地球温暖化の防止策の1つとして話題になっている、カーボンニュートラルという言葉をご存じでしょうか。簡単に説明すると、二酸化炭素の排出量と吸収量を合わせてゼロにすることで、これ以上、大気中の二酸化炭素が増えないようしようという考え方ことです。

実は、カーボンニュートラルを目指す動きの一環として、「プラスチック使用量を減らす」という手段も重要視されるようになりました。プラスチックストローの代わりに紙製ストローが取り入れられているのは、その一例です。また、プラスチックの製造過程で排出される二酸化炭素量を減らす手段として、「バイオプラスチック」も注目を集めるようになりました。

しかし、

「プラスチックでの取り組みが、カーボンニュートラルとどう関連しているの?」

「そもそも、バイオプラスチックって何?」

という疑問が頭をよぎるかもしれません。そこで今回は、プラスチックとカーボンニュートラルの関わりや問題点、そして改善のための方策ついてわかりやすく説明します。

カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、人々の活動によって放出される温室効果ガスと、自然や技術で吸収できる温室効果ガスの量を釣り合わせ、結果的に温室効果ガスの排出量をゼロにすることです。現在、全世界ではカーボンニュートラルを達成するという目標に向けて、さまざまな活動が進められています。日本でも、2050年までにカーボンニュートラルを実現させるために、地方公共団体や企業などに補助金を提供し、電気自動車や再生可能エネルギーの導入を促しています。

カーボンニュートラルについては、こちらの記事でさらに詳しく紹介していますので、ご参照ください。

関連記事はこちら:カーボンニュートラルとは?意味や企業の取り組み、SDGsとの関係まで解説

関連記事はこちら:中小企業も行うべきカーボンニュートラルとは?取り組み方法や事例も解説

プラスチックとカーボンニュートラルの関係性とは?

プラスチックとカーボンニュートラルは、切っても切れない関係性にあります。なぜなら、プラスチックの製造には、化石燃料が必要だからです。化石燃料の使用は、常に二酸化炭素の排出を伴います。そして、カーボンニュートラルの目標は、二酸化炭素の排出量と吸収量を合計してゼロにすることです。

そのため、プラスチックの製造過程を改善し、二酸化炭素の排出を削減する必要があります。この点から考えて、プラスチックとカーボンニュートラルの間には、密接な関連性が存在するというわけです。

プラスチックの製造に化石燃料が必要

プラスチックの製造には、石油という化石燃料が必要です。石油は非常に便利な化石燃料で、熱することでさまざまな製品を生み出すことできます。しかし、化石燃料を熱するときに二酸化炭素が排出されてしまいます。加えて、化石燃料は限りのある資源です。しかも、作られるまでに非常に長い時間がかかります。化石燃料は、生物の遺体が数百万年もかけて化石になったものだからです。

人々が今までのように化石燃料を活用した場合、石油は約50年後には枯渇してしまうだろうと言われています。化石燃料の消費を抑えるべく、日本は2050年までにガソリン車の使用を廃止しようという取り組みを行っている最中です。

プラスチックの製造・処理過程で排出される二酸化炭素

プラスチックの製造には、二酸化炭素が排出されます。これは、原材料である石油を燃やす必要があるからです。2018年に公表された国連環境計画の報告書によると、日本のプラスチックゴミの廃棄量は世界第2位です。さらに、年間で1人当たり約32㎏ものプラスチックゴミを出していることも明らかとなりました。

このデータから、私たちが日常的にプラスチックを使っていることがよく分かります。例えば、スーパーマーケットに行けば、肉や魚、飲み物などの容器やその包装材などにプラスチックが幅広く使用されていることに気が付くでしょう。さらに、家庭から出るプラスチックゴミの70%は焼却処分されており、これもまた大量の二酸化炭素が排出します。プラスチック問題への詳しい対処方法については、環境省の資料よりご確認ください。

参照:プラスチックを取り巻く国内外の状況<第3回資料集>

カーボンニュートラルの実現させるためには、一連の過程で排出される二酸化炭素を減らさなければなりません。そこで、注目を集めているのが「バイオマスプラスチック」と呼ばれるものです。

バイオプラスチックとは?

バイオプラスチックの説明

バイオプラスチックには、大きく分けて2つの種類があります。1つは、主に植物などの再生可能な有機資源から作られる「バイオマスプラスチック」です、もう1つは、バクテリアや菌類などの微生物によって分解可能な「生分解性プラスチック」です。

バイオプラスチックは、通常のプラスチックと比較すると必要な化石燃料が少ないです。これは、原材料となるサトウキビやトウモロコシなどが成長の過程で大気中の二酸化炭素を吸収するからです。さらに、バイオマスプラスチックは、燃やしたときの二酸化炭素排出量が一般的なプラスチックより少ないことが分かっています。そのため、人々がよく利用するレジ袋や容器などに使用されています。

「生分解性プラスチック」は、その名の通り水や微生物により分解され、最終的には二酸化炭素と水になります。サトウキビやトウモロコシが製造に使われているものもありますが、石油から製造されているものもあります。この分解可能な性質は、海洋プラスチック問題(海洋生物が捨てられたプラスチックを誤食し、健康を害する問題)の解決策としても注目されています。

バイオマスの説明

バイオマスとは、化石燃料を除く植物や動物など生物由来の有機性の資源のことです。化石燃料のように枯渇する心配がなく、太陽光や水がある限り際限なく利用できます。バイオマスは、プラスチック製造の他に火力発電の燃料、さらには肥料や飼料など幅広く利用されています。

バイオマスの使用や廃棄により、温室効果ガスが排出されますが、バイオマスはカーボンニュートラルには欠かせない資源の1つです。なぜなら、バイオマスを生産する過程で植物が光合成により吸収する二酸化炭素量と、バイオマスを利用・廃棄時に排出する二酸化炭素量が等しくなるため、地球温暖化へ影響はないとされているからです。

さらに、バイオマスは、3種類に分けられます。

  • 廃棄物系バイオマス
  • 未利用バイオマス
  • 資源作物

廃棄物系バイオマス

廃棄物系バイオマスとは、その名の通り、廃棄されるものをバイオマスとして使用することです。例えば、食品廃棄物(生ごみや食品ロス)や家畜の排泄物、下水・し尿汚泥、建設・製材工場の残材、黒液(パルプ工場の廃液)などが使用されています。

未利用バイオマス

未利用バイオマスとは、利用されることがないまま廃棄されてしまったものをバイオマスに活用することです。しかし、運搬コストがかかることからあまり利用はされていません。稲わらや麦わら、もみがら、林地残材などが活用されています。

資源作物

資源作物とは、バイオマスとして利用するために栽培されている作物のことです。サトウキビやトウモロコシ、なたね、柳、ポプラ、スイッチグラスなどが、これに該当します。

バイオマスプラスチックの原材料

さまざまなものが、バイオマスプラスチックの原材料として利用されています。主に、糖や油脂などの植物が原料となっています。バイオマスプラスチックの代表的な原料は、以下の3つです。

  • サトウキビ
  • トウモロコシ
  • トウゴマ
  • トール油(製紙工程の副生成物)
  • 廃食用油(調理後で使用した廃棄油)

バイオプラスプラスチックの製造方法は2種類あります。1つは、原料を発酵させることで得られるエタノールなどを樹脂に合成する「発酵法」で、もう1つは、サトウキビやトウモロコシなどの糖や油脂から樹脂を化学合成する「化学合成法」と呼ばれる手法です。

バイオマスプラスチックの種類

バイオマスプラスチックの種類について、原料と製法ととも表にまとめました。

種類原料製法
バイオPE糖:サトウキビ油脂:廃食用油、トール油発酵法(エタノールを合成)化学合成法
バイオPET糖:サトウキビ石油発酵法(エタノールを合成)
バイオPP油脂:廃食用油、トール油化学合成法
バイオPA糖:ヒマ石油化学合成法(油脂と石油由来のナフタを混合)
バイオPC糖:トウモロコシ、小麦粉石油化学合成法

さらに詳しい情報は、環境省のサイトよりご覧いただけます。

参照:プラスチック資源循環 バイオプラスチックとは?

バイオプラスチックの使用方法

バイオマスプラスチックは、生活のあらゆる場面で使用されています。今回は、代表的なものを5つ紹介します。

  • レジ袋
  • 容器包装(食品、シャンプーなど)
  • 衣料品(衣料繊維など)
  • 電気・情報機器(パソコンやスマートフォンなど)
  • 自動車(カーシート、ドアトリムなど)

具体的な製品については、環境省のWebサイトより確認することができます。

参照:バイオプラスチック導入事例集

バイオプラスチックのメリットとは?

カーボンニュートラルの実現

バイオプラスチックの最大のメリットは、カーボンニュートラルの実現が可能であることです。バイオプラスチックの生産に使用されるバイオマス(サトウキビやトウモロコシ)は、成長する過程で光合成を行います。植物は、光合成を行うことで、大気中の二酸化炭素を吸収します。

しかし、バイオプラスチックの製造・廃棄時に、二酸化炭素が排出されます。この排出量は、原料となった植物が成長過程で吸収した二酸化炭素と同じ量だと考えられています。そのため、大気中の二酸化炭素の総量は変わりません。このようにしてカーボンニュートラルを実現させているのです。

ただし、全てのバイオプラスチックがカーボンニュートラルであるとは限りません。製造過程で大量の化石燃料を使ったり、原料のバイオマスの生産に大量の農薬や肥料を使ったりすると、排出される二酸化炭素量が吸収される量よりも多くなる可能性があります。そのため、栽培から廃棄までの全ライフサイクルにおける二酸化炭素の排出と吸収を考慮しなければなりません。

売上の改善

バイオプラスチックを利用することで売上の改善も期待できます。これは、消費者の環境に対する意識が高まっているためです。近年、環境への意識が高まり、環境問題に関する情報が報道されるようになりました。その影響もあり、消費者は、以前よりも環境に優しい製品を選ぶようになりました。バイオプラスチック製品は、環境に配慮した製品であり、これは近年の消費者のニーズを満たしているため、売上が向上すると考えられます。

さらに、バイオマスを活用した製品は、「バイオマスマーク」という認証マークを取得することが可能です。このマークは、「日本有機資源協会」によって発行され、適切な審査を通過した製品だけが取得できます。これにより、消費者に対して企業が環境に配慮していることをアピールすることができ、売上向上につながる可能性があります。

紹介した2つ以外にも、バイオプラスチックのメリットはたくさんあります。環境省もバイオプラスチックのメリットについて詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。

参照:プラスチック資源循環 バイオプラスチックのメリット

また、こちらの記事ではカーボンニュートラルに向けて製造業界がどのような取り組みを行っているのかを詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

関連記事はこちら:カーボンニュートラルの製造業界の取り組み事例は?

まとめ

プラスチックとカーボンニュートラルの関連性は密接で、それらを結びつける要素がバイオプラスチックです。プラスチックの製造は通常、二酸化炭素が排出されます。これは、二酸化炭素の排出と吸収がゼロになる状態を目指すカーボンニュートラルとは相容れません。そこで注目されるのが、バイオプラスチックの利用です。

バイオプラスチックは、主に植物から作られる「バイオマスプラスチック」と、微生物によって分解できる「生分解性プラスチック」に分けられます。バイオプラスチックは、原材料となる植物が光合成を行い、大気中の二酸化炭素を吸収するため、一般的なプラスチックよりも二酸化炭素の排出量が少ないです。

バイオプラスチックの活用は、カーボンニュートラル実現のための有効な手段です。また、環境に配慮した取り組みは、売上の改善だけではなく、企業のイメージアップや他の企業から高い評価を得られるなど、さまざまなメリットがあります。

カーボンニュートラルの実現に向けて、まずは自社がどれだけの二酸化炭素を排出しているのかを調べてみましょう。排出量を無料で計算することができるツールがありますので、ぜひご活用ください。サービスの概要などは、こちらのサイトよりご覧いただけます。

参照:タンソチェック【公式】-CO2排出量算定削減サービス

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。