省エネ法とは何か、そして、この法律がどのような事業者に影響を与えるのか、ご存知でしょうか。この記事では、日本の省エネ法の全体像から、直接規制と間接規制を受ける具体的な事業者のカテゴリーまで詳しく解説します。特に、工場や事業所、貨物・旅客輸送事業者、特定荷主など、さまざまな業種と規模の事業者がどのような義務を負い、どう対応すべきかについて詳細に説明します。

省エネによるエネルギー効率の向上は、地球温暖化への対策と枯渇していく資源をより長く利用するためには必要不可欠です。省エネ対策を開始する、あるいは進める上で、本記事が少しでもお役に立てたのなら幸いです。

省エネ法とは?

省エネ法は、エネルギーの効率的な使用と、化石燃料から環境に優しい非化石エネルギーへの移行を目的とした日本の法律です。この法律は、特に大規模なエネルギー消費者である事業者に焦点を当てています。具体的には、年間で原油換算で1,500キロリットル以上のエネルギーを使用する事業者が対象となります。

原油換算で1,500キロリットル以上のエネルギーを使用する事業者は、エネルギー使用の状態について定期的に報告を政府に提出する必要があります。さらに、これらの報告を基にして、エネルギー効率の向上や非化石エネルギーへの転換に関する計画を策定、または見直す責任もあります。

参照:省エネ法の概要

省エネ法の対象事業者とは?

省エネ法では、主に「工場や事業場」、「運輸業」、そして「機械器具等(自動車や家電、建材など)の製造や輸入を行う業者」が対象事業者とされています。しかし、建物に関しては、2017年からは「建築物省エネ法」という別の法律で取り扱われるようになっています。

さらに、省エネ法のもとで、事業者は「直接規制を受ける事業者」「間接規制を受ける事業者」の2つのカテゴリーに分けられています。

引用:省エネ法の概要|省エネ法におけるエネルギー

直接規制を受ける事業者

省エネ法において、直接規制を受ける事業者は、「工場・事業場」と「運輸」の分野に携わる事業者です。具体的には、工場や事業場、事務所などを設置する事業者や、商品を運ぶ輸送事業者、そして、商品の運送を依頼する荷主が該当します。

直接規制とは、特定のルールや数値目標を設定し、それに違反すると罰則が科されるような具体的な規定を設ける方式です。例えば、一定の条件を満たす事業者には、エネルギーの使用状況を定期的に報告する責任があります。もし、事業者が定期報告をしないなどの違反した場合は、罰金や実名や企業名の公表などの罰則を受けなければなりません。また、省エネの取り組みが不十分な場合は、政府による指導や助言を受ける可能性もあります。

直接規制のメリットは、具体的な数値目標や基準が設定されるため、一定以上の省エネ効果が期待されるという点です。一方で、厳格な基準によっては、製品の価格が上がる可能性や、特定の業界や企業に大きな負担がかかるというデメリットもあります。

政府は、事業者が特定の基準や数値目標を達成できるように省エネのガイドラインを提供しています。このガイドラインでは、省エネ対策において、何を目指してどのような行動を取るべきかという目安を提供しています。各事業者は、提供されたガイドラインにしたがって、エネルギーを無駄にしないような取り組みをしなければなりません。

特定事業者等(工場・事業者)

特定の基準を超えるエネルギーを使用する事業者は、特別な手続きと報告義務があります。具体的には、事業者全体の年間エネルギー使用量(原油換算値)が1,500キロリットル以上である場合、5月末日までに「エネルギー使用状況届出書」を提出し、「特定事業者」として認定される必要があります。しかし、すでに特定事業者としての認定を受けている場合は、届出書の提出義務はありません。

また、フランチャイズのような連鎖事業の場合、本部が加盟店を含めた全体のエネルギー使用量を報告して、「特定連鎖化事業者」として認定される必要があります。こちらも特定事業者と同じように、すでに特定連鎖化事業者としての認定を受けている場合、届出書の提出は不要です。

ここで重要な点は、子会社や関連会社などは別の法人として扱われるため、それぞれ独立して報告と認定を受ける必要があります。さらに、個々の工場や事業場が年間エネルギー使用量1,500キロリットル以上である場合、それぞれが独立した「エネルギー管理指定工場」などとして認定される場合もあります。

関連記事はこちら:省エネ法のエネルギー管理指定工場等とは?対象や義務なども解説

義務としては、特定事業者として認定された場合、エネルギー管理統括者を選任する必要があります。また、エネルギー使用の中長期計画書の提出や、その使用状況についての定期報告書の提出求められます。全ての事業者、特定であるか否かに関わらず、エネルギー効率向上のための基準を設定し、それに基づいて実際の措置を行う必要があります。これには、燃料の変更や稼働時間の調整などが含まれます。

関連記事はこちら:省エネ法の中長期計画書とは?対象者や書き方を丁寧に解説
関連記事はこちら:省エネ法における定期報告とは?概要と記載内容も解説

さらに、「エネルギー管理指定工場」として認定された場合には、年間エネルギー使用量に応じて追加の義務があります。具体的には、使用量が3,000キロリットル以上の場合は専門のエネルギー管理者を選任し、1,500キロリットル以上でも3,000キロリットル未満の場合は、エネルギー管理員を選任する必要があります。いずれの場合も、定期的な報告が必要です。

特定貨物、旅客輸送事業者

特定の規模以上の輸送事業者は、国土交通大臣から「特定輸送事業者」という指定を受けなければなりません。この指定は、事業者が貨物や旅客を輸送する際の能力、つまり保有するトラック、バス、鉄道車両、船舶、航空機などの数やサイズに基づいています。具体的には、次の条件を満たす場合、特定輸送事業者に該当します。

  • 鉄道であれば、300両以上
  • トラックであれば、200台以上
  • 船舶であれば、総船腹量で2万総トン
  • 航空機であれば、総最大離陸重量で9,000トン

特定輸送事業者には、いくつかの義務があります。まず、事業者は、輸送能力が一定基準以上である場合、その情報を「輸送能力届出書」として次の年度の4月末日までに提出する必要があります。これにより、特定輸送事業者としての指定を受けることになります。ただし、すでに特定輸送事業者として指定を受けている場合は、輸送能力届出書の提出は不要です。

毎年1回、6月末日までに「中長期計画」と「定期報告書」を作成して提出する必要があります。この計画は、事業者の主要なオフィスが所在する地域の地方運輸局長に提出しなければなりません。ただし、航空輸送事業者の場合は、国土交通大臣に直接提出します。

参照:環境:輸送事業者の皆様へ(省エネ法)

特定荷主

「特定荷主」とは、年間で総計3,000万トンキロ以上の貨物を貨物事業者に依頼する企業や個人を指します。荷主というのは、貨物輸送事業者に貨物を頼む側、すなわち直接エネルギーを使っていない企業や個人を指します。省エネ対策には、この荷主が主体的に関与することが重要とされています。例えば、複数の事業者で貨物をまとめて運ぶ共同輸送や、環境に優しい鉄道や船舶を使用するモーダルシフトなどがあります。そうした取り組みが成功するためには、貨物を運ぶ事業者だけでなく、荷主自身も積極的に関与する必要があります。

法的には、荷主は主に2つのカテゴリーに分けられます。1つは、自社の事業に関連して貨物を継続して輸送事業者に依頼する企業や個人です。ただし、その輸送方法が他の事業者によって実質的に決定されている場合は除かれます。もう1つは、自社が直接、貨物輸送事業者と契約していなくても、他の事業者が行う貨物の輸送方法を実質的にコントロールしている場合です。このような取り決めは、書面の契約だけでなく、口頭での約束や指示書、約款なども含まれます。

特定荷主には、いくつか重要な義務があります。まず、荷主自身で貨物の輸送量をしっかりと把握する必要があり、その量が3,000万トンキロ以上になる場合は、地域の経済産業局長に「貨物の輸送量届出書」を提出しなければなりません。もし貨物の輸送量が前年度で3,000万トンキロ未満だった場合でも、今後もその量を注意深く監視する必要があります。

また、特定荷主に指定された後で貨物量が大幅に減少した場合、その事を管轄地域の経済産業局に報告する必要があります。例えば、物流部門を子会社化した場合などが考えられます。そして、新たに子会社となった部門が3,000万トンキロ以上の輸送量を持つ場合には、再度、貨物の輸送量届出書の提出が求められます。

さらに、特定荷主は、毎年6月末日までに「中長期計画書」を作成し、経済産業大臣および事業所管大臣に提出する必要があります。ただし、エネルギー効率の向上に優れている場合は、計画書の提出が少なくなる可能性があります。具体的には、過去2年間でエネルギー消費量を平均で年1%以上削減した企業は、最後に提出した計画書の期間中、同じ条件を見たし続ける限りは、計画書の提出を免除されます。

それに加えて、特定荷主は、毎年6月末日までに、経済産業大臣と事業所管大臣に対して定期報告を行う必要があります。報告書作成に際しては、専用の「定期報告書 作成支援ツール」を使用することで、必要な数値計算や選択項目を簡単にまとめられます。このツールは表間がリンクされており、煩雑な手続きをスムーズに進めることができます。ツールのインストールや利用方法については、こちらの資源エネルギー庁のサイトからPDFをダウンロードして、ご確認ください。

参照:特定荷主の義務内容

参照:荷主とは

間接規制を受ける事業者

ここからは、間接規制を受ける事業者について解説をします。省エネ法において、間接規制を受ける事業者は、「機械器具等(自動車、家電製品や建材等)の製造又は輸入事業者」です。具体的には、家電メーカーや車の製造業者などがこれに該当します。これらの事業者は、政府が定めたエネルギー効率の基準に従って製品を作らなければなりません。

そもそも、間接規制とは、一体どのような規制なのでしょうか。間接規制は、特定の行為を直接制限、または禁止するのではなく、事業者自らがエネルギー効率を高める方向で行動するように促す手法のことです。例えば、ある企業が年間エネルギーで1,500キロリットル以上のエネルギーを使用している場合、その企業はエネルギー使用の効率化についての計画を作成し、その実施状況を定期的に報告する義務があります。

しかし、この計画に「絶対にこれだけのエネルギー効率向上を達成しなければならない」といった厳格な要件は設けられていないことが多いです。このように間接規制は、企業や組織が自主的に効率の改善を進められるような形になっています。

間接規制のメリットは、業種や業界、さらには各企業の特性に応じて柔軟に対応できる点です。一方で、目標達成が義務ではないため、結果としてエネルギー効率があまり向上しないケースも考えられます。その対策として、政府は、改善のための助言や勧告をその事業者に行います。

間接規制の中でも注目すべきは、「トップランナー制度」と呼ばれる制度です。この制度では、現在、市場で最もエネルギー効率の高い製品(トップランナー)を基準に、その性能をさらに向上させるような目標が設定されます。これにより、市場全体のエネルギー効率が高まり、最終的には、消費者がエネルギー効率の高い製品を選びやすくなります。

また、間接規制の一環として、一般の消費者に対しても、エネルギー効率や環境への影響についての情報提供が行われることがあります。これによって、消費者自身が賢い選択をする助けとなり、エネルギー効率の向上が進むと考えられています。

まとめ

この記事では、日本の省エネ法とその対象となる事業者について詳細に解説しました。さらに、直接規制と間接規制の2つのカテゴリーに分けて、それぞれの対象となる事業者と義務を説明しました。具体的には、省エネ法の対象事業者は、工場や事業所、貨物・旅客輸送事業者、特定荷主、自動車や家電製品などの機械器具等を製造・輸入する事業者です。義務については、一定規模の事業者であることを示す届出書や、省エネ対策における中長期計画書や定期報告書の提出が求められています。

省エネ法は、エネルギー効率を向上させることで、地球温暖化対策と資源の有効活用を行うための法律です。ぜひ、あなたの企業でも省エネ対策を進めていきましょう。簡単に行える対策として、二酸化炭素排出量の算出があります。弊社では、無料で排出量を算出できるサービスを提供しております。ぜひご利用ください。
参照:タンソチェック【公式】 -CO2排出量算定削減サービス

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。