日本には、脱炭素化と付加価値の向上を両立できる設備を導入の際、最大10%の税額

控除が受けられる「CN投資促進税制」があります。CNは「Carbon Neutral」の頭文字を取った略称で、日本語では「カーボンニュートラル」を意味します。

カーボンニュートラルとは、地球温暖化の主な原因とされているCO2排出量と吸収量を同じにすることで、大気中のCO2を増加させないようにすることです。

今回の記事では、CN投資促進税制の概要や対象事業などの基本条件に加えて以下についても解説します。

  • メリット・デメリット
  • 全体の流れ
  • 提出書類と申請方法
  • 審査基準と採択のコツ
  • 補助金交付後の義務
  • 認定事例
  • 申請時の失敗例

本記事を読むことでCN投資促進税制とは何か、申請には何が必要で、何を記載すべきなのかを理解できます。

CN投資促進税制とは?

CN投資促進税制の正式名称は「エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画(カーボンニュートラルに向けた投資促進税制)」です。

2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、民間企業の脱炭素化投資を促進するために、2021年から経済産業省で開始された税制措置です。

参照:事業適応計画(産業競争力強化法) (METI/経済産業省)

脱炭素化への取り組みを経済的に支援し、企業の競争力強化と環境目標の達成を同時に促進することを目指しています。

CN投資促進税制には「大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備導入」と「生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備導入」があります。

概要を以下の表にまとめました。

事業名概要税制優遇備考
大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備導入エネルギー利用による環境負荷の低減効果が大きく、新たな需要拡大が期待できる製品の生産設備の導入を支援最大10%の税制控除、または50%の特別償却※1対象設備は機械装置
生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備導入事業所等における炭素生産性の向上に必要な設備の導入を支援※35~10%の税制控除、または50%の特別償却※1, 2設備導入により炭素生産性の1%向上が必須対象設備は機械装置、器具備品、建物付属設備、構造物

※1. 対象となる投資限度額は500億円まで、DX投資促進税制と合わせて法人税額の20%まで

※2. 3年以内の炭素生産性の向上率が7%なら5%、3年以内の炭素生産性の向上率が10%なら10%の税制控除

※3. 付加価値額÷エネルギー起源CO2で計算(p.12~13を参照)

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p.4~7

CN投資促進税制のメリット

CN投資促進税制は、カーボンニュートラル以外のメリットもあります。
具体的には、以下3つです。

  • 税負担の軽減
  • 長期的なコスト削減
  • 企業イメージと競争力の向上

税負担の軽減

CN投資促進税制を利用することで、企業は脱炭素化に関連する設備投資の税負担を軽減できます。

具体的には対象設備に対する投資に最大10%の税額控除、または50%の特別償却が可能です。

脱炭素化を目指すうえで、大規模な投資は避けられません。
しかし税制優遇により企業は、脱炭素化技術の導入に必要な初期投資の一部を税制上の優遇によって補えるのです。

投資のリスクが抑えられるため、安心して脱炭素化に向けた設備の導入ができるでしょう。

長期的なコスト削減

脱炭素化技術や設備の導入は、高額な初期投資がかかりますが、長期的には企業の運用コストを削減することにつながります。

たとえばエネルギー効率の高い機械や最新のLED照明に切り替えることにより、企業の光熱費が大幅に削減されることが期待できます。

環境省は一般電球をLED照明に切り替えることで、消費電力を約85%削減できると説明しています。
さらにLED照明は一般電球の約40倍も寿命が長いため、交換にかかるコストも削減可能です。

参照:LED照明って、何がお得なの?|あかり未来計画|環境省

コスト削減によって得た利益は、他の事業に再投資することで、企業のさらなる発展に貢献するでしょう。
環境に優しい設備の導入はCO2削減だけではなく、企業の長期的な運営を可能にします。

企業イメージと競争力の向上

環境に対する責任は、企業のブランド価値や市場での競争力によい影響を与えます。
CN投資促進税制を活用して、脱炭素化に取り組む企業の環境を守ろうとする姿勢は、消費者や取引先から高く評価されるでしょう。

結果として環境意識が高く、SDGs(持続可能な開発目標)を重視する顧客層の獲得を期待できます。
さらに市場における差別化を図り、競争力を高めることも可能です。

CN投資促進税制は環境への責任を果たしつつ、企業のブランド価値と競争力を高める重要なツールとなります。

CN投資促進税制のデメリット

CN投資促進税制には環境経営をするうえでメリットがある一方、考慮すべきデメリットもあります。
具体的には、以下の3つです。

  • 複雑な申請手続き
  • 厳しい計画管理と報告義務
  • 外部への情報公開

複雑な申請手続き

CN投資促進税制の利用には、複数の段階を経る申請手続きが必要です。
事前相談、申請書の準備、所管省庁による審査などが含まれ、それぞれに時間と専門的な知識が求められます。

中小企業の場合、申請に割ける人員や時間が限られているため、負担となる可能性があります。

さらに炭素生産性の算出や実現可能な計画などを考えなければならないため、自力で記入ができない場合は、専門家への依頼が必要になるかもしれません。

依頼にはコストがかかるため、予算が限られている場合は障壁となります。

申請は時間がかかる可能性もあり、計画の開始や実行に遅延が生じることもあります。

CN投資促進税制の申請手続きは事業者にとって時間的、財務的な負担が大きく、計画の実行に影響を与える可能性があると言えます。

厳しい計画管理と報告義務

認定された計画には、実施状況の定期的な報告が求められます。
税制優遇の適切な適用を保証し、計画の進行度を確認するために重要ですが、企業にとって負担となる場合があります。

報告のために企業は計画の進捗を監視し、必要に応じて調整する体制を整えなければなりません。

計画の進行中に変更が必要になった場合、速やかに所管省庁に報告し、場合によっては再認定の申請を行う必要があるので注意しましょう。

計画の厳格な管理と報告義務は、企業にとって労力のかかる要素となります。

外部への情報公開

認定された計画は原則として公開されるため、企業は機密情報の管理に特に注意を払う必要があります。

公開される情報には、企業の戦略や技術的な詳細が含まれる可能性があり、これが競合他社によって利用されることで、競争上の不利益を被る恐れがあります。

公表される情報の範囲や内容を事前に検討し、必要な場合には特定の情報を公開対象外とするための措置を取りましょう。

情報の公開要件は、企業にとってデリケートな問題です。
CN投資促進税制を利用するうえでの重要な検討事項となるでしょう。

CN投資促進税制の対象企業

CN投資促進税制の対象企業を以下の表にまとめました。

対象者対象設備
以下の条件を満たす者業種・資本 ⾦規模を問わず⻘⾊申告書を提出する個⼈・法⼈(連結法⼈を含む)過去にCN投資促進税制の認定を受けたことがない者主務⼤⾂の認定を受けたエネルギー利⽤環境負荷低減事業適応計画に必要な設備

「参照」
エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画(CN税制)Q&A | p.1 No.1
エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画(CN税制)Q&A | p.4 No.40

申請書類には「中小企業者の該当の有無」という記載欄があります。
以下に中小企業者の条件を記載しましたので、確認ください。

業種定義(以下のいずれかを満たす者)
製造業・その他資本金の額または出資の総額が3億円以下の会社常時使用する従業員の数が300人以下の会社および個人
卸売業資本金の額または出資の総額が1億円以下の会社常時使用する従業員の数が100人以下の会社および個人
小売業資本金の額または出資の総額が5,000万円以下の会社常時使用する従業員の数が50人以下の会社および個人
サービス業資本金の額または出資の総額が5,000万円以下の会社常時使用する従業員の数が100人以下の会社および個人

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p.32

CN投資促進税制の事業アイデア

CN投資促進税制の事業アイデアを考えるにあたり「大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備導入」と「生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備導入」で重要視すべきポイントが異なります。

大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備導入

大きな脱炭素化効果を持つ製品を生産できる設備導入を通じて、CN投資促進税制を受けるには、対象となる技術や製品への理解が欠かせません。

具体的には、以下5つの技術・製品が該当します。

技術・製品名概要
化合物パワー半導体電力の制御若しくは電気信号の整流を行う
EVやPHEV用リチウムイオン蓄電池電気自動車又はプラグインハイブリッド自動車を構成する
定置用リチウムイオン蓄電池一般的なリチウムイオン電池よりも、大容量の蓄電が可能
燃料電池水素と酸素で発電できる電池
洋上風力発電設備洋上風力発電設備に必要な部品例:ナセル・発電機・増速機・軸受・タワー・基礎

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p.4

上記の技術をどのように市場のニーズや動向に合わせられるかの検討が重要です。

たとえば電気自動車市場が拡大している現状を踏まえて、EV向けリチウムイオン蓄電池の需要が高まると予測し、事業計画を立てるなどです。

生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備導入

生産工程などの脱炭素化と付加価値の向上を両立させる設備の導入する場合、炭素生産性を3年以内に最低7%向上させることが求められます。

CO2排出量の削減と生産効率の向上を同時に満たす必要があるわけです。

具体的なアイデアとして、エネルギー効率が高い機械の導入や廃棄物削減のためのリサイクルシステムの開発、再生可能エネルギーへの移行などが考えられます。

自社で実現できる事業の目星をつけましょう。
税制の恩恵を最大化するためにも、炭素生産性10%以上の向上が見込める事業を計画できるとよいです。

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p.4~6

CN投資促進税制の流れについて

CN投資促進税制の流れや内容、所要時間を以下の表にまとめましたので確認ください。
計画内容や進捗状況によって、所要時間や手続きの詳細が変わることがあります。

全体の流れ内容所要時間
事前相談事業を所管する省庁への事前相談要件の確認と計画の調整を実施約1~2か月
計画の申請(審査開始)所定の申請書と添付書類を提出原則Webで実施約1か月
計画の認定(計画開始)投資設備が税制対象であるかの確認と計画の審査申請後の審査期間含む
税制対象投資の実施認定された設備の製作や取得税制の適用期間内
税務申告税務署へ製作または取得した設備に対する特例措置の申請設備取得後の確定申告時
実施状況報告書の提出認定計画の実施状況に関する報告書を毎年度提出毎事業の年度終了後3か月以内

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p.20

申請手続きの事前準備と必要書類

CN投資促進税制の申請手続きを行う2か月前には、事業を所管している省庁に相談しなければなりません。
どの省庁に相談すべきかは、以下の表を参照ください。

省庁主な担当業種担当課室電話番号
経済産業省製造業、流通・小売業経済産業政策局 産業創造課03-3501-1560
金融庁金融機関総合政策局 総合政策課03-3506-6000
警察庁警備業生活安全局 生活安全企画課03-3581-0141
総務省通信・放送業情報流通行政局 地域通信振興課03-5253-5857
財務省たばこ事業、塩事業理財局 総務課たばこ塩事業室03-3581-4111
酒類業国税庁 課税部 酒税課03-3581-4161
厚生労働省医薬品製造業医政局 医薬産業振興・医療情報企画課03-5253-1111
農林水産省食品産業大臣官房新事業・食品産業部 
新事業・食品産業政策課(DX、繰越欠損金の控除特例)
03-3502-8111
大臣官房新事業・食品産業部 
外食・食文化課食品ロス
・リサイクル対策室(カーボンニュートラル)
国土交通省運輸業総合政策局 交通政策課03-5253-8111
造船業海事局 船舶産業課
建設業不動産・建設経済局 建設市場整備課
環境省廃棄物処理業再生循環局 廃棄物規制課03-3581-3351
フロン業地球環境局 フロン対策室

引用:事業適応計画(産業競争力強化法) (METI/経済産業省)

CN投資促進税制の申請に必要な書類は、以下の表の通りです。

申請書類はこちらからWordファイルをダウンロードし、記入してください。

フォーマットのない書類はp.25~45の記載例を参照しながら作成しましょう。
記載例には記入に関する具体的な説明があるため、問題なく書き進められるでしょう。

提出書類備考
認定申請書事情適応の目標や内容・実施時期、事業適応における経営方針の決議または決定の過程を記載詳細はp.28~45を参照
定款の写し未所持の場合、定款の写しに準ずる書類を提出
直近の事業報告の写し、貸借対照表、損益計算書未所持の場合、事業報告の写し、貸借対照表、損益計算書に準ずる書類を提出
計画全体における炭素生産性の向上率を示す書類生産工程を効率化する設備を導入する計画の場合のみ提出記載内容はp.10を参照
炭素生産性の向上による付加価値額とエネルギー起源CO2排出量の根拠書類生産工程を効率化する設備を導入する計画の場合のみ提出記載内容はp.11~12を参照
生産工程を効率化する設備における炭素生産性向上率の根拠書類生産工程を効率化する設備を導入する計画の場合のみ提出記載内容はp.17を参照
新たな需要開拓を示す書類需要を開拓できる商品を生産する設備導入の場合のみ提出記載内容はp.43 を参照
財務内容の健全性向上を示す書類計画終了時に黒字を達成することを示す書類
経営方針決定過程を示す書類事業適応に関する経営方針の決議や決定過程を示す書類
資金使途及び調達方法に関する書類投資資金の使途と調達方法の内訳を記載した書類
暴力団でないことを示す書類暴力団員や関係者ではないことを示す書類

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p.25

申請前に確認すべき補助金の審査基準

CN投資促進税制の申請に関する審査基準は、以下の5つです。
申請するにあたり、5つの審査基準を満たした事業計画を立てられるように心がけましょう。

  1. 事業適応の目標
  2. 事業適応の内容及び実施時期
  3. 経営方針の決定
  4. 設備導入の詳細
  5. 資金計画

1.事業適応の目標

経済社会における情勢の変化や事業の方向性と関連付けて、事業の目標をわかりやすく記載する必要があります。

CO2排出量の削減や環境負荷の低減などの目標を具体的に設定し、事業が脱炭素化にどのくらい貢献できるかを示せると高評価を得られます。

生産工程を効率化する設備を導入する場合は、炭素生産性の向上率(最低7%以上の向上)を明記しましょう。
目標達成に関する計算の根拠資料も提出する必要があります。

需要を開拓できる商品を生産する設備を導入する場合は、具体的な設備要件や国内で十分な販路が開拓されること、事業適応の終了年度に経常利益が黒字となるように計上することが重要です。

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p. 28, 37 

2.事業適応の内容及び実施時期

事業活動と事業の選定理由を詳しく説明しましょう。
生産工程を効率化する設備を導入する場合はどのような設備をいつ、どこに導入し、設備により炭素生産性がどのくらい向上するかを具体的に説明できているかが評価基準となります。

需要を開拓できる商品を生産する設備導入にあたっては、日本標準産業分類に基づいて事業分野を明記しましょう。

具体的な生産体制や生産見込み、販売見込み先などを記載し、計画の実現可能性を示す必要があります。

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p. 29~30, 38~39

3.経営方針の決定

事業適応に関わる経営方針の決定過程や内容を示す書類の提出も求められます。
取締役会や代表者による意思決定が確認できる書類を準備しましょう。

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p.31, 40

4.設備導入の詳細

設備導入を行う工場や店舗の情報を正確に記載することが重要です。
生産工程を効率化する設備を導入する場合、導入される設備の内容と炭素生産性の向上率を具体的に記載しましょう。

需要を開拓できる商品を生産する設備導入の場合は、設備内容に加えて、具体的な販路開拓の方法、脱炭素化への貢献度を明確に示せているかが評価ポイントとなります。

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p. 32~34, 41~44

5.資金計画

資金計画では、事業に必要な資金額と調達方法の記載があるかどうかが評価されます。
政府関係金融機関や民間金融機関等からの借入れ、その他の資金調達方法について内訳がわかるように記載しましょう。

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p.35, 45

CN投資促進税制の申請で重要なのは、計画の具体性、実現の可能性、環境への影響、財務面の持続可能性です。
申請書の提出前には、5つの内容が具体的に盛り込まれているかを必ず確認しましょう。

窓口またはオンライン申請の方法

窓口申請ではなく、オンライン申請が原則とされています。
窓口申請の場合は交通費や郵送費、書類への押印などの手間がかかるためです。

申請は「gBizFORM」が利用されます。
利用するにあたって「GビズID」が必要となります。

どうしても窓口で申請を行わなければならないなど、特別な事情がある場合は以下の窓口へ相談ください。

窓口名住所電話
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制関連窓口
経済産業省 産業技術環境局 環境政策課 環境経済室
〒100-8912 東京都千代田区霞が関1丁目3番1号03-3501-1770(直通)

引用:事業適応計画ホーム · gBizFORMポータル | お問い合わせ

CN投資促進税制の受け取り方法

CN投資促進税制の利用においては、定められた手順を守ることが欠かせません。

税制の適用期限を確認し、期限内に必要な設備を導入して事業を開始する必要があります。
重要なのは、計画の認定を受けてから対象となる設備を取得または製作することです。

認定を受ける前に設備を取得または製作した場合、または認定を受けた後でも税制の適用期限を過ぎた後の取得や製作は、税制措置の対象外となります。

計画の認定申請は、期限に余裕を持って行うことが重要です。

CN投資促進税制を受けるためには、早めに申請を行い、計画の認定を受けましょう。
その後、税制の期限内に設備の取得や製作を行うという順序が重要です。

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p. 20~22

CN投資促進税制の認定後について

認定された計画は、所管する省庁によりホームページで公表されます。
公表内容には申請書に記載された情報が含まれますが、事業者が事実上の機密と考える情報は非公表にすることも可能です

そのためには事業者の要請が必要なため、所管省庁に相談する必要があります。

事業年度ごとに、計画の実施状況を報告しなければなりません。
原則として、事業年度終了後3か月以内の提出が求められます。

計画の実施期間が終了した際には、結果を報告する義務があります。
認定を受けた計画と同じく、報告内容も公表されるので、あらかじめ把握しておきましょう。

計画実施中に重要な変更が必要になった場合、変更申請を行い、再認定を受ける必要があります。
生産性向上の目標値の変更や取り組み内容の大幅な変更など、計画の主要部に影響を及ぼす変更が報告の対象です。

変更申請を行っても、申請時と同じ認定基準が適用されます。

認定を受けた事業者は、計画そのものや進捗状況、計画の実施結果を報告しなければなりません。
報告はすべて公表されるため、公表したくない情報がある場合は省庁に相談しましょう。

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p.23

CN投資促進税制の審査を通りやすくするコツ

CN投資促進税制の審査に通るためのコツとして、以下の5つが考えられます。

  • 明確な目標設定
  • 詳細な事業計画の記述
  • 経営方針の明確化
  • 設備導入の具体性
  • 資金計画の透明性

明確な目標設定

経済社会情勢と関連付けた具体的な事業目標を設定しましょう。
目標には、炭素生産性の向上の記載も求められます。

3年以内に7%以上、炭素生産性を高められる事業計画が立てられていると認定を受けやすくなります。
目標に設定した数値をどのように算出したのかを示す、根拠資料も忘れずに添付してください。

詳細な事業計画の記述

導入する設備や効果、日本標準産業分類に基づく事業分野の明記、生産体制や販売見込みなどを詳細に記載し、計画の実現可能性を具体的に示してください。

計画が具体的であるほど、審査を通過しやすくなります。

経営方針の明確化

経営方針の決定過程を示す書類を提出し、取締役会や代表者の意思決定が明確であることを示しましょう。

設備導入の具体性

導入する設備の正確な情報、炭素生産性の向上や脱炭素化への貢献度を具体的に記載することが求められます。
需要を開拓できる商品を生産する設備を導入する場合、販路の開拓計画の記載も重要です。

資金計画の透明性

必要な資金額と調達方法を明確に記載し、資金調達の内訳がわかりやすい形で提出することが求められます。

CN投資促進税制の審査を通過しやすくするために上記5つポイントを踏まえて、申請書類に具体性と透明性を持たせましょう。

計画の実現可能性や環境への影響を示すことが鍵となります。

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p.28~45

CN投資促進税制を受け取るポイントや注意点

CN投資促進税制の認定を受けるうえで注意すべきことは、税制の期限内には事業を完了させることです。
ただし計画の認定を受けたあとに、対象となる設備を取得・製作しなければならない点に気を付けましょう。

計画の認定を受ける前に設備を取得したり、対象期間外に取得を行った場合は税制措置の対象外となります。

税制の適用期限までに時間を十分に確保するためには、早めに申請することも重要です。
認定を期限間際に受けると、設備の導入に時間がかかった場合、税制を受けられない可能性があります。

CN投資促進税制を受けるためには早めに認定申請を行い、認定後に設備を導入・製作することが不可欠です。

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p. 20~22

何か困ったことがあれば、CN投資促進税制に関するよくある質問を確認するといいでしょう。
抱えている悩みの解決策が記載されているかもしれません。

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画(CN税制)Q&A

CN投資促進税制の事例紹介

CN投資促進税制の認定を受けた事例を3つ紹介します。

  • アストラゼネカ株式会社
  • 株式会社アミノアップ
  • 紙与ホールディングス株式会社

アストラゼネカ株式会社

アストラゼネカ株式会社は、2025年までにグローバル規模でのCO2排出量をゼロにし、2030年までにカーボンネガティブを達成する計画を立て、CN投資促進税制の認定を受けました。

カーボンネガティブとは、事業活動によるCO2排出が吸収量よりも少ない状況を意味します。

参照:カーボンネガティブとは?概要と背景・CO2削減を実現するためのネガティブエミッション技術を解説 | 地球の未来を宇宙から考えるメディア Beyond Our Planet

具体的な取り組みとして、アストラゼネカは国内事業所と工場での消費電力を100%再生可能エネルギーに移行しました。

さらに、滋賀県の米原工場に太陽光発電設備を設置することで、工場で使用する電気の20%を自家発電で賄う計画も立てています。

太陽光発電設備の導入により、炭素生産性を91.2%向上させることが目標であり、実際に93.0%の向上が達成されました。

アストラゼネカは、エネルギー起源のCO2排出量を大幅に削減し、化学工業分野における環境負荷の低減に貢献したのです。

「参照」
認定事業適応計画の概要の公表 | アストラゼネカ株式会社
認定事業適応計画の実施状況の概要の公表 | アストラゼネカ株式会社

株式会社アミノアップ

株式会社アミノアップは、気候変動問題に対応し、環境への負荷低減と付加価値創出を目指して、CN投資促進税制に基づく事業計画を実施しました。

取り組みの一環として、工場と事務所の屋上に太陽光パネルを増設し、工場内に蓄電池を設置しました。
またエネルギー効率が高い新しいスプレードライヤー機を導入することで、2023年度までに炭素生産性を25.1%向上させることを目指しました。

スプレードライヤーとは、スラリーと呼ばれる固体と液体の混ざったものなどを乾燥させる機器のことです。

参照:スプレーバッグドライヤーの操作条件と粉体特性について

実際の進捗としては、太陽光パネルの設置は予定通り進みましたが、半導体不足による納入遅れでスプレードライヤー機の導入が遅れました。

そのため初年度の炭素生産性は、予定よりも低下しましたが、2年目には太陽光パネルと蓄電池が通年稼働し、スプレードライヤー機も稼働を開始したことで、炭素生産性がほぼ計画通りである5.5%の上昇に成功しました。

高性能な機器の導入によって、アミノアップはCO2排出量の削減と製品の生産性向上を実現したのです。

「参照」
認定事業適応計画の概要の公表 | 株式会社アミノアップ
認定事業適応計画の(中間)実施状況の概要の公表① | 株式会社アミノアップ
認定事業適応計画の(中間)実施状況の概要の公表② | 株式会社アミノアップ

紙与ホールディングス株式会社

紙与ホールディングス株式会社は、オフィスビルの省エネとCO2排出削減を目的とした事業計画を策定し、CN投資促進税制の認定を受けました。

具体的には、オフィスビルの空調と照明設備を高効率なものに更新することでエネルギー削減を目指し、2022年度までに炭素生産性を27.6%向上させることを目標に掲げています。

更新した設備は以下の3つです。

  • 古い空調設備をGHPチラー
  • パッケージエアコンを新機種に
  • 蛍光灯をLED照明に

初年度における炭素生産性の向上は、基準年度比で1.0%に留まりましたが、要因は外的なもの(九州電力の排出係数上昇)であり、実際には年間電力使用量が減少しています。

2年目の成果では、目標を上回る34.2%の炭素生産性向上を達成しました。
紙与ホールディングスは、省エネ効果の高い設備を導入することで、環境負荷の低減に成功しています。

「参照」
認定事業適応計画の概要の公表 | 紙与ホールディングス株式会社
認定事業適応計画の(中間)実施状況の概要の公表① | 紙与ホールディングス株式会社
認定事業適応計画の(中間)実施状況の概要の公表② | 株紙与ホールディングス株式会社

CN投資促進税制が受けられない失敗例

CN投資促進税制の認定を受けられない失敗例は、以下の2つです。

  • 不十分な事業目標
  • 計画の非現実性

不十分な事業目標

事業適応の目標が曖昧で、経済社会の変化や事業方向性との関連も不明確な場合、認定は難しくなります。
たとえばCO2排出量の削減目標が具体的な数値や計画に基づいていない、または達成するための実現可能な手段が示されていない場合です。

生産工程の効率化や新しい設備の導入計画がありながら、導入による炭素生産性の具体的な向上率(7%以上の改善等)が明示されていない、あるいは計算の根拠が不十分な場合も認定を受けることは難しいです。

計画の非現実性

計画対象の事業選定が不適切であるか、具体的な実施時期、設備導入の場所や方法が現実的でない場合、審査に通過することは困難です。

たとえば日本標準産業分類に基づく適切な事業分類の記載がない、または事業選定の理由が不明瞭な場合が該当します。

資金計画が不十分で、必要な資金額や調達方法が具体的に記載されていない場合も問題となります。
政府関係金融機関や民間金融機関からの借入れ、その他の資金調達方法に関する詳細が不足している場合、計画の信頼性が損なわれ、認定が難しくなるのです。

計画の具体性や実現可能性、環境保全の効果、財務面での信頼性が不足していることが失敗の原因です。
申請前には、重要な要素が漏れなく計画に組み込まれているかを確認しましょう。

まとめ

CN投資促進税制のメリットは、税負担の軽減の他にコスト削減や企業イメージの向上があります。
対してデメリットは、申請の手続きが複雑なことに加え、計画管理や報告義務が厳しく、事業内容が公表されるなどが考えられます。

申請における全体の流れは以下の通りです。

  1. 事前相談
  2. 計画の申請(審査開始)
  3. 計画の認定(計画開始)
  4. 税制対象投資の実施
  5. 税務申告
  6. 実施状況報告書の提出

申請要件を満たすかなどの事前相談は、最大2か月かかる場合もあるため、余裕を持って行いましょう。

申請に必要な書類は、以下の表の通りです。書類はこちらからダウンロードできます。
フォーマットのない書類は、p.25~45の記載例を参照して作成すると良いです。

提出書類備考
認定申請書事情適応の目標や内容・実施時期、事業適応における経営方針の決議または決定の過程を記載
定款の写し未所持の場合、定款の写しに準ずる書類を提出
直近の事業報告の写し、貸借対照表、損益計算書未所持の場合、事業報告の写し、貸借対照表、損益計算書に準ずる書類を提出
計画全体における炭素生産性の向上率を示す書類生産工程を効率化する設備を導入する計画の場合のみ提出
炭素生産性の向上による付加価値額とエネルギー起源CO2排出量の根拠書類同上
生産工程を効率化する設備における炭素生産性向上率の根拠書類同上
新たな需要開拓を示す書類需要を開拓できる商品を生産する設備導入の場合のみ提出
財務内容の健全性向上を示す書類計画終了時に黒字となることを記載
経営方針決定過程を示す書類事業適応に関する経営方針の決議や決定過程を記載
資金使途及び調達方法に関する書類投資資金の使途と調達方法の内訳を記載
暴力団でないことを示す書類暴力団員や関係者ではないことを記載

参照:エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画 (カーボンニュートラルに向けた投資促進税制) の申請方法・審査のポイント p.25

申請は、Web上での実施を原則としています。
申請には「gBizFORM」が利用されますが「GビズID」が必要なので、事前にアカウント作成を行いましょう。

CN投資促進税制における審査基準は、以下の5つです。

  • 事業適応の目標
  • 事業適応の内容及び実施時期
  • 経営方針の決定
  • 設備導入の詳細
  • 資金計画

重要視されるのは計画の具体性、実現の可能性、環境への影響、財務面の持続可能性です。
申請書の記載内容に誤りがないことを前提に、具体的な目標などが盛り込まれているかを確認しましょう。

CN投資促進税制の認定を受けた後は事業年度ごとに、計画の実施状況や実施結果を報告する義務があります。
事業年度終了から3か月以内に報告しなければなりませんので、忘れずに実施してください。

企業名概要
アストラゼネカ株式会社国内事業所と工場での消費電力を100%再生可能エネルギーに移行し、炭素生産性93.0%の向上を達成
株式会社アミノアップ工場と事務所の屋上に太陽光パネルを増設に加えて、工場内に蓄電池を設置した結果、炭素生産性5.5%の上昇に成功
紙与ホールディングス株式会社オフィスビルの空調と照明設備を高効率なものに更新し、34.2%の炭素生産性の向上を達成

参照:認定事例すべて見せます!(令和4年7月時点:認定全50件)

CN投資促進税制の認定を受けた企業は、再生可能エネルギーや省エネ性能の高い機器を導入し、炭素生産性の向上を達成しています。

申請時の失敗例として考えられるのが、計画における具体性の欠如です。
CO2削減目標が具体的な数値や計画に基づいていない、達成手段が示されていない、あるいは炭素生産性の具体的な向上率や事業の実施時期が明示されていないなどが挙げられます。

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。