SDGsに代表されるように、環境問題や気候変動の意識の高まりから企業には社会問題の解決に向けた取り組みが求められています。

しかし中小企業の担当者には、以下のような疑問を持つ人もいるでしょう。

  • 何をすれば良いのかわからない
  • 資金が不足しているためできない

このような疑問を解決するのが、省エネルギー補助金の活用です。

本記事では先進的省エネルギー投資促進支援事業概要の概要や、支援プログラムなどについて解説します。

令和5年度 先進的省エネルギー投資促進支援事業概要

中小企業が活用すべき補助金は、「先進的省エネルギー投資促進支援事業」です。

先進的省エネルギー投資促進支援事業とは、省エネ性能に優れた設備を導入する際に、費用の一部を補助してくれる制度です。

日本は2050年のカーボンニュートラルの実現を目指しており、その一環として省エネ性能に優れた設備やシステムの導入を推進しています。

令和5年度は新規事業の公募・採択は行われておらず、令和4年以前に採択された複数年度の事業が対象です。

※カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量の合計で実質ゼロにすること。

参照:SII:一般社団法人 環境共創イニシアチブ|事業トップ(令和5年度 先進的省エネルギー投資促進支援事業)

補助金の対象事業と効果

補助金の対象事業は「指定設備導入事業」と「エネルギー需要最適化対策事業」で、効果は以下のとおりです。

指定設備導入事業

執行団体の一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)が登録した省エネ設備を導入する際に、支援を受けられます。

指定設備導入事業の補助内容

補助対象経費設備費
補助率1/3以内
補助金限度額上限:1億円/事業全体下限:30万円/事業全体

エネルギー需要最適化対策事業

SIIが登録したエネマネ事業者と契約し、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を活用して、省エネルギー率2%以上を実現する事業です。
指定設備導入事業と組み合わせて行う必要があります。

エネルギー需要最適化対策事業の補助内容

補助対象経費設計費・設備費・工事費
補助率中小企業:1/2以内大企業:1/3以内
補助金限度額上限:1億円/事業全体下限:100万円/事業全体

※エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは、エネルギーの使用状況を可視化し、把握・分析することで最適なエネルギー利用を目指す仕組み。

適用業種・対象設備・省エネ技術一覧

適用業種の縛りはないですが、国内で営業活動をしている法人や個人事業主が対象です。
補助の対象には9つの条件がありますので、以下の参考ページを確認ください。

参考:SII:一般社団法人 環境共創イニシアチブ|公募情報(2次公募)(令和4年度補正予算 省エネルギー投資促進支援事業)

指定設備導入事業における対象設備は、15種類が指定されています。

  1. 高効率空調
  2. 産業ヒ ートポンプ
  3. 業務用給湯器
  4. 高性能ボイラ
  5. 高効率コージェネレーション
  6. 低炭素工業炉
  7. 変圧器
  8. 冷凍冷蔵設備
  9. 産業用モータ
  10. 制御機能付きLED照明器具
  11. 工作機械
  12. プラスチック加工機械
  13. プレス機械
  14. 印刷機械
  15. ダイカストマシン

エネルギー需要最適化対策事業では、エネマネ事業者の「エネルギー管理支援サービス」を契約し、EMSを運用する必要があります。

また以下のいずれかを満たしていることが条件です。

  1. 「EMSの制御効果と計測に基づく運用改善効果」により、原油換算量ベースで計画省エネルギー率が2%以上を見込める。
  2. 自ら省エネルギー率を算出する場合、合理的な説明が可能な計測・制御の範囲内で算出し、原油換算量ベースで2%以上を見込んでいる。

補助金の申請方法と審査基準

補助金の申請方法の手順は以下のとおりです。

  1. SIIホームページに掲載の公募要領を確認
  2. SIIの実施計画書などの様式を活用し、申請書類を作成
  3. SIIホームページでアカウントを登録
  4. 登録時に届くメールのURLにアクセスし、補助事業ポータルにログイン
  5. 申請に必要な情報を入力
  6. 入力した情報を確認し、申請書類を出力
  7. 必要書類をSIIに郵送

申請後は、外部審査員会による評価を踏まえて採択事業者が決定されます。
審査内容は、審査項目・評価項目・必要に応じて申請者へのヒアリングです。

項目審査内容
審査項目対象事業者と事業内容が要件を満たしていること補助事業の計画が適切で、事業遂行の確実性や継続性が十分なこと補助事業に要する経費は、類似の事業の標準価格や参考見積などから算出されていること
評価項目計画省エネルギー量計画省エネルギー率計画当たり計画省エネルギー量
中小企業の評価項目中小企業の省エネルギー事業2020年度以降に章エネルギー診断を受けた省エネルギー事業省エネ法上の目標水準の改善に資すると認められる事業

公募スケジュールと受付期間

令和4年度補正予算「省エネルギー投資促進支援事業費補助金」の2次公募は、以下の日程で行われました。

公募期間2023年5月25日~6月30日
交付決定2023年8月下旬
事業期間交付決定日から2024年1月31日まで
実績報告事業完了日から30日以内または2024年2月5日のいずれか早い日
補助金の支払い2024年1月末~3月末まで

中小企業と事業法人向け支援プログラム

令和4年度の「先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金」と「省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金」の中小企業の採択数は、全体の78.5%でした。

引用:中小企業向け補助金の紹介とその活用事例について

このように多くの中小企業が省エネルギー補助金を活用し、設備導入・更新を行っています。
補助金の活用事例や中小企業向けの支援プログラムについて紹介します。

補助金の活用事例と成功事業者紹介

ウラセ株式会社は、衣料事業・インテリア事業・産業資材事業を展開する企業です。
平成29年度、ニット素材の加工品質や生産性の向上を目的として、既存設備の更新に補助金を活用しました。

設備更新前は、「ニット素材の加工に手間がかかり生産性が低い」や「設備のエネルギー効率が悪く、コスト競争力が弱い」が課題でした。

そこで、シンプレックステンター(織物に熱を加えてサイズや風合いを調整する装置)を導入します。

導入した結果、設備のエネルギー効率が改善し、生産量が前年比120%を達成しています。

参照:活用事例検索について | 令和5年度 エネルギー使用合理化等事業者支援事業 | SII 一般社団法人 環境共創イニシアチブ

省エネルギー診断の取得方法と利点

省エネルギー診断とは、省エネの専門家が訪問し、コスト削減につながる設備の運用改善を提案する取り組みです。

エネルギー需要最適化対策事業に採択された事業者は、省エネルギー診断などによる運用改善提案を最低3年間毎年する必要があります。

診断は、以下の参考ページから申し込めます。(ただし、申込期限は2024年1月上旬まで)

省エネルギー診断の利点は、コスト削減効果の高い設備更新や活用できる補助金の提案が受けられることです。

エネマネシステムの導入と効果検証

エネルギー需要最適化対策事業では、EMSの導入が必要不可欠です。
そもそも「EMSはどのような利点があるの」と思っている人もいるでしょう。

EMSを導入するメリットは、「エネルギーの使用状況を把握」「設備の最適運用」です。
さらにエネルギーの見える化ができるため、改善策実行後の効果検証にも役立ちます。

省エネ対策の改善ポイントと経済性評価

省エネ対策を進めるには、以下のPDCAサイクルを回すことがポイントです。

P(計画):エネルギー使用状況を分析したうえで、効果的な改善策を計画

D(実施):省エネ改善策の実施

C(検証):エネルギーの使用状況の変化から改善策の効果を分析・評価

A(見直し):検証結果をもとに省エネ改善策の見直し

PDCAサイクルを回すためには、EMSによるエネルギーの可視化や省エネルギー診断による第三者からの改善案、定期的な経済性評価が必要です。

県別・業種別エネルギー消費削減目標

都道府県や業種によって、エネルギーの消費量は異なります。
この章では都道府県や業種による違い、対策について紹介します。

比較分析と地域別環境基準の違い

環境省の調査によると2020年度のCO2排出量の多い都道府県、少ない都道府県は以下のとおりです。

排出量の多い都道府県排出量の少ない都道府県
東京都60,991鳥取県3,581
愛知県60,637山梨県5,055
千葉県59,600佐賀県5,119
神奈川県55,050奈良県5,208
北海道45,773島根県5,395

※単位:1,000t-CO2

参考:部門別CO2排出量の現況推計|環境省 地方公共団体実行計画策定・実施支援サイト

鳥取県と東京都を比較すると約17倍の開きがあります。
その要因の1つは、地域別環境基準の違いです。

世界自然保護基金(WWF)では、日本の県別の脱炭素に向けた取り組みを評価・公表しています。
以下の図からも県別の取り組みの温度差を感じられるでしょう。

引用:脱炭素列島~地元から、空気変えませんか?~|WWFジャパン

次に業種別の違いを、エネルギー原単位で比較します。

引用:工場の省エネルギーガイドブック2021 | 一般財団法人省エネルギーセンター

エネルギー原単価とは、生産量あたりのエネルギー消費量のことで、業種によってエネルギー消費量が大きく異なるのがわかります。

二酸化炭素排出量削減技術・対策

二酸化炭素排出量を削減する技術・方法例は、以下のとおりです。

  • 再利用可能エネルギーの使用
  • 高性能空調機への買い替え
  • 生産設備の省エネ
  • 空調制御システムの導入
  • LED照明への交換
  • 電気自動車の導入

このなかに含まれているように、省エネ推進は二酸化炭素排出量の削減につながります。
先進的省エネルギー投資促進支援事業は、二酸化炭素排出量を削減するための支援ともいえます。

エネルギーマネジメントシステム導入成功例

エネルギーマネジメントシステム導入は省エネにつながるため、二酸化炭素排出量の削減に役立ちます。
しかし、どの程度の効果があるのか疑問に感じている人もいるでしょう。

そこで、エネルギーマネジメントシステムの導入事例として株式会社加賀屋を紹介します。

株式会社加賀屋は、「プロが選ぶ日本のホテル・旅館」において過去42回も日本一に輝いた企業です。

株式会社加賀屋が先進的省エネルギー投資促進支援事業補助金を活用し、3カ年かけて導入・交換した設備は以下のとおりです。

  • ディーゼルコージェネレーションシステムを2台
  • 蒸気ボイラを2台
  • ポンプインバーター盤
  • 変圧器
  • 高効率の照明

エネマネ制御による設備運営を行いました。

結果、エネルギー使用量を対策前の37.4%にまで削減し、省エネ大賞2021の「省エネルギーセンター会長賞」を受賞しています。

参照:活用事例検索について | 令和5年度 エネルギー使用合理化等事業者支援事業 | SII 一般社団法人 環境共創イニシアチブ

産業界と連携した省エネルギー推進

2023年4月時点で、62の地域が脱炭素先行地域に選出されています。

脱炭素先行地域とは、家庭や企業の電力消費にともなうCO2排出の実質ゼロや、地域特性を生かした取り組みをしている自治体です。

2030年度には、100の地域にまで拡大する予定です。
企業において、脱炭素社会に向けた取り組みが重要視されるでしょう。

省エネに取り組んでいる企業の評価方法とトップランナー制度の現状について解説します。

参照:脱炭素先行地域(第4回)募集について | 報道発表資料 | 環境省

省エネ取り組みの企業・技術評価

経済産業省では、省エネに取り組む事業者をS・A・B・Cの4段階にクラス分けする評価制度を実施しています。

Sランクの優良事業者に認定されると、経済産業省のホームページで公表されます。
クラス分けの評価基準は以下のとおりです。

引用:事業者クラス分け評価制度 | 事業者向け省エネ関連情報 | 省エネポータルサイト

中小企業にとっては、事業者クラス分け評価制度を活用することで実績や技術力のアピールにつながるでしょう。

トップランナー制度の現状と展望

経済産業省の事業者クラス分け評価制度は、産業トップランナー制度(ベンチマーク制度)の目標値をもとに判断されます。
産業トップランナー制度とは、特定の業種・分野の事業者が達成すべき省エネ基準を定めた制度です。

目標値は、積極的に取り組んでいる事業所を評価するために、全体の1~2割の事業所のみが水準を満たすように設定されています。

エネルギー使用量の大きい製造業から適用され、現在は全産業の7割が対象です。
今後の展開としては、対象分野の拡大が検討されています。

よくある質問

中小企業が活用すべき省エネルギー補助金で、よくある質問は以下の3つです。

先進的省エネルギー投資促進支援事業はいつまで?

令和5年度の「先進的省エネルギー投資促進支援事業」は、令和4年度以前に採択された複数年度事業が対象で、公募期間は「2023年5月25日~6月30日」です。

令和6年度の支援事業については、資源エネルギー庁より「令和5年度補正予算案における省エネ支援策パッケージ」が発表されています。

先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金とは?

先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金とは、企業や個人事業主に省エネ設備への投資を促すことを目的とした資源エネルギー庁の補助金制度です。

先進的省エネルギー投資促進支援事業の補助率は?

先進的省エネルギー投資促進支援事業の補助率は以下のとおりです。

指定設備導入事業の補助内容

補助対象経費設備費
補助率1/3以内
補助金限度額上限:1億円/事業全体下限:30万円/事業全体

エネルギー需要最適化対策事業の補助内容

補助対象経費設計費・設備費・工事費
補助率中小企業:1/2以内大企業:1/3以内
補助金限度額上限:1億円/事業全体下限:100万円/事業全体

まとめ

中小企業には、先進的省エネルギー投資促進支援事業の補助金を活用して、省エネ設備への交換・導入とEMSの活用がおすすめです。

新しい設備導入の負担を減らし、省エネによる光熱費などのランニングコストを削減できるためです。

このような省エネによる脱炭素に向けた取り組みは、企業価値を高めるのにも役立ちます。

先進的省エネルギー投資促進支援事業に関する重要用語

項目説明
カーボンニュートラル温室効果ガスの排出量と吸収量を合算し、実質ゼロにすること
エネルギーマネジメントシステム
(EMS)
エネルギーの使用状況を可視化し、把握・分析することで最適なエネルギー利用を目指す仕組み
省エネルギー診断省エネルギーの専門家が訪問し、コスト削減につながる設備の運用改善案を提案してくれる取り組み
脱炭素先行地域家庭や企業の電力消費にともなうCO2排出の実質ゼロや、地域特性を生かした取り組みをしていると環境省に認定された自治体
産業トップランナー制度特定の業種・分野の事業者が達成すべき省エネ基準を定めた制度

著者のプロフィール

福元惇二
福元惇二
タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。