省エネ法では、エネルギーを大量に消費する特定の事業者に対して、エネルギーの使用状況や省エネに対する取り組みを報告するように求めています。この報告に基づき、政府は、各事業者の省エネに対する取り組みを評価し、クラス分けを行っています。この制度は、「事業者クラス分け評価制」と呼ばれています。

しかし、具体的にはどのような基準で事業者が評価されるのでしょうか。この記事では、そんな疑問を解消するために、省エネ法の概要や事業者クラス分け評価制の評価基準を分かりやすく解説しています。ぜひ最後までご覧ください。

省エネ法とは?

概要

省エネ法は、1973年のオイルショックをきっかけに、1979年に施行されました。1973年のオイルショックは、国際的な石油危機であり、世界中に大きな経済的影響を与えました。この石油危機は、第四次中東戦争(またはヨム・キプール戦争)というイスラエルとアラブ諸国(主にエジプトとシリア)との間の戦争が発端でした。

戦争の結果、アラブ諸国は、イスラエルを支援していると見なされた西側諸国、特にアメリカに対する報復として、石油の供給を制限するとともに価格を急激に上昇させました。具体的には、石油輸出国機構(OPEC)が石油価格を4倍以上に引き上げ、一部の国には、石油の供給を停止または削減しました。

この結果、石油に大きく依存していた国々の経済は大混乱に陥りました。燃料価格の高騰は、交通、生産、そして一般消費者の日常生活に多大な影響を与え、インフレーションを引き起こしました。また、多くの企業が倒産したり、失業率が上昇したりしました。これは「エネルギー危機」とも呼ばれ、1970年代後半まで続く経済的な停滞の一因ともなりました。オイルショック後、日本を含め、多くの国々が石油依存からの脱却やエネルギーの多様化、省エネ化に取り組むようになりました。

目的

省エネ法は、オイルショックで経験した経済的な大混乱を二度と引き起こさないようにと制定された法律です。この法律が制定された主な目的は、次の3つです。

  • 省エネ化(エネルギー効率の向上)
  • エネルギーの多様化
  • 石油依存からの脱却

省エネ化(エネルギー効率の向上)

省エネ化が重要な理由は、エネルギーの効率的な利用が経済全体に良い影響を及ぼすことに加え、エネルギー資源を枯渇させずに利用するためです。効率的にエネルギーを使用することで、必要なエネルギー供給量そのものが減少し、結果として石油などの輸入量を減らすことにもつながります。これにより、石油などのエネルギー価格の高騰による影響を緩和することができるのです。

エネルギーの多様化

エネルギーの多様化は、エネルギー供給の安定性を高める重要な手段です。1つのエネルギー源に依存すると、そのエネルギー源の供給が不安定になった際に非常に大きな影響を受けるリスクがあります。この代表的な例が、オイルショックです。しかし、エネルギーを多様化することで、リスクを分散し、エネルギー供給を安定化させることができます。

さらに、環境負荷の大きい化石エネルギーではなく、再生可能エネルギーなど環境に優しいエネルギー源にも目を向けることができるため、環境保全の一助にもなります。

石油依存からの脱却

省エネ法は、1979年に施行されて以来、時代に合わせて何度も改正されています。最近だと2023年4月に省エネ法は改正されました、これにより、再生可能エネルギーを利用して生成された電力の使用状況も報告の対象になりました。これは、日本が化石燃料から非化石エネルギーに本格的に移行していくという強い意志の表れといえるでしょう。再生可能エネルギーの使用は、石油依存の脱却と環境保全の両面で貢献できるため、非常に意義のある改正であると考えられます。

省エネ法の定期報告書とは?

概要

省エネ法に基づいて、一定の条件を満たす事業者は毎年、エネルギーの使用状況や省エネ対策について政府に報告しなければなりません。この報告の際に使う書類が、「定期報告書」と呼ばれます。この報告は、毎年7月末日までに提出する必要があります。それでは、この一定の条件を満たす事業者とは、具体的にどのような事業者なのでしょうか。

対象事業者

省エネ法において、定期報告書を提出しなければならないのは、年間でエネルギーを1,500kl以上(原油換算)使用する事業者です。これに加えて、使用、あるいは運営している1つの工場や事業場だけでエネルギー使用量が年間1,500kl以上の場合、「エネルギー管理指定工場等」の指定を受けなければなりません。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

関連記事はこちら:省エネ法のエネルギー管理指定工場等とは?対象や義務なども解説

記載内容

年間でエネルギーを1,500kl以上(原油換算)使用する事業者、毎年7月末日までに定期報告書を政府に提出しなければなりません。この報告書の記載内容は、以下の5つです。

  • 事業者の基本データ:事業者や企業の名前、住所、事業内容などがこれに該当します。
  • 使用したエネルギー:具体的には、電気やガス、石油などの使用量が記録されます。最近の法改正で、原子力や再生可能エネルギーの使用量も記載しなければならなくなりましたので、注意しましょう。
  • 省エネ対策の詳細:どのように省エネ対策に取り組んでいるのか、その詳細を具体的な例と共に報告します。
  • 省エネ対策の成果:具体的に、どれくらいのエネルギーを節約できたのかを報告します。
  • 今後の計画:改善が必要な場合、その理由と今後どう対策するかを報告します。

さらに、この報告で使われるエネルギー効率の指標は、「原単位」「電気需要平準化評価原単位」です。原単位は、製品1つ当たりに必要なエネルギー量を示すもので、この数字が小さいほど効率が良いとされます。一方、電気需要平準化評価原単位は、特に電気がよく使われる時間帯に注目し、その時間帯での使用量を削減することが高い評価につながります。定期報告書のさらなる詳細については、こちらの記事で取り扱っております。ぜひご一読ください。

関連記事はこちら:省エネ法における定期報告とは?概要と記載内容も解説

対象事業者のクラス分けとは?

事業者クラス分け評価制度は、エネルギー効率に優れた企業や工場を特定し、その情報を公表することで、他の企業も省エネルギーへの取り組みを強化するためのものです。この制度は、特にエネルギー使用量が大きい特定事業者を対象にしています。

評価は、基本的に2つの主要な指標に基づいて行われます。第1の指標は、過去5年間でエネルギー効率(原単位と呼ばれる)が1%以上改善されたかどうかです。第2の指標は、業界ごとに設定されたエネルギー効率の基準(ベンチマーク)を達成しているかどうかです。

評価の結果に基づいて、事業者は「Sクラス」(省エネが優良な事業者)、「Aクラス」(省エネの更なる努力が期待される事業者)、「Bクラス」(省エネが停滞している事業者)、または「Cクラス」(注意を要する事業者)として分類されます。このようにして、エネルギー効率の向上に対する企業の取り組みが評価され、公表されるわけです。

引用:事業者クラス分け評価制度(SABC評価制度)

Sクラスの事業者

省エネ法によると、Sクラスの事業者は、「省エネが優良な事業者」と定義されています。Sクラス評価を受けるためには、過去5年間でエネルギー効率を1%以上改善、あるいは業界ごとに設定されたエネルギー効率の基準(ベンチマーク)を達成しなければなりません。ただし、この制度は特定の工場や事業場に焦点を当てているため、全業種に共通するエネルギー使用状況を反映しているわけではない点には注意が必要です。

また、Sクラスに評価された企業の詳細は、優良事業者として経済産業省のホームページの「省エネ評価」という欄で公開されます。また、ベンチマーク基準を達成している企業は、「ベンチマーク達成分野」という欄で、その達成した分野が明示されます。これを企業活動のPRに利用することも可能ですので、積極的に省エネ対策に取り組んでいきましょう。

省エネ対策として最初に行うべきことは、自社における二酸化炭素排出量を把握することです。どれくらいの二酸化炭素を排出しているかを知ることで、省エネによる取り組みの成果を視覚化することができるためです。さらに、その結果をもとに次年度の省エネ目標を立てることも可能になります。弊社では、排出量を無料で計算できるサービスを提供していますので、もしよろしければご活用ください。

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Aクラスの事業者

Aクラスの事業者は、省エネ法において「省エネの更なる努力が期待される事業者」として定義されています。つまり、エネルギー効率の向上には一定の努力をしているものの、まだ省エネ法の基準には達していない企業や工場です。具体的には、過去5年間でエネルギー効率が1%以上改善されていない、または業界ごとに設定されたエネルギー効率の基準(ベンチマーク)を達成していない状態です。しかし、Aクラスの事業者は、目標には届いていないものの、最低限の省エネ水準は保っています。

そのため、政府はAクラスの事業者に対して、さまざまな省エネ支援策の情報をメールで提供しています。このようにして、Aクラスの事業者が目標を達成できるように継続的に改善を促していく方針です。特に、次年度以降でのエネルギー効率の向上が期待されています。

Bクラスの事業者

Bクラスの事業者は、「省エネが停滞している事業者」と定義されています。具体的には、最近の2年間でエネルギー使用量が前年よりも増加しているか、または過去5年間でエネルギー効率が5%以上、悪化している場合に、Bクラスに分類されます。Bクラスの事業者に対しては、状況を詳細に調査するためにさまざまな手段がとられます。例えば、報告の徴収、立入検査、または工場や事業場での現地調査が行われることがあります。これらの調査は、エネルギー使用状況や遵守状況を正確に把握し、改善のための具体的な手段を見つけ出す目的で行われます。

Cクラスの事業者

Cクラスの事業者は、省エネ法では「注意を要する事業者」と定義されています。具体的には、Bクラスの事業者の中でも、エネルギー効率と合理的なエネルギー使用に関する規定遵守が特に不十分な企業や工場のことです。政府は、Bクラスの事業者に対して、報告の徴収、立入検査、現地調査を行います。その結果、規定遵守が十分に行われていないと判断された場合、Cクラスの評価を受けることになります。

Cクラスの事業者に対しては、特に厳しい指導が行われます。省エネ法第6条に基づき、エネルギーの合理的な使用に対する指導や計画作成が命じられます。これは、エネルギー効率を改善する取り組みをすぐに始めてもらうためです。政府から合理化計画の作成が指示されると、事業者は、その計画に従ってエネルギー効率を改善していかなければなりません。

省エネ法第6条

(指導及び助言)

第6条 主務大臣は、工場等におけるエネルギーの使用の合理化の適確な実施又は電気の需要の平準化に資する措置の適確な実施を確保するため必要があると認めるときは、工場等においてエネルギーを使用して事業を行う者に対し、前条第1項に規定する判断の基準となるべき事項を勘案して、同項各号に掲げる事項の実施について必要な指導及び助言をし、又は工場等において電気を使用して事業を行う者に対し、同条第2項に規定する指針を勘案して、同項各号に掲げる事項の実施について必要な指導及び助言をすることができる。

引用:エネルギーの使用の合理化等に関する法律

参照:事業者クラス分け評価制度

産業トップランナー制度(ベンチマーク制度)とは?

産業トップランナー制度は、ベンチマーク制度とも呼ばれており、特定の産業や業種において省エネルギーの効率を高めるための指標や基準を設定する制度です。この制度では、各産業や業種でトップレベルのエネルギー効率を持つ事業者が達成しているレベルを「ベンチマーク」として設定します。このベンチマークは、その産業で働く他の事業者にとって、達成すべき目標となります。

具体的には、各業界で最も効率的な1~2割の事業者が達成しているレベルを目標にするため、非常に厳しい基準が設けられます。このようにして、業界全体の省エネルギー水準を引き上げていこうとしているのです。さらに、この制度では透明性も重視されています。国が事業者から報告されたデータに基づいて、ベンチマーク指標の平均値や標準偏差、目標達成の状況を公表することで、各事業者が自らのパフォーマンスを他社と比較し、さらなる努力を促される仕組みがあります。

ベンチマーク制度は、各産業でトップレベルのエネルギー効率を持つ事業者を基準に、他の事業者もそのレベルに達するよう励ます制度です。公表されたデータを通じて、事業者は自分たちのエネルギー効率が産業平均やトップレベルとどれくらい差があるのかを知り、改善に取り組むきっかけを得ることができます。

参照:エネルギーの使用の合理化等に関する法律に基づくベンチマーク指標の報告結果について

関連記事はこちら:省エネ法のベンチマーク制度とは?概要や目的、活用方法についても解説

まとめ

省エネ法は、オイルショックによる経済混乱を防ぐ目的で制定されました。この法律により、年間でエネルギーを1,500kl以上使用する事業者は、毎年エネルギー使用状況と省エネ対策について政府に報告する必要があります。政府は、報告を基にして、事業者の省エネ努力を2つの主要な指標で評価します。

第1は、過去5年間でエネルギー効率が1%以上改善されたかどうか、第2は、業界ごとのエネルギー効率基準(ベンチマーク)を達成しているかどうかです。また、省エネ努力の評価に基づき、事業者は「Sクラス」から「Cクラス」までのいずれかに分類されます。

実際、半数近くの企業がSランクの評価を受けています。Sランク評価を受けているのは、大企業だけではなく、中小企業も多く含まれています。この評価を得るために、企業は、さまざまな省エネ活動を実施しています。その中でもよく実施されているものが、二酸化炭素排出量の算出です。下記リンクから、排出量の計算を無料で行えますので、ぜひ一度お試しください。
参照:タンソチェック【公式】 -CO2排出量算定削減サービス

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。