日本では、2050年に排出するCO2を実質0にする「カーボンニュートラルの実現」を政府が強く宣言しています。
カーボンニュートラルの実現は、理想として宣言されただけではなく、法律に明記された事柄になっています。
つまり、カーボンニュートラルの実現は、高い理想を持つ人だけが目指し取り組むものではなく、国内で事業活動を行うすべての人に求められるミッションなのです。
本記事では、カーボンニュートラルに関する法律や国の政策について、わかりやすく解説していきます。
カーボンニュートラルに関する法律について
カーボンニュートラルの実現が明記された法律は、地球温暖化対策推進法、通称「温対法」と呼ばれる法律です。
温対法は、平成9年に京都で開催された「気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」での京都議定書の採択を受け、我が国の地球温暖化対策の第一歩として、国、地方公共団体、事業者、国民が一体となって地球温暖化対策に取り組むための枠組みとして平成10年に制定されました。
温対法はこれまで、時代の流れや地球環境の変化に合わせていくつかの改正がされました。
2020年秋に政府から宣言された「2050年カーボンニュートラル宣言」を受けて、翌2021年にこれまで以上に大幅な改正が行われました。
温対方改正により、脱炭素に取り組まない事業者はどうなるか?
温対法は制定された当初、政府における基本方針の策定、地方自治体における実行計画の策定などが主な制度の内容でした。
ですが、政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受け、実現に向けた具体的な方策として、地域の再エネを活用した脱炭素化の取り組みや、企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化を推進する仕組み等も盛り込んだ大きな法改正が行われました。
この改正により、国内では以下のような変化が起きていくと考えられます。
・地球温暖化対策に関する方向性が法律上に明記されることで「国の政策の継続性・予見可能性」が高まり、脱炭素に向けた取り組みや投資が促進され、イノベーションが加速する
・地域の脱炭素化を目指す市町村が増え、地域課題の解決に貢献する脱炭素事業については、市町村の積極的な関与・支援の下で取り組みが活発化する
・ESG投資にもつながる企業の排出量情報がオープンデータ化され、開示請求を不要とし速やかに公表できるようにすることで、企業の排出量情報がより広く活用されやすくなる
これにより、脱炭素経営に積極的な事業者には大きな追い風となりますが、一方で脱炭素経営に消極的な事業者は、事業活動がますます厳しくなっていくことが予想されます。
改正の背景となった2050年カーボンニュートラル宣言とは?
温対法改正の背景となった2050年カーボンニュートラル宣言とは、2020年10月に日本政府が世界に向けて発表した「日本の環境政策の基本理念」です。
その内容は「2050年までにCO2の排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指す」という思い切った内容でした。
2050年までのカーボンニュートラルは、当然並大抵の努力では実現できず、エネルギーや産業の構造転換、大胆な投資によるイノベーションの創出といった取り組みを、大きく加速することが必要となり、様々な政策や指針が打ち出されました。
その中でも特に重要なものに「グリーン成長戦略」と「地域脱炭素ロードマップ」があります。
グリーン成長戦略の目標設定とは
グリーン成長戦略とは、CO2排出がない、または実質0を実現できる「グリーンエネルギー」を積極的に導入・拡大することで、環境を保護しながら産業構造を変革し、「経済と環境の好循環」を作っていくことを目指す国の産業政策です。
特に今後成長が期待される「14分野の産業」に対しては、高い目標が設定され、あらゆる政策を総動員すると明言されています。
重点項目になっている14分野は、国内におけるCO2排出量の大部分を占めており、また国際的な競争が激しい分野です。
そのため、2050年に目標を達成した際には、カーボンニュートラルの実現だけでなく、経済効果は約290兆円、雇用効果は約1,800万人と試算されています。
14分野は大きく分けるとエネルギー関連産業、輸送・製造関連産業、家庭・オフィス関連産業の3分野に分かれており、詳細は以下の通りです。
■エネルギー関連産業
1.洋上風力・太陽光・地熱
2.水素・燃料アンモニア
3.次世代熱エネルギー
4.原子力
■輸送・製造関連産業
5.自動車・蓄電池
6.半導体・情報通信
7.船舶
8.物流・人流・土木インフラ
9.食料・農林水産業
10.航空機
11.カーボンリサイクル・マテリアル
■家庭・住宅産業
12.住宅・建築物・次世代電力マネジメント
13.資源循環関連
14.ライフスタイル関連
上記14分野には、イノベーションを促すための莫大な予算や税制優遇が設けられることが決まっており、また脱炭素に向けた様々な規制改革も進むと予想されます。
それだけ大胆な後押しがなければ実現できない高い目標が各分野には設定されており、日本企業の脱炭素経営は待ったなしの状況になったといえます。
地域脱炭素ロードマップを実現させるために
地域脱炭素ロードマップとは、地方から脱炭素を進めていくために、政策を総動員し、人材・技術・情報・資金を積極支援することで、2030年度までに少なくとも100か所の「脱炭素先行地域」をつくり、全国で太陽光発電や省エネ住宅、電気自動車の普及などの重点対策を実行していくことを目指す施策です。
国は全国で取り組んでいく「脱炭素の基盤となる重点対策」を以下の8つに整理しています。
「脱炭素の基盤となる重点対策」
- 屋根置きなど自家消費型の太陽光発電
- 地域共生・地域裨益型再エネの立地
- 公共施設など業務ビル等における徹底した省エネと再エネ電気調達と更新や改修時のZEB化誘導
- 住宅・建築物の省エネ性能等の向上
- ゼロカーボン・ドライブ(再エネ電気×EV/PHEV/FCV)
- 資源循環の高度化を通じた循環経済への移行
- コンパクト・プラス・ネットワーク等による脱炭素型まちづくり
- 食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立
このロードマップを実現するために、国は3つの基盤的施策(①継続的・包括的支援、②ライフスタイルイノベーション、③制度改革)を掲げています。
「地方自治体・地域の中小企業・金融機関」が主体的に脱炭素に参画できるよう資金や人材の投下、新たな制度や枠組みの整備など、協力に後押しを行っていきます。
脱炭素経営の推進にむけた取り組み
最後に法律ではありませんが、脱炭素経営の推進に向けた世界的な取り組みをいくつかご紹介します。
企業が気候変動に対応した経営戦略を開示する取り組みや、脱炭素に向けた目標設定の開示する取り組みなど、世界中で脱炭素に向けた取り組みが広がっています。
RE100
Renewable Energy100の略称で、企業が事業活動に必要な電力の全て(100%)を再生可能エネルギーで賄うことを目指す取り組みです。
世界で348社が参画しており、そのうち日本企業は63社参画しています。(アメリカに次ぐ第2位の参画数)
TCFD
Taskforce on Climate related Financial Disclosureの略称で、企業の気候変動への取組、影響に関する情報を開示する取り組みです。
企業がどれだけ環境に配慮した活動や投資をおこなっているかを開示させることで、企業が意識的に環境問題に取り組むようになることです。
SBT
Science Based Targetsの略称で、企業の科学的な中長期目標設定を促す取り組みです。
SBTの認定を受けるためには、5〜10年先を⽬標として企業が温室効果ガス排出削減⽬標を具体的に設定し開示する必要があリます。
まとめ
ここまで「2050年のカーボンニュートラル実現に向けた法改正とさまざまな国の政策」についてご紹介してきました。
脱炭素に向けた取り組みは、一体となって取り組むべき課題であり、どの事業者にとっても「自分たちには関係ない」ではすまない状況になっています。
2050年に向けて、今からできることを始めてみることが、脱炭素経営に向けた第一歩になります。
著者のプロフィール
- タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。