いまや世界的なカーボンニュートラルのムーブメントは、大手だけでなく中堅~中小企業にも広がり始めています。これまでのように、「いつか検討する」では時代の流れから取り残されてしまう可能性があります。気候変動に代表されるあらゆる人為的な環境破壊は、産業革命以来、なりふり構わず成長へと急いできた結果です。
そういう時代だった、と一言で済ますにはあまりにもその弊害は大きく、今後はモノ・サービスを提供する以上、企業としての社会的責任が求められる時代になるといわれます。そこで、コストがかかるなどネガティブなイメージもあるカーボンニュートラルですが、数多くのメリットを見過ごしている企業も多いようです。
今回は、企業がカーボンニュートラルに取り組むメリットについてわかりやすく解説していきます。脱炭素経営についても概要や始め方もご紹介いたしますので、ぜひ、最後までお付き合い下さい。
企業のカーボンニュートラルの実態は?
気候変動の解決に向けて、パリ協定で196か国が国際的な取り決めに合意したのが2015年のことです。パリ協定以前から、すでに脱炭素に取り組み大手企業はあったものの、そこから一気に日本でも脱炭素への取り組みが本格化していきました。
実際のところ、どれくらいの企業が世界で動いているのでしょうか?最初に現状を把握しておきたいと思います。
SBTの認定企業数
脱炭素の実施を認定する、SBTへの加盟企業は年々増加傾向にあり、2023年1月時点での世界の認定企業数は2140社に及びます。
SBTに参加する企業数(世界全体)
SBTとはScience Based Tagetと呼ばれる、企業の脱炭素を支援・認定する機関のことです。認定基準の高さから、企業の取り組みを計るうえで、最も信頼できる世界共通の判定基準とされています。 参照:Science Baced Taget 参照:SBTについて – 環境省 |
関連記事はこちら:脱炭素経営のSBTとは?取り組むメリットも解説
SBTに参加する企業数(国内)
日本国内だけで見ても、認定企業数は2023年度に350社を記録しており、世界で第2位の位置づけにあります。それでも、ほんの一部であり、日本全国の企業数は2021年度の調査では367万人、民間事業所数は507万8000か所です。
現時点では、ごく一部の企業のみが脱炭素に取り組んでいる、というのが現状だといえます。
※SBT加盟企業のリストはこちらからご確認いただけます。
中小企業のカーボンニュートラル意識調査
では、現状で多くの企業はどのようにカーボンニュートラルを捉えているのか?実態を探ってみましょう。
総合人材サービスのパーソルHDが行った、「カーボンニュートラルに関する企業の取り組み調査」によると、以下のような統計結果が出ています。
カーボンニュートラルの認知度・理解度
カーボンニュートラルについて十分に理解できていると答えたのは、大手企業で30.8%、中堅企業で21.6%、中小企業で15.3%でした。
カーボンニュートラルのメリット・デメリット
カーボンニュートラルは会社にとってメリットがあるのか?の質問には、大手・中堅では多少メリットがあるとの回答が最も多く、中小企業ではメリットもデメリットもないとの回答が一番多い結果となりました。メリットもデメリットもないとの回答は、いわば関心度が低いことの表れだとも見れます。
全体では、デメリットよりもメリットがあると感じている企業が多く、大手になるほどメリットを感じる傾向にあることが確認されています。中堅~中小企業においてメリットを感じている人の数は少なく、まだ十分に理解されていない現状を指摘することができます。
カーボンニュートラルへの取り組み意識
次いで、積極t的に取り組みたいかどうかとの質問には、取り組みたいと答えたのは、大手が41%、中堅が21%、中小では7.8%と、規模が小さくなるほど消極t的になる傾向にあります。取り組みたくない理由として、「よくわからない」「コストの問題」「業務の負担になる」などが挙げられており、カーボンニュートラルのデメリットのイメージが強いようです。
参照:カーボンニュートラルに関する取り組み調査 – パーソルHD
参照:パーソル・データから見る企業実態調査 – PR TIMES
関連記事はこちら:カーボンニュートラルとは?意味や企業の取り組み、SDGsとの関係まで解説
企業がカーボンニュートラルに取り組むメリット
カーボンニュートラルはコストがかかる、わかりづらい、などとデメリットに注意が向いがちです。確かに、再エネ導入コストなどデメリットもあるかもしれません。しかし、実施することで得られるメリットはデメリット以上に数多く挙げることができます。ここで改めて、カーボンニュートラルで企業が得られるメリットをご紹介していきます。
メリット1.気候変動の解決につながる
まず、第1のメリットとは、企業の取り組みは、加速する気候変動・地球温暖化にストップをかける重要な枠組みの1つとなり得る点です。
すでに、地球温暖化を肌で感じている方も多いように、ここ数年は世界中で水害・森林火災などの異常気象が相次いでいます。CO2削減に取り組むことは、国のカーボンニュートラルの目標やパリ協定の目標に一役担うだけでなく、ダイレクトな気候変動への解決策となります。
メリット2.企業イメージ・ブランド性の向上
次に、留意しておきたいカーボンニュートラルのメリットとは、企業イメージやブランド性の向上につながる点です。これまでは、企業の経営と環境保全への対策は、まったく別の分野として捉えられる風潮にありました。利益の追及が地球温暖化や環境破壊につながる傾向にあり、半ば暗黙の了解とされてきていました。
しかし、気候変動が急を要する国際的な問題となって以来、企業の経営はイコール環境保全にも結びつく、「脱炭素=企業の社会的義務」という新しい考え方が浸透してきています。脱炭素経営の実施によって、一般消費者への宣伝効果を高め、他企業・取引先へアピールできたりと知名度・ブランド性を高めることができるのです。
メリット3.投資・融資への効果が倍増
そして、脱炭素が企業の社会的義務と見なす傾向が強まる中、企業のカーボンニュートラルへの取り組みは信頼性にもつながります。「脱炭素に積極的 = 責任・義務を果たしている = 将来性がある = 信頼性が高い」というように、投資や融資の機会が得やすくなるのです。
脱炭素を行っていない、あるいはCO2排出量を増大させているといった企業は、将来的にビジネスの機会が得られない可能性すら指摘されています。メガバンクや大手損害保険会社の中には、化石燃料関連への融資・サービスをストップするところも出てきているのです。
メリット4.消費電力や燃料コストの削減
また、カーボンニュートラルの実施はコストがかかるものの、結果的には消費電力や燃料コストの削減で採算が取れるケースが多くなります。CO2削減の具体策として、最も代表的な方法が再エネ設備の導入です。導入にあたっての初期費用は年々低下、2020年の時点で、8年間で約4分の1に下がっています。それに反して発電容量は年々増加している点に注目です。
近年では、補助金や税制優遇などの支援策が充実していますので、これまでになく、導入コストを抑えることが可能となります。かつ再エネで、消費電力や燃料の一部または大半がまかなえることで、電気代・燃料代の抑制につながるのです。導入費用が回収できた後は、削減された電気代・燃料代でコスト対効果が高まります。コスト削減から売上向上も期待できます。
メリット5.新しい商品開発・イノベーションへの進展
さらに、企業のカーボンニュートラルで考慮したいメリットは、脱炭素への取り組みから新しい商品開発・イノベーションへの進展につながるということです。例えば、本来ならゼロに削減したいCO2でも、農作物栽培に活用する農法が広がっています。この農法は、CO2の濃度が上昇することで、植物の光合成速度が早まる原理を応用したものです。
カゴメは工場で排出されるCO2を、パイプラインで隣接するトマト農場に送っています。パイプラインから届いたCO2にて、トマトの生育は通常の20%以上に高まるとのことです。工場の屋根に設置した太陽光発電から消費電力をまかない、排出されるCO2の再利用にて見事にカーボンニュートラルを実現しています。いかにCO2を削減するか、考えるところから新しいアイデアを打ち出していけます。
参照:農作物栽培でCO2を積極的に使う – SUSTAINABLE BRANDS
メリット6.優秀な人材の確保・競合との差別化
もう1つ、抑えておきたいメリットとは、企業のカーボンニュートラルの取り組みが優秀な人材を得るきっかけにもなることです。カーボンニュートラルは世界的に急スピードで進展している1つのムーブメントです。国、職業、年齢を問わず、企業、自治体、一般消費者における関心度も高まってきています。大学でも、専門の人材育成プログラムが設立されています。
企業の取り組みから、将来性・ブランド性・信頼性がアピールできます。競合との差別化が計り、カーボンニュートラルに関わりたい、意欲的で優秀な人材の確保につながるのです。
参照:カーボンニュートラル社会研究教育センター – 早稲田大学
メリット7.新しい時代における適応力
そして、最も重要なメリットとは、これから訪れるカーボンニュートラル時代への適応力です。ここ数年にわたって、カーボンニュートラルをリードする大手企業は、サプライチェーンも含めた事業全体におけるCO2削減を目指しています。材料の調達から製造、販売、廃棄、リサイクルとすべての過程でかかわる企業にも、CO2削減や再エネの導入を要請しています。
トヨタ 部品会社に排出削減要請
サプライチェーンにおいても、排出量の開示を求める動きが拡大中です。時代の波にのって新しいビジネスチャンスを得るために、CO2削減の実績が役に立つのです。
参照:SBT – Six Business Benefits
参照:環境省 – 中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック
参照:カーボンニュートラル・サプライチェーン全体のグリーン化 – 環境省
カーボンニュートラルを実現する脱炭素経営とは
カーボンニュートラルに取り組むことで得られるメリットは、思った以上に多いことがわかりました。そこで最後に、カーボンニュートラルを実現するための脱炭素経営とは何なのか、概要を簡単にお伝えしておきましょう。
脱炭素経営とは脱炭素を事業として捉えること
脱炭素経営とは、CO2削減や自然環境保全を事業として捉えることをいいます。
CO2削減・自然環境保全を視野に入れた、商品やサービスの開発・提供を行うこと、これが脱炭素経営です。
- 企業の利益
- CO2削減
- 環境保全(CO2吸収)
などすべての項目が、相乗効果を得ながら向上していく必要があります。事業の一環としてカーボンニュートラルに取り組むことが、これからの時代のビジネスモデルです。
脱炭素経営の流れ
脱炭素経営は、カーボンニュートラルについて知ることから始まります。
- カーボンニュートラルに関する情報を収集する
- CO2排出量を把握して目標を立てる
- 対策を実施してCO2を減らす(削減と吸収でゼロを目指す)
「中小規模事業者向けの脱炭素経営 導入ハンドブック」では、脱炭素経営のやり方・始め方を解説しています。合わせて参考にされて下さい。
関連記事はこちらから:脱炭素経営に取り組まないリスク・4つのシナリオ
脱炭素経営における具体的な対策例
以下は具体的な対策例です。
- 化石燃料の使用を最小限に抑える(理想はゼロ)→ CO2削減
- エアコン・電灯などを省エネする → CO2削減
- 電力・燃料に再エネを利用する → CO2排出ゼロ+環境保全
- 再エネ証明書を活用する → 再エネの普及拡大
- 再エネ事業を始める・投資する → 再エネの普及拡大
- 森林保護・海洋保護を行う・投資する → CO2緩和効果+環境保全
- プラスチックの使用を減らす → CO2削減 + 環境保全
- 再生可能で耐用年数が長い商品開発 → 資源の有効活用
- ベジタリアン・ヴィーガン思想を取り入れる → CO2削減・生態保護
- 地域のゴミ拾い・分別リサイクルを実施する → CO2削減・環境保全
など、それぞれの状況に応じて、できることから取り組んでいけます。
まとめ
これから、新しい時代の波に乗ってビジネスを展開していくうえで、脱炭素経営は企業に求められる最低限必要なスタンダードです。一見、コストがかかりデメリットが多いと感じる方もいるかもしれません。ただ、やり方次第では、むしろ脱炭素経営を積極的に取り入れることで、より多くのメリットが創出できるに違いありません。
まずは、カーボンニュートラルに関する情報収集を徹底して行っていきましょう。ちなみに、無料のタンソチェックツールを活用すれば、アカウント登録だけで簡単に費用をかけずにCO2排出量がわかります。排出量の具体的な数値がわかれば、目標も立てやすくなります。できる範囲で小さなことから始めていく、それが脱炭素経営では大切です。
著者のプロフィール
- 太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。
最新の投稿
- CO2削減2023年10月21日【在宅VS出社】在宅ワークがカーボンニュートラルを加速させる理由とは
- CO2削減2023年10月17日【まだ間に合う】企業がCO2見える化する一番大きなメリットとは?ソフトウェアアプリのデメリットも紹介
- 第6章2023年12月16日【固定費と変動費】脱炭素経営では区分するところから始まる!脱炭素会計の基本
- 第6章2023年12月16日【人件費にお金を使え! 】優秀な人材が脱炭素経営を加速させる理由とは?GX人材の需要