突然ですが、「低炭素社会」という言葉を聞いたことはありますでしょうか。低炭素社会は、地球温暖化の原因となる二酸化炭素や温室効果ガスの排出を削減し、持続可能な環境を実現する社会のことを指します。低炭素社会の実現のために、気候変動の影響を最小限に抑えるための国際的な合意や、企業の社会的責任としての取り組みが行われています。多くの企業は、環境負荷の軽減やリソースの効率的な使用を戦略的に進めることで、競争力の向上やブランド価値の強化を目指しています。

この記事では、低炭素社会の具体的な意味や、企業がどのように低炭素化に取り組んでいるのかを詳しく解説します。環境への関心が高まる今、企業のこういった取り組みは、小支社など外部からの評価を大きく左右することになるでしょう。ぜひ、取り組みの参考にしてください。

低炭素社会とは?

低炭素社会とは、人間の活動によって排出される炭素を大きく減らそうとする取り組みを行う社会のことです。炭素、特に二酸化炭素は、地球の気温を上昇させ、異常気象などの問題を引き起こすと言われています。それを防ぐために、炭素を減らそうと世界的にさまざまな活動が行われているのです。

では、低炭素社会を実現させるためにはどうすればいいのでしょうか。さまざまな方法がありますが、代表的なものは、太陽や風といった自然エネルギーの活用や、エネルギーを効率よく使うことです。

企業が行っている低炭素社会に向けた取り組みとは?

ここからは、企業が低炭素社会を実現させるために行っている取り組みについて詳しく解説をしていきます。今回お話するのは、次の5点です。

  • 火力発電の低炭素化
  • 再生可能エネルギーの利用
  • エネルギーミックスの導入
  • カーボン・オフセットの活用
  • 省エネ活動

それぞれ詳しく見ていきましょう。

火力発電の低炭素化

火力発電は現在、日本の電源の大部分(約70%)を占めています。その理由は、再生可能エネルギーが天候に左右される一方、火力発電は安定して電気を供給できるからです。2030年のエネルギーミックスの見通しでも、LNG火力、石炭火力、石油火力が大きな割合を占めることが示されています。

引用:さまざまなエネルギーの低炭素化に向けた取り組み 次世代火力発電技術の高効率化、低炭素化の見通し

しかし、火力発電は二酸化炭素の排出が多いため、その低炭素化が重要です。火力発電は、燃料を燃やして蒸気タービンを回して電気を作る原理ですが、その効率を上げることで燃料の使用を減らし、二酸化炭素の排出を抑えることができます。最新の高効率技術には、超々臨界圧発電方式やコンバインド・サイクル発電、石炭ガス化複合発電などがあります。これらの技術の導入と進化により、火力発電のさらなる低炭素化が期待されています。

導入事例:関西電力

関西電力は、火力発電の効率を高めて二酸化炭素排出量を減少させるための新しい方法として、コンバインド・サイクル発電方式を採用しています。コンバインド・サイクル発電方式では、燃料を燃やした際に発生する燃焼ガスでガスタービンを駆動し、その後、このガスの排出によって生じる熱を再利用して蒸気を生成、それを使って蒸気タービンを動かします。これにより、熱を2回利用できるため、燃料の使用量が減少し、二酸化炭素の排出も削減されるのです。

関西電力は、この新技術の導入を積極的に進めており、堺港発電所では2009年に1号機、2号機がコンバインド・サイクル発電を開始し、2010年までには5号機もこの方式での発電を開始しました。その結果、堺港発電所の熱効率は約41%から驚異的な約58%へと大幅にアップしました。

さらに、関西電力の最大の発電所である姫路第二発電所でも、この新しい発電方式を導入しました。その結果、熱効率が約42%から約60%へと向上し、二酸化炭素排出量も約30%削減できるようになりました。2013年から、新しいシステムの運転が開始され、2015年には6基の設備更新を行いました。

参照:火力発電

再生可能エネルギーの利用

再生可能エネルギーは、太陽、風、地熱、水、植物などの自然から得られる持続可能なエネルギーのことを指します。これらのエネルギーは無尽蔵にあるため、化石燃料のように枯渇の心配がありません。近年、地球温暖化の問題や化石燃料の減少に伴い、環境への負担が少ない再生可能エネルギーの利用が増えてきました。特に、太陽や風を使った発電は二酸化炭素排出がほとんどない。ただし、これらのエネルギー源は天気や季節に影響されやすいという課題がありますが、技術の向上で解決に向かっています。

関連記事はこちら:再生可能エネルギーの課題とは?解決策も解説

導入事例:コープこうべ 廃棄物処理施設(バイオマス発電)

「コープこうべ 廃棄物処理施設」は、通常捨てられてしまう食品の廃棄物や排水処理施設の汚泥といったバイオマスをうまく活用する革新的な方法を取り入れています。具体的には、このような生ゴミや汚泥を特定の方法で発酵させることで、メタンガスを生産します。そして、このガスをエネルギー源として発電に使用します。

この手法により、ゴミや汚泥といったものからエネルギーを有効に取り出し、施設内でのエネルギー供給に役立てています。このようなアプローチは、私たちが目指す低炭素・持続可能な社会の形成において、有望なエネルギー利用方法として注目されています。

参照:バイオマス発電

エネルギーミックスの導入

エネルギーミックスとは、電気を供給する際、複数の発電方法を組み合わせることです。現状、電力供給は化石燃料への依存が高いです。そのため、化石燃料だけではなく、再生可能エネルギーもあわせて使用し、少しでも二酸化炭素の排出量を抑えることが大切となっています。

日本では、第6次エネルギー基本計画において、再生可能エネルギーの使用割合を36~38%とするなどの具体的な目標が掲げられています。しかし、2022年のデータと比較すると、目標はまだ達成されていない状態です。そのため、今後も再生可能エネルギーの増設や新技術の開発、そして化石燃料の使用規制を強化するなど、積極的な取り組みが進められていくと考えられます。

導入事例:株式会社リコー

株式会社リコーは、2030年度の再生可能エネルギー使用比率の目標を、以前の30%から50%に増やすことを決定しました。また、2023年3月までの再エネ使用比率の目標を30%と設定し、目標の達成を8年前倒しで進める方針を示しました。海外の主要な拠点では、2030年度までに使用電力の100%を再エネ化する目指しており、国内の拠点でも再エネの使用率と質を向上させるための新たな制度を導入します。

この新しい制度は、価格だけでなく、電源の新規性や環境負荷の低さ、地域社会の参加などを総合的に評価するものです。中国における株式会社リコーの拠点も2021年度中に全電力を再エネ化するなど、国内外での再エネの取り組みを強化しています。

株式会社リコーは、2017年にRE100に参加し、2020年には温室効果ガスの削減目標を大幅に引き上げました。このように株式会社リコーは、気候変動という大きな社会的課題に取り組みつつ、継続的な省エネ活動と再エネの利用を進め、脱炭素社会の実現に努力しています。

参照:リコー、再生可能エネルギー使用率の2030年度目標を50%に引き上げ

カーボン・オフセットの活用

温室効果ガスの排出を完全にゼロにするのは難しいため、「カーボン・オフセット」という考え方が注目されています。これは、排出した二酸化炭素を削減や吸収の活動で相殺(オフセット)するという考え方のことです。具体的には、二酸化炭素の吸収や削減量を表すクレジットを購入することで、購入した分の二酸化炭素排出を相殺できる仕組みとなっています。その購入金は、二酸化炭素をさらに削減・吸収するための活動資金として使用されます。

関連記事はこちら:カーボンニュートラルとカーボンオフセットの違いとは?両者それぞれ解説

導入事例:株式会社キヤノン

株式会社キヤノンは、地球温暖化防止に貢献する目的でカーボン・オフセットの取り組みを進めています。国が認証する「J-クレジット制度」を活用することで、二酸化炭素の削減活動、例えば、森林保全や企業の省エネ活動をサポートしています。

キヤノンのカーボン・オフセットの実施には、製品のライフサイクル全体での二酸化炭素排出量の正確な把握が不可欠です。このため、1992年からライフサイクルアセスメントを活用し、オフィス向けの複合機などで排出量を「見える化」しています。これを基に、カーボンフットプリント宣言認定を取得し、情報を公開しています。キヤノンはこの取り組みをもとに、製品全体の二酸化炭素排出をオフセットすることができるようになりました。

具体的には、カーボンフットプリント(CFP)という仕組みを使用して製品やサービスのライフサイクル全体の環境影響を「見える化」しており、カーボン・オフセットの対象製品の認証には経済産業省が推進する制度を利用しています。また、カーボン・オフセットの実施自体はJ-クレジット制度を通じて行っています。

参照:キヤノンのカーボン・オフセットの取り組み

関連記事はこちら:日本独自の「Jクレジット制度」その種類とは?

省エネ活動

省エネ活動とは、エネルギーを効率よく利用する取り組みや実践のことを指します。具体的な例として、高効率な空調設備にすることで、以前よりも少ない電力で同じ冷暖房の効果を得られるでしょう。エネルギー消費が減少すれば、それに伴い二酸化炭素の排出も減少すると考えられています。

ただし、電力の生成方法やエネルギーの種類によっては、省エネによる排出量の削減効果が異なる場合もあります。そのため、設備投資の前に、製品のことをしっかりと調査する必要があります。

導入事例:株式会社豊田自動織機

株式会社豊田自動織機は、安城工場での省エネ取り組みとしてLNG使用量の削減に成功しました。電子部品工場では品質維持のため年間を通じて空調を適切に管理しています。特に、静電気の発生を防ぐための湿度管理は、湿度が低い冬場には多量の蒸気を利用し、省エネの課題となっていました。

しかし、実際に静電気対策が必要な工程は、工場全体のわずか1%に過ぎないことに気付き、蒸気を使わずに除電できるイオナイザーや空間除電装置を導入することを検討しました。これにより、実際のラインでの試験を経て、大幅な改善策を導き出すことができました。

電子部品の製造においては、長年の慣習から省エネの進展が難しいとされてきましたが、同社では複数の部門が協力して新しい除電方法を検討しました。その結果、LNGの使用を40%、原油換算で160kL/年削減することができました。これほど大量の燃料を消費しなかったということは、その分だけ、二酸化炭素の排出を抑えられたということです。

導入事例:株式会社サンエー/株式会社リライアンスエナジー沖縄/株式会社竹中工務店

沖縄最大級の大型商業施設「サンエー浦添西海岸パルコシティ」では、先進的な技術を導入・運用して、店内の快適さを保ちつつ、エネルギーの節約と二酸化炭素排出の削減に成功しています。主な取り組みとして、高効率の空調システムの開発、太陽光を直接利用するスカイライトシステムや日射しに連動する照明制御が挙げられます。また、空調機の効率的な運用やBEMSデータを活用した運用計画の作成や分析を行いました。

その結果、年間のエネルギー消費を一般的な商業施設に比べて約40%も削減できました。この取り組みは、気候が厳しい沖縄で自然環境を考慮した省エネ、再エネ活動のモデルケースとして高く評価されています。

導入事例:株式会社日建設計/ 株式会社西武リアルティソリューションズ/ 興和不動産ファシリティーズ株式会社/ 株式会社日建設計総合研究所

日本初の鉄道線路上部に建設された省エネ型の高層テナントビル「ダイヤゲート池袋」におけるスマートウェルネスオフィスの取り組みは注目に値します。このビルでは、新たに開発されたペリメータ空調機を中心とする高効率の設備システムを導入し、快適性と省エネルギーのバランスを取る運用に成功しました。

具体的には、排気を利用する新しい空調システムの開発や水蓄熱槽を利用した効率的な熱源の導入、そしてエネルギーマネジメント会議を中心とする運用改善が行われました。これらの成果として、年間の一次エネルギー消費量が1,105MJ/㎡年に達し、BELS認証で「ZEB oriented」を達成しました。

さらに、基準値と比べて約57%のエネルギー削減を成功させました。これはただの省エネではなく、災害時の復旧力や快適で健康的な室内環境、入居者のニーズに柔軟に応える運用を実現したスマートウェルネスオフィスの成功例としても、参考になると言われています。

参照:2022年度(令和4年度)省エネ大賞 

まとめ

低炭素社会は、二酸化炭素や温室効果ガスの排出を抑えることで地球温暖化の進行を遅らせる社会を指します。持続可能な未来を実現するため、多くの国や企業がこの目標に向けた取り組みを進めています。特に企業は、自らの活動を通じて環境影響を最小限に抑える戦略を採用しており、再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の向上、炭素排出量の少ない製品開発などの取り組みを行っています。

これらの取り組みは、企業の社会的責任としてだけでなく、経済的な利益やブランド価値の向上につながります。環境への配慮を追求する現代において、低炭素社会の実現は、避けて通れないテーマとなっており、その達成に向けた企業の動きはますます注目されています。

そこで、まずは二酸化炭素の排出量を計算するところから低炭素化の取り組みをスタートさせてみてはいかがでしょうか。下記リンクから、排出量を計算する無料サービスを提供していますので、ぜひ一度お試しください。
参照:タンソチェック【公式】 -CO2排出量算定削減サービス

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。