新しい時代への競争力を高めるために、見直しておきたいことの1つが在庫に対する考え方です。景気が悪化すると、商品が売れなくなるため在庫が積み上がっていきます。反対に、好景気の時には商品が売れるため、在庫は減少し時には足りなくなることもあります。在庫数はある意味、その商品の売れ行き具合を表す数値であり、極力ゼロの状態が良いとされてきました。本当にそうなのでしょうか。

在庫ゼロは必ずしも正しいとはいえない

国内の製造業、小売り・物流業者の間ではJIT(ジット)と呼ばれる在庫管理・生産管理法が主流になっています。JITは、「Just In Time/ジャスト・イン・タイム」の略語で、「必要なものを、必要な時に必要な数だけ」「ちょうど間に合う」「ぴったり」などの意味を表す言葉です。

どのような管理方法かというと、常に必要な分だけを製造・調達・確保しておくことで、在庫ゼロを維持する方法となります。つまり、つねに在庫ゼロを目指す管理方法です。

「不景気  → 商品が売れない → その商品に魅力がない → 在庫が貯まる」

基本的に在庫数が多いことは、不景気や商品の不人気をイメージさせます。何よりも保管のコストがかかり、元がとれない状態です。JITの起源はTOYOTAが生産効率を高めるために採用し、いつしか「在庫ゼロ」が理想的な管理方法だとの考え方が広まったのです。在庫が多すぎるよりは、少ない方がコストの抑制につながり、確かに会社にとっては理想的かもしれません。しかし、必ずしも在庫ゼロが正しいとはいえない部分もあるのです。

在庫ゼロを目指す理由とは

在庫ゼロを目指す理由は、本来は「ムダを取り除き、時間効率を上げて、付加価値を高める」ことにあります。徹底して無駄を取り除くことで、生産効率・作業効率は飛躍的に高まるというのがJITの考え方です。ムダが積み重なると、ムダがムダを呼び、経営自体を圧迫しかねないと、多くの企業にて在庫ゼロが支持されてきました。

参照:トヨタ生産方式 – TOYOTA

在庫ゼロの危険性とは

しかし、コロナウイルスによるロックダウン解除から経済が回復し始めた時に、これまでとは違った在庫管理の考え方が見られるようになりました。というのも、景気は好転しているもののサプライチェーンにおけるロックダウンの影響は完全に再起したわけではなかったからです。加えて、ロシアとウクライナ問題から、エネルギー資源・鉱物資源を主とする原材料関連の入手が難しくなってきたこともあり、必要な時に調達できないケースが増えてきたのです。

在庫ゼロでは、「次の生産・受注に間に合わないかもしれない」「いつ入手できるかわからない」「もっと価格が高騰するかもしれない」などの危険性があるわけです。また、もともとエネルギー資源・鉱物資源などは、そもそも地球上で採掘できる量に限りがあり、数十年後には枯渇するかもしれない資源でもあります。「今のうちに必要以上に在庫を蓄えておきたい」と考える企業が増えているとのことです。

参照:ジャスト・イン・タイムと在庫削減が悪となる時代

在庫を持つメリット・デメリット

不安定なサプライチェーンや資源そのものの諸事情を考えた時に、在庫状況は、ゼロであるよりも一定以上確保できていることが、企業の強みとなる場合があります。例えば、ネット小売り大手のAmazonは、地区ごとに倉庫を完備し、いつでも配送できるよう十分な在庫を揃えていることで定評があります。Primeメンバーなら、最短でその日の夜、あるいは翌日に受け取れるのが普通です。

ただし、無分別にとにかく在庫を満杯にしておけばよいというわけでもありません。そこには、やはりニーズがあるものとそうでないものが存在し、時期によってニーズも変わってきます。Amazonの場合は、AI解析に巨額の費用を投じていることで有名です。その時々で、売れ筋・高ニーズの商品をピックアップし、予想される注文量に応じて在庫を揃えています。

では、ここで在庫を抱える場合のメリットとデメリット・リスクを確認しておきましょう。

在庫を持つメリット

在庫を持つ一番のメリットは、最短での商品提供が実現できる点にあります。余程、オーダーメイド商品でない限り、入荷まで待つケースは稀で、在庫なければ他を探すのが一般的です。機会損失を避けるためにも、一定数の在庫を持つのは決して悪いことではないのです。

もう1つのメリットは、大量注文でまとめて仕入れができるため、仕入れコストの減少につながる点にあります。通常、10個単位~100個単位、1,000個単位と1ロットあたりの個数が増えるごとに単価は安くなる仕組みになっています。同時に、仕入れ回数の減少にて運搬費の削減にもつながるのです。

在庫を持つデメリット・リスク

在庫を持つうえで、一番注意しなければならないデメリットは廃棄リスクが高まる点にあります。野菜や果物、生花などの生鮮品は長期保存が不可能で、その他飲食関連の商品でも賞味期限がある場合が多くなります。限られた期間しか保管できないのです。

賞味期限がない場合でも、保管期間が長期になりすぎると商品のニーズが低下するリスクがあります。季節が変わったためニーズがなくなったり、モデルチェンジでその商品の魅力が低減したりと、値下げしないと売れないリスクが高まります。

在庫の最適化を図ることが大切

在庫ゼロは、あくまでも商品を提供する側の、コスト面から見た理想とされる考え方です。それが間違っているとは言えませんが、顧客・相手目線での管理方法ではありません。まったく同じ商品が同じ価格で、配送予定日のみ異なるとなった場合、配送が早い方を選ぶのが顧客側の心理です。

これからの時代は、保管費や在庫金利、廃棄損のリスクを考慮しながら、より的確に顧客ニーズの分析を進めていくことが欠かせません。ニーズごとに十分な量を確保した在庫の最適化が、企業の競争力を高めていくと言えるでしょう。

著者のプロフィール

Takasugi
Takasugi
太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。