近年、エネルギーを取り巻く環境が混迷しています。特に一次資源の価格高騰は、一般市民の暮らしにも大きな影響をおよぼしています。日本は化石燃料が少ないため、エネルギー自給率が低く、海外情勢の影響を受けやすいことも原因となっています

この状況を改善するため、注目されているのが再生可能エネルギーです。この資源は、国内で生産でき、温室効果ガスを排出しないことから日本政府も利用促進にさまざまな制度を施行してきました。

特に2012年に施行されたFIT制度は、再生可能エネルギーの導入促進に大きな効果をあげています。しかし、新しい課題も出てきたため、2017年には改正FIT法が施行されました。この記事ではFIT制度のメリットとデメリットを比べ、その後の政策(FIP制度)についても説明していきます。

再生可能エネルギーの重要性

まず、再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)の重要性をみていきましょう。日本は、「2050年カーボンニュートラル」という宣言をしました。この実現には、再エネの普及が欠かせません。というのも、再エネは温室効果ガスを排出せず、廃棄物の有効利用もできるのでカーボンニュートラルの実現に大きく貢献できるからです。

再エネの主な種類には太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスがあり、これらは国内で生産ができます。エネルギー自給率の低い日本にとって、海外の資源に頼らず電力生産ができ、エネルギーの安定供給につながります。また、中期目標として2030年度のエネルギーミックスがありますが、このうち再エネの割合は36~38%となっています。

将来的に再エネが主力電源となるよう、その普及にさまざま政策がとられていましたが、再エネ発電には高いコストがかかり、なかなか広まりませんでした。そんな状況の中、2012年に施行されたFIT制度は一般事業者にも開かれ、現在は再エネ発電量が大きく伸びています。

FIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)とは

2012年に経済産業省が施行したFIT(Feed-in Tariff)制度、2017年に法改正があり、TVや新聞で名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。日本語に訳すと、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」になります。どのようなものなのか、資源エネルギー庁の解説を一部引用します。

再生可能エネルギー源(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて発電された電気を、国が定める価格で一定期間、電気事業者が買い取ることを義務付けるものです。

参照:FIT・FIP制度よくある質問

簡単に説明すると、FIT制度とは、再エネで作った電気を電力会社が固定価格で買い取る制度になります。創設当時は、発電コストが高いせいで再エネ発電の普及が進んでいませんでした。そこで、補助金により再エネ発電の電力を高値で買い取り、再生可能エネルギー発電を増やすことを目的としてFIT制度が作られました。

この制度が開始されてから、再エネの導入が一気に加速しました。一方で、太陽光発電に導入が偏るなど多くの課題が起こっていたのも現状でした。そこで、2017年にFIT法が改正され、さらに2022年度から市場連動型のFIP制度が導入されました。この移行については後で述べます。

FIT制度が適用される5つの再生可能エネルギー

FIT制度の対象となる再生可能エネルギーには、太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電の5つがあります。これらは、温室効果ガスを排出せず、日本国内で生産できることから、重要な低炭素の国産エネルギー源になります。ここでは簡単にこの5種類の再生可能エネルギーの解説をします。

①太陽光発電
太陽光発電は、太陽の光エネルギーを太陽電池で直接電力に変えるシステムです。日光が届く場所であればどこにでも設置できることと、発電過程で二酸化炭素を排出しない利点を持っています。ただし、天候によって発電出力が左右されたり、一定地域に集中すると送配電系統の電圧上昇につながるという課題もあります。

②風力発電
風力発電は、風の力で風車を回し、その回転エネルギーを電力に変えるシステムです。風があれば昼夜を問わず発電可能で、大規模なものだとコストが火力や水力並みに抑えられるという利点を持っています。ただし、風の強さによって発電量が変動するため、安定的な電力供給が課題になっています。

③水力発電

水力発電は、河川などの高低差を活用して水を落下させ、そのエネルギーで水車を回して電力に変えるシステムです。農業用水路や上水道施設などでも発電できる中小規模タイプもあり、安定して長期間の運転が可能で信頼性が高いという利点を持っています。ただし、中小規模タイプは相対的にコストが高く、事前調査に時間がかかるという課題もあります。

④地熱発電
地熱発電は、地下深部にある地熱エネルギーを蒸気や熱水として取り出し、タービンを回して電力に変えるシステムです。日本は火山国で豊富な地熱資源を持っているのと、安定した出力が24時間えらえるという利点を持っています。ただし、開発には時間と高額な費用がかかり、温泉や自然公園などと重なる場所では地元との調整が必要という課題もあります。

⑤バイオマス発電
バイオマス発電は、廃棄物や農作物の残渣、木材などの有機物などの生物資源をエネルギー源として発電するシステムです。資源の有効活用で廃棄物の削減に貢献でき、天候にも左右されにくいという利点を持っています。ただし、資源の安定供給や運搬コストがかかるという課題もあります。

FIT制度のメリット

再生可能エネルギーの普及において、FIT制度は大きく貢献しました。電気事業者の収益安定を提供した結果、設備の導入が進んだことに起因します。しかも、環境に配慮しながらエネルギーの自給率と多様性が向上しました。ここではFIT制度のこのようなメリットについてみていきましょう。

事業者の収益安定により再生可能エネルギーの普及が拡大

FIT制度は、再生可能エネルギーを作る事業者を増やし、再エネの導入を拡大することを目的に施行されました。この制度により、再生可能エネルギー事業は魅力的な投資先となり、新規参入と技術革新が大きく進むことになりました。

FIT制度が施行された2012年は、再エネ発電はコストが高く、それほど導入が進んでいませんでした。現在では以前と比べて再エネが発電量に占める割合が増加し、2030年度エネルギーミックス目標値(36~38%)に近づいています。

参照:再生可能エネルギーの導入状況

環境保護

再エネには、化石燃料に比べて温室ガスの排出が少ないという利点があります。FIT制度の導入により再エネ発電が増加することは、石炭やガスなどの化石燃料への依存が少なくなることです。その結果、化石燃料の使用が減少し、二酸化炭素などの温室ガスの排出も削減されることにつながります。

さらに、FIT制度が適用されるバイオマス発電は、廃棄物の削減にも貢献できます。主に木質系の残材や家畜由来のメタンガスなどがエネルギーへと有効活用されるので環境への負担を減らします。このようにFIT制度は、環境への配慮がビジネスの成功につながる仕組みを支えています。

エネルギー自給率と多様性が向上

再エネを使うことは、国のエネルギー自給率を向上させることにつながります。日本のエネルギー自給率は、他のOECD諸国と比べても極めて低いのが現状です。このことは、輸入するエネルギーの価格が電気料金に大きく影響することにつながります。近年は上昇傾向にあるので、懸念材料になります。

一方で、再エネは国内で製造できるエネルギー源なので、外国に依存することなく、経済の安定にもつながります。もう一つ、再エネはエネルギー源の多様性にも貢献し、リスクが分散されます。

FIT制度のデメリット

2012年にFIT制度が施行されたのち、再エネの導入が大幅に加速しましたが、一方で課題も浮かび上がってきました。特に再エネ賦課金の負担は電力消費者に直接かかってきます。そして、太陽光発電は参入障壁が低いためFIT制度の利用が多いのですが、懸念点も多く出てきました。目立たない系統整備などのインフラ設備も安定供給のための大きな課題です。そのデメリットをここではみていきましょう。

再エネ賦課金の負担

電力会社が再エネ電気を買い取ったコストの一部は、再エネ賦課金として電気料金に上乗せされ、電力消費者が負担しています。FIT制度によって再エネ事業者は増加しましたが、賦課金の国民負担も同じく増加しています。

また、FIT制度では価格が固定されているので、発電事業者の間で「コストを下げる」というインセンティブが働きづらくなっています。このことは、技術で発電コストが減っても、高い調達価格が維持され、国民の負担が必要以上に大きくなります。

太陽光発電への偏重

太陽光発電への参入障壁は低いため、小規模の事業者でもFIT制度を利用した導入が可能です。その上、発電コストも年々低下しているので、全国で導入が進められています。これにより、太陽光発電用の土地や設備の過度な偏重が課題になっています。天候により発電出力が左右される太陽光発電は、送配電系統の電圧が不安定になり、その対策に費用もかかります。

特に太陽光導入量が多い九州エリアではこの問題が顕著で、2018年には国内初の太陽光出力制御を行い、その後もたびたび出力制御が必要になっています。その上、太陽光パネルには廃棄を迎えた時に適切な処理ができるのかという懸念もあります。

参照:一次エネルギーの動向【第213-2-14】九州エリア需給実績と出力抑制の状況(2020年4月30日)

系統整備が必要

再エネ導入の拡大に向けて、系統整備(電力網や変電所などのインフラ整備)と系統制約(安定供給のための調整)が非常に重要です。特に太陽光や風力発電のように天候に左右される不安定な発電源が増加すると問題となります。なぜなら、これらの発電源は気象条件に依存し、出力が変動するため、電力網が対応できるようにする必要があるからです。

従来の運用ではすでに制約が発生しているので、全国規模のマスタープランに基づく整備と、次世代型ネットワークへの転換が必要です。具体的な取り組みとして、送電線の空き容量をより正確に算出したり、情報公開とシミュレーションによる出力制御の改善も行われています。

対策とこれから

FIT制度が導入されたことで、多くの事業者が再エネ発電に参加し、再エネの利用が増加しました。しかし、この運用にはいくつか問題があったので、その解決策として2017年に改正FIT法が施行されました。

改正FIT法では、事業者に対して事業計画を確認し、発電設備の保守などを求め、責任をもって発電するように規定されています。また、大規模な発電プロジェクトについては、入札制度を導入し、国民の負担を抑えるための措置も取られました。

また、再エネの自立化を促す新たな制度として2022年からFIP(Feed-in Premium)制度も導入されました。これは、再生可能エネルギー発電事業者に対し、売電価格にプレミアム(補助額)を上乗せする仕組みです。これにより、市場価格に合わせて電力を発電し、収益を最大化できるメリットがあります。その結果、需給を踏まえた電気供給をするインセンティブとなるよう、設計されています。

FIP制度は、再エネが主要な電力源となるよう、電力市場を改善し、持続可能なエネルギーの普及を促進する目的を持って施行されました。今後数年は、FIT制度と併存されます。

まとめ

この先、日本が目指す「2050年カーボンニュートラル」に向けて、再エネを主力電源としていくことが必要です。そのために多くの制度が施行されてきました。その中でもFIT制度は、再エネの発展と普及を促進するためポジティブな影響を与えました。再エネを巡る状況は、まだ発展途上で課題が多いのが現状です。しかし、サスティナブルな未来のために、少しずつ着実に取り組んでいきましょう。

著者のプロフィール

福元 惇二
福元 惇二
タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。