1980年代の日本は、半導体、鉄鋼、自動車と製造業で世界トップを走り、リードする存在でした。

現在は一部の自動車メーカーをのぞき、多くの企業がその地位を譲り、日本経済は長い低迷期に入っています。
日本経済が衰退した理由の1つとして、費用管理を目的とした損益決算書が発展しなかったとの指摘があります。

脱炭素経営で成功していくためには、従来のやり方にこだわらない、費用管理を目的としたP/Lの存在が必用不可欠です。

コストダウンと生産性の向上に失敗する理由

従来の損益計算書・P/Lでは、本質的な費用管理が実施しづらい仕様となっていることが、大きな欠点だといわれています。そのことに気付かないまま、やみくもな経費削減は会社を致命的な状況へと追い込みかねません。

費用管理が実施しづらいP/Lの仕様とは、売上原価などの販売管理費や人件費、設備投資費用などがすべて複雑に混ざっている状態のことです。

変動費と固定費は分離しなければならない

P/Lの経費は「売上原価」「販売管理費」「営業外費用」と大きく3つあり、削減すべき変動費と増やすべき固定費とが分離されていないため、適切な判断ができない状況にありました。

「売上原価とは」商品やサービスの仕入れ・製品化にかかった費用のことで、衣類店なら衣類の仕入れ代、ソフトウェア会社なら開発費用などです。
商品が売れた際に売上から引かれるものとして計上します。

「販売管理費」は、販売や管理維持において生じる経費、広告宣伝費や交通費などがあります。
「営業外費用」は、営業・販売以外で定期的にかかる費用のことで、支払い利息や為替差損などです。

ごく最近になって、変動費と固定費を分ける「個変分解」が採用されるようになりましたが、まだ少数派です。

【脱炭素経営に必要な経費と仕訳の例】

業種によって経費の仕訳は異なりますが、上記のように経費には変動費に分類されるものと、固定費に分類されるものがあり、本来はそれぞれにPDCAを回し、対策を講じる必要があるのです。

各費用の使途は大まかに、「変動費 → 極力使わない」「固定費→しっかり使う」費用です。
意図的に会計の詳細を見える化・分離化させないと、経費の総額が分かってもその使い分けを知ることはできません。

「売上高 - 売上原価(変動費・固定費) = 売上総利益」という考え方から、「売上高 - すべての変動費(コスト) = 付加価値」という概念へと切り替えることで、商品やサービスが具体的にどれくらいの利益を生み出しているのかわかります。
「固定費」は、人、物、エネルギー、金融商品など、会社が保有する資産のキャッシュフローとして見ていくことが大切です。

参照:営業外費用/勘定科目用語 – 関東信越税理士会

燃料費・燃料由来の材料費の管理

中でも、とくに脱炭素経営の経費計上において重要となるのが、燃料費や材料費の費用管理です。

日本のCO2削減の目標は、2030年度に46%(50%に挑戦)、2050年度にはカーボンニュートラルで実質ゼロを目指しています。
国の方針に沿ったCO削減目標が、規模・業種を問わず、すべての企業に求められています。

変動費として管理する方法

CO2削減目標を達成するために、積極的に取り組みたい方策が化石燃料や化石燃料由来の素材の使用を減らすことです。
化石燃料とは、CO2排出量が多い順に石炭・石油・ガスとなります。

再エネ電力やFIT電力など、非化石燃料の電力プランが徐々に増えてはいるものの、現状はまだほとんどの電力会社の電源は、化石燃料が主流です。

電力以外でも、冷暖房設備や給湯にも化石燃料が使われていたり、ガソリン車に給油するガソリンも化石燃料です。
経営上で必要となる化石燃料の費用はすべて「削減すべきコスト/変動費」として扱うようにします。

化石燃料から製造されるプラスチック等の素材にかかる材料費も「削減すべきコスト/変動費」です。

化石燃料費、プラスチック材料費の目標は最終的にゼロを目指します。
化石燃料関連の費用ゼロが自社におけるCO2排出量ゼロへとダイレクトにつながっていくのです。

一方で、再生エネルギー設備の導入や再エネ電力の利用、リサイクル素材の活用などは、脱炭素経営上で「使うべき資金/固定費」と捉えることで、円滑に将来性が高い費用管理が実現できます。

エネルギー生産性の向上、再エネ比率の向上を目的とする「使うべき資金/固定費」と「減らすべきコスト/変動費」を混同しないように注意しましょう。

参照:変動費と固定費は何が違う? – 中小企業経営サポート

原材料費が管理できるP/Lを作る

最後にもう1つ、脱炭素経営を契機に、化石燃料やプラスチック素材などと合わせてしっかり管理していきたいのが、鉱物や生物資源を素材とする原材料費です。

鉱物資源や生物資源は、生産できる地域や国が限定されることに加え、今後は枯渇くしていく資源だといわれています。

鉱物や生物資源は、近年のインフレで価格が高騰するなど、地政学の影響を強く受ける傾向にあります。
万が一の価格の乱高下に備えておきたいものです。

原材料費の動きが早期でキャッチできるような、新しいタイプのP/Lの作成が脱炭素時代の経営を成功させていくに違いありません。

著者のプロフィール

Takasugi
Takasugi
太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。