昨今カーボンニュートラルで注目される再生可能エネルギーですが、その中でもバイオマスはあまり知られていません。しかし、バイオマスにはカーボンニュートラルだけではなく、廃棄物削減という循環型社会に大きな貢献ができる能力を備えています。
一方で、バイオマスにはコストの課題があり、普及が進んでいませんでした。その解消のため、FIT制度の活用が始まり、おかげでバイオマスのエネルギーの利用がじわじわと普及の幅を広げてきました。
脱炭素に欠かせない再生可能エネルギーの一種であるバイオマスは、まだ複雑で馴染みが少ないです。この記事ではバイオマスやバイオマスを使った発電の解説、FIT制度や事例とともに紹介をします。
バイオマスとは
「バイオマス」と聞いて思い浮かぶのは、木質系の残材や食品廃棄物が一般的かもしれません。しかし、バイオマスを広義でとらえると、生物由来の有機的な資源、つまり地球上の生命体すべてがバイオマスになります。よく利用されるのは、森林の間伐材、家畜の排せつ物、食品廃棄物などです。この記事では、バイオマスが持つ資源としての一面をみていきます。
3種類のバイオマス
バイオマスにはさまざまなものがありますが大きく分けると、「廃棄物系バイオマス」「未利用系バイオマス」「資源作物」の3つになります。ここではその3種類について簡単に解説します。
廃棄物系バイオマス
家畜の排泄物や製材工場などの残材、食品廃棄物などが代表的な廃棄系バイオマスです。廃棄物であってもバイオマスとして有効活用すれば、価値ある資源となります。環境への負荷が軽減され、かつ持続可能なエネルギーへと変換される、有効なリサイクルとなります。
未利用系バイオマス
農業や林業に関連する資源で、農作物の非食用部や、林地残材など今まで利活用されていなかったものになります。代表的なのは間伐材や果樹剪定枝、稲わら、もみがらです。今まで需要のない間伐材などは山林に放置されていたりと利用の機会がないものでしたが、近年は木質バイオマスとして注目され始めています。
資源作物
最初からバイオマスとしての利用を目的として、栽培や培養がおこなわれるものになります。代表的なものには、バイオエタノールの原料になるサトウキビやトウモロコシ、バイオジェット燃料になるミドリムシなどが挙げられます。国土の狭い日本では、食料と競合してしまう懸念から資源作物の原料は乏しく、稲わらや木材等のセルロース系バイオマスを原料とした研究開発が推進されています。
バイオマスの利用方法
バイオマスには多くの利用方法があります。大きく分けると、製品として加工される「マテリアル利用」と「エネルギー利用」との2つになります。ここでは双方を簡単に説明します。
マテリアル利用
バイオマスは原材料として利用することができます。一例として、石油系プラスチックの代替品になるバイオマスプラスチックや、製品の品質向上に使われるセルロースファイバーなどがあります。循環型社会に向けて、新たなマテリアルとして、実用化に向けた先進的な研究や技術開発が各方面で進められています。
エネルギー利用
バイオマスが生み出すガスや熱を活用したり、燃料として利用したりすることができます。エネルギー源の一例として、間伐材などの木質系バイオマスや、下水汚泥、家畜ふん尿や食品廃棄物から発生させたメタンガス(バイオガス)があります。また、バイオマス資源を利用した発電には、FIT制度という政府の再生可能エネルギー発電を推進する支援があります。
バイオマス発電
バイオマスは、エネルギー資源として発電に利用することもできます。再生可能なエネルギー(以下、「再エネ」)源として注目され、持続可能な未来への重要なステップとして有効です。バイオマス資源を燃焼させればCO2を排出するものの、その減量はCO2を吸収して成長する木材などなので、全体で見れば大気中のCO2の量に影響を与えない「カーボンニュートラル」になります。
バイオマス発電の技術
バイオマスとは動植物などから生まれた生物資源の総称ですが、これらの資源を利用して発電する技術には直接燃焼による発電と、ガス化という過程を経て発電に利用されるものとの2種類があります。
直接燃焼による発電
バイオマスを直接燃焼し、そこから発生する熱から得られる水蒸気で蒸気タービンを回転させ電気に変えるのが直接燃焼のシステムです。燃料を化石燃料からバイオマス燃料に置き換えたものになります。この場合のバイオマス燃料には、木質バイオマスが使われることが多いです。
ガス化による発電
発電に使う前にバイオマス燃料をガス化させる工程を含むのが、ガス化による発電システムです。燃料のガスには、バイオマスを熱分解してガスを得る方法とメタン発酵によるバイオガスを作り出す方法があります。どちらの方法も加工後に得たガスを燃焼させ、そこから発生する熱から得られる水蒸気で蒸気タービンを回転させ電気に変えます。
バイオマス発電の利点
バイオマス発電によく使われるのは廃棄物系バイオマスです。他にも未使用系バイオマスもありますが、これらのバイオマスは持続可能なエネルギー源で環境に負荷をかけません。2050年のカーボンニュートラルに向けて重要な新エネルギーとして期待されています。
地球温暖化対策に貢献
発電時にバイオマス燃料を燃焼させるのでCO2を発生させますが、これは原料である木質バイオマスがCO2を吸収して成長したものなので、全体的にみると大気中のCO2量に変化しません。このことから、バイオマス発電は「京都議定書」における取り扱いでもカーボンニュートラルになります。
循環型社会を構築に貢献
廃棄物系バイオマスを利用するバイオマス発電は、廃棄物の再利用につながり、循環型社会の構築に貢献します。そして、家畜排泄物や生ゴミなど、それまで捨てていたものを資源として活用するので、地域環境の改善に貢献し地域経済も刺激します。
バイオマス発電の課題
バイオマス発電の利用拡大には、その燃料となる資源を安定的に確保することが必要です。そして、その収集や運搬には人手が必要になります。雇用を生み出すという側面もありますが、コストとしてのしかかってきます。ここではバイオマスの利活用を進めるうえでの課題をみていきましょう。
バイオマス資源供給の不安定性
バイオマス資源の種類によっては、安定した供給が難しいケースがあります。たとえば、食品廃棄物などの供給元になる食品産業は中小企業が多く、それぞれから排出される廃棄物は少量で分別の徹底が必要です。また、木質バイオマスは、森林や製材工場、住宅の解体材や街路樹の剪定枝などになるので不安定な供給になります。
運搬や施設管理にかかるコスト
バイオマス資源は、収集から運搬、施設の管理まで多くの人手とコストが必要です。たとえば、木質バイオマスを利用した発電コストは、燃料費が約7割を占めるとされています。林地の間伐とその残材の運び出しには人手が必要で、コスト高の要因にもなっています。
また、食品廃棄物が多く発生するのは都市部ですが、バイオマス資源へと加工する設備は地方にあるため、収集と運搬コストがかさんでしまいます。常に人手が必要になることはバイオマス資源の特徴です。このことは、地域に雇用を生み出すという利点もありますが、昨今の人手不足の状況ではコストとしてのしかかっています。
再生可能エネルギーを支援するFIT制度
2012年に経済産業省が施行したFIT(Feed-in Tariff)制度、正式名称は「固定価格買取制度」といい、2017年に法改正がありました。再エネを利用して発電するシステムを支援する制度です。どのようなものなのか、資源エネルギー庁の解説を一部引用します。
再生可能エネルギー源(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて発電された電気を、国が定める価格で一定期間、電気事業者が買い取ることを義務付けるものです。
簡単に説明すると、FIT制度とは再エネで作った電気を電力会社が固定価格で買い取る制度になります。コストが高い再エネ発電の普及を進めるために、補助金により普及を促進することを目的として作られた制度です。
この制度が開始されてから、一気に加速した再エネの導入ですが、その一方で、多くの課題が起こっていたのも現状でした。そこで、2017年にFIT法が改正され、さらに2022年度から市場連動型のFIP制度が導入されました。
FIT制度とバイオマス発電
再エネの主力電源化のために、2030年度のエネルギーミックス目標は、3,300~3,500億kWhの再エネ発電を目指しています。このうち、バイオマスは太陽光と風力についで大きな成長を期待されています(下図参照)。
対象となる再エネ資源にはバイオマス発電も含まれており、2012年に施行されたFIT制度により導入が進んでいます。また、2015年度から未利用木質バイオマス発電の買取区分が新たに設けられ、より小さい事業規模でも取り組めるようになりました。
バイオマス発電は、立地や技術制約が大きく、現時点では発電コストの低減にはさらなる技術革新が必要です。しかし、バイオマス発電は発電予測がしやすく、かつ出力も調整しやすいので、市場連動型のFIP制度とも相性が良いことが明らかになってきました。
バイオマス発電事例
国はバイオマス発電事業を推進し、多くの自治体と一緒に資源を活かして取り組んでいます。特に、バイオマス産業都市に認定されると、自治体は国からの支援が受けられ、企業は地域でのバイオマス事業が展開しやすい環境になります。ここでは「資源循環型社会」実現のモデルケースである福島県会津若松市のバイオマス産業都市を事例として解説します。
【事例】福島県会津若松市のバイオマス産業都市とFIT制度
福島県はもともと水力発電をはじめ再エネ利用が盛んな地域で、循環型社会の形成を推進してきました。そのなかでも会津若松市は森林資源に着目し、バイオマス発電事業を取り入れた地産地消と地域活性化を実現し、かつ森林の持続的な再生に貢献しています。
会津若松市は、早くも2012年から間伐材の利用を支援し始めています。また、市内にあるバイオマス発電会社がFIT認定され、木質バイオマス発電を始めました。ここで発電した電気は電力会社へ売電され、電力会社を通じて一般家庭等に電気を供給しており、資源の地産地消に貢献しています。
これまで山林に放置されてきた山林未利用材等を、木質バイオマス発電所の燃料として使用しています。こうしてCO2排出量の削減や森林資源の有効活用するだけでなく、地域林業の活性化と持続的な再生という資源循環型社会のさらなる実現を目指しています。
バイオマスと未来
副産物であるバイオ炭への期待
バイオマス資源をガス化発電した際、その製造過程でバイオ炭を生産することができます。このバイオ炭を農地へ施用すると炭素が土壌中に貯留するとともに、土壌の改善にもつながります。このことからJ-クレジット制度において「バイオ炭の農地施用」に関する方法論が2020年に策定されました。
これにより、農地にバイオ炭を施用し、難分解性の炭素を長期間土壌に固定することによる炭素貯留量をクレジットとして認証できるようになり、その利用が広がっています。また、欧州の事例では農地以外の施用もあり、クレジット化される範囲がもっと広がれば、さらなる炭素貯留が期待され、2050年のカーボンニュートラルに近づきます。
バイオマスの熱エネルギー活用
バイオガスが生み出すもうひとつのエネルギー「熱」の利用について、現時点では補助や支援が乏しいという現状があります。しかし、有効性が認められている熱利用が推進されれば、さまざまな熱産業が創出されると期待されています。
現在のFIT制度は発電のみに支援をしていますが、発電時に発生する排熱はエネルギーとして利用できるため、効率的なエネルギー利用です。今後、熱エネルギーへの評価が上がり、支援が進めばバイオマスのエネルギー利用がより発展するはずです。
まとめ
カーボンニュートラルにおいて有力な資源であるバイオマス、その種類や利用方法、また発電について詳しく解説してきました。FIT制度に認定された会津若松市の事例も今後のさらなる活用に希望を持たせてくれます。そして、まだ支援が少ないバイオマスの熱エネルギーももっと活用が広がれば、廃棄物の少ない循環型社会を実現に近づくことが期待されます。
著者のプロフィール
- タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。