脱炭素経営の実施にあたって、省エネに取り組んだり、再生可能エネルギーを導入したりするわけですが、企業それぞれ実施可能な方法や導入ペースも様々です。CO2排出の削減目標の達成には時間もかかり、限界を感じる企業も少なくないようです。そこで、どうしても削減できない自社のCO2排出量をクレジットで相殺する方法があります。
クレジットの種類と仕組み
脱炭素で使えるクレジットとは、どのような仕組みになっていて、どんな種類があるのでしょうか。CO2削減に使えるクレジットの種類や仕組みを解説していきます。CO2削減量と同等の価値を持つクレジットは、発行体の違いから大きく2種類に分類できます。予算や状況に合わせて、使いやすいクレジットを臨機応変に活用していけるのがクレジットのメリットです。
CO2排出量が削減できる仕組み
CO2削減に使われるクレジットは、カーボンクレジットとも呼ばれている制度のことです。国・企業・自治体、団体や個人が、森林保全や植林、再生可能エネルギーなどによって削減したCO2排出量をクレジット(数値)で売買できる仕組みになっています。
販売する側は、CO2排出量が十分に削減できているため、余剰の削減量を数値にして販売します。購入する側は他者が削減したCO2排出量の数値を購入して、削減できなかったCO2の埋め合わせに使います。販売する側は、クレジット売ることで利益が得られ、購入する側は削減量を得ることで、目標達成につながるのです。
クレジットでCO2を削減 = カーボンオフセット
CO2削減にクレジットを使うことをカーボンオフセットといい、カーボンニュートラルの代表的な取り組みの1つです。もともとは米国や英国の自然保護・植林活動の一環として開始され、1997年の京都議定書(パリ協定の前身)にて、新興国と先進国の経済格差・CO2排出量のバランスをとるために採択された制度です。再エネ証書やグリーン証書、非化石証明書などもクレジットと同じような仕組みで、CO2削減に活用することができます。
参照:京都メカニズム クレジット取得事業の概要について – 環境省
関連記事はこちら:カーボンニュートラルとカーボンオフセットの違いとは?
政府・自治体が発行するクレジット
まず、よく知られているのが政府・自治体が発行するクレジットです。環境省、経済産業省、農林水産省が運営するJ-クレジットや東京都の排出量取引制度、神戸市のこうべCO2バンク、中部地方の中部カーボン・オフセット推進ネットワークなど日本全国様々なタイプのクレジット制度があります。また、政府主導の国連や海外のクレジット制度も活用することができます。
民間企業・プロジェクトが発行するクレジット
民間の企業や、団体においても、森林・林業、農業関連の業者を中心に森林由来のカーボンクレジットが発行されています。森林が吸収するCO2排出量がクレジットされるタイプです。他にも、再エネの活用にて製造された商品・イベントや会議などで削減されたCO2がクレジットされたりと、多彩な種類のクレジットが売買されています。
Jクレジットの概要と種類
国内で最も規模が大きいクレジット制度は、国が運営しているJ-クレジットです。J-クレジットは、信頼性が高い認証制度によりクレジット化されていますので、販売する側も購入する側も初めての利用でも安心できるでしょう。
J-VERと国内クレジット
J-クレジットは、2008年に創設された「J-VER」と呼ばれる認証制度から発展しました。「J‐VER」とは、Verified Emission Reductionを略したもので、脱炭素活動によるCO2の削減量や森林保全が果たすCO2吸収量を適切なモニタリングを行い、環境省の認証委員会が検証・算出します。
2013年までは、この「J-VER」を基盤に全国各地で様々なタイプのクレジットが創出され、国内クレジットと称されていました。2013年以降に、認証とクレジット取引を総合的に行うJ-クレジットが創設されました。現時点で、J-クレジットに登録されているプロジェクトは1010件、CO2削減量は895万トンです。
参照:オフセット・クレジット(J-VER)制度フロー図 – 環境省
4種類のJクレジット
J-クレジットの登録、売買は公式サイトまたは仲介事業者を介して行うことができます。認証されたクレジットは一覧表に掲載され、モニタリング報告書と検証報告書などプロジェクトの詳細が確認できるようになっています。クレジットの活用事例も画像や資料を見ながら参照にすることができます。
J-クレジットの種類は大きく4つのタイプに分けられています。
- 再生可能エネルギー由来(熱・電力)
- 省エネルギー由来
- 森林吸収由来
- 工業・農業・廃棄物由来
再生可能エネルギー由来とは、太陽光・風力・水力などの再生可能エネルギーで削減したCO2排出量のクレジットです省。省エネルギー由来は、ボイラーや照明設備・省エネ設備などの導入によるクレジット、森林由来は森林経営や植林によって削減されたCO2を指しています。工業・農業・廃棄物由来とは、生産・製造の過程で削減されたCO2やバイオ炭や家畜排せつ物のエネルギーなどに基づいたクレジットとなります。
ほぼすべてのクレジットが温対法に対応できますが、種類によっては、CDP、SBT、RE100などの特定の機関に対して算出可能な場合と算出できない場合とあります。それぞれの状況・要望に応じて適切なクレジットを購入計画が大切です。
東京証券取引所で売買できるようになる
国内では、国連や政府・自治体が発行するクレジット、民間企業や団体が発行するクレジットと、いくつか種類がある中、それぞれ取り扱う機関が異なり、登録や認証に手間がかかるなど容易に取引できないことが課題となっていました。ようやく2023年10月から、東京証券取引所にてカーボンクレジット市場に上場するクレジットを、自由に売買することが可能となります。
市場参加にあたっては、各種書類の提出など事前登録が必要とはなるものの、より手軽なクレジットの活用にて企業の脱炭素計画に活用しやすくなるでしょう。
著者のプロフィール
- 太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。
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