FIT制度(固定価格買取制度)は、再生可能エネルギーの普及を促進するための制度です。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電設備がFIT制度の認定を受けると、一定の価格で発電した電力を売ることができるという利点があります。
そして、FIT認定を維持するためには、発電設備の設置や運転に関連する費用に関する定期的な報告が必要です。再生可能エネルギー政策の透明性維持や、導入状況の確認に必要なものです。これを怠ると、指導対象となるだけでなく、取得した認定が取り消しにつながる可能性があります。
FIT制度の定期報告は、発電設備の規模や運転状況に応じて異なる要件があるため、正確に行うことが重要です。この記事では、FIT制度の定期報告に関する詳細な情報をひとつにまとめました。
FIT制度と定期報告
2012年に経済産業省が施行したFIT(Feed-in Tariff)制度、その正式名称は、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」になります。簡単に説明すると、再エネで作った電気を電力会社が固定価格で買い取る制度になります。この制度が開始されてから、近年その普及が急激に伸び、再生可能エネルギーの導入が加速しました。
FIT制度の主要な目的は、再生可能エネルギーの普及を促進し、カーボンニュートラルに近づくことです。再生可能エネルギーは環境に優しく、化石燃料に比べて二酸化炭素の排出を減少させるため、気候変動への対策としても重要です。FIT制度によって、再生可能エネルギー発電事業に投資しやすくし、電力供給を安定化させることが目的です。
FIT制度の対象になるのは、太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス発電の5つになります。各エネルギー源の供給状況や発電出力はさまざまなのが現状です。今後の安定した電力供給のため、エネルギーミックスといって電源構成を多様化し、その最適化が必要になっています。
FIT制度における定期報告とは
FIT制度における定期報告は、再生可能エネルギー政策の透明性を保つために欠かせない重要なステップです。2017年施行の改正FIT法で義務化され、2018年7月末に資源エネルギー庁から義務化に関する周知がありました。そして、定期報告の提出先は経済産業大臣になります。
これは再生可能エネルギーを利用する発電所を建てた事業者や運営者は、その建設にかかった費用や、運営するために必要な情報を政府に報告する必要があるということです。そして、政府機関や規制機関は定期報告のデータを分析や評価をし、以下の項目を達成するのが目的です。
FIT制度の評価
定期報告によって、再エネの導入状況や発電量などが把握されます。政府はFIT制度の実施効果を評価し、価格などの必要な調整を行う基準として報告内容を利用します。
再生可能エネルギーの健全な成長
定期報告は、供給の動向を把握する手段としても利用されます。これにより、需要と供給を調整するための適切な対応が可能となり、再エネの健全な成長が促進されます。
FIT制度の改善
定期報告によって得られる情報は、FIT制度の改善に活かされます。政府は報告内容を基に、効果的な制度改革や調整を行い、再エネの普及を支援することができます。
定期報告の対象者
FIT制度の対象になる再生可能エネルギー発電事業者が、定期報告の対象者になります。これには個人や企業、発電所運営者などが含まれます。発電設備の分類によって報告形態が変わるので、詳しくは以下の図を参照してください。
参照:資源エネルギー庁_再生可能エネルギーFIT・FIP制度ガイドブック2023年度版
定期報告の期間
報告期間は年に1度となります。報告のタイミングは報告形態によります。設置費用報告は、発電設備が運転開始した日から1ヶ月以内です。もし、増設した場合は増設した日から1ヶ月以内に増設費用報告が必要となります。その後、運転費用報告が1年おきに必要となります(下図参照)
報告例
運転開始年月日が 2021年5月1日 の場合
■設置費用報告期日:2021年6月1日
■運転費用報告期日:毎年6月末(前年5月1日~4月末までの費用を報告)
定期報告の種類
定期報告には3種類あります。「設備費用報告」と「増設費用報告」は、発電設備を設置したタイミングで施工業者がおこなうケースが一般的です。「運転費用報告」は、発電設備の事業者が毎年おこなう必要があります。
定期報告を怠った場合や報告期日を過ぎた場合は、経済産業大臣による指導対象になります。資源エネルギー庁からの周知によると、FIT制度認定が取り消される可能性もあるとの喚起があったので注意が必要です。
設置費用報告
FIT認定を受けた発電設備の設置にかかった費用の報告です。発電設備を設置するためには、設備費だけでなく、工事費や整地費用などさまざまな費用がかかります。このような費用を報告するのが設置費用報告です。
報告する項目は発電設備の種類によって内容が変わります。たとえば、太陽光発電設備の場合は、設置場所の形態や太陽光パネルの情報などが必要です。報告後に審査があり、不備があった時は差し戻しされることがあります。設置費用報告の提出が必要なのは1度だけです。その後、毎年おこなう運転費用報告と整合が取れている必要があります。
運転費用報告
FIT認定を受けた発電設備の年間の運転費用の報告です。発電設備を運転するためには、メンテナンス費や保険料、税金などの費用がかかります。このような費用を報告するのが運転費用報告です
報告する項目は発電設備の種類によって内容が変わりますが、その主な内容は設置場所や運転維持費、運転実績情報になります。報告後に審査があり、不備があった時は差し戻しされることがあります。この報告は毎年1度おこなう必要があります。
増設費用報告
FIT認定を受けた発電設備を増設した場合にかかった費用の報告です。10kW未満の設備を増設し、10kW以上となった場合に必要となります。増設にかかったさまざまな費用を報告するのが増設費用報告です。
報告する項目は設置費用報告と同様になります。報告後に審査があり、不備があった時は差し戻しされることがあります。増設費用報告を提出していないと、その後毎年おこなう運転費用報告と整合性がとれなくなるので注意が必要です。
定期報告方法
太陽光発電設備と太陽光発電設備以外の発電設備では報告方法が違います。それぞれの発電設備の報告方法を確認する必要があります。そして、定期報告の方法は電子申請と郵送の2種類があり、どちらでも報告が可能です。
電子申請は、資源エネルギー庁の「再生可能エネルギー電子申請」外部インターネットサイトからおこないます。一方、郵送の場合は、資源エネルギー庁のサイトからフォーマットをダウンロードし、印刷して記入したものを指定の送付先に郵送します。
電子申請は「再生可能エネルギー電子申請」より行います。詳細手続きについては、以下のマニュアルを参照してください
参照:再生可能エネルギー電子申請サイト「操作マニュアル【7-1】定期報告:太陽光10kw未満.pdf」「操作マニュアル【7-2】定期報告:太陽光10kw以上.pdf」「操作マニュアル【7-3】定期報告:風力、水力、地熱、バイオマス.pdf」
太陽光発電設備のケース
太陽光発電の再生可能エネルギー発電は政府の後押しもあって、その事業者数が他の再生可能エネルギー源と比べて格段に多いです。なので、定期報告の提供先は、経済産業省から委託を受けた特別な代行機関(太陽光発電協会のJPEA代行申請センター、略してJP-AC)に、必要な書類を提出する方法になっています。
この代行申請機関であるJP-ACに提出するのは、「設置費用報告」と「運転費用報告」の両方になります。発電事業者は、資源エネルギー庁の外部サイト「再生可能エネルギー電子申請」より報告をします。その後、JP-ACが発電事業者から提出された情報をまとめて経済産業大臣に報告するステップとなっています。
JP-ACが報告内容をチェックし、問題がなければ経済産業大臣はその報告を受理します。しかし、不備がある場合は、発電事業者に報告が差し戻され修正が必要になります。その後、再びJP-ACによるチェックがあり、問題がなければ経済産業大臣にその報告が提出され受理されます。
太陽光発電設備の定期報告に関する問い合わせ窓口は以下になります。
一般社団法人 太陽光発電協会 JPEA代行申請センター(JP-AC)
〒105-0003 東京都港区西新橋2丁目23番1号 第3東洋海事ビル2階
TEL:0570-07-8210
太陽光発電設備で再生可能エネルギー電子申請で報告できない方の報告方法
資源エネルギー庁の定期報告ページより最新の様式をダウンロードし、経済産業省が委託した代行申請機関JP-ACに郵送で送ることができます。
太陽光発電設備以外の発電設備のケース
太陽光以外の発電事業者は、資源エネルギー庁の外部サイト「再生可能エネルギー電子申請」より報告をします。提出するのは「設置費用報告」と「運転費用報告」の両方になります。報告内容に問題がなければ、経済産業大臣において受理されますが、不備がある場合は、発電設備の立地場所の都道府県を管轄する経済産業局から個別に連絡があります。
太陽光以外の発電設備の定期報告に関する問い合わせ窓口は、発電設備の立地場所の都道府県を管轄する各経済産業局になります。
参照:資源エネルギー庁-各経済産業局の連絡先
太陽光以外の発電設備で再生可能エネルギー電子申請で報告できない方の報告方法
資源エネルギー庁の定期報告ページより最新の様式をダウンロードし、発電設備の立地場所の都道府県を管轄する各経済産業局へ郵送で送ることができます。
定期報告の代行サービスについて
FIT制度の定期報告である運転費用報告は、毎年1度おこなう義務があります。運転費用自体は大きく変化するものではないので、報告内容も毎年ほぼ同じになります。しかし、少し複雑な手続きなので、面倒に思う方や提出を忘れるのが心配な方は、代行サービスを利用してみましょう。
それと、メンテナンス業者によっては、定期報告を委託することもできます。定期報告を取り扱っているかがメンテナンス業者選びの判断基準にもなります。信頼できる代行業者を見つけるのが鍵になります。
太陽光パネルの廃棄について
順調に普及した再生可能エネルギー発電ですが、その中でも太陽光発電が占める割合が大きく、メガソーラーと呼ばれる大規模な発電所も出てきました。そんな状況の中、太陽光パネルの寿命後に、大量廃棄されるのではという懸念が持ち上がっています。
太陽光パネルの種類によっては有害物質も含まれていることから、その廃棄処理にコストがかかります。発電事業者や解体事業者が責任を持った処理ができるためにも、適切に廃棄できるしくみ作りが大切です。
一般にはあまり知られていませんが、FITの再エネ買取価格は、廃棄に必要な費用を盛り込むかたちで設定されています。しかし、廃棄時点で事業者の資金力に不足があると、太陽光パネルの放置や不適切な処理がされるリスクがあります。これを防ぐため、2023年に改正された再生可能エネルギー特措法により、廃棄費用の積立てが義務化されました。
また、今後、導入が検討されているものに、廃棄費用などに関する積立計画・進捗状況の報告を義務化して、その状況を公表するとともに、必要に応じて報告徴収・指導・改善命令をおこなうことがあります。なので、廃棄費用の積立報告が義務化されるかもしれず、情報更新が必要です。
まとめ
発電のニーズと供給のバランスをとるには、全国に設置されている再生可能エネルギー発電設備の情報が欠かせません。定期報告はそのために必要な情報を提供する大切な要素となります。怠ると認定取消しになることもあるため、FIT制度のメリットを享受し続けるためにも定められた期限内に提出しましょう。定期報告は手間ではなく、再生可能エネルギーの未来を支える大切なステップです。
著者のプロフィール
- タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。