脱炭素経営は、前例のない新しいビジネスモデルです。
コストダウンのやり方も、これまでは違ったアプローチが必要だといわれます。
まず大切なことは、コストダウンの目標設定と現状との差異を認識することです。
認識することで、その差異を縮めようと努力することができます。
目標原価と原価差異を認識しよう
目標を定めるということは、将来の姿を想定することを意味します。
想定する将来がなければ、どちらの方向にどのように進めばよいのかわかりません。
脱炭素経営でも、目指すべきゴールがなければ企業の発展・成長もないことと同じです。
目標達成に向けてすべきことは、以下の3つのステップです。
- 目標を設定する
- 現状と目標との差異を認識する
- 差異の解消に向かって努力する
脱炭素経営で、気になるエネルギー費用など変動費のコストダウンも3つのステップを踏むことで、現実的なもの、実現可能なものとすることができます。
エネルギー費のコストダウンは、「目標原価を設定」して「実績原価との差異を認識」、そして「差異を埋めるためにPCDAを回して」いきます。
これらの過程の中で、最も重要なポイントは「目標原価と実績との差異を認識する」ことです。
目標原価とは
「目標原価」とは、製品やサービス(プラン)が完成される過程において設定される、目標とする原価のことです。
業務にかかる時間・日数、人件費、購入価格、設備機器の使用比率などのコストや労務を目安に価格が決められています。
目標原価を決める作業のことを原価企画ともいいます。
出典:目標原価設定のしくみ – 林 久嗣/ 名古屋大学学術機関リポジトリ
「目標原価」は、プロジェクトの企画立案の段階で設定されるのが理想的で、「許容原価」と「成行原価」とのバランスを取ることを目的としています。
「許容原価」は、計画している販売価格から目標利益を差し引いたもの、妥協できるラインを引いておくことをいいます。「成行原価」はその時々の状況にて都度発生するコストのことで、成行で最終的にかかったコストのことを指します。
企画段階では、プロジェクト(製品やサービス)の実現方法が決定した時点で、約50%の原価が決まると言われています。
具体的な構想・設定に着手した時点で70%、設計図や行程表が完成すると90%の原価がほぼ決まってしまいます。
つまり、目標原価はあるプロジェクトが開始される前の企画段階にて、徹底して吟味しておく必要があるのです。
プロジェクトが動き出してからでは、選択肢も狭まるため、原価削減率は大幅に小さくなることが報告されています。
参照:目標原価設定のしくみ – 林 久嗣/ 名古屋大学学術機関リポジトリ
原価差異とは
「原価差異」とは、設定した「目標原価」と実際にかかった費用「実績原価」との差額のことです。
原価は変動費に分類されるコストとなるため、当然、目標値を下回ることを目指します。
原価が小さくなるほど利益が増える仕組みです。
原価差異は目標原価を上回った時に、コスト増となり問題視されます。
原価が大きくなるほど利益は少くなるため目標原価に近づける必要が出てきます。
最悪の場合、原価が販売価格を上回ってしまうと赤字となり、緊急の策が必要です。
目標が達成できないのはなぜか?
「目標原価」と「実績原価」の関係は、一見シンプルでわかりやすい課題のように見れます。
しかし、実際には原価差異が把握できているケースはごく少ないことが指摘されています。
というのも、そもそも従来の損益計算書は、原価差異が明示できるような仕様にはなっていないからです。
社内においても、原価を抑えることが大切だとの認識はあるものの、具体的な数値は共有されていない(わからない)ことが珍しくないようです。
したがって、「目標原価」の達成は想像以上に難しい課題なのかもしれません。
目標値が定まっていない
他にも、原価のコストダウンが達成できない理由として、「目標値」が設定されていないケースを挙げられています。
もし、目標すら定まっていないとすれば、コストダウンは永久に達成できない課題となり得ます。
変動費・原価削減の重要性が認識されていない状況です。
原価と利益の関係から、改めて学ぶようにしましょう。
達成に向かってPDCAが稼働していない
そして、もう1つ目標原価が達成できない理由に、PDCAが実施されていないことが挙げられます。
「目標差異」を知ることが、コストダウンにおいて最も重要だと先に述べましたが、認識するだけでは足りません。
差異を把握した上で「PDCA」を回しながら、改善に努力する必要があるのです。
出典:PDCAとは – 三菱電機ITソリューションズ
「PDCA」とは、「Plan 計画」「Do 実行」「Check 評価」「Action 改善」と4つの過程を繰り返して目標達成に向かうサイクルのことです。
回すサイクルが数が増えていくほど、目標に近づいていくという考え方で成り立っています。
参照:PDCAサイクル – NRI
原価差異を2つに分解しよう
グローバル規模で加速する脱炭素に応えつつ、高騰するエネルギー費・材料費などのコストを本気で削減していくには、変動費の内訳を明確にし、原価差異を具体的な数値できちんと把握することが大切です。
さらに、原価差異を調達部門における「単価差異」と、消費部門における「数量差異」と2つに分解することで、より現実的な課題として対策が講じやすくなるでしょう。
著者のプロフィール
- 太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。
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