近年、地球温暖化や環境汚染という言葉を耳にする機会が多くなるなかで、企業には環境に優しい事業運営が求められています。しかし工場や事業場の経営者には、「何をすれば良いかわからない」という人もいるでしょう。そのような人におすすめなのが、「Shift補助金」です。

Shift補助金は、2つの支援事業で二酸化炭素の削減計画の策定から実施まで対策が可能です。本記事ではShift補助金の概要や活用のポイント、注意点を解説します。

Shift補助金事業の全体像

企業が、脱炭素化の取り組みに活用できる補助金制度は「Shift事業」です。「脱炭素化がなぜ必要なのか」や「Shift補助金事業とは」などの疑問がある人に向けて、以下2つの視点から解説します。

  • 脱炭素化を目指す背景と目標
  • 環境省が推進するShift事業の概要

補助金事業の全体像を把握してから、申請方法などを押さえておきましょう。

脱炭素化を目指す背景と目標

日本が脱炭素化を目指す背景には、気候変動や環境汚染への世界的な関心の高まりが挙げられます。代表的な「SDGs」テーマは、「気候変動に具体的な策を」です。そのなかで各国が気候変動への対応を政策・戦略・計画に入れることを明確にしています。

我が国は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする、「カーボンニュートラル」の実現を宣言しました。カーボンニュートラルとは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量と吸収量を合計すると実質ゼロになることです。

2050年のカーボンニュートラル実現のため、国内企業においても環境に優しい経営や取り組みが求められています。

参照:

13.気候変動に具体的な対策を | SDGsクラブ | 日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)

参照:カーボンニュートラルとは – 脱炭素ポータル|環境省

環境省が推進するSHIFT事業の概要

カーボンニュートラルの実現のために、環境省が推進する取り組みはShift事業です。Shift事業とは、「工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業」のことです。

Shift事業は、「省CO2削減計画策定支援」と「省CO2型設備更新支援」で構成されています。それぞれの概要について解説します。

省CO2削減計画策定支援の概要

補助対象二酸化炭素の年間排出量50t以上3,000t未満の工場・事業場を保有する中小企業
補助対象事業二酸化炭素排出削減余地の診断「CO2削減計画」の策定
補助率3/4
補助金の上限額事業内容により50~100万円

省CO2型設備更新支援の概要

補助対象年間の二酸化炭素排出量が50t以上の工場・事業場に対して、「CO2削減計画」を策定している事業者
補助対象事業エネルギー使用設備機器の導入や更新エネルギー供給設備機器の導入や更新
補助率標準事業:1/3大規模電化・燃料転換事業:1/3中小企業事業:「年間CO2削減量×法定耐用年数×7,700」と「補助対象経費の1/2」の低い額
補助金の上限額標準事業:1億円大規模電化・燃料転換事業:5億円中小企業事業:0.5億円

参照:環境省_SHIFT事業とは | SHIFT事業ウェブサイト

補助金申請のステップ

Shift補助金事業で設備投資の負担を軽減したい企業の担当者は、申請方法について理解を深めましょう。補助金の申請から結果の通知までには、3つのステップがあります。

  1. 公募要領と条件の確認
  2. 申請書類の作成と提出方法
  3. 審査申請と結果の通知

 各ステップの押さえておくべき点について解説します。

公募要領と条件の確認

公募要領は、「SHIFT事業ウェブサイト」の「公募情報」から確認できます。

企業の応募要件は、直近の決済で連続の債務超過がない企業(CO2削減計画策定支援は中小企業のみ)です。個人事業主や個人は対象外です。

CO2削減計画策定支援の申請の場合、1事業者当たり最大5つの工場・事業場の申請ができます。各工場・事業場は、3つの項目を満たす必要があります。

  1. 二酸化炭素の排出量が年間50tで3,000t未満の国内の工場・事業場であること。
  2. 下記の補助金を受けていないこと。
    • 令和3年度と令和4年度の工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業のうち脱炭素化促進計画策定支援事業
    • 令和3年度(第1次補正予算)グリーンリカバリーの実現に向けた中小企業等のCO2削減比例型設備導入支援事業のCO2削減量診断事業
    • 令和4年度(第2次補正予算)SHIFT事業のCO2削減計画策定支援
  3.  DX型計画策定支援を申請の場合、登録済みの支援機関の支援であること。

省CO2型設備更新支援の申請で応募者が1社の場合、工場・事業場と補助対象設備の所有者に限られています。工場・事業場と補助対象設備の所有者が異なる場合は、共同での申請が必要です。

申請書類の作成と提出方法

Shift事業の申請書類は、CO2削減計画策定支援と省CO2型設備更新支援で書類が異なります。公募要領に記載の書類を指定の様式で作成してください。

提出方法は郵送とjGrantsを利用する方法があります。郵送の場合は、提出書類をまとめた正本1部と正本の電子データを保存したCD-Rを指定の宛先に送付します。

jGrantsとは、補助金や助成金などの手続きをインターネット経由で申請できる電子申請システムです。

jGrantsを利用した申請には「gBizID」が必要です。「gBizID」の取得には、審査に2週間ほど時間がかかるので早めに申請してください。

参照:GビズID | よくある質問

申請審査と結果の通知

申請審査は応募条件を満たしているか書類に不備がないか、実現性に問題がないかなどを審査します。CO2削減計画策定支援の審査項目を例として紹介します。

  • 計画策定支援の計画が整っていること。
  • 補助対象経費に他の補助金の対象経費が含まれていないこと。
  • 補助対象経費以外の経費が含まれていないこと。
  • 2者以上の支援機関から見積りを取得し、支援機関を選定していること。
  • 見積書の人件費単価や業務費の価格について根拠が示されていること。

参照:令和4年度(第2次補正予算)・令和5年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金|公募要領

審査で不明な点があれば問い合わせがきますので、その際は速やかに対応しましょう。

必要書類の審査に通過すると、CO2削減計画策定支援の場合は申請書類到着から約1.5カ月後に交付されます。

結果の通知は、交付の場合は交付通知書、不採択の場合は不採択通知書が届きます。協会は審査結果における問い合わせに対応しておらず、不採択になっても理由を確認できません。

補助金活用のポイント

審査をスムーズに通過させ、補助金を有効に活用するためには3つのポイントがあります。

  • 補助金の対象となる設備・事業
  • 二酸化炭素削減の計画策定支援
  • 設備更新やエネルギー効果の最大化

Shift補助金事業の活用を検討している人は、各ポイントを押さえておきましょう。

補助金の対象となる設備・事業

補助金の対象となる設備・事業は、申請する支援によって異なります。各支援における対象設備と対象事業を表にまとめました。

省CO2削減計画策定支援

補助対象事業二酸化炭素の排出量削減余地の診断や二酸化炭素削減計画の策定支援
補助対象費用二酸化炭素の排出量削減余地の診断や二酸化炭素削減計画の策定支援にかかる費用例:人件費、業務費、一般管理費※DX型計画策定支援においては、DXシステム機器費用と据付費用も対象に含まれます。
補助対象設備DX型計画策定支援ではDXシステム機器
※DXシステム機器とは、少なくとも1時間ごとにエネルギー使用量等を計測・記録できるシステムのこと。例:エネルギーマネジメントシステム(EMS)

省CO2型設備更新支援の概要

補助対象事業対象設備機器の導入や更新
補助対象費用対象設備機器の導入や更新にかかる経費例:工事費、設備費、試験費※交付決定前に発生した経費や既存の設備の撤去・移設・廃棄などにかかる経費は対象外です。
補助対象設備エネルギー使用設備機器高効率化・電化・燃料低炭素化した業務用設備や生産設備
エネルギー供給設備機器エネルギー供給設備機器低炭素燃料供給設備受変電設備再生可能エネルギー発電設備太陽熱供給設備コージェネレーション発電設備

CO2削減計画策定支援を受けた事業者は、省CO2型設備更新支援の優先採択枠の対象となります。

参照:環境省_SHIFT事業とは | SHIFT事業ウェブサイト

二酸化炭素削減の計画策定支援

脱炭素化は4つのステップがあり、二酸化炭素削減の計画策定支援は1と2に該当します。

  1. 削減余地の把握・対策の検討
  2. 二酸化炭素削減の計画策定
  3. 対策の実施
  4. 目標の達成

1の「削減余地の把握・対策の検討」は、工場・事業場の二酸化炭素の排出状況等、現状の調査です。調査結果より二酸化炭素の削減余地を算出し、効果的な対策を検討します。

2の「二酸化炭素削減の計画策定」は具体的な対策方法や実施時期、収支計画、実施体制といった計画の策定です。

削減計画は、認定外部支援機関に策定してもらう必要があります。

認定された支援機関を活用することにより、第3者の視点から改善策を提案してもらえるのがメリットです。令和3年度・令和4年度においては72の参加事業がありました。支援機関は平均で1事業当たり7つの対策を提案しています。

支援機関選びは、支援機関リストのなかから2社以上の見積りを取得し、選択する必要があります。

参照:環境省_SHIFT事業とは | SHIFT事業ウェブサイト

設備更新やエネルギー効果の最大化

削減計画をもとに省CO2型設備更新支援を行い、エネルギー効果の最大化につながる設備更新をします。令和3年度・令和4年度のShift事業において、計画された更新設備の例は以下のとおりです。

  • 空調設備
  • 蒸気ボイラー
  • 燃焼炉
  • 給湯設備
  • 太陽光発電設備

参照:環境省_SHIFT事業とは | SHIFT事業ウェブサイト

省CO2型設備更新支援には3つの事業の種類があります。

事業の種類事業概要
標準事業15%もしくは30%以上の二酸化炭素の削減計画にもとづく設備更新が対象の事業
大規模電化・燃料転換事業大規模な電化・燃料転換を行うための設備更新の補助事業
中小企業事業CO2削減比例型の設備更新を補助する事業

3つの種類があることで、目標や企業の規模に合った設備更新をできるのが魅力です。

申請に関する注意点

企業にとってShift補助金事業は、「設備投資の負担軽減」「エネルギーコストの削減」などのメリットがあります。しかし、申請時には注意すべき点もあります。申請後や採用後に困らないように、注意点について理解を深めましょう。

対象事業の範囲と条件

Shift補助金事業の申請時の注意点は、対象事業の範囲と条件を確認しておくことです。

対象事業の範囲や条件を勘違いしていると想定よりも少ない補助金になったり、審査を通過できなかったりするためです。例えばCO2削減計画策定支援において、交付決定前に発生した経費や申請手続きの経費などは対象に含まれません。

交付の決定前にCO2削減計画の策定に着手すると、想定していたよりも補助額が少なくなります。また、CO2削減計画策定支援の範囲は二酸化炭素の削減計画までです。実施段階の設備投資は、省CO2型設備更新支援を活用する必要があります。

Shift補助金事業に申請する際は、補助対象・補助対象事業を「概要」で把握したうえで行いましょう。

補助金額と支払いタイミング

Shift事業は、同じ支援でも支援内容により補助金の上限額が異なります。CO2削減計画策定支援では、支援内容や診断範囲により補助金の上限額が変わるため、とくに注意が必要です。

CO2削減計画策定支援の補助率・補助金の上限額

引用:令和5年度SHIFT事業|環境省

省CO2型設備更新支援も同様に、補助金の上限額は事業の種類により、5千万円から5億円と開きがあります。補助金が支払われるタイミングにも注意が必要です。

補助金は事業の完了実績報告を提出してから、確定検査を経て支払われます。経費を支払ってから補助金が受け取れるまでに時間差がありますので、その間の資金を確保しておく必要があります。

よくある質問

補助金の名称がわかりにくいと感じる人もいるでしょう。Shift補助金事業に関するよくある質問について回答します。

Shift補助金とは?

Shift補助金とは、Shift事業の「工場・事業場における先進的な脱炭素化取組推進事業」で支給される補助金のことです。

二酸化炭素排出抑制対策事業費補助金とは?

二酸化炭素排出抑制対策事業費補助金とは、エネルギー起源の二酸化炭素排出の抑制に関する対策を支援するための補助事業です。数多くの支援事業が実施されており、例として一部を紹介します。

令和5年度の二酸化炭素排出抑制対策事業補助金の支援事業

  • 脱炭素社会の構築に向けたESGリース促進事業
  • 脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業
  • 工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT事業)
  • 脱炭素型循環経済システム構築促進事業
  • 低炭素型ディーゼルトラック普及加速化事業

参照:2023年度(令和5年度)二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金等に係る補助事業者(執行団体)について | 地球環境・国際環境協力 | 環境省

Shift制度とは何ですか?

Shift制度とは、Shift事業の「工場・事業場における先進的な脱炭素化取組推進事業」のことです。工場・事業場での脱炭素化を推進する取組として環境省が実施しています。

費用を抑えながら脱炭素化推進計画の策定や、高効率機器を導入できるのがメリットです。Shift制度の全体像や概要は、「Shift補助金事業の全体像」にて解説しています。

まとめ

Shift補助金事業は、工場や事業場での脱炭素化を推進するための補助金制度です。「二酸化炭素の削減計画の策定」と「計画にもとづいた高効率機器の導入・運用改善」が主な内容です。

二酸化炭素の削減計画の策定においては、支援機関による提案を受けられます。環境問題に取り組もうにも、何をすべきか悩んでいる中小企業は活用すべき制度といえます。

Shift補助金に関する重要用語

項目説明
SDGs人権・経済・環境などの問題解決のために、2030年までに到達すべき目標のこと。
カーボンニュートラル二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量と吸収量を合計すると実質ゼロになること。
jGrants補助金や助成金などの手続きをインターネット経由で申請できる電子申請システムのこと。
gBizIDjGrantsを利用するために必要なアカウントIDのこと。
グリーンリカバリー新型コロナの景気後退からの経済復興において、環境に配慮しながら回復を目指す施策のこと。

著者のプロフィール

直樹細田