地球温暖化、深刻化する気候変動への解決に向けて、今、世界中がカーボンニュートラルへと舵をとっています。「2050年までに世界全体のCO2排出量をゼロにする」)というパリ協定の目標をゴールに、日本でも大手企業を筆頭に脱炭素への取り組みが具体化する中、とくに製造業におけるCO2削減の推進が強まってきています。
というのも、CO2排出の大半が産業・工業などの製造業から生じているからです。製造に関わる中小企業でも、もう他人ごとではないと対策を講じる時期がきています。では、どのような具体策があるのでしょうか。今回は、カーボンニュートラルへの製造業界の取り組み事例をご紹介していきます。ぜひ、今後の対策に向けて参考にしてみて下さい。
製造業におけるCO2排出とは?
カーボンニュートラルの実現にあたっては、まず、電力や産業・工業から生じるCO2(温室効果ガス、以下:CO2)をいかに削減するかがキーポイントだといわれています。製造業における、CO2削減の必要性を改めて確認するためにも、まずは業種・分野など部門別のCO2排出量をデータで見ておきたいと思います。
日本国内の部門別CO2排出量
JCCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター)の調査によると、直接的なCO2排出量では40%以上をエネルギー部門、次いで産業部門が25%、運輸部門や約17%の比率です。間接的なCO2排出量では、1位が産業部門35%、次いで運輸17%、業務その他が17%となっています。
全体的に製造業がCO2排出量で占める割合は高く、ここ数年はとくに製造業におけるカーボンニュートラルへの取り組みが注目されています。直接排出量とは、石油精製や発電事業など直接エネルギーの製造にともなうCO2排出量のことです。熱配分前排出量ともいいます。間接排出量とは、熱配分後排出量とも呼ばれるもので、最終的に消費される段階で部門分けしたものです。
参照:熱配分前排出量・熱配分後排出量とは – 国立環境研究所
世界のセクター別CO2排出量
Global CO2 emissions by sector, 2019 – 2022
電力や製造業におけるCO2排出量が多いのは、国内だけの現象ではなく、世界全体で見ても高い比重を占めているのです。IEA(International Energy Agency)が2019年~2022年に行った、セクター別世界のCO2排出量の調査では、Power(電力・発電)がトップで14Gt(ギガトン)、Industry(産業)と輸送機(Transport)が続いて上位で報告されています。
参照:CO2 emissions in 2022 – IEA
中小企業でもCO2削減が求められる時代に!
製造業におけるCO2削減は、気候変動が深刻化する近年においては、もはや義務となりつつあります。パリ協定以前から、グローバルに展開する大手系列はすでにカーボンニュートラル・脱炭素へと万全の取り組みを開始しており、その他業界をリードしてきています。
CO2削減への取り組みを実証する、認定機関SBTの関係からも、今後のサプライチェーンにおけるCO2削減要請は避けられないといえます。中小企業においても、早期での脱炭素実施が、会社の命運を左右しかねないといったところです。
関連記事はこちら:CO2 100%削減に必要な2つの活動
カーボンニュートラルへの製造業界の取り組み事例
それでは、具体的にどのような対策をとればよいのでしょうか。まずは大手製造業の事例を参考モデルとしていくつかご紹介していきます。事例を見ることで、それぞれに適したカーボンニュートラルへのヒントが得られるでしょう。
Unilever(ユニリーバ)
まずご紹介したいのが英国の日用品・消費財メーカーのユニリーバです。ユニリーバーは1929年設立、約100年の歴史を持ち、190か国以上の国に支店を構えるグローバル企業です。日本でも人気のブランドの1つで、ボディソープやシャンプーのDove、Clear、Lux、洗剤のドメスト、ジフなどがあります。
Unileverの気候変動への取り組み
1歩先を行くユニリーバーの取り組みは、CO2削減だけでなく、原材料の調達や容器リサイクルなど事業全体に渡り徹底しています。
【ユニリーバの目標】
- 2039年までにサプライチェーンも含めて、原材料の調達から店頭販売・廃棄にいたるすべての過程でCO2ゼロを目指す
- 2030年までにユニリーバ単独でCO2ゼロを目指す
- 2025年までにプラスチックの使用を50%減らす
- 2025年までに100%リサイクル可能なプラスチック容器を使う
- 2023年までにサプライチェーンの森林伐採をゼロにする
- 2030年までに150万ヘクタールの森林・海洋の保護再生を行う
- 2030年までに気候変動、自然保護、ゴミ削減に1000億円を投資する
上記はユニリーバが定めているカーボンニュートラルの目標の一部です。気候変動を含めたSDGsすべての項目における目標達成を目指し、細かいゴールを多数設けて実施しています。すでに2022年の時点で、2015年比のCO2削減率68%を達成、93%の消費電力を再エネでまかなっています。日本の支店では100%再エネ利用です。
Unileverの注目ポイント
ユニリーバの取り組みで注目したい点は、容器のプラスチック回収を自らで実施している点です。スーパーやドラッグストアなど、ユニリーバー専用のリサイクルボックスが日本でも設置されています。つくる側の責任を100%果たそうと努力する、数少ない企業の1つです。このリサイクルプロジェクトには、花王が即座に協働し、続けてP&G、ライオンも後を追うように参画しています。
参照:ユニリーバ 公式サイト
adidas(アディダス)
ランニングシューズやジャージ、ユニフォームなどで超有名なアディダスは、1948年にドイツで設立されたスポーツ用品メーカーです。2050年のカーボンニュートラルに向けて、プラスチックゴミを削減することが世界の重要課題だと指摘、マテリアルにおいて革命的な取り組みを実施しています。
Adidasの気候変動への取り組み
アディダスのカーボンニュートラルのターゲットは2025年、2030年、2050年の3段階です。
【アディダスの目標】
- 2025年、自社オペレーションにおいてCO2ゼロを目指す
- 2030年、サプライチェーンを含めたScope1・Scope2・Scope3のCO2を30%削減
- 2050年、すべてのサプライチェーン、製造・販売のすべてにおいてCO2ゼロを実現
※2017年度を基盤にしたターゲット
自社でも太陽光発電による電力を使用、2025年までにサプライチェーンに対して、最もCO2排出量が多いといわれる石炭火力発電・ボイラーの利用停止を要請しています。2018年から新しいポリエステルの使用を削減し、素材・包装、宣伝アイテムとすべてのマテリアルでプラスチック利用をゼロにする方針です。
Adidasの注目ポイント
””世界にあるプラスチックの91%がリサイクルされずに廃棄されている”という問題に着目したアディダスは、海洋ゴミ資源からポリエステル素材を創出しました。人気モデル「PARLEY FOR OCEAN」は海洋ゴミから製造されたスニーカーです。アディダスのポリエステルの94%がリサイクルされたものです。
不要になった靴や衣類の回収も行い、リサイクル素材に投入しています。平行して、持続可能なコットン・オーガニック素材への移行を進めています。
参照:Sustainability Our Taget – adidas
Sony(ソニー)
”世界中の人と社会に感動と安心を届ける」ことを理念とするソニーは、ソニーならではのアプローチでカーボンニュートラルへ貢献しています。SONYは、1946年に20名程度の町工業でスタート、「人のやらないことをやる」をモットーにPlayStationやVRで世界を魅了する企業の1つです。
ソニーの気候変動への取り組み
人々に感動を届けるためには、社会も地球環境も健康でなければならないというのがソニーの考え方です。SONYは環境において果たす責任を`「気候変動」「資源」「生物多様性」「化学物質」4つの分野に分けて、「Road to Zero」と呼ばれるプロジェクトにて目標を設定しています。
【ソニーの目標】
- 「気候変動」事業所、製品のライフサイクル全般でCO2ゼロ
- 「資源」投入資源の最小化、再生資源の最大化、資源循環の追及
- 「生物多様性」事業活動と地域貢献活動の両面から生物保護
- 「科学物質」法規制以外にも基準をつくり事業全体で適用
- 2030年に自社オペレーションでの再エネ電力100%
- 2040年サプライチェーン全体でのCO2ゼロ
例えば、商品を最小化することで輸送で費やすエネルギー消費の削減につながり、かつ輸送手段の選択肢も増えるのです。資源の選択→製造→物流→エンドユーザーの使用→リサイクル→廃棄までを1つのサイクルで捉え商品開発を行っています。2022年11月より、スマホなどの小型商品の包装にプラスチックを全面禁止、紙や竹素材に切り替え、テレビなどの大型商品も順次プラスチックの使用を廃止する予定です。
SONYの注目点
ソニーは直近の目標として、2025年までに自社オペレーションにおける35%以上のCO2削減を目指し、世界各国に太陽光発電を設置しています。すでに、2008年には欧州地域での消費電力は100%再エネ、2020年には中国地域においても100%再エネを実現しています。地域によっては、太陽光発電のみでの電力供給が難しいため、再エネ証書を積極的に活用しているとのことです。自社の再エネ設備で賄えない分を再エネ証書で相殺することが可能です。
米Apple社、Microsoft社など多くの大手企業が、再エネ証書を用いることで再エネ100%を実現しています。また、バーチャルPPAといって、再エネ電力の電力量を市場にて買い取る制度の導入もソニーは開始しており、早期での目標達成を目指しています。バーチャルPPAとは、再エネの電力量を数値のみで売買できる仕組みのことです。再エネ証書のようなもので、実際に再エネを導入していなくとも、再エネ電力として換算することが可能です。
参照:ソニーのRoad to Zero – Sony
参照:Act Together Earth Day 2023 ‐ Sony
まとめ
中小企業にとって、脱炭素への取り組みが時代の要請として避けられないとしても、けっして容易だとはいえないのが現状です。それぞれの経営状況、経営スタイル、会社の立地条件や周囲の物理的環境などから、実施可能な対策も限られてしまいます。
しかし、無理のない範囲で節電・省エネしていくだけでも1年・2年と長期的な視野では大きな効果が得られるはずです。SONYも、小さなアクションも積み重なれば、変化へとつながるといっています。最初は、コストがかからない部分において、何ができるかを考えることでカーボンニュートラルのきっかけが掴めます。今回ご紹介した事例からもヒントが得られるでしょう。
ひとまずは自社におけるCO2排出量を調べておけば、目標も立てやすくなります。無料のタンソツールチェックなら、アカウント登録だけで簡単に費用をかけずにCO2排出量がわかります。ぜひ、この機会に、カーボンニュートラルへの1歩をさっそく踏み出してみましょう。
著者のプロフィール
- 太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。
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