地球温暖化の最も大きな原因である二酸化炭素を削減するための手段として、再生可能エネルギーが注目を集めるようになりました。再生可能エネルギーは、二酸化炭素を排出せずに電力を作り出すことができるからです。実は同様の理由で、原子力にも注目が集まっていることをご存じでしょうか。

「二酸化炭素を排出しないエネルギーってことは、原子力も再生可能エネルギーの仲間なの?」と疑問に思った方もいらっしゃるでしょう。そこでこの記事では、原子力の概要に加えて、使用する利点・課題も解説します。さらに、原子力における世界各国での取り組みについても紹介していきます。

再生可能エネルギーとは?

再生可能エネルギーとは、自然界に常に存在し尽きることのないエネルギーのことです。日本では、「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用および化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」によって、「太陽光、風力その他非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものとして政令で定めるもの」と定義されています。

具体的には、太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、大気中の熱その他の自然界に存在する熱、動植物由来の有機物であるバイオマスの7種類が挙げられています。原子力は再生可能エネルギーの仲間には入っていません。原子力は、自然界に存在するものではないからです。

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原子力とは?

原子力とは、原子を使ったエネルギーのことです。このエネルギーを利用した発電方法を原子力発電と呼びます。電子力発電は、原料であるウランを核分裂させることで熱エネルギーを生み出します。この熱エネルギーで、水を沸騰させ、その際に発生した蒸気の力でタービンを回して発電を行っています。

原子力発電の燃料となるウランは、天然に存在する鉱物です。そのうち、約0.7%が熱エネルギーを発生させやすいウラン235、残りの約99.3%がウラン238です。原子力発電所では、ウラン235の濃度を3~5%まで高めた濃縮ウランを使います。この濃縮ウランを粉末状の酸化物にし、約10mm程度の円柱形に固めたものを燃料としています。

ウラン235の原子核に中性子がぶつかると、その原子核は2つに分裂し、大量の熱エネルギーと新たな中性子を放出します。この新たな中性子がまたウラン235にぶつかり、さらに分裂を繰り返す、この連鎖反応(臨界)が核分裂です。また、この分裂の過程で、放射性物質であるセシウムなども生成します。

参照:原子力発電のしくみ

原子力の利点

原子力の利点は、大きく分けて次の2つです。

  • 安価な発電コスト
  • カーボンニュートラルなエネルギー源

それぞれ解説します。

安価な発電コスト

原子力は、安価な発電コストであることも注目される大きな利点の1つです。原子力発電のコストは、1kWhあたり10.1円と試算されています。この発電コストについて理解するためには、発電原価社会的費用について理解する必要があります。

発電原価は、原子力発電所の建設や運用にかかる直接的なコストを指します。これには、施設の建設費、燃料費、運転維持費、使い終わった核燃料を再利用するための費用、廃炉に伴う費用、そして安全対策費用が含まれます。一方、社会的費用は原発の運用に間接的に関連するコストを指します。例えば、事故が起きた場合の賠償費用や、原発を建設する地域への補助金などが挙げられます。

引用:原発のコストを考える 原発の発電コストは10.1円/1kWh

他にも、燃料源であるウランの輸入にかかる費用が化石燃料と比べて安いことも発電コストの低減に一役買っています。ウランは、化石燃料に比べて、政情が安定した国から輸入されることが多いです。そのため、輸送費を抑えることが可能となっています。

発電コストは、消費者が支払う電気料金に直接反映されます。だからこそ、発電コストが安いことは、各家庭の電気料金の負担を軽減することにつながります。経済的な観点から見れば、原子力発電の安価な発電コストは大きな利点であると言えるでしょう。

関連記事はこちら:日本の再生可能エネルギーのコストは高い?現状と取り組みも解説

カーボンニュートラルなエネルギー源

原子力は、カーボンニュートラルなエネルギー源です。カーボンニュートラルとは、温室効果ガス、特に二酸化炭素の排出量を実質的にゼロにすることを目指す考え方のことです。ここで「実質ゼロ」とは何を指すのでしょうか。これは、排出した二酸化炭素の量と、それを吸収・削減した量を合計したときに、結果としてゼロになる状態を指します。つまり、地球上に存在する二酸化炭素の量をこれ以上、増やさないようにしましょう、というのがこの考え方の根底にあります。

原子力発電は、ウランの核分裂によるエネルギーを使いますが、このプロセスで二酸化炭素はいっさい排出されません。つまり、カーボンニュートラルであるということです。二酸化炭素は地球温暖化の一因とされています。そのため、二酸化炭素の排出を抑えることは環境に対する大きな貢献だと言えます。

関連記事はこちら:カーボンニュートラルとは?意味や企業の取り組み、SDGsとの関係まで解説

原子力の課題

発電コストが安く、二酸化炭素も排出しないと聞くと原子力は素晴らしいエネルギー源だと言わざるを得ません。しかし、原子力には大きな課題があります。次の2つです。

  • 高い事故リスク
  • 燃料処理の問題

こちらもそれぞれ解説します。

大きな事故のリスク

原子力には、大きな事故のリスクがあります。原子力発電は、ウランを分裂させてエネルギーを生み出しますが、この過程で危険な放射性物質が生成されます。もし原発が安全に稼働している限り、これらの物質が外部に漏れることはほとんどありません。しかし、何らかの大きな事故(地震や津波など)が起こると、これらの放射性物質が大量に外部へと放出されてしまいます。

放射性物質が一度外部に放出されてしまうと、その場所は近づくだけで危険となります。放射性物質は、生物のDNAにダメージを与えたり、自然環境に悪影響を与えたりするからです。そのため、この状況を収束させるためには、非常に長い時間が必要となります。

今回は、原子力に関連した大きな事故の中でも、特に有名な3つの事例を紹介します。

スリーマイル島原子力発電所事故(1979年・アメリカ)

スリーマイル島原子力発電所事故では、冷却装置の故障と操作ミスが重なり、原子炉の一部が溶けてしまった事故です。幸い、格納容器が機能したため、放射性物質の大規模な放出は防がれました。事故後の健康調査によると、地域住民のガンの発症率がわずかに上昇したとの報告があります。この事故は、アメリカの原子力政策に大きな影響を与え、新規原発建設が停止されるきっかけとなりました。

参照:米スリーマイル島原発事故から40年、現地で増える甲状腺がん患者。事故地のペンシルベニア州は全米一の同がん発症率の高さ。低濃度放射性による健康影響が新たな課題に(RIEF)

チェルノブイリ原子力発電所事故(1986年・ソビエト連邦)

チェルノブイリ原子力発電事故は、慣性の力のみでタービンを回転させると、どのくらい発電が可能なのかを実験しているときに大爆発が発生した事件です。これにより、大量の放射性物質が、国内だけではなく、ヨーロッパにまで拡散されました。この事故による放射線の影響を受けて、およそ16,000人が亡くなったと考えられています。広範囲に汚染が広がった結果、およそ60万人が自宅を離れなければならないほどの大きな事故となりました。

参照:チェルノブイリ事故による死亡者数の推定

福島第一原子力発電所事故(2011年・日本)

福島第一原子力発電所事故は、東日本大震災と津波によって引き起こされた事件です。まずは地震によって、稼働していた発電所が停止しました。その後、津波が発電所を襲い、発電所の冷却システムが故障してしまいました。その結果、燃料を冷やすことができず、水素爆発が起こりました。この爆発により、大量の放射性物質が放出されました。現在も、放射性物質の除染作業が続けられているため、一部の住民は帰宅できていない状況です。

参照:福島第一原子力発電所の事故概要

原子力は発電コストが安く、二酸化炭素を排出しない一方で、このような大きな事故のリスクを伴っていることを忘れてはなりません。

燃料処理の問題

原子力は、使用した燃料処理の問題もあります。使用後のウラン燃料は、高レベル放射性廃棄物として放射能を持ち続けてしまうのです。この放射性廃棄物は、放射線が弱まるまでに何千年もかかるため、その安全な処分方法が求められています。

しかし、2022年時点では、この放射性廃棄物を最終的にどこに保管するかはまだ決定されていません。現状、各原子力発電所では一時的な対策として、これらの廃棄物を燃料プールという特殊なプールに保管しています。しかし、これらのプールも保管容量には限界があります。数年後には容量オーバーとなり、新たな保管場所が必要になると予測されています。

このように、高レベル放射性廃棄物の最終的な保管場所や処分方法の確立は、原子力発電の長期的な持続可能性を考える上で重要な課題となっています。

原子力の取り組みとは?

日本の取り組み

2023年2月、日本は、「グリーントランスフォーメーション」を達成するために新たな環境対策の基本方針を閣議決定しました。グリーントランスフォーメーションとは、二酸化炭素削減と経済活動を両立させることです。この方針は、福島第一原子力発電所で発生したような事故が繰り返されないように安全性を最優先としています。その上で、日本のエネルギー基本計画に沿って、原子力をどのように利用していくのかをまとめています。具体的な方針としては、次の4つが示されました。

  • 安全性の確保
  • 運転期間の延長
  • 原子炉の開発・建設
  • 燃料処理問題への対処

安全性の確保

1つ目は、安全性の確保です。安全であることを前提に、現在、停止している原子力発電所の再稼働を推進していく予定です。これにより、電力を安定して供給できるようにすることと、二酸化炭素の排出量を削減することを目指しています。

運転期間の延長

2つ目は、原子力発電所の運転期間を延長することです。これには、新たな発電所の建設を抑制し、既存の発電所を効率よく利用することをねらいとしています。

原子炉の開発・建設

3つ目は、原子炉の開発と建設に取り組むことです。これは、より効率的で、より安全な原子力発電を実現させるためです。

燃料処理問題への対処

最後に、燃料処理問題への対処も方針の1つとして挙げられています。いわゆる「バックエンド問題」と呼ばれる、使用済みの核燃料の最終処分に対する取り組みを強化すると公表しています。

世界の取り組み

続いては、世界の原子力に関連した取り組みについてです。今回は、アメリカ、ロシア、フランスの取り組みを紹介します。

アメリカ

アメリカのバイデン政権では、原子力の利用を推進しています。公約内容から見ると、既存の原子炉の長期運転や、原子炉などの技術開発(イノベーション)が目指されています。前トランプ政権が国家安全保障を重視したのに対し、バイデン政権は環境とイノベーションを推進する観点から原子力を支持しています。

なお、民主党全体としては、原子力利用をより受け入れる方向に移っているものの、その利用を慎重に考える議員も一定数を存在しています。それでも、2020年の政策綱領で民主党が明確に原子力利用を支持する方針を示したことは注目すべき事実です。

参照:【アメリカ】「米国バイデン政権の原子力政策」

フランス

2022年2月、フランスのマクロン大統領は、原子力の削減目標を撤回すると発表しました。2050年までに6基の新型原子力発電所を建設し、さらに8基の原子力発電所の建設に向けて検討を開始するとされています。加えて、フランスは原子力発電の燃料供給の一部をロシアから受け取っています。2022年、フランスがロシアから輸入する濃縮ウランの量が前年比で3倍に増加しました。この結果から、フランスの原子力発電所が1年間稼働するのに必要な濃縮ウランの約3分の1がロシアからの供給されていることが分かりました。

参照:エネルギー危機の時代、原子力発電をどうする?

ロシア

ロシアでは原子力産業が非常に盛んです。プーチン政権が原子力外交を積極的に行っているからです。この活動を引っ張っているのが、「ロスアトム」です。ロスアトムは、原発の開発・運営、ウランの濃縮加工、廃棄物の処理、そして原発の海外展開まで行っています。その結果、2021年には約90億ドルの海外事業収益を上げ、現在では中国やインド、トルコ、エジプト、バングラデシュなど11か国で34基の原子炉建設を手掛けています。

さらに、ロシアは原子力発電の燃料となるウランを生産する数少ない国でもあります。ソ連時代には核兵器計画の一環としてウランの採掘を進め、2022年には世界全体のウラン生産量の約5%を占める2508トンを生産しました。また、ロシアはすぐれたウラン濃縮技術も持っています。自然界に存在するウランは、燃料に必要なウラン235を約0.7%ほどしか持っていません。原子力発電所で使用するためには、これを約3~5%に濃縮する必要があります。ロシアは、この濃縮技術に長けており、世界のウラン濃縮作業の約半分を担っています。

参照:世界への影響力を保つロシアの原子力産業:なぜ欧州は制裁できないのか?

まとめ

この記事では、原子力について解説をしました。原子力は、二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーではあるものの、再生可能エネルギーの仲間ではありません。原子力は、ウランを燃料として発電が可能です。原子力発電には、二酸化炭素を排出しない他、発電コストが安いという利点があります。しかし、大きな事故のリスクや燃料処理の問題などの課題も残されています。

福島第一原子力発電所における事故があったにも関わらず、日本が原子力を利用し続けているのには理由があります。脱炭素社会を実現させるためです。その実現には、中小企業の協力が欠かせません。そこで、自社の二酸化炭素排出量を調べるところから、脱炭素化の取り組みを行ってみてはいかがでしょうか。下記サイトより、無料で排出量の計算が可能です。ぜひお試しください。

参照:タンソチェック【公式】 – CO2排出量測定削減サービス

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。