近年、中小企業にも低炭素化の取り組みが求められるようになりました。しかし、取り組みがなかなか上手くいかず、削減目標を達成できない企業が多いのも事実です。そこで注目を集めているのがグリーン電力証書です。企業は、グリーン電力証書を購入することで、削減しきれなかった炭素量を相殺できます。つまり、削減目標を達成できたと公言できるようになります。
しかし、グリーン電力証書に係る費用をどのように会計処理すればいいのかよく分からない方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、グリーン電力証書の会計処理について、東京都の事例とともに分かりやすく解説をしていきます。ぜひ最後までご覧ください。
グリーン電力とは?
まずはグリーン電力について、簡単に説明いたします。
グリーン電力
グリーン電力とは、自然の力を使って電気を作ることを指します。具体的には、太陽光や風の力、木や廃棄物を燃やすバイオマス、川や滝の流れる水、マグマなどの地熱を使って電気を生成します。これらのエネルギー源は「再生可能エネルギー」とも呼ばれます。なぜなら、これらの資源は使い果たしてしまうことがなく、何度でも利用できるためです。
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さらに、グリーン電力の特徴として、電気を作る際に出るガスが地球温暖化の原因になりにくいことが挙げられます。例えば、化石燃料を使って電気を作るときには多くの二酸化炭素が出ますが、グリーン電力の場合はほとんど出ません。そのため、地球や私たちの生活環境を守るのに役立っています。
グリーン電力証書
グリーン電力とは、再生可能エネルギーを使って作った電気のことです。この電気はただの電気とは違い、「環境にやさしい」という特別な価値(環境価値)があります。なぜなら、化石燃料の使用を減らしたり、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を削減したりするからです。
この環境価値を、紙の証書として売買することができるのが「グリーン電力証書」です。例えば、企業がこの証書を買うと、お金はグリーン電力を作る事業者の手に渡り、再生可能エネルギーの普及を後押しします。そして、その企業は「私たちの使っている電気は、環境にやさしい電気だ」と公言できます。
ただ、注意点として、この証書に記載されているのは、電気を使ってしまった後の環境価値だけです。そして、このシステムの透明性を保つために、どの発電設備がグリーン電力の基準を満たしているのか、また証書は正しく発行されているのかのチェックは、第三者機関が行っています。
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グリーン電力の会計処理は?
会計処理
そもそも会計処理とは、会社や組織のお金の動き(収入や支出など)をきちんと記録し、整理することです。この記録や整理の方法には、決められたルールや基準があり、それに従って行わなければなりません。例えば、次のような流れで会計処理を行います。
- 取引の発生
- 取引の記録
- 帳簿への記載
- 財務諸表の作成
取引の発生
会社が商品を売った、給料を支払った、原材料を買ったなど、お金の動き(取引)が発生します。
取引の記録
このお金の動きを「伝票」というものに記入します。これは、お金の動きの証拠となるものです。
帳簿への記載
伝票に基づき、取引を「日記帳」と「総勘定帳」という帳簿に記載します。日記帳は、取引が発生した日付順に記録する帳簿のことです。一方、総勘定帳は、取引の内容ごと(現金、売上、給料など)にまとめて記録する帳簿を指します。
財務諸表の作成
総勘定帳の内容を基に、会社のお金の状況や結果を示す「財務諸表」を作成します。主なものに「損益計算書」や「貸借対照表(バランスシート)」があります。会計処理を行うことで、会社のお金の動きや状態が正確にわかるようになります。これによって、経営者は適切な経営判断を下すための情報を得ることができます。さらに、株主や取引先、銀行など、外部の人々も会社の財務状態が理解できるため、会計処理は大切なのです。
グリーン電力証書の会計処理
ここからは、グリーン電力証書の会計処理について説明をしていきます。グリーン電力証書は、再生可能エネルギーの電力を発電した証明として取得するものですが、転売することは基本的にできません。そのため、資産としての価値は持たず、購入した時点で「費用」として計上します。
グリーン電力証書は、CSR活動(企業が行う社会貢献活動)の一環として企業が取得した場合、販売管理費として計上します。税務上では、「寄付金」として処理されることが多いのですが、RE100のような大きな取り組みに参加すると、支出が増加し、寄付金の枠を超えるリスクがあります。この超過分を製造原価として計上し、損金として算入するためには、この支出がビジネスの継続に不可欠だと示す必要があります。
また、東京都の排出量取引制度を利用する際は、特定のガイドラインに従って会計処理と税務処理を行う必要があります。
グリーン電力証書の会計処理の実例は?
グリーン電力証書の会計処理について、東京都の排出量取引制度を例に解説します。
排出量取引制度の概要
まずは排出量取引制度の概要について簡単に説明します。東京都は、平成20年7月に温室効果ガスの排出総量削減と排出量取引制度を導入しました。「削減義務者」と呼ばれる特定の事業所は、一定期間内に温室効果ガスの排出量を削減する義務があります。この排出量にはノルマのようなものがあり、期限内にそのノルマを達成できなかった場合、罰金などのペナルティが適用されます。
削減義務者は、基本的に設備の更新やエネルギー節約策などで排出量の削減を行っています。また、実際の排出量が設定された上限より少ない場合、東京都からその差分の量だけのクレジットをもらえます。このクレジットは「超過削減量(クレジット)」と呼ばれ、他の人や企業に売ることができます。
一方、実際の排出量が設定された上限を超えてしまった場合は、他の人や企業から「超過削減量」や「再エネクレジット」などを購入して、自らの削減義務を満たすことが可能です。このクレジットの取引が、排出量取引と呼ばれるものです。ちなみに「再エネクレジット」とは、環境にやさしいという電気の価値を削減した二酸化炭素量に変換したクレジットのことです。グリーン電力証書は、これに該当します。
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超過削減量(クレジット)の会計処理
超過削減量の取得に係る会計処理
法人税に関しては、削減義務の達成者が東京都から直接取得したクレジットは、対価の支払いがないため、特別な税務処理は不要です。しかし、他の人や企業からクレジットを取得する場合、取得に要した費用を「無形固定資産」や「棚卸資産」として計上します。
消費税の観点から、直接東京都から取得したクレジットは課税の対象外です。しかし、他の人や企業からのクレジット取得は、課税仕入れとして取り扱われます。この場合、取得した日が課税仕入れの日とみなされます。特定の削減義務者や取引参加者が課税仕入れを行う場合の用途区分は、該当日の状況に基づいて決定されます。
超過削減量の償却に係る会計処理
法人税の面では、超過削減量(クレジット)の移転は、削減義務の履行として行われます。削減義務者が他から取得したクレジットを義務の充当のために移転する行為は、その業務を実施するために必要なものとされています。そのため、クレジットを移転する際の帳簿価額は、その年度の「販売費及び一般管理費」などとして損金に算入されます。
一方、消費税の観点からは、クレジットの移転によって削減義務者が何らかの給付を受けるわけではありません。つまり、資産の譲渡などの課税対象とは見なされないため、消費税の処理は不要です。
超過削減量の売却に係る会計処理
削減義務者や取引参加者は、保有する超過削減量(クレジット)を自由に売却できますが、東京都は価格を決定する役割は持ちません。
法人税の面では、自ら東京都からクレジットを受け取ったものを売却する場合や他者から取得したクレジットを売却する場合、共に「無形固定資産」や「棚卸資産」として扱います。売却から生じる利益や損失は、確定日を含む事業年度の益金または損金として計上します。自ら受け取ったクレジットの売却時の原価は0円とされ、他者から取得したクレジットの売却時の原価は、帳簿価額とみなされます。
消費税の観点からは、クレジットの売却は資産の譲渡として認識されるため、消費税の課税対象となります。
再エネクレジットの会計処理
再エネクレジットの取得に係る会計処理
削減義務者は、公益財団法人東京都環境公社からグリーン電力証書を取得し、グリーン電力証書を東京都に提出することで再エネクレジットを得ることができます。グリーン電力証書の取得時には、削減義務者は支出した金額を仮払金として計上します。一方、消費税に関しては、再エネクレジットの取得とは別に、金額の支出は課税対象とはなりません。
再エネクレジットの取得時には、削減義務者は仮払金として計上した金額を「無形固定資産」や「棚卸資産」として計上します。消費税上は、再エネクレジットが資産として認識され、削減義務者の取得日が課税仕入れとなります。このクレジットの使用方法によって、消費税の用途区分が異なり、自己の削減義務の履行の場合は事業内容に基づき、他者への売却の場合は、課税資産の譲渡として扱われます。
再エネクレジットの償却に係る会計処理
再エネクレジットの償却に関して、法人税と消費税の取り扱いは、超過削減量の償却と同じ方法で行います。法人税においては、再エネクレジットの移転は、特定の法律や条例に基づいて削減義務の履行として行われます。削減義務者が他者からクレジットを取得し、それを義務の達成のために使用することは、ビジネス運営の一環として必要です。そのため、このクレジットの移転時にかかる費用は、当該年度の「販売費及び一般管理費」の一部として損金として計上されます。
消費税の側面から見ると、再エネクレジットの移転で削減義務者が何か特定の利益を得るわけではないので、これは消費税の対象外です。つまり、消費税の特別な手続きや計算は必要ありません。
再エネクレジットの売却に係る会計処理
再エネクレジットの売却も、超過削減量の売却と同じ方法で処理されます。法人税に関しては、クレジットの売却時、それが自分で直接受け取ったものか、他の人から購入したものかに関わらず、それは「無形固定資産」や「棚卸資産」として計上されます。売却による利益や損失は、その年度の収益または損失として記録されます。自分で取得したクレジットの原価は0円、他の人から購入したクレジットの原価は、帳簿上の価格として扱われます。
一方、消費税の側面からは、クレジットの売却は資産の移動とみなされるので、それは消費税の対象となります。
参照:別紙 東京都条例に基づく排出削減義務制度における排出量取引に係る税務上の取扱いについて(照会)
まとめ
グリーン電力証書の会計処理について解説をしてきました。その内容を表にまとめましたので、ご覧ください。
項目 | 法人税の取り扱い | 消費税の取り扱い |
---|---|---|
グリーン電力証書取得 | 仮払金として計上 | 処理なし |
再エネクレジット取得 (東京都から) | ※仮払金を無形固定資産として計上 | 課税仕入れ |
自社使用 (再エネクレジットの移転時) | 「販売費及び一般管理費」等として損金計上 | 処理なし |
第三者へ売却 | 無形固定資産の売却として計上 | 課税売上げ |
参照:別紙 東京都条例に基づく排出削減義務制度における排出量取引に係る税務上の取扱いについて(照会)
グリーン電力証書の購入などを含め、さまざまな中小企業が低炭素社会に向けて行動を起こしています。あなたの企業でも、炭素排出量の削減に取り組んでみてはいかがでしょうか。まずは、二酸化炭素の排出量を調べることをおすすめします。下記リンクから簡単に、そして無料に排出量を調べることができますので、ご活用ください。
参照:タンソチェック【公式】 – CO2排出量測定削減サービス
著者のプロフィール
- 小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。