カーボンニュートラルやSDGsなど、脱炭素への関心が高まってはいるものの、関連する用語はいくつもあり、それぞれ何を意味しているのか、わかりにくい部分があります。
調べてみても、ズバリわかりやすく回答してくれる情報は以外と少ないものです。
今回は、カーボンニュートラルとSDGSそれぞれを徹底解説したうえで、両者の関係性をわかりやすく見ていきます。
最後に取り組み事例もご紹介いたしますので、ぜひ、お気軽に最後までお付き合い下さい。
カーボンニュートラルとは
カーボンニュートラルとは、簡単にいうとCO2を削減・吸収してゼロにすることをいいます。
最初に、カーボンニュートラルについて、関連する用語との比較しながら確認していきます。
カーボンニュートラルで実質のCO2をゼロにする
急激な気温上昇・水害・熱波など、気候変動の要因となっているCO2は、おもに石油・ガス、ガソリンなどの化石燃料から生じています。
2021年度のCO2排出量は、世界全体で370億トン、アジア全体で210億トン、日本が単独で11億トンを記録しています。
世界全体のCO2排出量
CO2削減で緊急の対策となるのが、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行とガソリン車からEVへの移行です。
2016年のパリ協定を皮切りに、2030~2050年のCO2ゼロを目指し、世界的な規模で燃料の移行が進んでいます。
しかし、再生可能エネルギーで100%電力を賄ったり、すべてのガソリン車をEVへと切り替えるには限界があります。
そこで、どうしても発生するCO2を、植林や特殊技術を用いて吸収・消滅させる必要が出てくるのです。
CO2が完全にゼロになるわけではないのですが、別の方法で相殺することによって実質ゼロになる、というのがカーボンニュートラルの考え方です。
カーボンゼロとカーボンニュートラルの違い
「カーボンゼロ」と「カーボンニュートラル」は、CO2排出をゼロにするということで両方とも同じ意味です。
ただ、カーボンゼロの場合、ダイレクトに排出量をゼロにするという意味合いが強く、ニュートラルは相殺することでゼロにするという意味で使われる傾向にあります。
使い分けの境界線は曖昧なのが現状です。
CO2排出ゼロを表す用語は、他にもネットゼロ、ゼロエミッションなどがあります。
グリーンエネルギー・自然エネルギーと再エネ
カーボンニュートラルでは、再生可能エネルギーの活用が欠かせないわけですが、どのようなエネルギーを指すのでしょうか。
再生可能エネルギーの定義は、
- 自然環境から容易に入手できること
- CO2を排出しないこと
- 持続可能であること(人体や自然に無害)
とされています。
法令によって定められている再生可能エネルギーは「太陽光、風力、水力、地熱、大気熱、自然熱、バイオマス」です。
他にも、水素やアンモニアの開発が進められていて、法令にはない再生可能エネルギーもあります。
再生可能エネルギーは、グリーンエネルギー、自然エネルギー、クリーンエネルギーと呼ぶこともあります。
※原子力発電はCO2を排出しないクリーンエネルギーですが、人体や自然へのリスクがあるため、再生可能エネルギーとは区別されるのが一般的です。※
CO2排出をニュートラル(ゼロ)にする方法とは?
CO2をゼロにする方法は、再生可能エネルギーの活用以外にも様々な方法があります。
中でも、最も有効で取り組みやすい方法が植林や森林保護です。
植物にはCO2を吸収する力があるため、カーボーンニュートラルで積極的に取り入れられています。
もう1つ、近年になって開発が進んでいるのが「CCS」「CCUS」と呼ばれる、CO2の処理方法です。
「CCS」「CCUS」では、発生したCO2を地中深くに貯留したり、貯留した原油を発掘技術に再利用したりと、新しい取り組みが研究されています。
SDGsとは
気候変動の解決策である「カーボンニュートラル」と「SDGs」は密接に関係しています。
カーボンニュートラルを実施することは、SDGsの目標達成にもつながるのです。
それでは、次にSDGsの概要について確認していきます。
SDGsの概要
SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは、Sustanable Development Goalsを略したもので、日本語で「持続可能な開発目標」と呼ばれている国際的な行動指標のことです。
貧困・飢え・気候変動など世界が抱える問題を解決するために、2030年をゴールに17の目標が定められています。
SDGsの17の目標は、2015年、ニューヨーク国際連合本部の「SDGs」サミットにて採択されたものです。「2030アジェンダ」という名目で、すべての国で積極的に促進・展開されています。
「人」「地球」「繁栄」「平和」「パートナーシップ」と大きく5つの柱に沿って、解決すべき課題や目指す行動・目標がまとめられています。
参照:the 2030 Agenda for Sustanable Development
SDGs 17の目標
SDGsの17の目標は下記のとおりです。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなにそしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての国に
- パートナーシップで目標を達成しよう
1人も残さずすべての人が、地球上でより良く暮らしていく権利がある、というのがSDGsの理念です。
そのためにも、2030年までに17の目標を達成する必要があるとしています。
目標達成に向けて行動を起こすこと、今できることをすることがSDGsで推奨・支援しています。
世界中の国で政策が進められ、日本でもすでに多くの大手企業や自治体によって取り組まれているのです。
参照:Sustanable Development GOALS – the United Nations
カーボンニュートラルとSDGsとの関わり
カーボンニュートラル、SDGsとそれぞれの意味を理解することで、両者の関係性が明確に見えてきます。
まず、カーボンニュートラルと最もダイレクトな関係にあるのがSDGsの目標13、目標7です。
そして、さらにSDGsの各テーマは相関していて、1つの目標達成がその他の目標達成に大きく寄与できるケースもあります。
目標13、目標7と合わせて、その他の目標との関係も見ていきましょう。
SDGs 目標13「気候変動に対策を」
カーボンニュートラルと最も関係が深い、SDGs目標13は「気候変動に対策を」となり、3つのターゲットが定められています。
- 気候変動からの災害に対応できる力をすべての国で備える
- 気候変動へそれぞれの国が対策・計画を立てる
- 気候変動の速度を緩めるための教育・能力の向上を目指す
気候変動のおもな要因は、化石燃料から生じるCO2です。
CO2排出量の増加によって、気温の上昇率が急激に早まり、自然環境に異常を来たします。
CO2排出量と気温上昇の関係
気温2度の上昇で生じる災害リスク(発生率)
- 熱波など極端な高温 13.9倍
- 極端な大雨 1.7倍
- 深刻な干ばつ 2.4倍
- 2100年までの海面上昇 0.32~0.62メートル
気温上昇率が高まるほどに、熱波、大雨、干ばつ、海面上昇へのリスクも高まります。
近年の相次ぐ水害や熱波もすべて気候変動によるものといわれていいます。
そこで、目標13の達成に有効な方法がカーボンニュートラルです。
カーボンニュートラルでCO2排出を削減することで、気温上昇を抑え・気候変動による災害リスクの低下が計れます。
また、再生可能エネルギーを貯めておける蓄電池やEVの活用にて、いざという時の緊急電源としても使えるのです。
SDGs 目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」
さらに、カーボンニュートラルはSDGsの目標7の達成にもつながります。
目標7では、誰もが安価で安定したエネルギーが使えること、効率よい再生可能エネルギーの比率を大きくすることを目標に掲げています。
国連広報センターによると、世界で電力が使えない人は約7億人です。
世界中でカーボンニュートラルの動きが強まることによって、導入のコストも低下、開発途上国においても導入が簡単になります。
加えて、国や企業の再生可能エネルギー投資が拡大すれば、あらゆる国・地域において支援を得るきっかけにもなります。
その他のSDGs目標にも関わる
カーボンニュートラルの実現は、SDGsその他の目標にも間接的に広がっていきます。
例えば、目標13の気候変動への対応は、目標14の海の豊かさを守ることや、目標15の緑の豊かさを守ることにつながります。
目標7では、すべての人にエネルギー供給が達成できれば、それに伴う雇用の機会につながります。
目標1の貧困、目標2の飢餓を解決し、目標8、9の経済成長や産業発展への道が開けていくのです。
以上のように、カーボンニュートラルがSDGsで果たす役割は、多岐に渡り導入の意義は非常に大きいといえるのです。
参照:Sustanable Development Goals – the United Nations
カーボンニュートラル・SDGsの取り組み事例
それでは最後に、企業のカーボンニュートラル・SDGsへの取り組み事例を2つご紹介いたします。
それぞれの、カーボンニュートラル計画の参考・ヒントとしてご活用下さい。
Apple ~100%再エネ達成、森林保護ファンドも
スマホ・PCで世界をリードする、巨大IT企業Appleはカーボンニュートラルでもトップランナーとして秀でた存在です。
すでに2020年には、自社の消費電力すべてにおいて100%再生可能エネルギーの採用を実現しました。
さらに、200社以上にわたるサプライヤーにも脱炭素を要請し、米国内では再エネによるスマホチャージも提供し、あらゆる過程におけるCO2排出の規制に厳しく目を光らせています。
大気中のCO2を除去する取り組みとして、2021年には森林保護を目的にRestoreFundを設立しています。
2025年には大気から100万トンのCO2が削減できる見込みです。
参照:グローバルサプライチェーンに対して~ Newsroom /Apple
参照:炭素除去のための革新的な~ Newsroom/Apple
竹中工務店・日本設計 ~大規模屋上緑化 世界でも評価
もう1つ、ぜひともチェックしておきたいのが、竹中工務店と日本設計、デザイナーのエミリオ・アンバースが共作した、大規模な屋上緑化プロジェクトです。
国内の大手ゼネコンは、早くからカーボンニュートラル・脱炭素の理念を設計や資材に取り入れてきました。
1995年、2社の共同設計にて福岡県福岡市、都市のど真ん中に歴史的な建造物「アクロス福岡」を完成させました。
竣工当初は建物自体を山に例えて、76種類の樹木、約37,000本が植付けされています。
施工には、鹿島、清水建設、九州建設、高松組、戸田建設と歴代の大御所が集結した傑作です。
約28年経った現在、「アクロス福岡」は見事な森林に覆われました。
生物多様性、CO2吸収、気温を低下させるヒートアイランド緩和などに効果を発揮しています。
緑化面の温度は、コンクリート表面温度から15℃低くなることが確認されています。
「アクロス福岡」の素晴らしいアイデアとその景観は、米大手CNNにも高く評価されています。
まとめ
今回見てきたように、カーボンニュートラルに取り組むということは、同時にSDGsの課題解決にもつながります。
1企業の取り組みが社内環境を向上させるだけに留まらず、地域社会、ひいては自治体や国、そして最終的には世界の課題を解決する重要なアクションと成り得るのです。
サービスや商品を通じて、人や地域と関わる以上、環境問題や社会問題に取り組むことは企業の常識になろうとしています。
企業とSDGsとの関わりが、企業価値・信頼性を高めるのです。
まずはカーボンニュートラル・SDGsへの足がかりとして、それぞれの事業におけるCO2排出量を調べてみるのも1つの方法です。
タンソチェックツールを使えば簡単に調べることができます。
ぜひ、この機会に身近でできるカーボンニュートラル・SDGsは何なのか、本気で考えてみてはいかがでしょうか。
著者のプロフィール
- 太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。
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