脱炭素経営では、インフレに乗じて進むエネルギー高・材料高に立ち向かっていくことが重要な課題の1つです。
目標原価との差異に異常が見られたら、早期で対処することが、利益を大きく左右していきます。
異常な差異を発見した場合は、どうすべきなのでしょうか。
変動費の異常を見える化で発見する
変動費は売上にかかるコストです。
売上からコストを差し引いた分が、利益として手元に残ります。
変動費が多くなると利益は小さくなり、変動費を少なくすることでより大きな利益が捻出できます。
従って、変動費の異常値には敏感に対応することが欠かせません。
病気と同じで、早期発見が比較的容易な改善策へとつながるのです。
原因分析して対策を練る
通常、変動費の異常は、目標原価との差異から発見することができます。
そのためにはまず、変動費を個別で一目でチェックできるよう見える化しておくことが必要です。
見える化にしておけば、変動費の異常値を早期に発見し、原因分析をして対策を講じることができます。
目標原価と実際原価との差異には、2つのタイプあります。
1つが、目標原価を上回る、会社にとって不利な差異で「不利差異」といいます。
もう1つは、目標原価を下回る、会社にとって有利な差異を表す「有利差異」です。
ちなみに、目標原価は標準となる原価のことを指し、簿記上では標準原価と表記する場合が多いです。
- 不利差異 → 目標原価(標準原価)< 実際原価
- 有利差異 → 目標原価(標準原価) > 実際原価
「不利差異」はコストが予定よりも増えたということで、利益を押し下げる効果があります。
「有利差異」はコストが予定よりも安く済んだことで、利益を押し上げる効果があります。
何らかの失敗の兆候かもしれない
従来の工業簿記の慣習として、不利差異と有利差異を相殺して、数値に残さないケースが見られますが、経営上の戦略としては好ましくありません。
なぜなら、本質的なコストダウンにつながらないからです。
原価差異は、経営上で多くのヒントを与えてくれる重要なデータです。
売上高 - 変動費(コスト)= 利益(付加価値) |
【変動費の例】
- エネルギー費
- 材料費
- 変動労務費
- 外注制作費
- 外注物流費
- 在庫金利
コストそれぞれを項目別に見える化し、異常がないかをチェックします。
不利差異は再発の防止・改善に努め、有利差異からは上手くいった事例を導き出して、コスト管理に活かしていきます。
いずれの場合も、何らかの失敗の兆候かもしれないと慎重に分析することが成功のコツです。
価格差異と数量差異
目標原価と実際原価の差異を比較分析する方法は、「価格差異」から見る方法と「数量差異」からと2つあります。
とくに価格の乱高下が激しいエネルギー費・材料費は、「価格」と「数量」と双方からの入念なチェックがかかせません。
例えば、材料費で不利差異が生じた場合、それが購入価格の値上がりによるものなのか、作業工程の無駄や消費の無駄から生じたものかによって、取るべき対策が大きく変わってくるからです。
価格差異と数量差異のイメージ図
価格差異 = (標準価格 – 実際価格)× 実際消費量 |
数量差異 = (標準消費量 – 実際消費量) × 実際価格 |
「価格差異」とは、実際に仕入れた時の価格と、目標・予定の価格との差異を表す数値のことです。
目標価格(標準価格)から実際の価格との差を消費数で乗じて算定します。
【価格差異の計算例】
(製品の目標価格100円 – 実際価格105円)× 実際消費量550g = -2,750円(不利差異)
「数量差異」とは、実際に仕入れた数と目標・予定していた仕入れ数の差異を表す数値のことです。
目標仕入れ数(標準仕入れ数)と実際の数の差額を実際価格で乗じて算定します。
【数量差異の計算例】
(目的仕入れ数500g – 実際仕入れ数550g)× 目的価格 = -5,000円(不利差異)
以上のように、価格差異と数量差異と分けて計算することで、ネガティブ要因が何だったのか的を絞って見出しやすくなるのです。
エネルギー費や材料費の場合、価格差異で異常値が検出された時は調達部門、数量差異が異常値が見られたら消費・生産部門にて原因を究明します。
価格差異が出たらやるべきこと
変動費(コスト)の価格管理は調達・仕入れ部門の管轄です。
差異に異常が見られた場合は、材料やエネルギーの調達の過程・記録を隅々までチェックしなければなりません。
- 世界的なインフレの影響が適切に予測・対策されていたか
- 円安・円高による仕入れ値の変動に対策が講じてあったか
- 適切な仕入れのタイミングが計られていたか
- 取引先の選定に問題はなかったか
- 目標価格は現実的な数値であったか
など、状況に応じて対策を講じていけます。
数量差異が出たらやるべきこと
変動費(コスト)の数量差異に関しては、消費・生産活動を全過程でチェックする必要があります。
- エネルギーや材料のロスが多いのではないか
- 省エネ、リサイクルは実施しているか
- 装置、機器のメンテナンスや設定は問題ないか
- 在庫が必要以上に増えすぎていないか
- 目標消費数はそもそも現実的な設定だったか
など、考えられる可能性を吟味していけます。
異常を早めに察知して価格高騰と戦おう
エネルギー・材料費は、コストの大半を占めるケースが多いのが特徴です。
それらのコストは地下資源や鉱物資源が多いため、世界情勢の影響を受けやすく、価格が激しく変動します。
そうした中、いくらなら買い時なのか、どこから入手すべきなのか、先を見越した対策が欠かせません。
単価差異への取り組みは、いざという時の価格高騰に備えるだけでなく、見識を広げるきっかけとなり、自身のキャリア育成や独自のコネクションの確保にもつながります。
また、数量差異の改善についても、単に経営上の課題を超えて、資源不足やCO2削減、省エネ、脱炭素などグローバルな環境問題にも貢献できます。
脱炭素経営におけるコスト削減とは非常に意義が深く、そこから企業の信頼性・成長性、個々の能力をアピールしていくことが可能です。
変動費の見える化を徹底して、コスト削減のポイントとなるエネルギー費・材料費の異常にアンテナをしっかり張って戦っていきましょう。
著者のプロフィール
- 太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。
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