CO2排出の多くは、電力や産業・工業・輸送機の燃料に起因しています。とくに、一般家庭・工業・産業における電力からのCO2排出の比率は高く、電力のカーボンニュートラルが急務だといわれています。では、カーボンニュートラルで重要な位置にある電力会社は、どのような対策・取り組みをとっているのでしょうか。今回の記事では、カーボンニュートラルに向けた電力会社の取り組みについて、わかりやすくまとめていきます。

ぜひ、この機会に、今後の対策もかねて電力への理解を深めておきましょう。

※CO2に代表される温室効果ガスはメタンやフロンなど数種類のガスのことを指しています。当記事ではわかりやすくCO2でまとめていきます。

電力とCO2・カーボンニュートラルの関係

2050年のカーボンニュートラルの目標達成に向けて、大手を筆頭に電力会社は様々な取り組みを実施しています。電力の会社のカーボンニュートラルに向けた取り組みは、「S+3E」と呼ばれる枠組みが基盤となっています。

「S +3E」

  • 安全性(Safety)
  • 安定供給(Energy Security)
  • 経済性(Econoic Efficiency)
  • 環境保全(Environment)

これらの枠組みの中でどのような取り組みが実施されているのか、ここでまとめていきます。

太陽光発電など再エネ促進への取り組み

まず、電力会社のカーボンニュートラルへの取り組みとして挙げておきたいのがFIT/FIP制度です。

FIT/FIP制度

出典:2022年度以降の買取価格 – 資源エネルギー庁

FIT(フィット)とはFeed in Tariffを略したもので、再エネ投資の促進を目的にした「長期間にわたる電力買取制度」のことで、日本では「固定価格買取制度」と呼ばれています。国が指定する5つの再エネ「太陽光」「風力」「水力」「地熱」「バイオマス」が対象となり、設備導入時にFITの契約が締結されます。1978年に米国で初めて採用され、国内では2012年より本格的な導入が開始されました。おもに、従来からの大手電力会社にて提供されています。

FIP(フィップ)とはFeed in Premiumの略で、市場の取引価格にプレミアム価格をプラスアルファで付けた金額で、電力会社が再エネ電力を買い取る制度のことです。年数に制約を受けず、自由に売買できるメリットがあります。FIPは新電力会社によって提供される場合が多いです。

再エネ賦課金

FITの資金源となっているのが再エネ賦課金です。再エネ賦課金は、電気を使用するすべての個人・企業に課される料金で、毎月の電気料金の一部に含まれています。再エネ賦課金に支えられたFIT、自由な電力売買に支えられたFIPによって、再エネ投資を促進する働きがあるのです。

参照:FIT・FIP制度 – 経済産業省

関連記事はこちら:再生可能エネルギーの発電量はどれくらいか?

再エネ電力と環境価値への取り組み

そして、電力会社自身が行う大規模な再エネ投資が、将来のカーボンニュートラルへの大きな1歩へとつながっています。2011年の東日本大震災以来、日本では再エネによる電源確保を余儀なくされてきました。太陽光発電、風力発電、地熱発電など、国内外で巨大な再エネ設備が続々と建設されています。

丸紅 UAEとギガソーラー稼働

小売業の丸紅は「丸紅新電力」を設立し、電力事業に参入しています。1970年のフィリピンでの地熱発電所を皮切りに、国内・海外23か国において再エネ発電事業に取り組んでいます。2019年には、アラブ首長国連邦と世界最大の太陽光プロジェクトを立ち上げました。

北九州市 洋上風力発電で国内最大級22万kW

九州電力グループは、2023年4月より西部ガス、九電工などと共同出資にて、国内最大級の洋上風力発電「ひびきウインドエナジー」の工事に着手しました。2025年度に稼働予定です。

再エネ電力の提供

大手・新電力と多くの電力会社が、それぞれ運営する再エネ発電事業から、再エネ電力の提供を行っています。100%再エネで構成された電力プランもあれば、火力発電や原発とミックスされた電力プランなど、利用者が予算・目的に合わせて選べるようになっています。

現時点で、電力会社の総数は409社、提供する電気料金プランは4078プランです。本当にニーズに合ったサービスを利用しているのかどうか、この機会に見直しされてもいいかもしれません。

※どんな電力会社、電気料金プランがあるのか調べてみたい方は、「新電力ネットの料金プラン検索」を参考にされて下さい。

環境価値の提供

また、グリーン証書、再エネ証書などとも呼ばれる「環境価値」の提供も電力会社のサービスの1つです。「環境価値」とは、再エネ電力の電気・CO2書面に表したものです。実際に、再エネ電力を使用していなくとも、「環境価値」を合わせることで再エネ使用比率を高めることが可能です。

参照:環境価値とは – 東京環境局

原子力発電への取り組み

さらに、電力会社が力を入れているカーボンニュートラルへの取り組みとは、安全な原子力発電所(以下:原発)の運営です。東日本大震災以来、一旦はすべての原発が稼働停止となりました。近年まで、26基中わずか5基のみが稼働していた状況でした。原発による事故リスクが危惧され、国の方針として安全性が最重視されたからです。

しかし、燃料資源に乏しい日本では輸入や再エネのみに依存することはできません。ロシア・ウクライナ問題から生じる不安定な燃料事情への解決策を見出し、かつ、CO2排出も抑えていかねばなりません。2023年8月、岸田政権は原発再稼働の方針を表明します。反原発を謡っていた日本にとって衝撃的ではありましたが、原発によって安定した電力供給が実現できるという考えです。

加えて、原発はCO2を排出しない点で、脱炭素へもつながります。日本、欧米、世界各国にて、化石燃料の代替えとしての原発の役割が見直され、安全性が高い活用方法が検討されているのです。

参照:原発の安全性を高めるための取組 – 資源エネルギー庁

参照:原子力発電について – 関西電力

新しいエネルギー 水素とアンモニア

もう1つ、電力会社の取り組みとして、新しいエネルギー開発についてご紹介します。太陽光などの再エネとは別で、水素とアンモニアをエネルギーとして使う研究開発が大手電力や関連企業にて進んでいます。水素もアンモニアも、人体や自然環境には全く無害です。

国や地域を問わず豊富に存在する物質でCO2を一切排出しません。エネルギーとして、水素やアンモニアが使えるようになれば、各国それぞれ自国内でエネルギーが生産可能となります。電力への変換や輸送におけるコストがかかりすぎるのが難点で、徐々に試行的なプロジェクトが立ち上がり始めたところです。

新電力を運営する丸紅もサウジアラビアと水素製造のギガプロジェクトを締結しています。水素・アンモニアはカーボンニュートラル目標達成のキーポイントともいわれているのです。

参照:丸紅がPIFとクリーン水素事業に関する覚書を締結

電力会社の取り組み事例を解説

それでは次に、カーボンニュートラルに向けた、電力会社の具体的な取り組み事例をいくつかご紹介していきます。

東京電力の取り組み

この機会にチェックしておきたいのが、国内で圧倒的にナンバーワンの販売量を誇る東京電力です。1883年に日本初の電力会社が「東京電機」が設立され、1951年、複数の電気事業で編成された「東京電力」が誕生しました。世界最大規模の柏崎刈羽原子力発電所をはじめ、国内外の大規模な発電事業にて日本の電力需要を支えています。

東京電力の電力

東京電力は国内で最も巨大な電源・発電所を保有する電力会社です。原発、水力、太陽光、風力がおもな供給源です。(福島原発など稼働停止となった事業も多い)拡大する再エネ事業は、子会社である東京電力リニューアルパワーが運営、東京電力本社の電源構成は原発45%、水力54%です。

東京電力の電源構成

1970年以降、15%程度に低下していた水力発電の比率は約3倍以上、原発の稼働比率は2018年以降に約2倍に増加しています。再エネ100%とはいえないものの、CO2排出量の削減を実施しています。

※以前、電源構成比率が高かった、化石燃料の火力発電所は電力自由化と経営方針に沿って、株式会社JERAへと移管になっています。

参照:数値で見る東京電力 – 東京電力

注目ポイント

東京電力で注目すべき点は、安全性の見直しを徹底し原発の再稼働に努めていることと、1892年からの長い歴史を持つ水力発電の開発です。とりわけ、再エネに分類される水力発電の事業拡大が、今後の日本のカーボンニュートラルに大きく寄与すると予想されます。

葛野川発電所

【東京電力の水力発電】

国内164カ所 987万kW

  • 長野県・群馬県「神流川発電所」→ 最大出力282万kW・世界最大級
  • 山梨県「葛野川発電所」→ 最大出力160万kW・落差714メートル
  • 栃木県23カ所 → 最大出力226万kW
  • 群馬県42カ所 → 最大出力291万kW

「神流川発電所」は、長野県・群馬県の巨大ダムの落差を活用した水力で、世界最大級の規模を誇ります。山梨県の「葛野川発電所」はスカイツリーよりも高い落差にて電力を創出しています。日本は幸いにも雨が多いため、水力発電には非常に有利です。太陽光、風力などの話題が尽きない中、水力発電は盲点でもあり、意をついたさすがの東京電力の取り組みだといえるでしょう。

参照:東京電力リニューアルパワー 公式サイト

Ennet(エネット)の取り組み

次に、IT系とガス会社が提携した電力会社Ennet(エネット)を見ていきます。Ennetは、NTTアノードエナジーと東京ガス、大阪ガスと独特のネットワークが強みです。電力では従来の大手電力会社が圧倒的なシェアを占める中、新電力ではトップにランクインします。

Ennetの電力

Ennetは、NTTや大手ガス会社が運営するだけあって、かなり充実した電源を確保しています。日本全国10地域の電力会社と提携し、すべてのエリアでサービスを提供しています。北海道のポンテシオ水力発電、神奈川の扇島LNGパワーステーション、熊本県わいた地熱発電所など大規模な電力会社100社以上から安定した電力供給が強みです。CO2排出量が少ないLNGを中心に、複数の再エネ証明書を組み合わせるプランを用意しています。

注目ポイント

予算や目的に合わせた多彩なサービスがEnnetの魅力です。

【Ennetのサービス】

  • EnneGreen → 再エネ由来の電力プラン
  • EnneSmart → 節電と割引料金を組み合わせたプラン
  • EnneEV → EVの導入支援・充電サービス
  • EnneBattery → BCP対策に向けた蓄電池サービス

など、6種類のプラン・サービスがあり、中でも、EV充電器の設置から管理までを行うEnneEVは、今後のEVシフトに向けて需要が高まることが予想されます。

参照:エネットの電気 – Ennet

みやまスマートエネルギー(福岡県)の取り組み

出典:みやまスマートエナジー 公式サイト

最後に自治体の新電力会社をご紹介しましょう。自治体電力会社の先駆けとして注目されているのが、福岡県の「みやまスマートエネルギー」です。「みやまスマートエネルギー」は、福岡県みやま市、筑邦銀行、九州スマートコミュニティの合同出資にて2015年に設立されました。人口4万人以下の小規模自治体であるにもかかわらず、自治体では突出した存在です。

みやまスマートエネルギーの電力

太陽光発電、風力発電、バイオマス発電と多岐に渡る再エネ事業を運営。バイオマス発電に並行して廃プラスチックや紙おむつ、生ごみの回収リサイクルも行っています。自社の再エネ事業と地域で創出される再エネにて、「100%地産地消」の実現をゴールに、太陽光電気の買取、再エネ証書の販売にも着手しています。

注目ポイント

みやま市の注目ポイントは、地域の太陽光発電・蓄電池の導入に補助金支給など支援プロジェクトが充実している点です。

【2023年~2024年の補助金情報】

  • 太陽光発電システム → 1kWあたり2万円 上限8万円
  • リチウムイオン蓄電池 → 1kWあたり2万円 上限10万円
  • パワーコンディショナー → 1kWあたり1万円 上限5万円

2021年以降の自社のCO2排出量はゼロを達成しました。人口減少や出力制御による多額の損失など、課題はまだまだ多いものの、全国のモデル事業として今後の展開が期待されています。

参照:福岡県みやま市 挑戦的な新電力「理想と現実」‐ Nikkei BP

参照:みやまスマートエナジー 公式サイト

関連記事はこちら:そもそも脱炭素経営とは?サステナビリティとの関係

まとめ

再エネの普及促進で大きな役割を果たしている電力会社ですが、、再エネ電力が増えすぎてしまうと、出力制御を発して発電休止を要請するケースが度々起きています。火力発電に原発、再エネと、全体の発電量が増えすぎた場合、送電線の容量を超え停電などのトラブルが生じるためです。

電力会社の出力制御の要請に対して、再エネ設備・再エネ電力を無駄にしていると、問題視する声があがっています。推奨しながらも再エネが100%有効に活用されていないのが現状です。蓄電池を活用したり、送配電のシステムを効率化するなど、十分な再エネ活用への道を用意することが、今後の日本政府や電力会社の課題だといえます。

今後、再エネ導入を真剣に考える企業・自治体が増えるにつれ、おそらく、改善されていくと期待されています。だからこそ、一企業のアクションが今必要なのです。早速、この機会に、カーボンニュートラルへの第1歩として、自社におけるCO2排出量を無料のタンソチェックツールで調べてみましょう。

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著者のプロフィール

Takasugi
Takasugi
太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。