事業再構築補助金は、新型コロナウイルスに適応するために開始された事業です。補助金にはさまざまな枠があり、脱炭素化に関連があるのがグリーン成長枠です。

今回の記事ではグリーン成長枠の申請に必要な基本情報に加え、事業事例や活用のポイントを解説します。併用できる助成金も紹介しますので、本記事を読むことで事業再構築補助金のグリーン成長枠をより効果的に活用できるようになります。

グリーン成長枠における補助金の狙いと活用法

事業再構築補助金のグリーン成長枠には、どのような狙いがあるのでしょうか。以下では、補助金の目的や活用法について紹介します。

グリーン成長枠が注目される背景と目的

事業再構築補助金のグリーン成長枠は、中小企業の新市場への進出や業態の転換、事業再編、国内回帰などを支援します。新型コロナウイルス感染症の影響によって、経済社会に大きな変化があったことが事業設立の背景です。売上が著しく低下した中小企業の新たな挑戦を後押しすることで、日本経済全体の競争力を向上させることが狙いもあります。

グリーン成長枠における補助金は、新型コロナウイルス感染症が引き起こした経済社会の変化に対応するための重要な政策の1つです。中小企業の挑戦を支援し、日本経済をよりよくするために設計されています。

参照:事業再構築補助金 公募要領 (第11回) p.4, 9

様々な分野でのグリーン成長枠の活用事例

事業再構築補助金のグリーン成長枠において、重点が置かれているのは以下の14分野です。

  1. 洋上風力・太陽光・地熱産業
  2. 水素・燃料アンモニア産業
  3. 次世代熱エネルギー
  4. 原子力
  5. 自動車・蓄電池
  6. 半導体・情報通信
  7. 船舶
  8. 物流・人流・土木インフラ
  9. 食料・農林水産業
  10. 航空機
  11. カーボンリサイクル・マテリアル
  12. 住宅・建築物・次世代電力マネジメント
  13. 資源循環関連
  14. ライフスタイル関連

参照:事業再構築補助金 「グリーン成長枠」 想定事例集 1.0版 令和4年3月 中小企業庁 p.2

上記のうち、活用事例が紹介されているものをいくつか紹介します。補助金を適用しやすい取り組みとして、事業活動の参考にしてください。

分野現状と課題活用事例
自動車蓄電池・燃料電池・モーター等の電動車関連技術、サプライチェーン・バリューチェーンの強化が課題軽自動車・商用車の電動化や、中小企業などサプライヤーの競争力強化が重要製造業では電動車向け部品の開発・試作、整備・販売業ではEVや燃料電池車への整備に事業展開専門家による研修を通じた人材育成の実施
物流・人流・土木インフラ産業物流分野のCO2排出量削減と輸送能力向上が課題CO2排出原単位の小さい輸送手段への転換や輸送の効率化が必要製造事業者・卸販売事業者・小売販売事業者と連携し、在庫データの共有化などによる配送業務の集約・効率化専門家による研修を通じた人材育成
カーボンリサイクルセメントキルンからのCO2排出量削減が課題災害廃棄物等の再生利用と効率的なCO2回収に適応した技術開発が必要高炉スラグなどを配合したセメント原料の製造設備の導入・改修による事業再構築品質管理関連の人材育成
資源循環関連産業バイオマス化・再生材利用等の実証事業により、化石資源由来のプラスチック代替を推進リユース、リサイクルにおける循環型社会形成が課題自動車販売から地域の食品廃棄物などを活用したバイオプラスチック製造業への転換バイオプラスチック製造の高度化に向けた技術開発の実施

参照:事業再構築補助金 「グリーン成長枠」 想定事例集 1.0版 令和4年3月 中小企業庁 p.5, 9~10. 12

補助金の申請方法と審査基準

事業再構築補助金の申請は、電子申請システムを通じて行われます。申請情報は事業者自身が入力し、内容を確認しなければなりません。代理申請は不正アクセスとみなされ、不採択となる可能性があるため注意しましょう。

申請にはGビズIDプライムアカウントの取得が必要で、取得にかかる時間は約1週間です。締切直前はアクセスが集中し、システムが滞ってしまうため、余裕を持って手続きを行いましょう。

審査項目は、以下の5つです。

  1. 事業の適格性
  2. 事業化点
  3. 再構築点
  4. 政策点
  5. グリーン成長点

5つの項目を評価するために、申請内容から以下の情報が判断材料に使用されます。採択率を上げるためにも、きちんと確認することをおすすめします。

  • 事業計画の明確性
  • 市場ニーズの検証
  • 競合分析
  • 事業実施のための体制や財務状況
  • 補助事業による付加価値の増加率
  • デジタル技術の活用
  • 新規ビジネスモデルの構築
  • グリーン成長戦略に貢献する事業再構築の内容
  • 研究開発の革新性
  • 人材育成計画の具体性

加点項目として、売上減少が著しい事業者や健康経営優良法人、賃上げを実施する事業者、サプライチェーン内での連携プロジェクトなどが考慮されます。複数の要素を総合的に判断して、補助金の採択者が決定されます。

参照:事業再構築補助金 公募要領 (第11回) p.50~54

グリーン成長枠における具体的な取り組み

事業再構築補助金のグリーン成長枠を活用した取り組みを紹介します。CO2削減のために、他の事業者がどのようなことを行っているのかを確認しましょう。

エネルギー効率向上のための設備投資

エネルギー効率向上のための設備投資の一例として、物流・人流・土木インフラ産業における取り組みを紹介します。例えば、製造事業者と卸販売事業者、小売販売事業者が連携し、在庫データの共有化や配送業務の集約・効率化を図る取り組みが考えられます。取り組みにより、輸送におけるエネルギー消費の削減と、全体的な物流コストの低減が可能です。

最新技術を活用したデータ管理システムの導入や、最適化された配送ルートの計画などの取り組みも輸送効率を向上させ、CO2排出量の削減に貢献できます。先進的な取り組みは、エネルギー効率の高い事業活動を実現し、長期的な競争力を高めることにもつながるでしょう。

参照:事業再構築補助金 「グリーン成長枠」 想定事例集 1.0版 令和4年3月 中小企業庁 p.9

炭素排出量削減に繋がる製品・サービス開発

炭素排出量削減に繋がる製品・サービス開発の例として、今後の市場拡大が期待される蓄電池市場に注目しましょう。蓄電池は、自動車の電動化や再生可能エネルギーの普及で新たなエネルギー基盤として不可欠です。蓄電池の開発は、企業の競争力を高める重要な役割を担えるのです。

蓄電池の中でも、リチウムイオンバッテリーは高いエネルギー密度と効率性により、電動車両やエネルギー貯蔵システムにおいて重要視されています。そのため、既存の製造技術を応用し、より高性能なリチウムイオンバッテリーの開発に注力できる事業に取り組みは申請が通りやすいと考えられるでしょう。

蓄電池産業の発展は、再生可能エネルギーの安定的な供給や電動車の普及といった、社会全体の炭素排出削減に大きく貢献します。事業再構築補助金のグリーン成長枠を活用し、炭素排出を削減できる製品やサービス開発を行うことは、補助金活用の効果的な一例です。

参照:事業再構築補助金 「グリーン成長枠」 想定事例集 1.0版 令和4年3月 中小企業庁 p.6

低炭素・省エネルギー技術導入の支援

グリーン成長枠は住宅・建築物産業でも利用可能です。例えば、省エネと高耐震性を備えた建築技術を活用して中古住宅の改修を行い、新築同等の高性能住宅を安価で提供する事業が考えられます。住宅・建築物が民生部門のエネルギー消費量の削減に影響を与える重要な分野であることから、非常に重要です。

事業を通じて、生活の質の向上や都市のカーボンニュートラル化が進むだけでなく、海外への技術展開も期待されます。中古住宅の改修はエネルギー効率の高い住宅を増やし、環境への配慮と住民の快適な生活を一度に実現できるためです。

住宅・建築物産業での低炭素・省エネルギー技術の導入は、持続可能な社会を構築するために欠かせません。高性能な住宅を安価で提供できるようになることから、より多くの人々が快適な住宅で過ごすことも可能です。住宅・建築物産業におけるグリーン成長枠の取り組みは、環境保護と経済発展の両立に貢献する重要な役割を果たしています。

参照:事業再構築補助金 「グリーン成長枠」 想定事例集 1.0版 令和4年3月 中小企業庁 p.11

中小企業におけるグリーン成長枠活用のポイント

事業再構築補助金のグリーン成長枠を効果的に活用するためのポイントを紹介します。企業の脱炭素化や競争力の強化を効率的に行うために、活用のポイントを理解することが重要です。

補助金の活用による経営革新の促進

事業再構築補助金グリーン成長枠の活用は、経営革新の促進に大きな影響を与えます。補助金を活用することで、企業は新たな技術やサービスへの投資を行い、持続可能な経営体制を築くことが可能です。

具体的には省エネルギー設備の導入や、環境に配慮した製品開発などが考えられます。事業を通じて、企業はエネルギーコストの削減や新市場への参入が可能となり、競争力の向上が期待できるでしょう。

補助金の活用は、環境に関する法規制への対応や環境意識の高まりに伴う消費者ニーズに応えることも可能にします。企業のブランド価値を高め、顧客基盤を拡大する機会を提供するのです。さらに、環境保全への取り組みは社会的責任を果たすという点でも重要で、企業の社会的信用を向上させる効果もあります。

グリーン成長枠を活用することは、中小企業が新たなビジネスチャンスを掴み、経営革新を図るうえで欠かせません。持続可能な経済への移行は避けて通れない課題であり、積極的に取り組むことは長期的な成功に向けた重要な決断となります。補助金の活用は、中小企業にとって環境と経済の両面で価値を創造する機会を提供するのです。

他の補助金との併用で効果を最大化

事業再構築補助金のグリーン成長枠では、同一事業内容で複数の補助金に申請することを原則として認めていません。しかし、厚生労働省の産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)との併用は可能です。新型コロナウイルスの影響で事業が停滞した事業主に対して、新たな事業への進出や再構築を図る際に必要な人材の受け入れにかかる費用を助成します。

また、持続化給付金や復活支援金などの給付金との併用も可能です。複数の支援制度を活用することで、事業再構築に伴う財政的な負担を軽減し、より効率的に新しい事業分野への移行を図れます。

グリーン成長枠の補助金と他の補助金や助成金を併用することは、中小企業が新しい仕事を獲得するうえで重要です。新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業主にとっては、事業の持続可能性を高め、新たな成長の機会を創出するための重要な戦略となるでしょう。

参照:

事業再構築補助金 公募要領 (第11回) p.33

産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)|厚生労働省

よくあるご質問 | 事業再構築補助金 | その他の質問 | Q9 持続化給付金・事業復活支援金の給付を受けているが、事業再構築補助金に申請することはできるか。

成功する補助金申請のポイント

事業再構築補助金グリーン成長枠の補助金申請を成功させるには、審査基準をきちんと理解して事業計画を作成することが必要です。まずは補助対象事業としての適格性を確認し、事業が補助金の要件を満たしていることを示しましょう。

事業化点に関しては、補助事業の成果が市場ニーズに合致しているか競合分析を行い、自社の製品やサービスが市場で優位性を持てるかを検証することが重要です。事業再構築の必要性をSWOT分析を通して明確にし、適切な事業実施体制を整えることも求められます。財務状況や人材、事務処理能力を考慮し、金融機関からの資金調達が見込めるかも重要なポイントです。

事業がグリーン成長戦略に沿っているか、研究開発や技術開発が革新的かつ新規性を有しているかを示すこともグリーン成長枠では評価されます。

コロナ禍を乗り越えた経済社会の変化に対応した、感染症に強い事業内容を提案することが採択率を高める鍵となります。複数のポイントを踏まえた申請計画を立てることで、補助金の採択率を上げることができるでしょう。

参照:事業再構築補助金 公募要領 (第11回) p.50~54

グリーン成長枠と経済・環境への貢献

事業再構築補助金のグリーン成長枠が衛材や環境に与える影響について解説します。環境負荷を抑えるだけでなく、新しいビジネスチャンスを獲得する機会にもなるでしょう。

グリーン成長枠による環境負荷の軽減

グリーン成長枠の補助金を活用することで、エネルギー効率の高い設備の導入や、再生可能エネルギー源の利用が促進されます。事業者はCO2排出量の削減や資源の有効利用が可能となるため、気候変動への対策に貢献できるのです。

環境に優しい製品やサービスの開発は、消費者の環境意識の高まりに応えると同時に、企業の持続可能な成長も支援します。グリーン成長枠の利用は環境への影響を減らしつつ、消費者ニーズに対応することで、環境負荷の軽減と経済発展を実現させるのです。

グリーン成長枠での新規ビジネス創出

グリーン成長枠の活用を通じて、環境に配慮した製品やサービスの開発に取り組めるため、新しいビジネスを創出する可能性を高めます。例えば、持続可能な材料を用いた製品製造や廃棄物の再利用、エネルギー効率の高い技術の開発などです。社会的にも環境に優しい製品開発は求められているため、企業価値を向上させる機会にもなるでしょう。

環境に配慮した事業を地方で行えば、新しい雇用の創出や地域経済の活性化にも貢献可能です。グリーン成長枠を活用した新規ビジネス創出は、地方の活性化と環境保護の両立につながるでしょう。

事業再構築補助金の総合的な評価

事業再構築補助金は、中小企業や小規模事業者の経済的な回復と持続可能な成長を促進させる重要な政策の1つです。補助金の利用により、企業は新市場への進出やデジタル技術の導入、環境に優しい製品やサービスの開発など、多岐にわたる革新的な取り組みを実現できます。

経済面では企業が新市場や技術に適応して競争力を高めることで、経済回復と成長を促進させることが可能です。一方、環境面では持続可能な製品やサービスへの投資により、炭素排出量の削減や資源の効率的な利用が進むことでしょう。

事業再構築補助金は、経済回復と環境保護の両立を目指す企業の支援策として機能しており、今後も補助金の需要は高まると予想されます。

よくある質問

事業再構築補助金のグリーン成長枠に関するよくある質問は以下のとおりです。多くの人が疑問に思うことを前もって把握し、事業への理解をより明確にしましょう。

事業再構築補助金のグリーン成長枠の金額は?

事業再構築補助金のグリーン成長枠には、エントリーとスタンダードの2つの型があります。エントリー型では100万円から1億円、スタンダード型では100万円から1.5億円の補助金が提供されます。補助率は中小企業が2分の1、中堅企業が3分の1です。

参照:事業再構築補助金 公募要領 (第11回)  p.14~15

事業再構築補助金のグリーン成長枠とは?

事業再構築補助金のグリーン成長枠はグリーン成長戦略「実行計画」14分野において、重要視されている問題を解決しようとしている事業者に補助金を交付する事業です。 

グリーン成長枠の助成金とは?

事業再構築補助金のグリーン成長枠では、原則として他の補助金・助成金の併用は認められていませんが、厚生労働省の産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)は併用できます。事業では、事業の再構築のために必要な人材確保に助成金を交付しています。

詳細は、以下のリンクから確認してください。

参照:産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)|厚生労働省

まとめ

事業再構築補助金のグリーン成長枠は、環境分野における問題解決に取り組む事業者に最大1.5億円の補助金を交付する事業です。例として、蓄電池の開発や省エネ住宅への改修、廃棄物の再利用などの事業活動が挙げられます。

事業再構築補助金は厚生労働省が主導している「産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)」と併用することが可能です。助成金も併せて活用して人材を集め、企業の脱炭素化を一気に進めましょう。脱炭素化に向けた取り組みは企業価値を高め、新しい顧客の獲得やビジネスの創出につながる可能性があります。

補助金グリーン成長枠に関する重要用語

項目説明
事業再構築補助金新型コロナウイルスの影響で経済が大きく変化したことで、日本の企業が「ポストコロナ」や「ウィズコロナ」といった新しい時代に適応できるように支援するための制度。
14分野2050年までに成長が期待されている14の分野。具体的には、以下の14つ。
洋上風力・太陽光・地熱産業水素・燃料アンモニア産業次世代熱エネルギー原子力自動車・蓄電池半導体・情報通信船舶物流・人流・土木インフラ食料・農林水産業航空機カーボンリサイクル・マテリアル住宅・建築物・次世代電力マネジメント資源循環関連ライフスタイル関連
GビズIDプライムアカウント申請の手続きに必要なID。デジタル庁のホームページから登録可能。

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。