「省エネ法が改正されたらしいけど、私たちの企業も提出対象になるのかな?」

「でも、省エネ法の中長期計画書の書き方が分からない……」

こういった疑問を持つ企業や担当者は、だんだんと増えています。日々の業務に追われ、中長期計画書への理解を深めたり、記入したりする時間がないと感じている方も少なくありません。この記事では、省エネ法に基づく中長期計画書の対象者から具体的な書き方まで、分かりやすく丁寧に解説します。本記事が忙しい企業や担当者さまの一助となることを願っています。

省エネ法とは?

省エネ法は、1979年に日本で制定された法律です。省エネ法の主な目的は、年間1,500キロリットル以上のエネルギーを使用する企業に対して、定期的にそのエネルギー使用状況を報告させることです。報告には、化石燃料だけでなく、電気、熱、再生可能エネルギーも含まれます。

これらの報告を基に、政府は国全体のエネルギー政策を見直します。つまり、この法律は、大きなエネルギー消費者である企業がエネルギーをどれだけ使っているかを明らかにし、その情報をもとに日本全体でのエネルギー利用を効率的かつ環境に優しい方向へ導くためのものです。

関連記事はこちら:省エネ法における定期報告とは?概要と記載内容も解説

省エネ法の中長期計画書とは?

省エネ法の中長期計画書は、省エネに関する計画を立て、それを政府に伝えるためのです。また、中長期計画書を提出しなければならないのは、原油換算で1,500kl/年以上のエネルギーを使用する事業者です。さらに、事業者は、一定規模以上の企業(特定事業者)、複数の事業場所を持つ企業(特定連鎖化事業者)、複数の企業や事業場所のエネルギー使用を一元管理している企業(認定管理統括事業者)に分けられます。

これらに該当する事業者は、省エネ法で定められた基準に沿って、エネルギーの効率的な使い方について計画を立て、それを政府に報告することが義務付けられています。

省エネ法の中長期計画書の書き方とは?

それでは、中長期計画書の書き方について詳しく解説を進めていきます。事業者によっては、記入する必要のない箇所もありますので、しっかりと確認してください。記入は、下記の7つの手順を踏んで行います。

  1. 指針の理解
  2. テンプレートをダウンロード
  3. 「表紙」の記入
  4. 「Ⅰ 特定事業者、特定連鎖化事業者又は認定管理統括事業者の名称等」の記入
  5. 「Ⅱ エネルギー使用量」の記入
  6. 「Ⅲ エネルギーの使用の合理化に関する計画」の記入
  7. 「Ⅳ 非化石エネルギーへの転換に関する計画」の記入
  8. 書類の提出

それぞれ簡単に説明します。

1.指針の理解

事業者は、公表されている基準や指針に基づき、エネルギーの効率的な使用と非化石エネルギーへの移行を進める必要があります。そのため、まずは、指針の理解が必要です。中長期計画書を作るための指針は、「中長期計画作成指針」と呼ばれています。中長期計画作成指針は、各事業者がどのような設備に投資すべきかを具体的に指示するものです。その指示にしたがって、設備投資などを行い、エネルギーの効率的な使用を目指しましょう。

各事業者は、業種ごとに4つのカテゴリーで整理されています。

  • 専ら事務所
  • 製造業
  • 鉱業、電気供給業、ガス供給業及び熱供給業
  • 上水道業、下水道業及び廃棄物処理業

専ら事務所

専ら事務所では、省エネのために、下記の設備に対して投資を行うことが推奨されています。

  1. 空気調和設備
  2. 換気設備
  3. ボイラー設備
  4. 給湯設備
  5. 照明設備
  6. 昇降機
  7. ビルエネルギー管理システム(BEMS)
  8. コージェネレーション設備
  9. 電気使用設備
  10. 未利用エネルギー・再生可能エネルギー等の活用
  11. 事務所等関連高度省エネルギー増進設備等

引用:省エネ法関連法令 専ら事務所

製造業

製造業は、省エネを目指して、製造業一般、特定業種、製造業関連高度省エネルギー増進設備等への投資するように指示されています。詳細は、下記の通りです。

製造業一般

  1. 燃焼設備
  2. 熱利用設備
  3. 廃熱回収設備
  4. コージェネレーション設備
  5. 電気使用設備
  6. 空気調和設備、給湯設備、換気設備、昇降機等
  7. 照明設備
  8. 工場エネルギー管理システム(FEMS)
  9. 未利用エネルギー・再生可能エネルギー等の活用
  10. 情報技術の活用

特定業種

  1. パルプ製造業及び紙製造業
  2. 石油化学系基礎製品製造業
  3. ナフサ分解プラント
  4. その他のプラント
  5. セメント製造業
  6. 鉄鋼業
  7. 製鉄業、製鋼・製鋼圧延業、製鋼を行わない鋼材製造業(表面処理鋼材を除く)、表面処理鋼材製造業及び鋳鉄管製造業
  8. 銑鉄鋳物製造業、可鍛鋳鉄製造業
  9. 鋳鋼製造業
  10. 鍛工品製造業
  11. 鍛鋼製造業

製造業関連高度省エネルギー増進設備等

引用:省エネ法関連法令 製造業

鉱業、電気供給業、ガス供給業及び熱供給業

鉱業、電気供給業、ガス供給業及び熱供給業において、省エネのための投資が推奨されるのは、鉱業、電気供給業、熱供給業、省エネ増進設備です。

鉱業

  1. 非鉄金属鉱業
  2. 石炭鉱業
  3. 石灰石鉱業

電気供給業

  1. 汽力発電(コンバインドサイクルを含む)
  2. 内燃力発電
  3. ガスタービン発電

ガス供給業

熱供給業

鉱業等関連高度省エネルギー増進設備等

引用:省エネ法関連法令 鉱業、電気供給業、ガス供給業及び熱供給業

上水道業、下水道業及び廃棄物処理業

最後は、上水道業、下水道業及び廃棄物処理業です。この事業では、下水、廃棄物処理に使用する設備などに省エネのための投資を行うことが求められています。

上水道業

下水道業

廃棄物処理業

  1. 廃棄物処理業
  2. し尿処分業

上水道業等関連高度省エネルギー増進設備等

引用:省エネ法関連法令 上水道業、下水道業及び廃棄物処理業

2.テンプレートをダウンロード

まずは、中長期計画書のテンプレートをダウンロードしましょう。下記の経済産業省のホームぺージから、「様式第8:中長期計画書(word形式)」という書類をダウンロードします。

参照:様式ダウンロードページ

3.「表紙」の記入

続いて、表紙の記入を行います。

引用:-2023 年度版- 省エネルギー法 定期報告書・中長期計画書(特定事業者等)記入要領 p.168

①受理年月日・処理年月日

受理年月日および、処理年月日の欄は、空白にしてください。

②提出先

提出先は、事業者の主たる事務所(本社)を管轄している地域の経済産業局長としましょう。ただし、1つの文書で複数の経済産業局を記載しないでください。

③年月日

年月日の欄には、提出する年月日を記入してください。提出期限は7月末日です。

④住所など

その他の情報(主たる事務所の住所、法人名、法人番号、株式銘柄コード、代表者の役職名と氏名など)も詳細に記入しましょう。

3.「Ⅰ 特定事業者、特定連鎖化事業者又は認定管理統括事業者の名称等」の記入

引用:-2023 年度版- 省エネルギー法 定期報告書・中長期計画書(特定事業者等)記入要領 p.170

①特定事業者番号、特定連鎖化事業者番号又は認定管理統括事業者番号

経済産業局から与えられた7桁の番号を「特定事業者番号」に記入してください。

②事業者の名称

事業者名を省略せずに記入してください。

③主たる事務所の所在地

企業の主要な事務所(本社)の住所を記載してください。もし複数の本社があれば、主要なもの1つを選んでください。

④主たる事業

最も重要な事業活動を記述してください。複数の事業があれば、例えば生産高や販売額に基づき、主要なものを選び記入してください。

⑤細分類番号

主要事業に関連する日本標準産業分類の番号を記載してください。

⑥エネルギー管理統括者の職名・氏名

エネルギー管理統括者の職名と名前を書きましょう。また、選任後に報告が必要です。仮に報告を怠ったり、虚偽の情報を提供したりすると、罰金が科されるので注意が必要です。

⑦エネルギー管理企画推進者の職名・氏名・勤務地・連絡先

エネルギー管理企画推進者の詳細と連絡先を記載し、指定後6ヶ月以内に選任して報告してください。報告違反や虚偽報告の場合、罰金が科されます。

⑧中長期計画の提出免除の希望

連続で高い評価(S評価)を受けている場合、計画書の提出頻度を減らすことができます。

⑨計画書(合理化)の計画期間

エネルギー使用の合理化に関する計画の期間を3〜5年で設定してください。5年以上でも可能ですが、5年ごとに更新が必要です。

⑩計画書(非化石転換)の計画期間

非化石エネルギーへの転換を行う期間も明記してください。

⑪計画内容に変更なし

もし直近の非化石エネルギー転換計画に変更がない場合、チェックボックスをマークしてください。ただし、2023年度には、この項目を必ず記入してください。

4.「Ⅱ エネルギー使用量」の記入

引用:-2023 年度版- 省エネルギー法 定期報告書・中長期計画書(特定事業者等)記入要領 p.172

①エネルギー使用量

昨年度の事業者全体のエネルギー使用量を原油換算で記述してください。これまでの報告では、非化石エネルギーや異なる換算係数によるエネルギーは対象外でしたが、今回それらも報告の対象となります。すべてのデータを正確に把握していない事業者は、今持っているデータで報告し、それを明記してください。ただし、来年度は正確なデータを元にした中長期計画書を提出する必要があります。

5.「Ⅲ エネルギーの使用の合理化に関する計画」の記入

引用:-2023 年度版- 省エネルギー法 定期報告書・中長期計画書(特定事業者等)記入要領 p.172

①区分

事業がどの種類に属するかを記載します。特に電力供給業は、A・B指標を別々に書く必要があります。※ベンチマーク対象業種のみが記入対象です。

②対象となる事業の名称(セクター)

事業者が実施している各セクターごとの事業名を記載してください。※ベンチマーク対象業種のみが記入対象です。

③ベンチマーク指標の状況(単位)

報告年度内のベンチマーク指標を記載しましょう。指標が改定された場合、改定前後のデータも必要になります。※ベンチマーク対象業種のみが記入対象です。

④対象事業のエネルギー使用量(原油換算 kl)

各セクターでのエネルギー使用量を原油換算で記載します。電力供給業は、A指標の行にまとめて記載してください。※ベンチマーク対象業種のみが記入対象です。

⑤ベンチマーク指標の見込み(単位)

計画期間中に達成しようとするベンチマーク指標の見込みを年度別に記載しましょう。※ベンチマーク対象業種のみが記入対象です。

⑥内容

省エネルギー活動や電力需要の最適化について計画した措置を可能な範囲で記載してください。

中長期計画作成指針

これは特定の事業者に対して、中長期の目標達成計画を作成するための指針です。計画する措置が指針に記載されている場合、該当する項番を記載しましょう。

⑧該当する工場等

計画対象となる工場や施設の名称を記載します。

⑨着手時期、完了時期

計画する新設・改造の着手(予定)年月と完了(予定)年月を記載します。また、効果がすべて発現する年度も記載してください。

⑩エネルギー使用合理化期待効果(原油換算 kl/年)

計画している措置で期待される省エネ効果を記載します。複数業種に共通する場合、ベンチマーク対象事業と分けて記載、または合算して記載してください。

⑪ベンチマーク対象

計画する措置がベンチマーク指標を改善する場合、「区分」を記載します。※ベンチマーク対象業種のみが記入対象です。

⑫新規追加

前年度の計画にはなかった新規の計画項目に〇を記入します。

⑬合計

計画している総省エネ効果を記載してください。

⑭うちベンチマーク指標対象範囲の期待効果

省エネ効果の合計のうち、ベンチマーク指標に該当する部分を特定して記入します。複数業種に共通する場合は、それぞれの期待効果を合計して記入。※ベンチマーク対象業種のみが記入対象です。

⑮原単位削減期待効果

計画の全体的な効果を、エネルギー使用量で割って百分率で表示。具体的には、「(⑬合計の期待効果 ÷ エネルギー使用量)× 100」の計算式を使用します。

⑯うちベンチマーク指標対象範囲の期待効果

原単位削減期待効果のうち、ベンチマークに関連する部分の割合を計算し、記入してください。※ベンチマーク対象業種のみが記入対象です。

⑰ベンチマーク指標対象範囲の期待効果(対象業種区分)

複数のベンチマーク対象業種がある場合、それぞれの業種での期待効果を行を追加して記載します。1つの業種だけであれば、この欄は不要です。※ベンチマーク対象業種のみが記入対象です。

引用:-2023 年度版- 省エネルギー法 定期報告書・中長期計画書(特定事業者等)記入要領 p.175

①その他エネルギーの使用の合理化に関する事項及び参考情報

これには、省エネルギー活動や体制整備に関する措置が含まれます。ベンチマーク制度対象業種であれば、目標達成計画や合理的な前提条件について記入が必要です。

また、洋紙製造業であれば、再生可能エネルギーの使用率やそれに基づくベンチマーク目標値を報告する必要があります。昨年度と比較してエネルギー使用量が変わっている場合(再生可能エネルギーの使用率が72%未満)は、ベンチマークの目標値と計算式を記入してください。

②削除した計画

今年度の計画で削除された項目がある場合、報告を行います。

③該当する工場等

削除された計画が適用されていた工場や施設について記入してください。

④理由

計画が削除された理由を説明します。

6.「Ⅳ 非化石エネルギーへの転換に関する計画」の記入

非化石エネルギーの記入欄は、2023年4月の省エネ法改正後に追加されたものです。これまではなかったものですので、記載漏れに注意してください。

関連記事はこちら:省エネ法は2023年に改正された?概要や改正点を詳しく解説

関連記事はこちら:再生可能エネルギーを導入している企業の取り組みについて解説

引用:-2023 年度版- 省エネルギー法 定期報告書・中長期計画書(特定事業者等)記入要領 p.176

①非化石電気の使用状況

企業は使用するすべての電気について、その非化石比率の目標を設定する必要があります。これには、購入した電気や自家発電も含まれます。エネルギーの換算には、一次換算係数(8.64 GJ/千kWh)を用いてください。

②指標の範囲全体のエネルギー使用量(原油換算kl)

過去1年間の全エネルギー使用量を原油換算で報告します。こちらも一次換算係数(8.64 GJ/千kWh)を使用してください。

③目標

2030年度に向けて、非化石エネルギーの使用比率に関する目標を設定します。その際には、国のエネルギー基本計画や企業独自の計画を参考にします。

④定量目標の目安に関する指標の状況

特定の業種で非化石エネルギーへの転換に関する基準が設けられている場合、それに従って報告を行います。

⑤定量目標の目安

さまざまな業種ごとに、石炭の使用量や非化石エネルギー割合に関する目安が提供されていますので、それを参考に記入を進めていきます。

⑥指標の範囲全体のエネルギー使用量(原油換算kl)

各指標に関連するエネルギー使用量も原油換算で報告する必要があります。

⑦目標

各指標に対する2030年度の目標値も記入します。

⑧~⑪その他の指標の状況

企業は、独自の指標を設定し、その目標値やエネルギー使用量を報告できます。これは任意ですが、特に効果的な指標があれば記入しましょう。

引用:-2023 年度版- 省エネルギー法 定期報告書・中長期計画書(特定事業者等)記入要領 p.175

①内容

非化石エネルギーへの転換を目的とした設備投資や取り組みの詳細を記述しましょう。

②該当する工場等

計画の対象となる工場や施設の名前を記載します。

③着手時期、完了時期

設備の新設や改造の開始と完了の年月、措置の全効果が発現する年度を記載してください。

④非化石エネルギー転換期待効果

非化石エネルギー増加量や、石炭使用削減の期待効果を数値で表します。

⑤目安設定業種

計画の措置が対象とする業種の「区分」を記述します。該当しない場合は「-」と記入しましょう。

⑥新規追加

前年度計画にない新しい項目があれば、それを記載します。

⑦その他の情報

非化石エネルギー転換の他の関連事項や、期待効果に現れない定性的な取り組み、特定のエネルギー使用量の報告範囲についての情報を記入してください。

⑧削除した計画

前年度計画で、今年度、削除した項目を記述します。

⑨該当する工場等

削除した計画に関連する工場や施設の名前を記入してください。

⑩理由

計画を削除した理由を明記します。

7.書類の提出

「Ⅳ 非化石エネルギーへの転換に関する計画」まで記入が終了したら、書類の準備は完璧です。あとは、書類の提出のみです。毎年度の7月末日が提出期限ですので、忘れずに提出しましょう。また、提出前には記載内容に誤りがないかを再確認ができると安心できます。提出先は、事務所本社がある地域の経済産業局長です。

参照:定期報告書、中長期計画書の作成とベンチマーク制度

まとめ

省エネ法に基づく中長期計画書は、エネルギーの効率的な使用についての方針をまとめ、政府に報告する手段です。中長期計画書の作成には、特定の手順があります。まずは、計画書の指針をしっかりと理解しましょう。その後、テンプレートをダウンロードしてから、各セクションの記入を進めていきます。これには、事業者の名前や詳細、エネルギー使用量、省エネに関する具体的な計画、非化石エネルギーへの移行計画などが含まれます。

中長期計画書は、年間で原油換算で1,500キロリットル以上のエネルギーを消費する事業者が提出しなければならないものです。毎年7月末が提出の締め切りであり、提出先は事務所本社のある地域の経済産業局長です。ただし、2年連続でS評価を獲得できれば、最後に提出した中長期計画書の期間中は、計画書の提出が免除されます。

政府へ良い報告ができるように、省エネに関する取り組みを行いましょう。まずは、二酸化炭素の排出量を算出から始めてみてはいかがでしょうか。下記リンクより、無料で排出量の計算ができますので、ぜひご活用ください。
参照:タンソチェック【公式】 -CO2排出量算定削減サービス

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。