気候変動と環境への影響を軽減するため、世界中で環境にやさしいエネルギーの利用が進められています。日本も2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする目標を立て、環境にやさしいエネルギーへの転換を積極的に行っている最中です。地球温暖化の深刻化にともない、大量の二酸化炭素を排出する火力発電の削減が必要となったからです。

さまざまな企業にも、従来の化石燃料から環境にやさしいエネルギーへの移行が求められています。それを実現するため活動として人気が高いのは、「グリーン電力」の活用です。この記事では、グリーン電力の概要と、どうやってグリーン電力を調達するのか、また、各調達方法のメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。グリーン電力導入の参考になれば幸いです。

グリーン電力とは?

グリーン電力とは、環境にやさしい再生可能なエネルギー源から生み出される電力のことを指します。再生可能なエネルギー源とは、使っても尽きることがない自然の力のことです。これに対して、石油や石炭などの化石燃料は、採掘によって減少し、燃焼すると地球温暖化の最も大きな原因である二酸化炭素を大量に排出してしまいます。

つまり、化石燃料の使用は、地球温暖化につながってしまうのです。一方、グリーン電力は二酸化炭素をほとんど排出しないため、低炭素社会の実現を可能にするエネルギーとして注目されています。

再生可能エネルギー

再生可能エネルギーには、さまざまなタイプがあります。よく利用されているのは、太陽光、風力、水力、地熱、そしてバイオマス(生物由来の燃料)の5つです。これらのエネルギー源の特徴を下記の表にまとめましたので、ご覧ください。

エネルギー源発電方法と特徴
太陽光光電素子による発電、日射量に依存、騒音なし、日中のみ発電
風力風車と発電機の連動、風速・風車サイズ依存、天候の影響
水力水車による発電、水流・落差に依存、ダム環境負荷、既存水流利用は環境負荷低
地熱地下蒸気/熱水利用、温度・量に依存、天候影響少、2次利用可、掘削による環境破壊の懸念
バイオマス生物燃料による発電。燃料熱量に依存、CO2相殺、2次利用可、環境破壊の懸念
参照:電力調達ガイドブック 第5版(2022年版) 自然エネルギーを利用する発電方法と特徴

関連記事はこちら:再生可能エネルギーの課題とは?解決策も解説

グリーン電力の調達方法とは?

グリーン電力の調達方法は、主に3つあります。

  • 自家発電
  • 発電事業者から購入
  • 再生可能エネルギー由来の電力証書の購入

それぞれ解説します。

自家発電

自家発電は、自らが所有する土地や建物で発電設備を設置し、その電力を自家消費する方法です。日本での自家発電の主流は、設備の導入が容易な太陽光発電です。さらに近年、太陽光パネルの価格が下がり、コストも低減していることも理由として考えらえます。

具体的な導入例として、家具販売の大手イケア・ジャパンが全国の店舗の屋上で太陽光発電を実施しています。特に「IKEA 長久手」は、年間で標準家庭360世帯分の電力を供給できる規模です。この電力は店舗照明や電動フォークリフトに利用され、さらに来店客の電気自動車の無料充電サービスにも使用されています。

参照:電力調達ガイドブック 第5版(2022年版) 太陽光発電の電力を自家消費

発電事業者から購入

グリーン電力は、発電事業者から購入することも可能です。主に小売電気事業者から購入する場合と、特定の発電所から購入する場合があります。

小売電気事業者から購入

多くの企業や自治体が自然エネルギーを利用するため、小売電気事業者から自然エネルギー100%の電力を購入することが増えています。この電力には、主に3つのタイプがあります。

  • FIT対象の電力
  • FIT対象外の電力
  • 水力発電を中心とした電力

FITは、再生可能エネルギーの発電を普及させるために開始した固定価格買取制度です。政府は一定期間、電気事業者が再生可能エネルギー由来の電力を高値で買い取ることを義務づけています。そのため、再生可能エネルギーを利用して電力を作ることで、通常よりも高い利益が出るようになっています。

FIT 対象の電力

FIT電気は、FIT非化石証書(非化石燃料からの発電が行われたことを証明する証書)と組み合わせた形で多くの事業者が提供しています。FITによる発電量は増加する見込みで、証書の価格も下がってきました。実際、2021年11月の入札では、証書の最低価格が1.3円/kWhから0.3円/kWhに下がりました。

2021年度の入札では、前年度を上回る19億kWh以上のFIT非化石証書が取引されました。証書の最低価格の低減により、多くの人々が証書を手に入れやすくなったからです。しかし、発行される証書の全量に対して、取引される量は約3%です。そのため、しばらくは最低価格である0.3円/kWhで証書を購入することができる見込みとなっています。

FIT の対象外の電力

FITの対象外の電力とは、FITの対象とならない発電設備で生み出された電力のことです。20年以上前に運転を開始した設備や、FITの買取期間を終了した「卒FIT」と呼ばれる設備が含まれます。また、このような設備で発電したことを示す「非FIT非化石証書」の取引も2020年から行われています。大型の水力発電や、卒FITの住宅用太陽光発電、二酸化炭素を排出しない原子力発電がこれに該当します。

非FIT非化石証書は、再生可能エネルギーを示す「再エネ指定」とそれを示さない「再エネ指定なし」の2種類に分けられます。自然エネルギーの価値があるのは再エネ指定のみで、再エネ指定なしの証書は、主に原子力や廃プラスチックの熱を使用したバイオマス発電が対象です。多くの小売電気事業者は、卒FITの電力を通常の市場価格(年間平均で8円程度)で購入しています。

水力発電を中心とした電力

大手の電力会社は、水力発電を中心にした100%自然エネルギーを販売しています。例えば、東京電力エナジーパートナーが「アクアプレミアム」という企業や自治体向けの水力発電100%の電力販売を開始させました。大型の水力発電所が供給する電力は、2020年から非FIT非化石証書の対象となりました。2021年には、この証書の取引方法が新しい市場へと移行し、最低価格が0.6円/kWh、最高価格が1.3円/kWhになりました。

特定の発電設備から購入(コーポレートPPA)

コーポレートPPA(Power Purchase Agreement)は、企業や自治体が特定の発電設備から直接電力を長期契約で購入することを指します。再生可能エネルギーの発電コストが下がったことで、この手法が注目されてきました。また、FIP制度(Feed-in Premium)の導入により、発電事業者はコーポレートPPAのコストをさらに低減できる見込みです。これにより、企業や自治体はより安価に電力を購入することが期待されます。

FIP制度は、再生可能エネルギー由来の電力の市場価格に追加の報酬(プレミアム)を上乗せする新しい電力制度です。再生可能エネルギーで発電された電力して得られる金額(市場価格)に、政府や関連機関が定めたプレミアムが加算されます。このプレミアムが、再生可能エネルギーの発電事業者に与えられる追加の報酬となり、発電コストとのギャップを埋める役割を果たすと考えられています。

2つのコーポレートPPA

コーポレートPPAには、「オンサイトPPA」「オフサイトPPA」という2つの形態があります。オンサイトPPAは、電力を使用する場所の近くに発電設備が存在する場合に直接契約する方法です。一方、オフサイトPPAは、遠隔地にある発電設備から電力を使用する場所まで送電する方法です。

日本では、オフサイトPPAを利用する際に小売電気事業者を介する必要があります。この仲介は手数料がかかるものの、電力の需給調整などの業務を委託することで、業務効率の向上が期待されます。

再生可能エネルギー由来の電力証書の購入

再生可能エネルギー由来の電力証書は、企業や自治体が環境価値を購入することができる制度です。具体的に環境価値とは、温室効果ガスを削減や吸収しているなどが該当します。つまり、この証書を購入することで、再生可能エネルギーの電力を利用しているとみなされるのです。日本では、3種類の再生可能エネルギー由来の電力証書が存在します。

グリーン電力証書

2000年から始まった制度で、太陽光、風力、水力、地熱、バイオエネルギーの5種類の発電に適用されます。価格は事業者により異なり、大口購入者向けの標準的な価格は2~4円/kWhです。

関連記事はこちら:グリーン電力証書の購入方法とは?詳しく解説

J-クレジット(再エネ発電由来)

J-クレジット(再エネ発電由来)は、政府が運営する制度です。2020年度のJ-クレジット認証量は約10億kWhで、取引価格は平均で1kWhあたり1.17円です。

J-クレジットについては、こちらの記事で詳しく解説をしています。あわせてご覧ください。

関連記事はこちら:Jクレジットをわかりやすく解説! 脱炭素と気候変動対策に向けた重要な仕組み

FIT非化石証書

FIT非化石証書は、非化石燃料を利用して発電が行われたことを証明するものです。2021年11月から新しく購入可能になった新しい証書で、最低価格が0.3円/kWhです。

各グリーン電力調達方法のメリット・デメリットとは?

ここからは、各グリーン電力調達方法のメリット・デメリットを紹介します。まずはメリットからです。

各グリーン電力調達方法のメリット

自家発電

自家発電の最大のメリットは、発電コストの削減できる点です。今後、電力を購入するよりもコストを抑えられる可能性すらあります。2030年までに太陽光発電のコストは、1kWhあたり5円台に低下すると予想されているからです。また、建物の屋上に太陽光パネルを設置することができる場合は、土地購入や造成費が不要なので、さらなるコスト削減も可能です。

さらに、自家発電の場合は、電力会社の送配電ネットワークの使用料や再エネ賦課金がかからないため、これも経済的なメリットにつながります。

発電事業者から購入

発電事業者からグリーン電力を調達には、2つのメリットがあります。1つは通常の電力とほぼ同じ価格でグリーン電力を購入することができる点、もう1つは長期にわたってグリーン電力を購入できる点です。1つのメリットは、小売電気事業者からFIT対象外の電力を購入すれば、通常の電力とほぼ同じ価格での取得が可能な点です。さらに、各地域の発電所の電力を利用すると、収益の一部が地域に還元されるため、地域貢献もできます。

もう1つのメリットは、特定の発電設備から購入する場合、長期間、固定価格でエネルギーを購入できることです。これにより、将来の電気料金の上昇リスクを軽減し、早期に二酸化炭素の排出量を削減することができます。

再生可能エネルギー由来の電力証書の購入

再生可能エネルギー由来の電力証書を購入し、グリーン電力を調達する最大のメリットは、二酸化炭素排出量の削減報告が可能になる点です。つまり、企業が自治体がこの証書を購入することで、実際は再生エネルギーを使用していないのに、使用したときと同様の高い評価を得られるということです。

各グリーン電力調達方法のデメリット

自家発電

自家発電は、初期投資や設備運用が必要になるデメリットがあります。また、突発的な故障や事故のリスクもあります。これを避けるために、多くの企業は、外部事業者に運用を委託する「オンサイト PPA」を選ぶようになりました。さらに、再生可能エネルギー、特に太陽光を利用した発電では、日中に発電した電力が消費されずに余ってしまう場合もあります。

発電事業者から購入

小売発電事業者は、FITの対象外の電力の販売も行っています。このとき、FIT非化石証書が利用されている場面が多いです。FIT非化石証書においては、発電方法や発電施設の位置などの詳細が明らかにされないため、詳しい情報を求める企業や自治体には不向きです。加えて、購入対象の発電所が古い場合もあるため、その環境への影響や新設設備を求める企業には適さないかもしれません。

また、特定の発電事業者から購入するコーポレートPPAの場合、特にオフサイトPPAでは、購入する電力の単価が通常の電気料金よりも高くなることがデメリットとして挙げられます。ただし、政府の補助金を活用することで、このコスト差は縮小できる可能性があります。

再生可能エネルギー由来の電力証書の購入

再生可能エネルギー由来の電力証書の購入は、物理的な電力の供給を示すものではありません。つまり、証書を購入しても、実際にはグリーン電力を利用しているわけではないのです。そのため、証書を購入するだけでは環境対策としては不十分という批判の声もあります。

まとめ

グリーン電力調達方法について詳しく解説してきました。その内容を下記の表にまとめましたので、ご覧ください。

調達方法概要メリットデメリット
自家発電自家の自然エネルギー設備で発電初期投資後の低コスト利用、環境負荷の把握初期投資、故障・事故リスク
発電事業者から購入(小売電気事業者)100%自然エネルギー電力購入短・長期間の購入可能、調達量と予算に基づく選択、特定設備の少なさ、高価
発電事業者から購入(コーポレートPPA)長期契約での自然エネルギー電力購入固定価格長期調達、環境負荷の把握長期契約のリスク
再生可能エネルギー由来の電力証書の購入環境価値を証書で購入電力購入と独立、発電設備特定可能(証書種類依存)追加費用、一部批判の対象
参照:電力調達ガイドブック 第5版(2022年版) 自然エネルギーの電力を調達する主な方法と特徴

グリーン電力調達方法には、それぞれにメリット・デメリットがあります。特に電力をよく利用する企業や自治体は、1つの方法だけですべての電力を調達するのは困難です。複数の調達方法を組み合わせ、計画的に電力を調達するといいでしょう。

再生可能エネルギーの活用やグリーン電力への移行は、これからの時代に不可欠です。しかし、高額な初期投資が必要になるため、「すぐに行動を起こすのは難しい」と感じている方もいいかもしれません。そこで、まずは自社の二酸化炭素排出量を知ることから始めませんか。以下のリンクでは、排出量を簡単かつ無料で計算できます。ぜひ、今すぐ確認して、環境への取り組みの第一歩としてみてください。

参照:タンソチェック【公式】 -CO2排出量算定削減サービス

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。