2024年6月11日書籍発売「カーボンニュートラル革命 空気を買う時代がやってきた 」を公開します

2024年6月11日書籍発売「カーボンニュートラル革命 空気を買う時代がやってきた 」の「はじめに」を公開します。
著者 福元惇二
◆「空気を買う」時代がもうすぐやって来る!
私たちは現在、コンビニやスーパー、ネットショップで“水”を当たり前に購入しています。習慣になっている人も多く、この行動に違和感を覚える人はいないでしょう。
しかし、一昔前には「水を買う」という行為はバカバカしいと思われていました。なぜなら、蛇口をひねればほぼ無料で手に入る上に、日本の水道水は安全で、安心して飲むことができる。そんな水という存在にお金を出すことを、多くの人は理解できないと感じていました。
しかし、時代は変わり、ミネラルウォーターは今や私たちにとって欠かせないアイテムになりました。しかも、需要はさらに高くなっています。日本ミネラルウォーター協会の発表によると、2022年のミネラルウォーター生産量は3年連続で過去最高を更新し、市場規模は過去20年で約3.5倍、過去10年で約1.5倍に拡大しています。(※1)
このように「水」という、かつては「当たり前」に存在し、“タダ同然”であったはずの存在に、いつの間にか価値が生まれるようになりました。
そして、「次なる水」として躍り出るのが、「空気」です。水と違い、空気はタダ。しかし、人類はこの空気に、しかもミネラルウォーターのそれとは比べ物にならないほどの価値を付けようとしているのです。どこにでも存在する空気を、数千円、あるいは数万円という高価で当たり前に購入する時代が、もうそこまでやって来ようとしています。
東京都水道局は、安全でおいしい水道水を「東京水」として販売しています。しかし、この東京水にありがたみを感じる人は少ないでしょう。それよりはアルプスで採取された口当たりの良い雪解け水や、火山の近くで採取されたミネラル成分を多く含む水、あるいは太平洋に浮かぶフィジーの自然でろ過された天然水などのほうが嬉しい。ミネラルウォーターの場合には、水質や含有成分、採取した環境などによって、その価値が大きく左右しています。
2019年、元号が平成から令和へ変わるこの年に発売された「平成の空気缶」なる商品が注目を集めました。文字通り、缶に平成の空気を閉じ込めた商品で、数量限定で販売したところ、わずか30分で完売し、話題になりました。
「空気を買う時代になる」というと、例えば富士山頂だとか屋久島のきれいな空気を閉じ込めて販売する、というイメージを持つかもしれません。
しかし、これから人々が購入する空気は、缶詰やビニール袋に入ったものが販売されるわけではありません。しかも、空気の品質なども大きな問題にはなりません。なぜなら、購入者はミネラルウォーターのように自分で美味しい空気を味わうわけではないからです。
・排出した二酸化炭素の「見える化」が始まる
2020年10月、日本政府はある宣言を行いました。「2050年までに二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」という、いわゆるカーボンニュートラルを目指すという内容の宣言です。
かなり大胆な内容です。なぜなら、環境省の発表では2020年度の二酸化炭素などの温室効果ガスの総排出量は11億5,000万トン。さらに、経済活動を行えば、二酸化炭素などの温室効果ガスが必ず発生するからです。まるで人間が活動をすればカロリーを消費するようなもの。
また、人間は寝ていてもカロリーを消費しています。同じように、日本人が経済活動を行わなくても、健康で文化的な最低限度の生活を営むだけでも、二酸化炭素などの温室効果ガスを排出することになる。
これを実質0にするわけですから、かなり大きく出たことになります。
しかし、日本政府も無鉄砲でこのような大胆な宣言を出したわけではありません。日本政府が大胆な目標を掲げる背景には、国際社会の流れが大きく影響しているのです。
背景にあるのは、地球環境の急激な変化、特に世界の平均気温が工業化以前と比べて約1.1℃上昇している現状があります。
そして、平均気温を押し上げている大きな要因が、二酸化炭素などの温室効果ガスと言われています。そこで国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)は、さらなる気温上昇を防ぐため、2015年にパリ協定を採択します。世界の平均気温上昇を2℃未満に保ち、1.5℃以内に抑える努力をするという目標を掲げました。
パリ協定では、各国が自主的に取り組みを促しており、日本は「2050年にカーボンニュートラル」、つまり二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量と吸収量を相殺させるという目標を国連に提出しました。
また、中間的な目標として2030年度には、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量をマイナス46%(2013年度比)も掲げています。そう、当時の小泉進次郎環境大臣が、テレビ番組のインタビューで46%という削減目標の根拠について聞かれ、「くっきりとした姿が浮かんできたわけではない。おぼろげながら浮かんできた」と発し物議を醸した、あの数値目標です。
近年は日本でも異常気象などが相次いでいますし、世界を見渡しても自然災害が多発。世界的に気候変動が大きな問題になるなかで、国連や先進国らが大きな危機感を持っているのです。
日本政府にとって野心的な目標ではありますが、持続可能な世界を実現するためには、これくらい大きな変革が必要ということなのです。
・排出量削減には「二酸化炭素の見える化」が必要
いきなりですが「ダイエットを成功させる上で、もっとも大事なこと」は何でしょうか。とりあえず走ったり、とにかく断食することではありません。まずは体重計に乗り、自分の体重を正確に把握すること。そして、一番大事なのが普段のカロリーを計算することです。摂取カロリーが消費カロリーよりもオーバーしているのであれば、太るのは当たり前。そこで、ダイエットを成功させるには食べる量を減らしたり運動をすることで消費カロリーを増やします。
また、結婚式のために貯金をするとしましょう。貯金の近道は、収入と支出の計算です。なぜなら、家計簿をつけると普段何気なくやっている支出にも気づくことができるから。例えば、「1杯たった500円だから」という理由で毎日のように『スターバックス』に通っていたとしましょう。何気ない行動ですが、20日通うとしたら月に1万円、年間に換算すると12万円の出費となります。小さな出費ですが、積もり積もることで、やがて大きな出費となります。
こういった無意識の出費は、家計簿をつけることで実態を把握しやすくなります。
このような考え方は、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量削減でも有効です。
二酸化炭素などの温室効果ガス排出の大部分を占めているのが、企業の経済活動に由来するもの。そこで、現在プライム市場に上場する企業は、コーポレートガバナンスの基準としてTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報の開示が求められるようになりました。
さらに、今後はプライム市場だけでなくスタンダード市場やグロース市場に上場する企業も、TCFDに基づく開示に対応する必要が出てくるかもしれません。
つまり、“自社が排出した二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量”を、株主や投資家向けに経営状態や財務状況などと一緒に発表しないといけないのです。
さらに、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)では、サプライチェーン全体の排出量の開示も求めています。企業が直接管理する運営(スコープ1)や直接使用するエネルギー(スコープ2)による排出以外の、サプライチェーンを通じて生じる温室効果ガス排出(スコープ3)が含まれることになります。具体的には、材料の購入から製品の製造、輸送、使用、そして最終的な廃棄に至るまで、企業活動に伴う全過程で発生する排出量を開示しないといけなくなります。
このように世界が脱炭素社会に向けて大きく舵を切ろうとしているなかでは、民間企業であっても「知らぬ存ぜぬ」では許されなくなってくるでしょう。
特に上場企業は自社がビジネスを行う上で排出する温室効果ガスなどの二酸化炭素量を掲載する義務があり、投資家や消費者から厳しい目を向けられるようになります。また、会社の規模に限らず、二酸化炭素などの温室効果ガスをたくさん排出する企業は時代に取り残されていくことになるでしょう。
詳しくは本文のなかで触れますが、二酸化炭素を大量に排出して成り立つビジネスは「消費者から選ばれにくい」、「コストがかさみやすい」、そして「投資家たちからも資金が集まらない」という状況に追い込まれるから。これは“ビジネスが失敗する3条件”を見事に押さえている状況です。
・お金を払うことで、排出した二酸化炭素をゼロにする
「排出を実質ゼロにする」という目標は、並大抵の努力では叶いません。そもそも、企業が経済活動を行うとき、二酸化炭素はどうしても発生してしまいます。これを完全に0に抑えることは非現実的です。理論上、人類がいなくなれば二酸化炭素の排出もなくなるでしょうが、これでは何も解決できていません。
現在、国連などが掲げる目標は、人類が繁栄し続け、次世代が私たちと同じように生活できるようにすることです。これを達成するには、環境に配慮し、同時に経済的にも発展可能な持続可能なシステムが必要です。
二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を0にはできなくても、“実質0”であれば可能です。実質0とはつまり、排出量から植林や森林管理による吸収量を差し引き、合計を実質的にゼロにするという考え方です。
ここで注目されるのが「カーボンクレジット」という仕組みです。
カーボンクレジットは、企業が森林保護や植林、省エネルギー機器の導入などによって、二酸化炭素などの温室効果ガスを削減する効果を数値化し、それを排出権として他の企業と取引できる制度です。
この制度により、温室効果ガスの排出削減が困難な場合には、カーボンクレジットを購入することで自社の排出量を事実上相殺する、「カーボン・オフセット」が可能になります。
もともと欧米の企業を中心に需要が高まっており、日本でも企業間での利用が拡がっています。
日本政府は、この仕組みを利用することで環境への負荷を減らしつつ、持続可能な社会の実現を目指しています。
今後、日本の多くの企業が脱炭素社会の実現に向けた取り組みに本腰を入れていくでしょう。その際に起きることは、省エネ化などによって二酸化炭素の排出量を減らすこと、そしてカーボンクレジットを購入することによって二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量の帳尻を合わせることになるのです。この時、企業は“空気を買う”ことになるのです。
・カーボンクレジット=次なるビットコイン
ここまで聞いて「カーボンクレジットは企業が取引するもので、一般人には関係ない」というイメージを持つ人はいるでしょう。
しかし、これから“空気”を買うのは、企業に限った話ではありません。実は、カーボンクレジットには投資としての側面があり、仮想通貨のように値上がりを期待して購入する側面も持ち合わせているのです。
私は「カーボンクレジットが次のビットコインになる」と本気で思っています。ビットコインが0.1円の頃に購入していた人の多くは、現在億万長者になっています。同じようにカーボンクレジットもまた、今後の大きな値上がりが期待される状況にあるからです。
仮想通貨は値上がりをしたことで需要が爆発しました。これによりビットコインは最高で770万円の値を付けています。
その点、カーボンクレジットは仮想通貨と同じ「値段が上がりそう」という理由以外に、「企業らがカーボン・オフセットをするため」という理由もあり、今後の需要拡大を後押しするでしょう。
カーボンクレジットを取引する環境も整いつつあります。
2013年には、日本政府がカーボンクレジットを公式に認証するJ−クレジット制度を開始しました。また、民間企業もカーボンクレジットを売買できる取引所を開設しており、まさに仮想通貨がブームになる前と似たような盛り上がりを見せています。
そして、このカーボンクレジットがおもしろいのは、一般人でもカーボンクレジットを生み出せる側になれる点です。しかも、素人であっても十分に可能です。ここでもまた「自分で生み出せる」という点でビットコインに似ています。
ビットコインの世界には、いわゆる「マイニング」と呼ばれる作業があります。これはコンピューターを使ってビットコインの取引を確認し、新しいビットコインを作る作業のこと。マイナー(マイニングをする人)は、特殊なプログラムを使って難しい計算問題を解きます。この問題を最初に解いた人は、報酬として新しいビットコインをもらえます。
この作業によってビットコインの取引が安全に記録され、ビットコインネットワークが正しく機能します。そのためのインセンティブ、つまり報酬としてビットコインが与えられるという仕組みです。
ビットコインの取引をすることで富を築いた人もいますが、このマイニングによって多くのビットコインを獲得している人も多数存在しています。
さて「はじめに」が長くなってしまいましたが、世界は二酸化炭素などの温室効果ガス削減に向けて大きく動いています。環境保護に向け、地球を挙げて本気で取り組んでいる状況です。まさに激動の時代です。
ミネラルウォーターを買う人は、主に美味しい水を飲むことが目的です。水道水は安全だとはいえ、カルキ臭などが気になってしまいます。だからこそ、アルプスだとか奥大山などの水が重宝されています。しかし、そんなミネラルウォーターの市場規模など足元にも及ばないほどの巨額のお金が動こうとしています。
そして、法律が、社会が、大企業が、中小企業が、あなたの働き方が、あなたの生活が、あなたの食事が、あなたのSNSが、大きく変わろうとしています。
一過性のブームだと矮小化するには、あまりに大きな動きです。私はこれをインターネットの普及や『ChatGPT』などのAIの発達に並ぶ、未来の教科書にも掲載されるような“時流”だと思っています。
私自身、これまでさまざまな事業を手掛けてきましたが、全力でこの環境のビジネスに本気で取り組んでいます。なぜなら、この時流に乗らない手はないからです。片足を突っ込む程度の取り組み方ではもったいないと思っています。
時流にただ流されるのではなく、また、流れに身を任せるだけではなく、この大きな波を乗りこなしましょう。
投資や経営、働き方やキャリア形成など、この時流への参加方法はいくつもあります。傍観者ではなく、当事者になりましょう。
この本を読むことで、大きな時代のうねりを感じ取ってもらい、そしてあなたがこの時流を乗りこなす当事者になる。そんなきっかけになってほしいと思います。
もし本書が、あなたにとって何か意味あるものとなれば、それ以上の喜びはありません。
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◆ミネラルウォーターの生産量が3年連続過去最高、市場は10年間で約1.5倍に | 食品産業新聞社ニュースWEB
https://www.ssnp.co.jp/beverage/505795/
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