ダイナミックプライシング(DP)による電動車充電シフト実証事業は、電気自動車の充電に関する行動を分析を通じて、電力需要の安定化させる方法を探ります。DPメニューと呼ばれる電力需要・供給に相関して電気料金が変動するプランを提供する事業者に対して、最大3,000万円の補助金を提供します。
今回の記事では事業の概要のほか、事業によるメリットも解説します。事業への理解を通じて、電気自動車を賢く利用できる方法を理解しましょう。
2026年も利用できますので必見です。
令和4年度ダイナミックプライシングによる電動車充電シフト実証事業
ダイナミックプライシングによる電動車充電シフト実証事業の概要を理解しましょう。理解に欠かせない以下の項目を解説します。
- 事業の背景と目的
- 実証事業の主な内容と参加条件
- 月ごとの電力料金変動と充電シフトの効果
- 参加者に提供されるサービスとアプリ活用法
- 実証事業の期間と評価方法
- 実証事業に協力する企業と技術
事業の背景と目的:エネルギー需要と電力網の安定化
ダイナミックプライシングによる電動車充電シフト実証事業の目的は、電力需給の安定化と再生可能エネルギーの効率的な活用です。最近は電力系統に直接つなげる分散型エネルギーリソース(DER)の活用が増え、需要ピーク時のデマンドリスポンスへの応用が進展しています。デマンドリスポンスとは、供給状況に応じて電力の消費方法を変更することです。
参照:ディマンド・リスポンス(DR)について|資源エネルギー庁
エネルギーを効率的に活用するためには昼夜における電力価格の差を考慮し、電動車の充電時間を調整することが必要があります。事業は再エネ電気の最大限の利用と、安定かつ効率的な電力システムの構築、再生可能エネルギーの普及拡大を目指しています。目標達成に向けて、電動車の充電時間のシフトが実施されているのです。
参照:令和4年度 蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した 次世代技術構築実証事業費補助金 (ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業) 公募要領 p.6
実証事業の主な内容と参加条件
実証事業には「DP(ダイナミックプライシング)提供事業」と「充放電設備導入事業」の2種類があります。DP提供事業とは、小売電気事業者がDPメニューを提供し、電動車の充電行動のデータを取得・分析する事業のことです。DPメニューは、DPを反映した電力を取引する際に使う料金メニューを意味します。
DP提供事業の参加条件に関しては、以下の表を確認してください。
項目 | 詳細 |
補助対象事業 | 以下4点をすべて満たすこと 実証参加者が充電シフト実証を実施アンケートを実施し、回答結果を提出可能必要なデータの取得及び提出が可能成果報告書を2023年3月上旬までにSIIに提出可能 |
実証参加者の条件 | 充電シフト実証の期間が30日間以上、DPメニュー適用期間が15日間以上充電シフト実証の期間のうちDPメニュー適用期間が10日間以上 |
補助対象事業者 | 以下6点をすべて満たすもの 日本国内で事業活動を営む法人小売電気事業者単独、またはコンソーシアムに所属する事業者確実に事業を遂行できる経営基盤を持つ者提出されるデータの提供に同意できる者補助事業の進捗及び成果について報告できる者経済産業省からの補助金等の停止措置がない者 |
参照:令和4年度 蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した 次世代技術構築実証事業費補助金 (ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業) 公募要領 p.9, 13~14, 16, 18
充放電設備導入事業とは電気自動車の電気を住宅に転用できるV2H充放電設備を新規導入し、基礎充電設備としてDP提供事業に参加する事業のことです。基礎充電設備とは、自宅など自動車を保管する場所で充電ができる設備のことを指します。
以下の表に、充放電設備導入事業の参加条件を記載しています。
項目 | 詳細 |
対象外例 | 以下のいずれかを満たす場合 DP提供事業の要件を満たさない場合補助対象となる期間を満たさない場合アンケート回答やデータ提供に不備がある場合充放電設備のデータが分析に活用されない場合補助対象設備の利用がない場合補助事業の完了期限までに完了しない場合 |
補助対象事業者 | 以下の8点をすべて満たすもの 日本国内で活動する法人・個人事業主、または住居がある個人V2H充放電設備の所有者確実に事業を遂行できる経営基盤を持つ者DP提供事業に参加し、電気料金メニューに同意する者各種手続きについて申請代行者を通じて行うことに同意する者提出されるデータに関する同意が得られる者報告に対応できる者経済産業省からの補助金等の停止措置がない者 |
実証参加者の条件 | 充電シフト実証の期間が30日間以上、DPメニュー適用期間が15日間以上(特定の事業者の場合)上記以外の場合、DPメニュー適用期間が10日間以上 |
参照:令和4年度 蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した 次世代技術構築実証事業費補助金 (ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業) 公募要領 p.32~33
月ごとの電力料金変動と充電シフトの効果
ダイナミックプライシングによる電動車充電シフト実証事業は、電力料金の変動と電動車の充電行動との関連を分析します。小売電気事業者はDPメニューを提供し、参加者はDPメニューに基づいて電動車の充電を行います。
電力料金が市場の動向(JEPX価格)に連動して変動するため、参加者は電力料金の高低に応じて充電行動を調整することが期待されています。DPメニューは、30分ごとに変動する単価と180分毎に変動する単価の2つです。参加者の充電行動への影響を比較分析することで、電力需給の最適化と参加者の電力コスト削減を図ることが狙いです。
事業への参加条件として、参加者には定められた期間中に電動車と基礎充電設備からデータを取得することが求められます。指定の期間中は小売電気事業者に提供されたDPメニューを使用しなければなりません。DPメニューはダイナミックプライシングを反映した電力取引の料金体系で、JEPX価格に基づき30分毎または180分毎に電力料金が変動します。
事業を通じて電動車の充電行動に及ぼす電力料金の変動が与える影響を分析し、電力市場の効率化と消費者の利益の最大化を目指します。
参照:令和4年度 ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業 成果報告 【アークエルテクノロジーズ株式会社】 p.2
参加者に提供されるサービスとアプリ活用法
ダイナミックプライシングによる電動車充電シフト実証事業では、参加者に特別設計されたアプリが提供されます。アプリにはメール送受信や充電行動支援、ダイナミックプライシングの通知機能が備わっています。
参加者はLINEアプリやウェブページを通じて、以下のような情報を受けることが可能です。いずれの情報も、充電費用を抑えるために知らなければならないものばかりです。
- 前日の充電実績
- 翌日の最安値時間帯
- 推奨充電・放電時間帯
- 2~3日後の電気料金予想
さらに、アプリは充放電ステータスやSOC(電池の充電状態)、充放電の予定時間を表示し、自動制御のON・OFFや充放電の停止充電率の指定も可能です。アプリを活用することで、参加者は電力市場の価格変動に合わせて充電行動を効率的に調整し、最適な充放電戦略を実行できます。
サービスやアプリを通じて、参加者の電力利用の効率化とコスト削減に貢献することを目指しています。
参照:
令和4年度 蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した 次世代技術構築実証事業費補助金 (ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業) 公募要領 p.14, 25
令和4年度 ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業 成果報告 【アークエルテクノロジーズ株式会社】 p.2, 12~14
実証事業の期間と評価方法
実証事業の期間は最低30日間で、30日間のうち最低15日間以上はDPメニューを適用する必要があります。評価方法は、アンケート等で得られたデータを基にして行われる分析です。分析対象となる項目は、以下のとおりです。
必須の分析
- 実証参加者の属性と充電行動の相関
- DPが充電行動に与える影響
- 実証参加者の経済性
- 小売メニューの採算性
- 課題抽出と解決の方向性の整理
- 今後の展望
任意の分析
- 小売電気事業者と需要家間で適切にリスクを分散するメニューの在り方
- 太陽光発電設備等、他の設備における消費、蓄電、放電、発電
- 電力との関係
- 基礎充電設備以外の外部充電設備へのDP適用による効果
- その他、独自の分析
参照:令和4年度 蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した 次世代技術構築実証事業費補助金 (ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業) 公募要領 p.16~17
実証事業に協力する企業と技術
実証事業に協力した企業は、以下の12社です。
- 株式会社メディオテック
- MCリテールエナジー株式会社
- 五島市民電力株式会社
- SBエナジー株式会社
- シェルジャパン株式会社
- REXEV株式会社
- 三菱自動車工業株式会社
- 三菱オートリース株式会社
- 日産自動車株式会社
- 三菱商事株式会社
- アークエルテクノロジーズ株式会社
- エコワークス株式会社
参照:令和4年度 蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業費補助金 (ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業) 採択結果について
上記の1社「アークエルテクノロジーズ株式会社」は、コンソーシアムリーダー兼小売電気事業者として、積極的に事業に取り組みました。以下の役割を担っていたことからも、高い技術力を持っていることが理解できます。同社の詳しい取り組みについては、こちらのPDFから確認してください。
- 実証参加者の募集・管理
- 電力メニューの提供
- 最適充(放)電時間等の通知・自動制御開発
- データ取得のための機器開発・設置
- データ蓄積のシステム開発・メンテナンス
- データ分析
参照:令和4年度 ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業 成果報告 【アークエルテクノロジーズ株式会社】 p.4
エネルギー需要の変化とダイナミックプライシングの普及に伴う社会的影響
ダイナミックプライシングによる電動車充電シフト実証事業は、社会にさまざまな影響を及ぼすと考えられています。以下では、事業実施に期待される影響を解説します。
電気自動車市場の拡大と再生可能エネルギーの利用促進
事業により電気自動車(EV)市場が拡大し、最終的には再生可能エネルギーの利用も促進されるでしょう。EVの普及に伴い、再生可能エネルギーからの電力需要が増加し、化石燃料に依存するエネルギー源から脱却しようとする動きが活発化すると考えられます。エネルギー産業の持続可能性が向上し、環境への影響も減少します。
ダイナミックプライシングがもたらす経済効果と環境負荷の軽減
ダイナミックプライシングの導入は電力市場の効率化を促進し、経済効果と環境負荷の軽減に貢献します。電力のピーク需要時の価格を上昇させることにより、消費者の電力使用パターンが変化して電力供給の安定化とコスト削減が実現されます。
電力供給事業者と電気自動車メーカーの協力関係の発展
事業を通じてEVの普及拡大が進むと、電力供給事業者と電気自動車メーカー間の協力関係はより強力なものとなります。連携により電気自動車の充電インフラが拡充され、消費者にとってEVはより利便性の高いものとなるでしょう。電力供給事業者と電気自動車メーカーが協力することは、エネルギー管理の効率化と技術革新を促進するのです。
今後の法制度・ポリシー変更の検討事項
事業を行うにつれて、ダイナミックプライシングは普及し、エネルギーの需要は変化するでしょう。変化に対応するために、法制度やポリシーの変更が必要になるかもしれません。例えば、消費者を保護するための規制の見直しや価格変動における透明性の確保、エネルギー効率の高い技術や再生可能エネルギーへの投資を促進するための対応策などです。
エネルギー市場の公平性を保ちつつ、電気自動車や再生可能エネルギーの普及も可能にする法律やポリシーを考える必要があります。
電力需要家の行動変容とエネルギーリテラシーの向上
ダイナミックプライシング(DP)メニューの導入により、消費者の行動に変化が見られると考えられます。例えば、電気自動車を充電する際、価格が低く再生可能エネルギー比率が高い時間帯に電力を利用する消費者が増加するでしょう。消費者は、コスト削減と環境に優しい選択が取れるようになるのです。
また、充放電設備の自動制御アルゴリズムの高度化により、消費者は充電と放電をより効率的に行えるようになります。実際、深夜帯の利用に関しては実証事業への参加者から高評価を得ていることも明らかになっています。事業は電気自動車を利用する消費者のエネルギーリテラシーの向上と電力利用の効率化を促し、エネルギー需要の最適化に貢献するでしょう。
参照:令和4年度 ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業 成果報告 【アークエルテクノロジーズ株式会社】 p.44
充電インフラ整備の課題と今後の取り組み
事業を通じて電気自動車(EV)の利用者が増えると、充電インフラの拡充は必要不可欠な課題となります。インフラ整備には、充電設備の効果的な配置や電力供給の能力が必要です。また、充電システムと配電網の統合に向けた技術開発も重要な取り組みとなります。
EVの利用者が増えることにより、充電インフラを増設しなければなりません。増設に向けて、充電インフラに関する技術開発も必要になるでしょう。
参照:令和4年度委託成果報告書 ダイナミックプライシングによる電動車の 充電シフトに関する電力系統への 影響等の分析調査事業 【公開版】 p.38
よくある質問
ダイナミックプライシングによる電動車充電シフト実証事業に関するよくある質問に回答します。
電気代のダイナミックプライシングとは?
電気代のダイナミックプライシングとは、電力の需要・供給の状況に関係がある指標を基にして一定の時間ごとに変動する電気料金価格のことです。一般社団法人日本卸電力取引所(JEPX)の価格などが該当します。
参照:令和4年度 蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した 次世代技術構築実証事業費補助金 (ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業) 公募要領 p.6
まとめ
ダイナミックプライシングによる電動車充電シフト実証事業は、電力需給の安定化と再生可能エネルギーの効率的な活用を実現させるためのものです。電気自動車の所有者がダイナミックプライシングメニュー(DPメニュー)を実際に利用し、深夜帯の充電は評判がよいことなどがわかりました。
事業を通じて、環境に優しい再生可能エネルギーで発電された電気が広く利用されることになります。再生可能エネルギーは化石燃料とは異なり、使用時にCO2をほとんど排出しないため地球温暖化対策として非常に効果的です。DPメニューを利用し、脱炭素化の取り組みを広げていきましょう。
ダイナミック プライシングによる電動車の充電シフト実証事業に関する重要用語
項目 | 説明 |
ダイナミックプライシング(略称:DP) | 一般社団法人日本卸電力取引所(JEPX)の価格など、電力の需要や供給に相関する指標を基にして時間や期間ごとに変動させる電気料金価格のこと。 |
DPメニュー | DPを反映した電力を取引する際に使う料金メニュー。 |
DP提供事業 | 小売電気事業者がDPメニューを提供し、電動車の充電行動のデータを取得・分析する事業のこと。 |
充放電設備導入事業 | 電気自動車の電気を住宅に転用できるV2H充放電設備を新規導入し、基礎充電設備としてDP提供事業に参加する事業のこと。 |
著者のプロフィール
- 小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。