近年、環境問題が世界の注目を集めている中、日本も低炭素社会の実現を求める声が高まっています。しかし、実際に低炭素社会へと移行するためには、さまざまな課題が立ちはだかっています。特に、化石燃料への依存の高さ、再生可能エネルギーの導入コスト、公共交通の炭素排出など、国内独自の問題が存在します。

この記事では、日本の低炭素社会への取り組みや課題、そして、それらの課題を乗り越えるための具体的な解決策について詳しく解説していきます。

低炭素社会とは?

低炭素社会とは、私たちの生活や産業活動において、温室効果ガスの主要な成分である二酸化炭素の排出を大幅に削減することを目指す社会のことを言います。この目的は、地球の気温上昇を抑え、気候変動の悪影響を最小限にするためです。この社会を実現するためには、再生可能エネルギーの利用、エネルギーの効率的な使用、交通手段の見直しなど、さまざまなアプローチが求められます。

一方で、「脱炭素」という言葉も聞いたことがあるかもしれません。脱炭素とは、文字通り「炭素を排除する」という意味で、脱炭素社会では、温室効果ガスの排出をほぼゼロにすることを目指す社会を指します。具体的には、エネルギーを生み出す際に炭素を排出しない方法、例えば太陽光や風力といった再生可能エネルギーの利用を主軸とします。

低炭素社会と脱炭素社会の違い

では、低炭素社会と脱炭素社会は何が違うのでしょうか。下記の表にかんたんにまとめましたので、ご覧ください。

目標取り組みの深度時期とステージ
低炭素社会二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を大幅に削減する。現状のエネルギー使用や生活様式を維持しつつ、環境負荷を低減するアプローチが中心となる。短~中期的な取り組みのステージとして位置づけられることが多い。
脱炭素社会炭素の排出を極力ゼロに近づける。より根本的な社会構造やエネルギーシステムの変革が求められる。長期的な目標として設定されることが多い。

日本における低炭素社会の課題とその解決策とは?

それでは、日本における低炭素社会の課題には、一体どのようなものがあるのでしょうか。さまざまな課題はありますが、今回は次の3つの課題を取り上げて解説をします。

  • 環境負荷の少ないエネルギー供給源の確保
  • 高額なコスト
  • 公共交通機関の炭素排出

環境負荷の少ないエネルギー供給源の確保

日本における低炭素社会の最も大きな課題は、環境負荷の少ないエネルギー供給源の確保です。日本はエネルギー資源に乏しいため、石油や天然ガスなどの化石燃料の輸入に大きく依存しています。これらの燃料の使用が二酸化炭素排出の主要な原因となっているため、国内での再生可能エネルギーの拡大が求められています。

また、原子力エネルギーの利用も進められていましたが、福島第一原子力発電所で発生した事故以来、原子力エネルギーの利用は徐々に減らされるようになりました。その代替となる安定したエネルギー供給源の確保も課題となっています。

解決策

使用時に大量の二酸化炭素を排出する化石燃料の依存から脱却することが必要です。代替エネルギーには、再生可能エネルギーと原子力エネルギーがあります。しかし、原子力エネルギーは使用済みの燃料処理の問題や放射能による事故などの問題もあるため、積極的に導入することは難しいでしょう。そこで、再生可能エネルギーの利用拡大が最も理想的な解決策であると考えられます。

再生可能エネルギーは、大きく分けて5種類あります。

太陽光発電

太陽光発電は、多くの地域で利用することができます。特に九州や四国は、年間の日照時間が長いため、太陽光発電の潜在的な能力が高いとされます。日本政府も家庭やビル、農地などでの太陽光パネルの導入を促進するため、都市部や地域での自家消費型の発電を増やすために補助金を提供するなどの取り組みを行っています。また、太陽光発電による余剰電力の買取制度も導入されています。

風力発電

海洋に面している日本は、風力発電の中でも、海上風力発電の潜在能力が高いとされています。特に北海道や東北地方の沿岸部は風が強いため、風力発電所の設置が進められています。海上風力発電の技術の進化により、深い海域でも発電施設の建設が可能となり、より大量の電力供給が期待されています。

地熱発電

火山国として知られる日本は、地熱資源が豊富です。とりわけ東北や九州には多くの活火山があり、これらの地域で地熱発電の潜在的な能力が高いとされています。温泉地を中心に、地熱発電所の設置が進められており、既存の技術を積極的に活用し、導入を拡大することが求められています。

水力発電

日本は山が多く、豊富な水資源を持っています。古くから小中規模の水力発電所が各地に存在し、再生可能エネルギーの中心として活躍しています。最近では、小さな川や水路を使った「中小水力発電」の設置が増えています。この中小水力発電は、大きさによっていくつかのタイプがあり、川の水だけでなく、農業で使う水や水道の水も使って電気を作ることができます。

さらに、既存のダムを活用した「揚水式発電」も注目されており、ピーク時の電力供給や蓄電の役割を果たしています。

バイオマス発電

日本は林業資源も豊富で、これを利用したバイオマス発電が進められています。木材や農産物の残りかす、家畜のふん尿などを発酵したり、熱したりすることで、バイオガスや固形燃料を生産し、それを燃料として発電します。地域の特性や資源を活かした小規模発電所の導入が増えてきており、地域循環型のエネルギー供給が期待されています。

関連記事はこちら:再生可能エネルギーは日本でどのくらい使われている?普及の課題も解説

高額なコスト

再生可能エネルギーの導入には、高額なコストがかかります。これが再生可能エネルギー利用拡大を妨げる課題の1つとなっています。実際、日本では再生可能エネルギーの利用が思うように進んでいません。

関連記事はこちら:日本の再生可能エネルギーのコストは高い?現状と取り組みも解説

解決策

高額なコストの問題を解決する最も有効な手段は、エネルギー効率を向上させる技術を開発することです。例えば、省エネ技術の導入、エネルギーマネジメント、蓄電技術の発展が挙げられます。

省エネ技術の導入

現在の家電や建物、車に新しい技術を取り入れることで、エネルギーを無駄なく使うことができます。これにより、同じ量のエネルギーでより多くのことができるようになります。もう少し分かりやすいように、具体的な数字を用いて説明します。

例えば、A社の使用するエアコンは、1時間運転するのに1kWhの電力を消費するとします。1kWhあたりの電気料金が25円だと仮定すると、1時間の運転で25円のコストがかかることになります。一方、B社は省エネ技術が導入された最新のエアコンを使用しており、Aさんのエアコンと同じ冷暖房能力を持ちながらも、1時間あたり0.7kWhの電力しか消費しません。

この場合、1時間あたりのコストは17.5円です。A社と比較すると、1時間当たり7.5円、1日8時間で週5日の稼働をした場合、約1ヵ月で1200円、1年で24000円も電気代を抑えることにつながります。

エネルギーマネジメント

エネルギーマネジメントは、エネルギーをより効率的かつ効果的に使用するための計画や技術の総称です。これにより、電気の無駄使用を削減し、コストの節約や環境への負荷軽減を目指します。エネルギーマネジメントのための先進的な技術の1つに「スマートグリッド」と呼ばれるものがあります。これは、電気の供給と需要のバランスを取るためのデジタル技術を活用した電力網のことです。

具体的には、スマートグリッドを導入すると、家庭やビルの電気の使用状況をリアルタイムでモニタリングできます。これにより、消費者は現在の電気使用量やピーク時の消費状況を確認でき、必要なときに必要な量だけの電気を使用することができるようになります。電気料金の節約はもちろん、安定した電力供給や再生可能エネルギーの導入にも役立ちます。

蓄電技術の発展

再生可能エネルギーの利用拡大にあたって、蓄電技術の発展も欠かせません。再生可能エネルギーは、天気や昼夜によって発電量が代わってしまうからです。例えば、太陽光発電は雨の日や夜には電気を作れません。そこで、役立つのが蓄電技術です。蓄電とは、電気を一時的に保存しておくことで、保存した電気は必要な時に使うことができます。例えば、太陽光発電で昼間に作った電気を、夜や雨の日に使うために一時的に保存するのに蓄電池が使用されています。

蓄電技術の発展によって、再生可能エネルギーをもっと安定して利用することができるようになると考えられています。

関連記事はこちら:脱炭素と省エネは何が違う?事業者ができる省エネ方法も解説

公共交通機関の炭素排出

公共交通機関は私たちの日常生活に不可欠ですが、環境への影響も無視できません。公共交通機関は、多くの人々を運ぶために大きなエネルギーを必要とするため、大量の温室効果ガスを排出しています。

例えば、鉄道は主に電気を利用していますが、発電過程での二酸化炭素排出が問題となることがあります。また、船と飛行機は、動力として化石燃料を大量に使用しています。それに伴い、大量の二酸化炭素が排出されています。

しかし、これらの交通機関を利用することで、多くの人々が効率的に移動できるため、一人当たりの炭素排出は、車を個人で使用する場合よりも低くなります。このため、公共交通機関の利用を促進することで、社会全体の炭素排出を抑制することができるのです。それでは、具体的な炭素排出を削減するための解決策について考えてみましょう。

解決策

日々の移動手段として利用する交通機関も、低炭素社会の実現に向けて変革が求められています。その主な取り組みと目標は、次の通りです。

解決のための取り組み

鉄道分野では、省エネ型の車両や、電気の使い方を効率的にするVVVF制御、ブレーキ時のエネルギーを再利用する回生ブレーキを導入してエネルギー消費を減らすことを目標に掲げています。船舶分野では、船体の形状を工夫して摩擦を減少させたり、新しいエネルギー源への転換を進めてCO2の排出を減らそうと取り組みが進められています。

航空分野では、機体を軽量化することで燃料消費を削減することを目標にしています。また、新しいタイプの燃料や、地上での効率的なシステムを利用することでエコ対策を進めます。そして、荷物や商品を運ぶ時に、環境に優しい運送業者を選ぶための情報提供や支援策も考えられています。

解決のための目標

目標は、中期と長期に分けられています。中期目標は、鉄道の省エネ型車両の導入を完了させ、船や飛行機に関しても燃費を改善する基準を確立することです。さらに、エコに優れた新型の船や飛行機を導入する税制の導入を考えています。長期目標は、鉄道分野において、さらなるエネルギー効率の向上や、電気を使わない区間でもエコを実現する研究を進めることです。船や飛行機に関しても温室効果ガスのゼロ排出を目指して、バイオ燃料の使用率を100%にする計画が立てられています。

現在、鉄道のエネルギー効率は最大で10%向上し、船舶は20%、航空機は24%の効率改善が達成されています。この結果、二酸化炭素排出量の大幅な削減に成功しました。さらに、新しい技術の導入によって、騒音の低減や乗車時の快適性の向上も進められています。

しかし、まだ課題が残されていることも事実です。鉄道に関しては、さらなる利用促進と技術革新が求められています。船舶や航空の分野では、燃料のコスト問題や、国内・国際での取り組みの違いなど、さまざまな視点からの検討が必要です。また、バイオ燃料の導入や燃料転換など、長期的な取り組みとその高額なコストを乗り越える戦略を考えていかなければなりません。

このように、私たちの日常に密接に関わる交通手段も、低炭素社会の実現に向けて、さまざまな取り組みと革新が進められています。

参照:資料3:地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ(議論のたたき台)(案)

まとめ

日本は低炭素社会を目指していますが、環境負荷の少ないエネルギー供給源の確保、高額なコスト、公共交通機関の炭素排出などの課題があります。再生可能エネルギーは、この課題を解決する鍵となるのですが、高い導入コストや安定供給の技術が課題として挙がっています。

しかし、多くの企業は太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入し始めており、その効果は大きいです。あなたの企業も再生可能エネルギーを取り入れることで、環境への貢献はもちろん、企業のイメージアップにも繋がります。ただ、再生可能エネルギーの導入にあたって資金的な負担が気になるかもしれません。そこで、まずは自社の二酸化炭素排出量を知ることからスタートするのはいかがでしょうか。下記のリンクから無料で排出量を計算できますので、ぜひ一度お試しください。


参照:タンソチェック【公式】 -CO2排出量算定削減サービス

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。