脱炭素経営に取り組むうえで、カーボンクレジット制度の理解は必須と言えます。
社会が一体となって「脱炭素に取り組むための仕組み」として存在するカーボンクレジットですが、活用方法によって毒にも薬にもなりえます。
本記事では、クレジット制度の概要と、活用する際の注意点について詳しく解説していきます。
そもそもクレジットとはどのような考え方か
カーボンクレジット(以下、クレジット)とは、企業や自治体が実施したCO2の削減量を、価値として権利化したものです。
このクレジットは、売却することも購入することも可能になります。
そのため、積極的にCO2排出削減に取り組んだ国や企業は、目標を超過して削減できた削減量をクレジットとして、売却し利益を得ることができます。
CO2排出目標に届かない国や企業はクレジットを購入することで、削減目標を達成させることが可能になります。
このようにしてCO2の削減価値を循環させていくことで、社会が一体となって脱炭素に取り組める仕組みがクレジットのメリットになります。
クレジットの取引は世界中で行われている
クレジットの取引は、国家間や企業間で行われており、様々な取り決めや制度が確立されています。
国内でも、政府がJ-クレジットという独自のクレジット制度を設けており、脱炭素経営によるCO2の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量をクレジットとして国が認証する事で、円滑なクレジットの取引ができる仕組みを整えています。
クレジット利用の注意点3つ
しかし、このクレジットの利用には注意すべき点がいくつかあります。
使い方を間違い、クレジットに依存した脱炭素経営を続けると、いつか必ず限界が来てしまいます。
そうならないためにも、おさえておきたい注意点を3つ紹介していきます。
①将来的なクレジットの枯渇
クレジットは、企業が削減目標を超過して削減できたCO2に対して、その超過分を取引することで成り立っています。
そのため、少なくとも国内では2050年にカーボンニュートラルを目指している以上、将来的に各企業は、CO2排出量100%削減が目標になってきます。
例えばこれまで削減目標が50%のところを70%削減出来たので、20%をクレジットとして売却していたようなケースでも、削減目標が100%になれば、クレジットとして売却する超過分が発生しない事になります。
このように、将来的にはクレジット自体が発生せずに、クレジットが枯渇するリスクが高いことを考慮しておく必要があります。
②削減に向けた取り組みの先送り
クレジットの枯渇は2050年まで起きないという想定のもと、2030年までの活動期間にクレジットありきの脱炭素経営を行った場合について考えてみます。
枯渇が起きる2050年までの短い期間の中で、事業構造の転換や、生産性の急激な向上を図る必要があり、失敗リスクが高まる恐れがあります。
このリスクを低減するには、クレジットに頼らずにCO2排出量の削減を達成するための取り組みを、今から始める必要があります。
③キャッシュフローへの影響
クレジットを購入すれば、確かに自社のCO2排出量の削減目標を達成に近づけることが可能になります。
しかし、一方で、本来事業活動に投入すべきであった現金がクレジット購入に充てられることになり、キャッシュフローの悪化リスクが考えられます。
また、自社でCO2排出量削減に取り組むための、設備投資や研究開発に回すべき資金もクレジット購入に流れてしまい、いつまでもクレジットに頼らなければならない、悪循環に陥るリスクもあります。
まとめ
ここまでカーボンクレジットの概要と、利用する際の注意点について解説してきました。
クレジットは脱炭素経営の手段のひとつとして、様々な活用場面が考えられますが、長期的にはクレジットに依存しない脱炭素経営を目指す必要があります。
そのためには、クレジットはあくまで補助的な利用にとどめておき、今から再生可能エネルギーの導入や生産性向上に向けた取り組みをはじめていきましょう。
著者のプロフィール
- タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。