得価額。
つまり、「税制を使えるから高くてもよい」と考えて高い価格を受け入れると、その高い価格のせいで税制の要件を満たせなくなる、という逆説が起こりえます。節税を当てにして買ったのに、肝心の税制が使えない、という事態です。
節税と収益は別のもの
即時償却は、税を払う時期を前に倒す効果が中心で、事業が生む収益そのものを増やすものではありません。初年度の税負担が軽くなっても、その後の年度で償却できる額が減るため、運転期間全体で見れば、税の負担がなくなるわけではありません。
蓄電所の価値は、あくまで運転によって得られる収益で決まります。収入の中心は需給調整市場の調整力で、出力と単価、約定したコマ数の掛け算で決まります。価格が高ければ、その分だけ回収に時間がかかります。税制の有無にかかわらず、価格が収益に見合っているかを見ることが基本です。
価格を見るときの確認項目
- 価格は税込か税抜か
- 土地と工事費負担金は含まれているか、別払いか
- 収支の試算の単価、約定率、劣化率、費用の前提が開示されているか
- 複数の単価で試算され、単価が下がっても成り立つか
- 税制を使う前提なら、その価格で投資利益率の要件を満たす見込みか
- 大臣の確認を受ける前に取得してしまう段取りになっていないか
税制の適用は個別の事情によって変わるため、実際の判断は税理士などの専門家に確かめる必要があります。
補助金との関係にも注意する
系統用蓄電池には、国の補助金も用意されています。補助金は発注の順序に注意が必要で、手続きの順番が厳しく決められています。税制も、大臣の確認を受けてから設備を取得する順番が定められています。
どちらの制度も、順番を誤ると使えなくなるという点で共通しています。「制度があるから大丈夫」と考えて契約や発注を急ぐのではなく、どの制度を使う前提なのか、その制度の手続きの順番に沿って契約が組まれているかを、価格の確認とあわせて確かめることが大切です。
売り手から税制を理由に価格の説明を受けた場合は、その価格で投資利益率がどうなるのかを、試算の数字で示してもらうのが確実です。説明が税の効果に偏り、事業の収益の根拠が薄い場合は、慎重に検討する必要があります。
また、制度には投資規模などほかの要件もあり、土地や接続の権利、工事費負担金は取得価額に含まれないとされています。どの費用が対象になるかを分けて確かめることも欠かせません。
まとめ
- 大胆な投資促進税制は、年平均の投資利益率15%以上の見込みが要件の一つ
- 投資利益率の分母は設備の取得価額。高く買うほど要件から遠ざかる
- 即時償却は税の時期を前に倒す効果が中心で、収益そのものを増やすものではない
- 税制を使う前提ほど、価格の妥当性を収支の試算で確かめることが重要になる
出典
- 株式会社タンソーマンGX「系統用蓄電池 解説ブック 2026」高圧編・低圧編
※本記事は制度と市場の一般的な解説です。個別の投資を勧めるものではありません。