費用を管理する上で使われるのが損益計算書です。
損益計算書はP/Lとも呼ばれている決算書類ですが、表記方法によっては変動費と固定費の見分けがつかず、費用の超過があっても気づかないことがあります。
非常の異常値を素早く発見するためにも、変動費と固定費を完全分離で見える化することが欠かせません。
従来のP/Lでは異常値は発見できない
損益計算書(P/L)とは、Profit and Loss Statementと呼ばれる決算書類のことで、その起源は古く13世紀のイタリア・フフィレンツェにまで遡ります。
当初は非定期的な決算書として作成され、16世紀のアントワープで初めて1年ごとの損益決算書が登場します。
後にオランダや英国にて幅広く使われるようになり、19世紀に米国にて現在のような決算書の形式が確立されました。
損益計算書に記入される主な項目は、以下のようなものがあります。
- 売上高
- 売上原価
- 売上総利益
- 販売費及び一般管理費
- 営業利益
- 営業外費用
- 経常利益
- 特別利益/特別損失
- 税引前登記純利益
- 法人税等
- 当期純利益
会社の経営状況を知るにあたって、とくに重要とされているのが「売上高(その他収益) - 売上原価(その他費用)」から算出される「当期純利益(最終的に得られた利益)」です。
P/Lを見れば、会社が赤字経営なのか黒字経営なのか端的に知ることができます。
参照:損益計算書とは – 東京商工リサーチ
参照:16世紀アントワープにおける期間損益計算の生成 – 大阪経大論集/渡辺 泉
損益計算書(P/L)の問題点
長い歴史を持つ損益計算書ですが、ある意味で従来の形式は100年以上進化していないため、この決算書だけでは企業の費用管理に、十分に機能していないのが現状です。
例えば、売上高の予算が1,000万円、売上原価の予算が900万円、売上純利益の予算が100万円だったとして、もしそれらの業績が1.2倍になっていたとすれば、費用管理は上手くいっていると判断するのが一般的です。
【業績が予算の1.2倍となったP/Lの例】
- 売上高(予算)1,000万円 → 実績1,200万円(1.2倍)
- 売上原価(予算)900万円 → 実績1,080万円
- 売上総利益(予算)100万円 → 実績120万円(1.2倍)
従来の損益計算書の落とし穴がここにあって、費用の詳細が分からないため、実際のところ本当に問題がなかったかどうかはP/Lの数字からは見えないのです。
そもそも異常値とは
費用管理をする上で、問題ありとすべき項目は、各費用の異常値から調べることができます。
異常値とは、あらかじめ決めた予算より実績が大きすぎたり(予算オーバー・過払い)、少なすぎたり(投入不足)する数値のことです。
異常値の出現は、見直し・改善が必要な費用を見極める目安になります。
ところが、今見てきたように、従来のP/Lでは内訳がわからないため、もしかすると費用の一部に異常値が発生している可能性があるということです。
つまり、売上高と売上原価、売上総利益の数値だけでは安堵できないのです。
費用の内訳を明確にする
P/L決算書と併せて作成されるのが、利益・費用の内訳を記した貸借対照表や収支内訳書です。
通常、株式会社は青色申告・白色申告と双方において帳簿書類の記帳が義務づけられています。
P/Lの詳細は原則として貸借対照表で確認できる仕様となっていますが、この帳簿を見ても、費用管理が十分に行き届くとは言えません。
先ほどの売上高と売上純利益の内訳をここでは見ていきます。
費用の見える化
【費用の内訳を示したP/Lの例】
- 売上高(予算)1,000万円 → 実績1,200万円(1.2倍)
- 費用A(予算)350万円 → 実績450万円(超過)
- 費用B(予算)200万円 → 実績240万円(超過)
- 費用C(予算)150万円 → 実績150万円
- 費用D(予算)50万円 → 実績50万円
- 費用E(予算)150万円 → 実績190万円(超過)
- 売上総利益(予算)100万円 → 実績120万円(1.2倍)
費用の詳細を見える化すれば、確かに予算オーバーしているものや、予算額に至っていないものがあるとわかります。
P/Lでは問題なしと判断した運営状況も、詳細から改善すべき課題があると判断できます。
しかし、ここで注意したいのがすべての費用を一律に削減すればよいというわけではないことです。
費用には、極力削減すべき変動費と会社資源として増幅すべき固定費とに分かれます。
性質が異なる「変動費と固定費」の増減を知る必要があります。
変動費と固定費の増減を把握
同じ支出ではあっても、変動費と固定費とでは経営上の戦略が異なります。
現状の損益決算書や帳簿では、そもそも変動費と固定費が分類できる仕様にはなっていません。
従って、それぞれで一目でどちらに該当する費用なのかわかるよう工夫が必要です。
異常が生じた費用が「変動費なのか固定費なのか」によって、対策も変えていくのが新しい時代の費用管理です。
【変動費と固定費を明確にしたP/Lの例】
- 変動費A(予算)350万円 → 実績450万円(超過)
- 変動費B(予算)200万円 → 実績240万円(超過)
- 変動費C(予算)150万円 → 実績150万円(OK)
- 固定費D(予算)50万円 → 実績50万円(OK)
- 固定費E(予算)150万円 → 実績190万円(超過)
例えば、変動費Aのように超過が目立っている場合は、何が超過の要因だったかが調べられます。
調達価格の高騰が原因だったすれば、変動費Cが予算内で収まっている原理を究明し、他の変動費への参考とします。
固定費Eの超過は、新しいシステムの購入にかかるもので、超過分を相殺する生産性が見られるかどうかが来月の課題です。
こうした対策は、費用の見える化と変動費・固定費の分離ができているから可能となります。
参照:固定費と変動費を分けて考える – 日経XTECH
あわせて読みたい:事業のコスト構造を把握しよう
変動費と固定費の分離でエネルギーコストを削減
本質的に優れた費用管理を実施するには、これまでの慣習のままに決算書を作成するだけでは不十分です。
ビジネスの形態が時代とともに移り変わるように、決算書も本来なら時代とともに変化・進化していくべきなのです。
エネルギー高騰やインフレに対面しながらも、脱炭素への要請に応えられるビジネスを展開するのは、決して容易なことではありません。
会社の存続をかけて、競争力を育み成長岐路を見出していくにあたって、まずは根本的な費用管理から見直し・改善していくことが肝心なポイントだといえます。
早速、費用の内訳を見える化するとともに、変動費・固定費をきっちりと分離した表記方法を考案していきましょう。
著者のプロフィール
- 太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。
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