企業の最終的な目的は、社会的ニーズが高い商品・サービスを提供し、国や地域に貢献するとともに利益を増やすことにあります。
脱炭素時代においてはさらに、化石燃料の使用を減らし、再エネ比率を高め、CO2削減の要請に応えながらも自然環境保全にもつながるような新しい価値創造が求められます。
これまでになく、企業の存続が厳しい状況下にある中、適切なコストダウンを図ることが欠かせません。
とりわけ、価格高騰が目立つエネルギー費や材料費をやりくりしていくためには、先を見据えたコストダウンの目標と計画が必要です。
コストダウンの目標を達成する計画
コストダウンの実施において、まず重要となってくるのが、売上に直接関わる変動費を削減していくことです。
高騰するエネルギー費・材料費が変動費の大半を占めるケースも多いことから、近年では著しいコスト増に苦しむ中小企業が増えています。
電気料金の総額、1年前との比較
帝国データバンクの統計調査によると、世界的な資源物質の価格高騰から企業における電気料金の負担が重くなっていることが明らかにされました。
電力にかかるコストが1年前と比べて、どう変化したかの回答では、「20~40%増加した」と答えた企業が全体の33.1%と最も多く、増加した企業の合計は93%以上という結果が出ています。
電気料金の価格転嫁状況
次いで、電気料金の価格転嫁(コスト削減)状況に関するアンケートでは、価格転嫁が実施できていると答えた企業は14.9%にとどまり、57.2%の企業が全くできていないとの回答でした。
価格転嫁に成功した企業の特徴として、競合が少ないジャンルでは値上げの転嫁が実現しやすいことや、一部の製品において電気料金値上げの実績データを表示することで取引先から了承を得た、という例がわずかながら挙げられています。
大半は売上低下への不安から値上げ分の転嫁を実現することが難しい状況にあり、そもそも具体的な電気代を数字で交渉しにくい、単価コストとして電気料金が反映できていない、などの声も多く聞かれています。
材料費やエネルギー費の高騰を、そのまま商品単価の値上げで解決できれば確かに理想的です。
しかし、現実には値上げへのハードルは非常に高く、社内におけるコストダウンに舵をとることが先決となるでしょう。
そこで、コストダウンを実現するためには、変動費の見える化で内訳がわかることが大切です。
コストの内訳が確認できることで、エネルギー費や材料費の数値が明確となり、より現実的な削減計画が立てていけます。
参照:帝国データバンクの統計調査-PR TIMES
参照:中小企業の原油・原材料高騰に関する実態調査
目標を設定
具体的な数値が確認できたら、まず最初にすることは目標の設定です。
「目標を決める」ことからコストダウンが始まります。
そもそも、目指すべき目標がなければコストダウンは口先だけのもの、馴れ合いの言葉で終わってしまいます。
最悪の場合は、インフレだから仕方がない、コスト増はうちだけではない、どこも一緒だとあきらめてしまうケースもあります。
見える数値で目標を定めれば、どこの数字から減らしていけるのか、すこしでも数字を減らそう、と社員の意識も変わってきます。
例えば、よくあるエネルギー費の削減方法として、高圧から低圧に変えたり、LEDライトに変えたり、空調の設定温度を変えたりなどがあります。
計画書を作成
現状の変動費の確認や、目標設定などコストダウンを会社全体で進めるにあたって計画書を作成しましょう。
一部の社員、管理者のみが変動費の内訳を知り、目標を立てたとしても、会社全体・社員全員で実施にあたらなければ、到底実現することはできません。
業務にあたるすべての労務者が、日々コツコツと節約意識を持つことで目標達成に近づけるのです。
【コストダウンの計画書の例】
現在 | 目標 | 単価差異 | 数量差異 | ||
材料費A | 800 | 640 | → | 125 | 35 |
材料費B | 550 | 451 | → | 65 | 34 |
エネルギー費 | 200 | 140 | → | 40 | 20 |
変動労務費 | 400 | 360 | → | 40 | 0 |
外注物流費 | 250 | 239 | → | 6 | 5 |
トータル | 2200 | 1830 | 276 | 94 |
(単位1000円)
計画書を作成する手順
- 原価、販管費、営業外費からすべての変動費を明記
- 変動費の内訳を見える化
- 合理的な判断に基づいて目標原価を設定
- 目標原価と実際原価の差異を算出
- 単価差異と数量差異を明確にして対策を講じる
差異を毎日確認する
計画書が作成できたら、毎日、コスト削減が実施できているか日次で確認できるような仕組みを作っていきましょう。
月次や年次で考えると、日常で実行に移すのを後回しにしがちです。
日々の削減額を割り出すことで、削減すべき数値も小さくなり、現実的に実施可能なものとして取り組みやすくなります。
毎日確認していくことで早期発見につながります。
【コスト削減のポイント】
- 一部の部署・特定の社員に負担が集中していないか → 不公平だとの不満につながる
- 固定費と変動費を混同していないか → 固定費はコストとは分離すべき
- 生産効率が下がる影響はないか → コスト削減できても売上が減少する
- 差異の相殺は基本的にやらない → 問題となるコストが見えなくなる
- 目標は現実的な数値となっているか → 無理があると継続していけない
会社全体で毎日コツコツと取り組めるような、コストダウン計画を立てることが目標達成のコツです。
PCDAを毎日回して目標に近づけていく
毎日PCDAを小まめに回すことで、日々少しづつ目標に近づくことができます。
小さな削減は意味がない、となおざりにしないで小さな削減なら誰でも簡単にできる、とモチベーションに変えていくことが大切です。
毎日PCDAを回す方法として、ダイアリー型・チェックリスト型のコスト削減報告書のようなものをつけていく方法があります。
業務開始前に、毎日その日の削減目標を明記・チェックします。
そうすることで、その日1日電気代を節約したり、材料の無駄使いを抑えたりと注意して過ごすことができます。
業務の終わりに、その日のレビューを記し、反省点や良かった点を振り返り、明日の目標へとつなげる、といった流れです。
エネルギー費を確実に計画的に下げていく
年間で120万円のエネルギー費の削減が目標だとすれば、月次で10万円削減すべきだということになります。
10万円の省エネを実行するといわれても漠然としてしまいますが、それを日割りにすれば約3,300円です。
会社全体で、1日で3,300円のエネルギー費の削減となれば、現実感が出てきます。
仮に33人の社員がいるとすれば、1日に1人100円が節約できればいいわけです。
1日100円のエネルギー費削減なら、誰でも簡単にできそうです。
一気に目標達成ではなく、少しづつでも確実に計画的に下げていくことが肝心です。
早速、コスト全体をまずは見える化して、目標を立てることから始めてみましょう。
著者のプロフィール
- 太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。
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