TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)とCDP(Carbon Disclosure Project)は、気候変動と環境リスクに対する組織の情報開示と取り組みを促進する国際的なイニシアチブです。この記事では、TCFDとCDPの役割と目的に加え、それらの違いや連携のメリットについてご紹介します。

TCFDとCDPの役割と目的

TCFDとCDPは、企業や都市などの組織が気候変動や環境リスクに対して積極的に取り組むための枠組みを提供しています。これらのイニシアチブに参加することで、企業は気候変動や環境に関する情報開示の要件を満たし、持続可能性の実現に向けた取り組みを進めることができます。

また、投資家や利害関係者とのコミュニケーションや信頼関係の構築にも役立ちます。一方で、情報開示やデータ収集の負担やコストが発生する可能性もあります。企業はこれらの要素を考慮しながら、TCFDとCDPへの取り組みを検討することが重要です。

TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)

TCFDは、気候変動に関連する情報開示のためのガイドラインを策定し、企業や金融機関による財務情報への統合を促進することを目的としています。TCFDは、企業が気候変動に関連するリスクや機会を評価し、それに対する戦略や目標を開示することを推奨しています。TCFDの主な役割は以下の通りです。

情報開示のガイドライン策定

TCFDは、企業に対して気候変動に関連する情報開示のためのガイドラインを策定し、具体的な要素や指標を提供します。これにより、企業は統一された基準に基づいて情報を開示し、投資家や利害関係者に対して信頼性と透明性を提供することができます。

リスク評価と戦略策定の促進

TCFDは企業に対し、気候変動に関連するリスクや機会の評価を行い、それに基づいて適切な戦略や目標を策定することを奨励しています。企業は財務情報への統合を通じて、気候変動に対する適切な対策を実施し、持続可能なビジネス戦略を構築することが求められます。

投資家とのコミュニケーション強化

TCFDは、企業が気候変動に関する情報を投資家と共有し、持続可能性に関する情報を提供することを支援します。これにより、投資家は企業のリスク管理能力や戦略の透明性を評価し、持続可能な投資判断を行うことができます。

CDP(Carbon Disclosure Project)

CDPは、企業や都市などの組織による環境データの開示を促進し、気候変動や水管理などの環境リスクへの対応を推進することを目的としています。CDPは、英国の慈善団体が管理するNGOであり、グローバルな情報開示システムを運営しています。日本では2005年から活動をしている組織です。CDPの主な役割と目的は以下の通りです。

環境データの収集と開示

CDPは企業や都市などから環境に関するデータを収集し、それを投資家や政府、利害関係者と共有します。企業はCDPの枠組みを通じて環境リスクに関する情報を開示し、持続可能性に関する取り組みを透明化することが求められます。

リスク管理と機会の特定

CDPは環境データの収集と分析を通じて、企業や都市が直面する環境リスクや機会を特定します。これにより、組織は持続可能なビジネス戦略の策定やリスク管理の強化に取り組むことができます。

データの比較とベンチマーキング

CDPは企業や都市のデータを比較・分析し、業界や地域のトレンドやベンチマークを提供します。これにより、企業や組織は自身の環境パフォーマンスを評価し、他の組織との比較やベストプラクティスの共有を通じて改善を図ることができます。

投資家との関係強化

CDPは企業の環境データを投資家と共有し、環境リスクや持続可能性に関する情報を提供します。これにより、投資家は企業の環境パフォーマンスを評価し、持続可能な投資戦略を展開することができます。

TCFDとCDPの関係性

TCFDとCDPは、環境に関するデータ収集・開示やリスク管理を通じて、持続可能なビジネス戦略の策定や投資判断に役立つ情報を提供しています。

まず、TCFDは主に企業が気候変動に関連する財務情報開示のガイドラインを提供しています。TCFDは企業に対して、気候変動に関連するリスクや機会に対する評価・開示を求めています。企業はTCFDの枠組みに基づいて、気候変動の影響評価や温室効果ガス(GHG)排出量の計測・報告、将来のシナリオ分析、気候変動に対する戦略や目標の開示などを行うことが求められます。

一方、CDPは企業や都市などの組織に対して、環境データの収集と開示を促進しています。CDPは環境に関する情報開示のプラットフォームとして機能し、企業はCDPに対して環境リスクや取り組みに関するデータを提供します。CDPはこれらのデータを分析し、投資家や政府、利害関係者と共有することで、環境リスクの特定や比較、持続可能なビジネス戦略の策定を支援します。

TCFDとCDPは相互補完的な役割を果たしています。TCFDのガイドラインは企業が気候変動に関連する財務情報を開示するための基準を提供し、企業はこのガイドラインに基づいてCDPに対してデータを提供することがあります。CDPは収集したデータを分析し、TCFDの要件に沿った情報を投資家や政府などに提供することで、企業の環境パフォーマンスを評価し、持続可能性に関する情報の透明性と信頼性を向上させる役割を果たしています。

また、TCFDとCDPは共に投資家にとって重要な情報源です。投資家は企業の気候変動に関連するリスクや機会に対する開示情報を通じて、持続可能な投資判断を行うことができます。TCFDとCDPは、投資家が環境パフォーマンスや気候変動への対応を評価するための情報を提供し、投資ポートフォリオの持続可能性を向上させる助けとなります。

以上のことから、企業はTCFDとCDPの要件に従い、環境情報の開示と管理を強化することで、環境リスクへの適切な対応と持続可能な成長に貢献することが求められます。

CDPの情報要件とTCFDにおける開示要件の比較

TCFDとCDPは、いくつかの開示要件を持っていますが、そのアプローチや詳細は異なります。まず、TCFDは企業に対して気候変動に関連する財務情報の開示を求めています。TCFDの開示要件は、企業が気候変動に関連するリスク評価、GHG排出量の計測・報告、気候変動に対するシナリオ分析、気候変動に対する戦略や目標の開示などを行うことを求めています。TCFDは将来の気候変動シナリオに基づいて、企業の財務への影響評価を行うことを推奨しています。

一方、CDPは企業に対して環境に関するデータの収集と開示を求めています。CDPの情報要件は、企業が気候変動に関連するリスク、排出量削減目標、エネルギー使用量、水利用量などの環境データを提供することを求めています。CDPはまた、企業が気候変動に関する戦略や目標を開示することも要求しています。CDPの報告書は、企業の環境パフォーマンスを評価するための指標として利用されます。

CDPとTCFDの開示要件の比較をすると、以下のような違いがあります。

開示範囲と詳細度

CDPは環境データの広範な開示を求めていますが、TCFDはより具体的な財務情報の開示を重視しています。TCFDは企業の財務への影響評価や将来のシナリオ分析を要求しているため、より詳細な情報開示が必要とされます。

リスク評価の重要性

TCFDは気候変動に関連するリスク評価の開示を重視しています。企業は自社のビジネスにおける気候変動リスクを評価し、金融への影響や将来の事業計画に反映させる必要があります。一方、CDPはリスク評価の開示を要求しているものの、より広範な環境データの提供に焦点を当てています。

シナリオ分析と将来予測

TCFDは将来の気候変動シナリオに基づく分析と予測の開示を推奨しています。企業は将来の気候変動の影響やリスクに対して備えた戦略を策定し、開示する必要があります。CDPは将来予測に焦点を当てているわけではありません。

財務情報と経済的影響

TCFDは企業の財務への影響評価を重視しています。気候変動のリスクや機会が企業の財務状況に与える影響を明示的に評価し、開示する必要があります。一方、CDPは環境データの提供やリスク評価に焦点を当てており、財務への具体的な影響評価は求めていません。

TCFDとCDPの連携によるメリットと具体的な事例

TCFDとCDPは両方とも気候変動に関連する情報開示を重視していますが、CDPはより広範な環境データの提供を要求し、TCFDは企業の財務への影響評価や将来のシナリオ分析に重点を置いています。企業は両方の要件に従い、環境情報と財務情報の両面での開示を行うことで、投資家や利害関係者に対してより包括的な情報提供を行うことが求められます。
TCFDとCDPの連携は、企業にとって多くのメリットをもたらすことがあります。以下にそのメリットと具体的な事例を紹介します。

強化された情報開示

TCFDとCDPが連携することにより、企業はより包括的な情報開示が可能となります。TCFDの枠組みに基づいて気候変動に関連する財務情報を開示する一方で、CDPの情報要件に基づいて環境データを提供することで、企業は環境と財務の両面からの情報開示を実現します。これにより、投資家や利害関係者は企業の持続可能性に関する情報をより詳細かつ総合的に把握することができます。

リスク管理と機会の同定

TCFDとCDPの連携は、気候変動に関連するリスクと機会の同定と評価に役立ちます。企業はTCFDの要件に基づいて気候変動リスクの評価を行い、将来のシナリオ分析を通じてビジネス戦略を策定します。同時に、CDPのデータ提供により、企業は環境関連の機会を把握し、持続可能なイノベーションや事業拡大につなげることができます。

投資価値の向上

TCFDとCDPの連携は企業の投資価値を向上させることがあります。気候変動への取り組みや環境パフォーマンスの向上は、投資家からの信頼と評価を高める要素となります。投資家はTCFDとCDPの情報を活用して企業の持続可能性を評価し、ESG(環境、社会、ガバナンス)指標に基づいた投資判断を行うことができます。

具体的な事例として、2019年11月、三菱UFJ銀行は日本郵船との間で日本初となる「サステナビリティ・リンク・ローン」による契約を締結したことが挙げられます。「サステナビリティ・リンク・ローン」は、借り手が野心的なサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)を達成することを奨励するローンのことを指します。この三菱UFJ銀行は日本郵船による締結では、毎年実施されるモニタリングで一定のスコアが維持されている限り、返済期限までCDPスコアに起因する金利条件は変更されないこととされています。

以上のように、TCFDとCDPの連携により企業は情報開示の強化、リスク管理と機会の同定、投資価値の向上を実現することができます。また、企業がTCFDとCDPの要件を活用して持続可能なビジネス戦略の策定や環境パフォーマンスの向上を実現していることが示されています。

TCFDとCDPの連携の重要性と将来展望

TCFDとCDPの連携は、企業の気候変動への取り組みを透明化し、持続可能な経済の実現に向けた重要な一歩です。両者は異なる観点から情報を要求しますが、その連携によりデータの一貫性と信頼性が向上し、総合的な評価が可能となります。また、TCFDとCDPの連携は、気候変動と持続可能性に関する情報開示の重要性を強調し、企業や投資家、政府、市場全体に対する影響力を持っています。以下に、その重要性と将来展望について詳しく説明します。

情報の一貫性と比較可能性の確保

TCFDとCDPの連携により、企業は一貫性のある情報開示を行うことができます。TCFDの枠組みに基づいて気候変動に関連する財務情報を開示し、CDPの情報要件に従って環境データを提供することで、企業間の情報の比較可能性が向上します。これにより、投資家や利害関係者は企業間の環境パフォーマンスや持続可能性への取り組みを適切に評価し、リスクと機会の識別に役立てることができます。

プライベートセクターのリーダーシップの強化

TCFDとCDPの連携は、企業に対する持続可能なビジネス実践の推進力となります。両枠組みは、企業が気候変動や環境リスクに対処するためのガイダンスと情報要件を提供します。連携により、企業はリーダーシップを発揮し、持続可能なビジネスモデルの採用やイノベーションを推進することが期待されます。これにより、グリーン経済の発展と低炭素社会の実現に向けたプライベートセクターの役割が強化されます。

投資家の意思決定の向上

TCFDとCDPの連携により、投資家はより正確かつ総合的な情報をもとに意思決定を行うことができます。投資家は企業の気候変動への対応や環境パフォーマンスを評価するために、TCFDとCDPの情報を活用します。連携により提供される情報は、投資家にとって企業のリスク管理能力や長期的な成長戦略に関する重要な指標となります。これにより、投資家は持続可能性の観点からの投資判断をより適切に行うことができます。

まとめ

TCFDとCDPは、気候変動と環境リスクに対する情報開示と取り組みを促進する国際的なイニシアチブです。TCFDは企業に対して気候変動に関連する財務情報の開示を推進し、CDPは環境データの収集と開示を促進します。これにより、組織は情報開示要件を満たし、投資家とのコミュニケーションや持続可能なビジネス戦略の策定に役立つ情報を提供できます。また、情報開示やデータ収集には負担やコストがかかることも考慮しなければなりません。組織はTCFDとCDPの要件を検討しながら、気候変動や環境リスクに対する取り組みを進めることが重要です。

<参考サイト>
Task Force on Climate-related Financial Disclosures: TCFD
環境省 総合環境政策 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)
CDP
環境省 サスティナビリティ・リンク・ローン
環境省 サステナビリティ・リンク・ローン発行データ

著者のプロフィール

福元 惇二
福元 惇二
タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。