近年、カーボンニュートラルの実現を目指して、多くの日本企業が温室効果ガス削減に取り組んでいます。

また、環境会計を導入し環境保全活動の見える化を考えている方も多いのではないでしょうか?

「環境会計とは?」

「環境会計の導入目的が知りたい!」

そこで、本記事では環境会計の概要から導入目的まで解説します。

環境会計を導入した環境保全活動に取り組み、カーボンニュートラルへの実現のご参考にしてください。

環境会計とは

環境会計とは、企業が取り組む「環境保全活動に関する費用や効果」を数値化し、環境保全への取り組みを定量的に評価する会計手法を指します。

ここでは環境会計について詳細に解説します。

環境会計の定義

環境省の定義によると環境会計とは、「企業等が、持続可能な発展を目指して、社会との良好な関係を保ちつつ、環境保全への取組を効率的かつ効果的に推進していくことを目的として、事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を認識し、可能な限り定量的(貨幣単位又は物量単位)に測定し伝達する仕組み」です。

具体的には、企業が行ったCO2削減の場合だと、削減できた量やかかったコストなどを金額やグラムで数値化します。

また、環境省が定めた「環境会計ガイドライン」では、以下の3つを記載すべき情報としてあげています。

  • 環境保全コスト
  • 環境保全効果
  • 環境保全対策に伴う経済効果

それぞれの詳細は次で解説します。

環境会計で記載すべき情報

環境会計では、以下の表のように情報を記載する必要があります。

1.環境保全コスト

分類取組内容2021年2022年
温暖化防止コスト二酸化炭素削減15,000,000円20,000,000円
環境保全コスト省エネ機器設備導入11,500,000円10,000,000円

2.環境保全効果コスト

分類単位2021年2022年
電気使用量百kWh1,300,0001,500,000
ガス使用量百㎥11,500,000円10,000,000円

3.環境保全対策に伴う経済効果

分類2021年2022年前年度比増減額
省エネ機器導入によるエネルギー費削減額10,500,000円12,500,000円2,000,000円

さらに、上記の項目に加えて重要な基本事項や、集計結果に関する説明なども必要です。

環境会計を導入する目的

CO2削減など環境保存に関する事業はデータ化しにくく、評価が曖昧になりがちです。こういった、取り組みへのコストや経済効果を数値で表すことで費用対効果がより正確に把握できるようになります。

投資家や消費者などのステークホルダーは、数値化されていることで企業がどれほど環境への取り組みをしているかの指標になります。

環境会計の導入は、直接経営に関わるコストではありませんが、周辺地域への投資や支出により企業価値が上がる可能性があるため、中長期的には、非常に大きなメリットです。

なお、環境会計と類似している「自然資本会計」は、企業の経営を支える資本などを扱い、企業への依存度や影響を評価するツールです。

自然保護という観点では似ていますが、自然資本会計は企業が使用した環境関連全てを金額に換算するという点で異なります。

環境会計の機能

環境会計は主に、内部機能と外部機能に分かれます。それぞれを詳しく解説します。

内部機能

内部機能とは、環境保全コストの管理や効果の分析などで適切な経営判断をし、効率的に環境保全の取り組みを促す機能を指します。

内部機能により、数値化されたコストや費用対効果は、下記の分析に適用できます。

  • 経営陣の経営管理ツール
  • 効果的な環境保全対策
  • 環境保全の与える影響への理解

このように、内部機能は、企業内への影響を与えるツールです。

外部機能

外部機能とは、環境会計における企業が外部へ環境保全への取り組みの結果を開示し、企業外のステークホルダーへの意思決定に影響を及ぼす機能を指します。

外部機能で関係するステークホルダーは以下の通りです。

  • 取引先
  • 投資家
  • 消費者
  • 行政
  • 地域住民など

環境会計の外部機能では、様々な情報上記のステークホルダーに開示します。

例えば、環境会計の情報や、具体的に取り組んでいる環境保全活動、活動に対する姿勢などです。

外部へ情報発信することは、ステークホルダーへの説明責任の役割をになっています。

外部から、企業が環境保全に取り組んでいるという意識による、適切な評価につながることが期待できます。

なお、環境会計の結果は、環境報告書を企業HPや印刷した冊子で公開するのが望ましいです。

環境会計の方法

環境会計の手法は、環境省が作成した「環境会計ガイドライン」に記載されています。ここでは、導入の目的などを解説します。

外部機能環境ガイドラインの目的

環境会計ガイドラインとは、環境会計を実行する際に必要事項を記載した指標です。

その目的は、「環境会計に導入や実践を支援すること」や「ガイドラインを活用して環境会計の手法がより効果的になること」です。

外部機能にもあったように外部への公表は、ガイドラインに沿って作成する必要があります。

また、環境会計の情報ができる限り比較可能な状態にするなど、ステークホルダーに配慮も欠かせません。こういった情報開示の際の留意点などが示されているため、ガイドラインを参考にして作成してみてください。

さらに、企業がこの環境会計ガイドラインを利用して、環境会計の情報整理ができます。その結果、外部公表でわかりやすいデータが作成できるだけでなく、社内での環境マネジメントにあったデータ把握が可能になります。

実際に、多くの企業がこのガイドラインに沿って環境会計を実施し、ステークホルダーへ公開しています。ガイドラインに法的拘束力はないものの、カーボンニュートラルやSDGsへの取り組みなどの意識向上しているので、環境保全活動に注目が集まっています。

そのため、ガイドラインに沿って環境報告を公表する企業がガイドライン公開時よりも、増えてきています。2005年のガイドライン改訂版の発行の際には、トヨタ自動車や大林組といって大手企業が関わっているという例もあります。

この環境会計ガイドラインは環境会計の導入や支援目的で作成されたものです。環境保全お全体的な報告作成時には、環境報告ガイドラインを参考にしてください。

外部機能環境ガイドラインの最新版

環境会計ガイドラインは、2002年に始めて公表された後、最新の2005年改訂版が発行されました。

改訂内容は、非常場企業を含めた環境会計の導入状況や、国内外での研究調査結果、実務上の最新の運用動向などです。

2018年には、環境省が「環境報告ガイドライン及び環境会計ガイドライン改定に向けた論点整理」で次のように改訂すると発表しました。

全てのステークホルダーの情報ニーズに回答できるようにする

中小企業を含めた事業者が幅広く利用できるように内容をコンパクトにする

SDGsやESGに関心をもつ投資家を思慮するなど

今後も、動向に応じて改訂されることが予想されます。

環境会計を導入している企業例

森永製菓

森永製菓は環境会計を導入した企業の1つです。

同社は、「食を通じた社会課題の解決と持続可能な社会の実現」を目指し事業を行っています。

具体的には、以下のような取り組みを行っています。

  • カカオ農家への研修や支援活動
  • 工場でのCO2排出量を2005年度比2020年末までに15%削減
  • 環境負荷を考慮したFSC認証紙を使用したパッケージなど

実際には、環境会計での環境保全効果としてCO2排出量の数値が前年度より上昇しています。

トヨタ自動車

国内最大の自動車メーカーである、トヨタ自動車は2005年度の環境会計ガイドライの改訂に関わるなど環境会計に早くから着手していました。

また、トヨタは独自に「トヨタ環境チャレンジ2050」を掲げ、環境保全活動を推進しています。具体的な取り組みは以下の通りです。

  • 2010年比グローバル新車の平均CO2排出量9割削減
  • 各国の事情に合った水使用量の最小化や排水管理
  • リサイクル技術やシステムのグローバル展開 など

環境会計の報告の数値をみると、電力の減少、都市ガス使用量は横ばいの傾向がみられました。

さらに、生産台数の水使用量の合計も少しずつ減少しています。

このように、環境保全活動への成果が見え始めているので、今後に期待できます。

キリングループ

国内の飲料業界最大手であるキリングループでも環境会計が導入されています。

同社では、独自に「キリングループ環境ビジョン2050」を発表しました。設定した内容は、生物資源や水資源、容器包装、気候変動の4つです。

主な取り組みは以下の通りです。

  • 持続可能な農産物の育成
  • 水資源保全活動や水害のリスク軽減
  • サステナブルな容器包装の開発・普及
  • バリューチェーン全体の温室効果ガスの排出量の実質ゼロ など

このように、キリングループでは、持続可能な社会への実現に向けて環境保全活動に取り組み次世代に良い影響を及すことを目指しています。

環境会計の観点で見ると、過去5年間で水資源の使用量を約12,000千㎥削減に成功しています。また、包装容器の資源使用を約200千t減少させるなどの成果がみられました。

まとめ

環境会計の導入により、CO2をどれだけ削減できたかや資源の有効活用ができたかなど外部からも判断しやすくなります。消費者や投資家たちもESGへの関心を寄せている動きがあるので、外部機能の面でも導入するメリットがあります。環境会計のガイドラインを参考に環境会計を導入してみてください。

著者のプロフィール

福元惇二
福元惇二
タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。