省エネ法が、2023年に大きく改正されたことをご存知でしょうか。この改正は、エネルギーをさらに効率的に使用するために行われました。日本の省エネ活動を新たな段階に進めるものとして、多くの事業者や業界関係者の注目を集めています。この記事では、省エネ法の概要と今回の改正点について詳しく解説します。これからのエネルギーの取り扱いにどのような変化が生じるのか、どのような対応が求められるのか、この機会に詳しく知っておくことをおすすめします。
省エネ法とは?
省エネ法の概要
「省エネ法」と呼ばれる法律は、正式には「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」という名前を持ちます。1979年に日本で制定され、国内のエネルギー政策の中心的な役割を果たしてきました。省エネ法の目的は、原油換算で1,500kl/年以上のエネルギーを使用する事業者に対して、どれほどのエネルギーを使用しているのかを定期的に報告させることです。この報告を基に、政府はエネルギー利用の方針を見直しています。
省エネ法の制定の背景には、1973年と1979年に発生した「オイルショック」という石油危機があります。このオイルショックは、主要な石油産出国が石油の供給を制限したことによって引き起こされたもので、石油への依存度が高かった日本は大きな混乱に見舞われました。電気やガソリンの供給が不安定となり、生活やビジネスに大きな影響をもたらしました。このような経験から、エネルギーを効率よく使い、依存を減らすことの重要性が強く認識された結果、省エネ法が制定されたのです。
しかし、時代が変わり、技術や社会の状況も常に変化し続けています。それに対応するために、省エネ法も何度も改正されてきました。これは、日本のエネルギー戦略を常に最適化し、持続可能な社会の実現を目指すためです。どのように改正されてきたのかについては、こちらの表をご覧ください。
省エネ法の改正歴と内容
西暦 | 概要・改正点 |
---|---|
1947 | ・石油と重油分野で熱管理法が制定 |
1979 | ・省エネ法が制定 ・熱、電気エネルギーにおける管理指定工場を指定 ・住宅、建築分野、機械器具分野における判断基準を制定 |
1993 | ・基本方針を決定・定期報告の制度を導入(原単位で年間1%以上の改善が努力目標)・住宅を除く特定建築物の新築や増改築時の指示や公表を対象化 |
1998 | ・エネルギー管理指定工場の追加・機械器具や自動車分野で※トップランナー制度を導入 |
2002 | ・業務部門、事業場における定期報告を導入・住宅を除く特定建築物の省エネ措置の提出を義務化 |
2005 | ・熱と電気の一体管理化・輸送分野における規制対象を拡大・特定建築物に住宅を追加・大規模修繕の追加 など |
2008 | ・事業者単位の導入・セクター別の※ベンチマーク制度の導入・特定建築物の規制を強化・住宅事業建築主の性能を向上、努力義務を追加 |
2013 | ・需要家の電力ピーク対策の実施・建築材料などにもトップランナー制度を導入 |
2015 | ・建築物省エネ法の公布・省エネ基準適合を義務化 |
2018 | ・連携省エネルギー計画の認定・認定管理統括事業者の認定 など |
2023 | ・エネルギー種に非化石エネルギーの追加・電気需要の最適化 など |
※ベンチマーク制度……特定の分野や業界の平均的な性能やエネルギーの効率を基準(ベンチマーク)として、企業や製品の性能を評価・比較する制度。効率や品質の向上を促進するねらいがある。
参照:省エネ大国・ニッポン ~省エネ政策はなぜ始まった?そして、今求められている取り組みとは?~ 省エネ法の歴史
参照:省エネ法が変わります
省エネ法の対象事業者
省エネ法では、大きく分けて下記の5つ分野に携わる事業者を対象にしています。
事業者 | 詳細 |
---|---|
工場や事業場 | 製品を作ったり、サービスを提供したりする事業者 |
輸送事業者 | トラックや列車、船などを使って物品を運ぶ事業者 |
荷主 | 物品の所有者や送り主で、輸送事業者に運搬を依頼する事業者 |
機械器具の製造・輸入事業者 | 家電や機械などを作ったり、他国から日本へ持ち込む事業者 |
エネルギー小売事業者 | 家庭や企業などにエネルギーを販売する事業者 |
これらの事業者は、法律に基づきエネルギーを節約するような取り組みを進めることが求められています。特に、大量のエネルギーを使用する事業者には、毎年その使用状況を国に報告する義務があります(定期報告)。この定期報告によって、政府はエネルギーの効率的な利用状況を把握し、より良いエネルギー政策を策定することができます。
定期報告については、こちらの記事で詳しく解説をしています。あわせてご覧ください。
関連記事はこちら:省エネ法における定期報告とは?概要と記載内容も解説
省エネ法は、工場や事務所のような事業場と、運輸分野を直接規制(特定の行動や活動に対して明確な制限や命令を設ける手法で、違反時には罰則がある)の対象としています。これらの場所で働く人たちや、物品を輸送する事業者、または物品の輸送を依頼する人々(荷主)は、省エネ活動を行わなければなりません。
そして、ある程度大きな規模の事業者は、どれだけエネルギーを使用したか、どのようにエネルギーを節約したかなどの情報を、毎年、政府に報告する義務があります。もし、省エネ活動が十分でないと判断される場合、政府からアドバイスや指示が与えられます。
さらに、省エネ法は、自動車や家電製品、建築材料のような商品を作ったり、日本に輸入したりする事業者を間接規制(目的の行動を促すために報奨金や罰則を与える手法)の対象としています。政府から理想的なエネルギー効率の基準が示されるので、事業者はこの基準に合わせて商品を製造や輸入する必要があります。その基準を満たしていない場合、向上のためのアドバイスや勧告が行われることもあります。
2023年4月の省エネ法の改正点とは?
省エネ法は、2023年4月に改正されました。今回の改正によって、何が変更になったのでしょうか。詳しく解説していきます。
エネルギー使用の合理化
省エネ法は、以前は主に化石エネルギー(石油や石炭など)の合理的な使用を中心に定めていました。しかし、今回の改正をもって、非化石エネルギー(太陽光や風力、水力などの再生可能エネルギー)も報告の対象となりました。つまり、「電力には再生可能エネルギーを利用しているから、節約なんて考えずにガンガン使おう!」という考え方が通用しなくなったと言えます。
非化石エネルギーが報告対象に含まれるようになったため、報告に備えて、次のような対策を取る必要があります。
- 非化石エネルギーのどれだけ使用しているのか、その詳細をしっかりと把握する。
- その使用状況を定期的に公的な機関に報告するためのシステムや手続きを整備する。
- 今後、どれだけ非化石エネルギーを導入・利用するかの計画を立てる。
事前に準備を進めることができれば、報告時に焦って仕事をすることはなくなります。早めの対応を心がけましょう。
非化石エネルギーへの転換
まずは、非化石エネルギーについて簡単に説明します。非化石エネルギーとは、再生可能エネルギーなど、化石燃料に頼らないエネルギーのことです。また、エネルギーの使用時に二酸化炭素が排出されないことから、環境にやさしいと考えられています。
新しい方針として、特定の事業者たちは、この非化石エネルギーをどれだけ使用するか、といった計画の作成が求められるようになります。さらに、実際に非化石エネルギーを利用している場合、どれだけ非化石エネルギーを利用しているかを定期的に報告しなければなりません。
加えて、政府が非化石エネルギーの使用量に関する目安や基準を設ける可能性もあります。その場合、設けられた基準に従って、各事業者は自社の非化石エネルギー利用の目標を設定することになるでしょう。
関連記事はこちら:再生可能エネルギー100%とは?企業が導入するメリット・デメリットを解説
関連記事はこちら:再生可能エネルギーを導入している企業の取り組みについて解説
電気需要の最適化
電気需要の最適化とは、電力の使用量を増やすか減らすかの調整を行うことです。これを「デマンドレスポンス(DR)」と呼びます。具体的には、電力の使用量を増やす取り組みを「上げDR」と言い、逆に減らす取り組みを「下げDR」と言います。これは、電力供給の状況や時期によって、適切な量の電力を利用するための方法です。
そして、新しい方針として、事業者はこの「上げDR」や「下げDR」の具体的な取り組み内容やその成果を定期的に報告する必要が出てきました。事業者は、その報告に向けて、いくつかの対策を進めておくといいかもしれません。例えば、電力の使用状況をリアルタイムで監視するためのモニタリングシステムの導入したり、電力の使用量を自動的に調整する制御システムを設置したりなどが挙げられます。これらのシステムにより、定期報告が可能となることに加え、電力の使用がより効率的かつ環境に優しいものとなると考えられます。
ベンチマーク制度の拡充
ベンチマーク制度とは、各事業者のエネルギー使用の効率を業界共通の指標を用いて評価し、省エネの努力を促す仕組みです。2022年度から、この制度の対象として新しく「石炭火力供給業」、「データセンター業」、「圧縮ガス・液化ガス製造業」が加わりました。これらの業界もエネルギー消費が大きく、さらなる効率化の取り組みが求められるようになったためだと思われます。
さらに、ソーダ工業におけるエネルギーの使用効率の目標も新しく見直されました。結果的に、目標はより厳しいものになりました。これは、ソーダ工業のエネルギー使用の現状や技術の進展を考慮した結果だと考えられます。
これらの変更に該当する事業者は、自社のエネルギー使用の効率をしっかりと確認する必要があります。そして、効率を向上させるための新しい技術の導入や、現行のエネルギー使用方法の見直しを進めることが求められるでしょう。ベンチマーク制度により、高い評価を受けた場合は、企業名が経済産業省のホームページに記載されます。これにより、企業価値は大きく向上するため、投資家からの投資額が増えるなどのメリットが考えられます。
参照:省エネ法の改正
まとめ
省エネ法、正式には「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」は、エネルギー使用の効率化と環境への配慮を促進するための法律です。特に、原油換算で年間1,500kl以上のエネルギーを使用する事業者には、その取り組み状況を定期的に報告する義務があります。この報告義務は、エネルギーの無駄遣いを防ぎ、事業者に持続可能なエネルギー利用を意識させるためのものです。
しかし、この報告義務は、単なる厄介事ではありません。事業者側にもメリットがあります。報告後は、専門家のアドバイスを受けることができます。そのアドバイスを上手く活かして、省エネ活動の品質や企業の信頼性を向上させるチャンスと捉えることもできるでしょう。
省エネ法は、2023年4月に改正されました。改正点は、次の4点です。
- エネルギー使用の合理化
- 非化石エネルギーへの積極的な転換
- 電気の使用の最適化
- ベンチマーク制度の拡大
特筆すべきは、非化石エネルギーへの転換に関する改正です。これまで非化石エネルギーは報告の対象外でしたが、現在は非化石エネルギーも含まれます。再生可能エネルギーの利用を推進しつつ、その適切な使用が求められるようになったのです。非化石エネルギーを適切に使用しない場合、法的な罰則が科される可能性があるので、注意しましょう。
中小企業でも実施できる省エネ策として、再生可能エネルギーの利用はもちろん、二酸化炭素排出量の算定が挙げられます。弊社では、この排出量を計算する無料サービスを提供しており、多くの方々から環境対策のお手伝いをさせていただいております。よろしければ、ぜひご活用ください。
参照:タンソチェック【公式】 -CO2排出量算定削減サービス
著者のプロフィール
- 小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。