脱炭素は言葉でいうほど簡単なものでありません。
現在の技術力では、化石燃料を使用しCO2を排出しながら、経済を回す方が生産性は高いかもしれません。

しかし、脱炭素を推進すべき理由は「CO2排出の問題」だけではありません。
その背景にはもっと深刻な事態があります。

本記事では、脱炭素問題の本質ともいえる、脱炭素を推進すべき理由について詳しく解説していきます。

化石燃料が今の経済を支える年数はあと50年

脱炭素を推進すべき本質的な理由は、化石燃料の終わりが見え始めてしまっているからです。

1970年代のオイルショック以来、石油をはじめとする化石燃料は「なくなる」と言われ続けています。
新たな資源の発見や採掘技術の進化で、枯渇時期は当初より伸びていることは事実です。

例えば、従来の技術では採掘できなかった「シェールオイル」などが実際に実用化され、枯渇時期の延長に貢献しています。

その一方で、主力燃料として使用されている石油や天然ガス、石炭は埋蔵量に限りがありますので、このままのペースで使用を進めれば、近い将来確実に枯渇することもまた事実です。

そのひとつの目安となるのが「可採年数」です。
可採年数とは、個々の資源の確認済み埋蔵量を毎年の採掘量で割ったものです。

石油や天然ガスでおよそ50年、ウランでおよそ100年、石炭で100年を大きく超えるとされています。

つまり今の経済を支えている石油や天然ガスは、このままのペースでいけばあと50年で枯渇する計算になっているのです。

経済成長と可採年数の考慮

50年で石油や天然ガスが枯渇するというのは、それだけで十分危機的な事ですが、この数字にはさらに大きな落とし穴があります。
それは、経済成長を考慮していない年数だという事です。

可採年数は現在の採掘量で埋蔵量を割った数字ですので、これからの経済発展や人口増加によって化石燃料がさらに増えていくであろう未来を考慮できていない数字なのです。

産業革命以後、経済成長は化石燃料使用の増大と直結してきました。
そして経済成長は指数関数(ネズミ算)的に伸びていくため、化石燃料の使用量もその通りに増えていきます。

仮に、年3%程度の経済成長を想定すれば、年間使用量は100年で20倍、200年で400倍です。

このような速度で化石燃料の使用が増えていけば、石油や天然ガスは、私たちの想定よりはるかに早く枯渇する可能性があります。

新しい資源が発見され、多少資源が増えたところで、大きな延命にはならない可能性の方がはるかに高いのです。

 石油天然ガスウラン石炭
埋蔵量1兆7324億バレル188兆㎥615万トン1兆741億トン
可採年数54年49年115年139年

中東の石油原産国でも再生可能エネルギー確保を推進している

中東各国の石油の原産国でさえ、近年は再生可能エネルギーの確保に乗り出しています。
化石燃料の枯渇は遠い未来の話ではなく、今から脱炭素化を進めていかなければ大変な未来になってしまうのです。

原産国の脱炭素に向けた取り組みをいくつか紹介していきます。

太陽光発電事業を推進するサウジアラビア

サウジアラビアは2016年に発表した国家改革計画「ビジョン2030」の中でCO2排出削減のため、発電に占める再生可能エネルギーの割合を50%まで向上させる」と宣言をしました。

具体的な数値目標として、2030年までに再生可能エネルギーの発電量を58.7ギガワット(うち太陽光発電40GW、風力発電16GW)とするとしています。

サウジアラビアは、再生可能エネルギー発電事業を推進しており、政府試算で700万トン以上の温室効果ガスが削減できると見込まれています。

2021年4月8日には、同国初の再生可能エネルギー発電事業である「サカーカ発電所」が稼働を開始し、本格的な取り組みが始まっています。

COP28の開催国になることが決まっているUAE

石油と天然ガスがGDPのおよそ40%を占めるUAEも、2023年に開かれる「国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)」の開催国となることが決定しています。

2030年までの温室効果ガス排出削減目標を従来の23%から31%へ引き上げるなど、再生可能エネルギーで中東をリードする存在になっています。

同国は豊富な天然ガス資源を活用した低コストの「グリーン水素・アンモニア事業」にも注力しており、日本や韓国などのアジア各国と協業し取り組みを進めています。

まとめ

ここまで脱炭素を推進すべき深刻な理由として「化石燃料の枯渇がすぐ近くに迫っている」という事実をご紹介してきました。

一見非効率に見える脱炭素化も、すぐに取り組みを始めなければ、長い目で見たときに今の経済を維持できなくなるリスクが非常に高いことを理解しておく必要があります。

著者のプロフィール

福元惇二
福元惇二
タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。