日本におけるカーボンニュートラルは、法的枠組みのもとで本格的に始動していく旨が、2021年温対法の改正とともに政府によって表明されました。
2050年カーボンニュートラル実現に向けて、2030年度の目標は46%の削減から、さらに50%の削減率へと引き上げられ、地球温暖化対策は日本の法律として位置づけられました。
新しく改正された温対法の概要
新しく改正された温対法の概要を
- カーボンニュートラルの基本理念
- 地方創生と再エネ促進
- 企業の排出量削減データの見える化
と3つのポイントに分けて解説します。
カーボンニュートラルの基本理念
今回の法改正で最も重要となるポイントは、「2050年カーボンニュートラル実現」が、地球温暖化における国の基本理念として法律に定められたことです。
地球温暖化対策の推進に関する法律
第1章 総則
(基本理念)
第二条の二 地球温暖化対策の推進は、パリ協定第二条1(a)において、世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏二度高い水準を十分に下回るものに抑えること。
及び世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏一・五度高い水準までのものに制限するための努力を継続すること。
とされていることを踏まえ、環境の保全と経済及び社会の発展を統合的に推進しつつ、我が国における二千五十年までの脱炭素社会(人の活動に伴って発生する温室効果ガスの排出量と吸収作用の保全及び強化により、吸収される温室効果ガスの吸収量との間の均衡が保たれた社会をいう。
第三十六条の二において同じ。)の実現を旨として、国民並びに国、地方公共団体、事業者及び民間の団体等の密接な連携の下に行われなければならない。
地球温暖化対策の推進に関する法律(平成十年法第百十七号)
脱炭素へ取り組むことは、国の方針・政策という枠を超え、法律です。
あらゆる企業・団体、自治体、国民は連携して「2050年カーボンニュートラルの実現」に向けて努力すべきことが定められました。
これまで以上に、国の政策として脱炭素に向けた予算も捻出しやすくなり、自治体や企業も国の支援を得ながら、脱炭素への取り組みを進めていけます。
さらなる「再エネルギー関連のイノベーション」が期待できます。
また、脱炭素が法律で定められたため、従わない場合は「反社会的なイメージ」を他者に与えかねません。
CO2削減を怠る企業・自治体にとって、ますます肩身の狭い世の中になることが予想され、脱炭素経営への移行を余儀なくされていくでしょう。
地方創生と再エネ促進
次に重要な「地球温暖化対策の推進に関する法律」の改正ポイントは、地方自治体における脱炭素への取り組みに関する内容です。
これまでは、自治体には具体的な目標設定や計画書などの要請はなく、地方公共団体として、脱炭素で自治体が果たす役割は曖昧でした。
今回の改正にて、都道府県、市町村においても目標・計画を提出することが法律で義務づけられています。
地球温暖化対策の推進に関する法律
第四章 政府実行計画、地方公共団体実行計画等
(地方公共団体実行計画等)
第21条 都道府県及び市町村は、単独で又は共同して、地球温暖化対策計画に即して、当該都道府県及び市町村の事務及び事業に関し、温室効果ガスの排出の量の削減等のための措置に関する計画(以下「地方公共団体実行計画」という。)を策定するものとする。
地方公共団体実行計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 計画期間
二 地方公共団体実行計画の目標
三 実施しようとする措置の内容
四 その他地方公共団体実行計画の実施に関し必要な事項
地球温暖化対策の推進に関する法律(平成十年法第百十七号)
改正法でいうところの「地方公共団体実行計画」の1つが、ワンストップで諸事業の施設整備が進めていける「計画策定市町村」「地域脱炭素か推進事業の促進地域」の認定制度の導入です。
この制度は、円滑な合意形成を実現しながら、環境・地域を配慮した事業計画を図ることを目的としたものです。
促進区域設定の考え方
「太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱」と多様な再生可能エネルギーの導入方法があります。
ですが、地理的優位性を存分に活かせていない地方自治体や地元企業が多いのは、許認可の煩雑性にあります。
発電設備という特質上、導入にあたって「森林法、河川法、農地法、自然公園法、廃棄物処理法、温泉法」など多岐に渡る認可が必要となるケースも少なくないからです。
そこで、今回改正された認定制度にて、促進ゾーンにおける事業計画は、自治体を介してワンストップで進めていくことが可能となります。
今後は自治体においても目標達成の責任が生じるため、企業と自治体の結びつきは、より強固なものになると思います。
参照:地方公共団体実行計画 策定・実施マニュアル – 環境省
CO2排出量のオープンデータ化
そして、もう1つ抑えておきたい改正法のポイントは、企業のCO2排出量・削減量のデータは今後、デジタル化・オープンデータ化されて開示請求不要で公開されていくことです。
地球温暖化対策の推進に関する法律
第五章 事業活動に伴う排出削減等
(報告事項の公表等)
第二十九条 環境大臣及び経済産業大臣は、前条第一項の規定により通知された事項について、遅滞なく、環境省令・経済産業省令で定めるところにより、電子計算機に備えられたファイルに記録するとともに、当該ファイルに記録された事項を公表するものとする。
地球温暖化対策の推進に関する法律(平成十年法第百十七号)
「地球温暖化対策の推進に関する法律」では、特定の業者に対してCO2排出・増減量の報告義務を課しています。
改正後は電子報告システムEEGSの原則化が実施されます。
電子報告に加えて、2段階公表による迅速化、公表までの期間が以前の2年から、1年未満に変更されます。
EEGSにおける情報でわかりやすく、簡単に閲覧可能となるのが特徴です。
TCFDなど国際動向も踏まえた、新たな任意報告様式が取り込まれ、投資・融資活動の活性化が見込まれています。
また、今回のデジタル化については、「クレジットや排出権取引、バーチャルPPAの思惑があるのではないか?」と見解もあるようです。
地域の脱炭素がビジネスチャンスとなる
脱炭素を巡る動きは、グローバルに加速しています。
前例のない事業やプロジェクトが大半となるため、理解や信用が得にくい側面も持ち合わせています。
地方や小規模事業者ほど投融資の機会や顧客や関連業者・官公庁からの支援が得にくい、という問題がありました。
そうした中、環境保全性・地域貢献性が高い事業・プロジェクトを、地元企業や住民を巻き込みながら、国の支援を得て自治体を中心に進めていければ理想的です。
今回の法改正は、地域に根差した新しい価値観・ライフスタイル、ビジネスモデルを創出する絶好の機会になると思います。
著者のプロフィール
- 太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。
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