温室効果ガス排出量の削減に最大4,000万円の経済支援を受けられる「ものづくり補助金(グリーン枠)」を知っていますでしょうか。
特定の要件を満たす事業者であれば、誰でも申請できる優れた補助金の一つです。

今回の記事ではものづくり補助金(グリーン枠)の概要や補助率、補助金などの概要に加えて、以下の事項を詳しく解説します。

  • メリット・デメリット
  • 対象事業者
  • 全体の流れ
  • 提出書類と申請方法
  • 審査基準と採択のコツ
  • 補助金交付後の義務
  • 採択の事例
  • 申請時の失敗例

ものづくり補助金(グリーン枠)の利用を考えている人は本記事を通じて、どのようなことを意識して申請書類を記載すると採択されやすくなるのかを理解できます。

ものづくり補助金とは?

ものづくり補助金は、中小企業庁と中小企業基盤整備機構が2012年から始めた支援制度です。

中小企業や小規模事業者のサービス・試作品の開発や生産過程を改善できる設備投資を支援することで、生産性を向上させる狙いがあります。

参照:トップページ|ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト

ものづくり補助金の種類は以下の5つです。
5つの枠の概要や補助率、補助額に関しては以下の表をご確認ください。

(スマホの場合はタップしてご確認ください)

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.14~18

今回の記事では「グリーン枠」のみ取り扱います。

グリーン枠では温室効果ガスの排出を削減できる製品やサービスの開発、炭素生産性の向上に必要な設備やシステムの投資を支援します。

炭素生産性とは、CO2排出量あたりの国内総生産で、値が大きいほど経済活動による環境への影響が少ないとされています。

参照:脱炭素の現状と課題(3) 低迷する日本の「炭素生産性」 – 日本経済新聞

グリーン枠には以下3つの類型があります。

  • エントリー類型
  • スタンダード類型
  • アドバンス類型

アドバンス類型に向かうにつれて要件が厳しくなる一方、補助額が上昇します。
各類型の要件や補助率、補助額については以下の表でご確認ください。

(スマホの場合はタップしてご確認ください)

「参照URL一覧」

ものづくり補助金(グリーン枠)のメリット

ものづくり補助金(グリーン)は以下3つあります。

  • 新製品やサービスの開発
  • 初期コストの軽減
  • 競争力の強化

新製品やサービスの開発

ものづくり補助金(グリーン枠)は、CO2削減効果のある新製品やサービスの開発に役立ちます。
たとえば太陽光パネルや省エネルギーの家電製品、環境に優しい素材を使用した製品開発などです。

脱炭素化に向けた技術開発には高額な研究開発費用が必要とされます。
日本企業がカーボンニュートラルを実現するには2031年以降、毎年5兆6000億円の投資が必要だと日本政策投資銀行は考えています。

参照:企業の脱炭素投資、年5.6兆円必要 政投銀が試算 – 日本経済新聞

ものづくり補助金(グリーン枠)を活用することで、企業はより多くの資金を開発に投じることができ、最終的には持続可能な方法で事業を進められます。

たとえば再生可能エネルギーの利用を増やすことは、企環境への影響を減らすだけでなく、長期的なエネルギーコストの削減にもつながります。

補助金は、企業が環境保護と経済的利益の両方を達成するための大きな一歩となります。

初期コストの軽減

ものづくり補助金(グリーン枠)を利用することで、企業は環境保全の新しいプロジェクトを始める際の初期コストを軽減できます。

再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の高い機器の導入は、長い目で見るとコスト削減に貢献するものの初期コストが高いです。

補助金を利用すると初期コストを抑えられるため、比較的容易に再生可能エネルギーや省エネ機器を導入できます。

競争力の強化

環境に優しい製品やサービスを開発することは、企業の競争力強化に直結します。
たとえば包装材の削減やリサイクル可能な素材の使用は、企業が環境責任を果たそうとする姿勢を示せるため、消費者や取引先からの好感度を高めるでしょう。

活動を通じて、既存の顧客から信頼性を獲得しつつ、新しい顧客層を引きつけることも可能です。
また環境への配慮は投資家にとっても魅力的な要素であり、将来的な資金調達にも有利に働く可能性があります。

環境に配慮した製品やサービス開発により、企業は市場での競争力を高めることができるのです。

ものづくり補助金(グリーン枠)のデメリット

ものづくり補助金(グリーン枠)は脱炭素化に向けた取り組みをサポートする一方、デメリットも存在します。
具体的には以下の3つが考えられます。

  • 申請と管理の手間
  • 資金における流動性の制限
  • 依存のリスク

申請と管理の手間

補助金の申請と管理には手間がかかります。
補助金を申請するには公募内容を読み込んで理解し、求められている要件を満たさなければならず非常に時間がかかります

具体的には、事業計画の策定や申請書類の準備が必要です。
補助金を受けた事業が完了した後も実績報告を行い、関連書類を適切に管理しなければなりません。

特に従業員の比較的少ない中小企業や小規模事業者にとっては、普段の業務に負担をもたらす可能性があります。
通常の業務を行いながら、補助金関連の書類作成や管理に時間を割く必要があるためです。

補助金の申請準備には時間がかかり、補助事業の終了後も行うべきことがあるため、企業に負担を与えるおそれがあります。

資金における流動性の制限

補助金は特定の事業にのみ使用が許可されているため、資金の柔軟性を制限することになります。
たとえば急な市場の変化に対応するため、別事業への投資が必要となった場合でも、補助事業の資金を流用することはできません。

予期せぬ事態に対応するためには、他の資金調達手段を確保する必要があります。

依存のリスク

補助金に頼ることで短期的には財務的な支援を受けられますが、長期的にはリスクが伴います。
たとえば補助金の交付後も、設備の運用や事業活動に多額の費用が必要な場合です。

当初は補助金のおかげで問題なく運営できていても、経済的な支援がなくなり、運営維持が困難となる可能性があります。
補助金の終了後、企業は新たな収益源を見つけるか、事業モデルを根本的に見直す必要が生じる場合があるわけです。

ものづくり補助金(グリーン枠)の対象企業

ものづくり補助金(グリーン枠)を受けるためには、以下の基本要件と必須事項を満たす必要があります。

基本要件必須事項
3~5年の事業計画を策定し、計画期間中に給与支給総額を年率平均1.5%以上(被用者保険の任意適用を行う中小企業は1%以上)増加させること単価50万円以上の機械装置等の取得し、管理すること
事業計画期間中、事業場内最低賃金を地域別最低賃金に毎年30円以上加算すること機械装置・システム構築費以外の経費は、補助上限が税抜き500万円までとすること
事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加させること補助対象経費は税抜きで、事業に要する経費は税込み3分の2以上であること
申請時に賃金引上げ計画を策定していること※補助金の交付後に計画がない場合、補助金を返還することシステム構築費は見積書や仕様書を含む価格妥当性を検証できる書類を準備すること※書類の提出が必要な場合があるため

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.12, 23

ものづくり補助金(グリーン枠)の対象企業は、上記の基本要件と必須事項を満たした以下の5つです。

  • 中小企業者(組合関連以外)
  • 中小企業者(組合・法人関連)
  • 特定事業者の一部
  • 特定非営利活動法人
  • 社会福祉法人

ただし日本国内に本社と補助事業を行う施設がない場合や、補助金等指定停止措置あるいは指定停止措置がなされている事業者は補助対象になりません。

どちらの措置も過大受給などの不正を行った企業とは一定期間、契約を結ばないことを意味します。

中小企業者(組合関連以外)

業種資本金常勤従業員数
製造業、建設業、運輸業、旅行業3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
サービス業(ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く)5,000万円以下 100人以下
小売業 5,000万円以下 50人以下
ゴム製品製造業
(自動車・航空機用タイヤ・チューブ製造業・工業用ベルト製造業を除く)
3億円以下 900人以下
ソフトウェア業・情報処理サービス業  3億円以下300人以下
旅館業 5,000万円以下 200人以下
その他の業種(上記以外) 3億円以下 300人以下

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.8

中小企業者(組合・法人関連)

組織形態
企業組合
協業組合
事業協同組合、事業協同小組合、協同組合連合会
商工組合、商工組合連合会
商店街振興組合、商店街振興組合連合会
水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会
生活衛生同業組合、生活衛生同業小組合、生活衛生同業組合連合会※1
酒造組合、酒造組合連合会、酒造組合中央会、酒販組合、酒販組合連合会、酒販組合中央会※2
内航海運組合、内航海運組合連合会※3
技術研究組合(直接又は間接の構成員の3分の2以上がアに該当するもの、企業組合、協業組合であるもの)

※1. 構成員の3分の2以上が卸売業を除くすべての業界で資本金または出資総額が5,000万円以下、または従業員数が50人以下の法人。卸売業の場合、資本金または出資総額が1億円以下、従業員数が100人以下。

※2. 構成員の3分の2以上が酒類製造業で資本金または出資総額が3億円以下、従業員数が300人以下の法人。
酒類販売業や酒販組合では、資本金または出資総額が5,000万円以下(酒類卸売業者は1億円以下)、従業員数が50人以下(酒類卸売業者は100人以下)。

※3. 構成員の3分の2以上が資本金または出資総額が3億円以下、または従業員数が300人以下の法人。

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.8~9

特定事業者の一部(スマホの場合はタップしてご確認ください)

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.9

特定非営利活動法人

組織形態従業員数備考
・中小企業の振興や発展に直結する活動を行っている特定非営利活動法人・法人税法上の収益事業を行う特定非営利活動法人300人以下・認定特定非営利活動法人ではないこと・補助金の交付決定までに事業における経営力向上計画の認定を受けていること

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.9

社会福祉法人

組織形態従業員数
社会福祉法第32条に規定する所管庁の認可を受けて設立した法人300人以下

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.10

ものづくり補助金(グリーン枠)の事業アイデア

ものづくり補助金(グリーン枠)の事業アイデアとして、企業は持続可能性を重視した具体的な計画を提案できると良いでしょう。

たとえば生産工程での脱炭素化を図るために、電気自動車向け部品の製造に特化した機械装置の導入などです。

重要なのは事業計画が単に既存設備の更新や改修、またはソーラーパネルの導入による売電活動に留まらないことです。
ものづくり補助金(グリーン枠)は、環境保護と経済的な効果を両立させる革新的な事業アイデアを求めています。

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 令和3年度補正予算の概要

ものづくり補助金(グリーン枠)の流れについて

ものづくり補助金(グリーン枠)の流れは以下表の通りです。(スマホの場合はタップしてご確認ください)

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.7, 16

補助金申請手続きの事前準備と必要書類

ものづくり補助金(グリーン枠)の申請において必要な書類を以下の表にまとめています。(スマホの場合はタップしてご確認ください)

「参照URL」

申請前に確認すべき補助金の審査基準

ものづくり補助金(グリーン枠)の審査基準は以下の5つです。

  1. 事業の適格性
  2. 技術的な側面
  3. 事業化の可能性
  4. 政策への貢献
  5. 炭素生産性向上の取り組み
  1. 事業の適格性

事業の適格性では申請要件を満たし、3~5年計画で付加価値額の年率平均3%以上の増加を目指す事業であるかを評価します。

  1. 技術的な側面

技術的な側面では新製品や新サービスの革新的な開発、試作品やサービスモデルの開発における課題の明確性、課題解決の妥当性と達成度、技術力の有無が評価基準です。

  1. 事業化の可能性

事業化の可能性では、社内外の体制や財務状況に基づいて事業を行えるかどうかを判断します。
さらに事業化の見通しが立てられているか、収益性や価格、性能面での優位性、そして費用対効果も評価されます。

  1. 政策への貢献

政策への貢献として、地域経済に貢献できるかどうか、規模の小さな市場であっても独自性で国際的に地位を築ける製品・サービスであるを判断します。

さらに事業者間の連携による生産性の向上、先進的な技術の活用や新しいビジネスモデルの構築、コロナに伴う経済構造の変化への対応がなされているかも重要です。

  1. 炭素生産性向上の取り組み

グリーン枠特有の審査基準として、炭素生産性向上のための具体的な取り組みが求められます。
温室効果ガスの排出削減やエネルギー消費削減への貢献、設備投資による効果の明確さとその算出根拠の妥当性、継続的な取り組みの実施が評価対象です。

ものづくり補助金(グリーン枠)の審査では事業の革新性、技術力、市場への適応性、政策への寄与、そして炭素生産性の向上を重視しています。

これらの基準を満たせば、補助金は採択されやすくなります。

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.34~36

窓口またはオンライン申請の方法

ものづくり補助金(グリーン枠)の申請は窓口で受け付けてないため、専用の電子申請システムを使用する必要があります
他者への申請依頼はできませんので、申請者自身が申請に必要な情報を理解し、情報を入力することが求められます。

また申請には「GビズIDプライムアカウント」の取得が必須です。
アカウントは事業者情報の入力作業を簡略化し、補助金交付の候補者を採択したあとの手続きにも使用されます。

GビズIDプライムアカウントとパスワードを外部の支援者や第三者に開示することは認められていません。
GビズID利用規約に違反し、トラブルの原因になる可能性があります。

したがって、アカウントの取得と管理には十分な注意が必要です。

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.2

ものづくり補助金(グリーン枠)の受け取り方法

ものづくり補助金(グリーン枠)を受け取るには補助事業実績書報告書の提出が求められます。
補助金の支払いは事業の完了後に行われるためです。

事業が完了したら、事業者はその日から数えて30日以内、または事業完了期限日のどちらか早い日までに補助事業実績報告書を提出する必要があります。

報告書の提出を受けて補助金額が確定します。その後、補助金の精算払いが行われる流れです。

受け取った補助金は経理上、事業年度における収入として計上されます。
つまり、法人税などの課税対象となるため、適切な会計処理が必要になるわけです。

ものづくり補助金(グリーン枠)を受け取るためには事業完了日から30日以内、あるいは事業完了期限日のどちらか早い日までに補助事業実績報告書を提出しなければなりません。

補助金は収入扱いとなるため、適切に会計処理を行いましょう。

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.25~26

ものづくり補助金(グリーン枠)の補助金交付後について

補助金交付後もやるべきことがあります。
まず事業の経費配分や内容を変更する際、または事業を中止・廃止する際には、事務局の事前承認が必要です。

さらに事業完了後は指定された期日までに補助事業実績書報告書を提出しなければなりません。

事業完了後は5年間、毎年度の終了後60日以内に事業化状況、収益状況、知的財産権に関する報告を行う必要があります。
報告を怠った場合や虚偽報告があった場合、補助金の返還を求められることがあります。

事業の成果から収益が生じた際には、補助金相当額を上限に収益を納付する必要がありますが、決算が赤字あるいは十分な賃上げ(年率平均3%以上の給与支給総額の増加・90円以上の最低賃金の増加)を行った場合は免除されます。

補助金で購入した単価50万円以上の機械などは、処分制限期間内に処分する際にも事前承認が必要です。
処分した場合は補助金額を限度に納付しなければなりません。

ただし開発成果を活用した事業を行うために導入した機器を転用する場合は、納付義務は免除されます。
課税事業者は補助対象経費から消費税を減額して交付申請する必要があります。

事業の会計については「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」に基づく計算書類の作成と活用に努め、関連する証拠書類を5年間保存することが求められます。

必要に応じて事業の遂行状況報告書を提出し、事務局や会計検査院による実地検査に協力することも求められます。
検査により補助金の返還命令が出された場合は従わなければなりません。

不適切な行為があった場合、補助金の交付取消・返還、不正の内容が公表される可能性があります。
また事業に関連する調査への協力や、事業成果の発表への協力も要求されることもあります。

補助金の交付後も規定や義務を守らなければ、補助金の返還が求められます。怠らずにきちんと対応しましょう。

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.26

ものづくり補助金(グリーン枠)の審査を通りやすくするコツ

ものづくり補助金(グリーン枠)の採択を受けるには、基本条件を満たすことが何よりも大切です。
3~5年の計画で、付加価値額の年率平均3%以上の増加を目指すことなどです。
基本条件を満たせていないと採択される可能性は非常に低くなります。

新製品や新サービスの革新的な開発に焦点を当てることも重要です。
既存技術の転用やデザイン、アイデアの活用を含め、独自性を持つ開発が求められます。

事業化の側面からは社内外の体制、財務状況、資金調達の可能性を明確に示すことも重要です。
市場ニーズの把握や事業化に至る過程での価格や性能の優位性、費用対効果も評価基準となっています。

さらに地域経済への貢献や市場規模の小さい分野での独自性も重視されます。
先端的なデジタル技術の活用や環境に配慮した事業の実施などが評価されます。

また事業がコロナによる変化に対応しているか、新しいビジネスモデルを構築しているかも評価対象です。

グリーン枠独自の評価基準として、炭素生産性向上の取り組みがあります。
具体的には温室効果ガスの排出削減やエネルギー消費削減への具体的な貢献が求められます。

これらの要素を踏まえた事業計画を策定し、申請書に反映させることが補助金の採択につながる重要なコツと言えます。

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.2, 34~36

ものづくり補助金(グリーン枠)を受け取るポイントや注意点

ものづくり補助金(グリーン枠)を受け取るには、申請書類に不備や不足がないかを確認することが非常に重要です。

たとえばアドバンス類型の要件を満たしていないにも関わらず、より高額な補助金を得るためにアドバンス類型で事業計画を提出する場合、申請は不採択となります。

ものづくり補助金に関して問い合わせの多いものは「よくあるご質問」に記載されています。
必要に応じてご確認ください。

まとめると申請内容に不備や不足があった時点で補助金は受け取れなくなってしまいます。
提出前には記載内容に不備や不足がないかを必ず再確認しましょう。

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.2

ものづくり補助金(グリーン枠)の事例紹介

令和5年7月28日に締切となった、ものづくり補助金の第15次採択者の中からグリーン枠での採択だと思われる企業を3つ紹介します。

  • 金山産業株式会社
  • 朝日印刷株式会社
  • 株式会社中井精密

金山産業株式会社

金山産業株式会社は脱炭素化を事業計画に盛り込み、ものづくり補助金に採択されました。
具体的には鉄鋼業界における電炉の使用を普及させるため、付加価値の高い鉄スクラップを供給できるように努めています。

電炉とは不要になった鉄製品などの鉄スクラップを溶かし、鋼材を生み出す設備のことです。
従来から利用されている高炉は動力に石炭を使用しますが、電炉は電気を動力とするためCO2排出量が少ないです。

そのため電炉の利用拡大は鉄鋼生産における環境負荷の低減につながります。

参照:電炉製鉄業界 市場規模・動向や企業情報 | NIKKEI COMPASS – 日本経済新聞

溶解しやすいようにサイズや形状が加工されていたり、塗料や油などの不純物が少なかったりするものが、付加価値の高い鉄スクラップです。

付加価値の高い鉄スクラップの供給を通じて、鉄鋼業界全体の環境負荷を低減させる計画を立て、金山産業はものづくり補助金(グリーン枠)の採択者となったと考えられます。

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 第15次締切 採択案件一覧 p.3

朝日印刷株式会社

朝日印刷株式会社は低環境負荷な生産体制を目指して、多品種の小ロット生産を可能にすることにより、首都圏市場への本格進出を目指しています。

印刷における小ロットとは、印刷枚数が少ないことを意味します。

小ロットの生産体制を実現することで材料の消費や廃棄物の発生を抑え、環境への影響を少なくできます。
さらにさまざまな品種の生産に小ロットで対応することで、より多くの顧客の需要に応えることが可能です。

一見すると生産数が少なく効率の悪い小ロット生産を環境負荷を抑えるために活用した独自性のある事業計画であるために、ものづくり補助金(グリーン枠)に採択されたと考えられます。

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 第15次締切 採択案件一覧 p.4

株式会社中井精密

株式会社中井精密の事業計画は、脱炭素社会を目指してボイラの構成部品を高精度化し、生産体制の納期を短縮することに焦点を当てています。

ボイラの構成部品が高精度化されると、ボイラ内部での熱伝導がより効率的となるため、エネルギーの消費量を抑えられるのです。
エネルギー消費量の低下はCO2排出量の削減に直結します。

納期の短縮は生産効率の向上につながるので、経済的な利益と環境への貢献を両立させることができます。
このような取り組みがものづくり補助金(グリーン枠)の採択につながったと考えられます。

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 第15次締切 採択案件一覧 p.12

ものづくり補助金(グリーン枠)が受け取れない失敗例

ものづくり補助金(グリーン枠)が受け取れない失敗例として、考えられるのは以下の2つです。

  • 適格性の不足
  • 事業化面での不備

適格性の不足

ものづくり補助金(グリーン枠)の申請が採択されない失敗例として考えられるのは、補助対象事業としての適格性が不足しているケースです。

申請要件、申請枠、補助率を満たさない事業計画や、3~5年計画で付加価値額の年率平均3%以上の増加を目指していない計画が含まれます。

また技術面での革新性や事業化面での実行可能性の不足、政策面での貢献度の低さ、炭素生産性向上の取り組みが不十分なケースも考えられます。

p.33~36の審査項目・加点項目を参考に適格性を満たした事業計画を策定しましょう。

事業化面での不備

事業化面での不備もよく見られます。
財務状況が不安定で十分な資金調達が見込めないにも関わらず「補助金が出るから」と、身の丈に合わない事業計画を策定することが不備の代表例です。

経済的なサポートを受けられるとはいえ、事業にかかる費用の3分の1は企業が負担しなければなりません。

さらに市場における需要を考えていない場合や、補助事業の成果が市場での優位性や収益性を持たない場合も不備に該当します。

自社の財務状況と市場に合った事業計画を立てるように心がけましょう。

まとめ

ものづくり(グリーン枠)には「エントリー類型」「スタンダード類型」「アドバンス類型」の3つがあり、該当要件が難しくなる一方で補助金額が高くなります。

補助金のメリットは新製品やサービスの開発にかかる費用軽減や競争力の強化です。
デメリットは、申請と管理に手間がかかることや、資金を自由に利用できないことが挙げられます。

対象事業者は中小企業者、特定事業者の一部、特定非営利活動法人、そして社会福祉法人です。
どの事業者であっても、以下の基本要件と必須事項を満たす必要があります。

基本要件必須事項
3~5年の事業計画の策定単価50万円以上の機械装置等の設備投資
期間中は給与支給総額を年率平均1.5%以上増加、毎年30円以上最賃を加算経費の補助上限が税抜き500万円以下
付加価値額の年率平均3%以上増加補助対象経費は税抜き、経費は税込み3分の2以上
賃金引上げ計画の策定システム構築費は価格妥当性を検証できる書類の準備

参照:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(16次締切分) p.12,

提出書類は以下の7つです。

  1. 事業計画書
  2. 補助経費に関する誓約書【様式1】
  3. 賃金引上げ計画の誓約書【様式2】
  4. 決算書等(直近2年間の貸借対照表・損益計算書・製造原価報告書・販売管理費明細・個別注記表)
  5. 従業員数の確認資料
  6. 労働者名簿
  7. 炭素生産性向上計画及び温室効果ガス排出削減の取組状況【様式3】

提出はオンライン申請のみで、「GビズIDプライムアカウント」の取得が必要です。
採択後の手続きにも使用されますので、早めに取得しましょう。

審査基準は応募要件を満たしたうえで事業の革新性、技術力、市場への適応性、政策への寄与、炭素生産性の向上性の5つが評価軸となっています。

評価軸を意識して事業計画を策定することが採択のコツです。

補助金交付後の5年間は事業化状況、収益状況、知的財産権に関する報告義務があります。
報告しない、または虚偽報告があった場合は補助金の返還を求められます。

また補助金で購入した単価50万円以上の機械を、特定の期間内に処分する際は事前承認が必要です。
承認なく処分した場合は補助金を返還しなければなりません。

ものづくり補助金(グリーン枠)で採択されたと思われる事例は以下の3つです。

企業名事業計画
金山産業株式会社鉄鋼業界でCO2排出が少ない電炉の利用拡大に向けて、優れた鉄スクラップを供給する計画
朝日印刷株式会社多品種の小ロット生産を通じて、環境負荷を低減する計画
株式会社中井精密ボイラの構成部品を高精度化し、CO2削減を図る計画

どの事例も環境負荷を抑えられるうえに、独自性のある事業計画となっています。

補助金が受け取れない失敗例として、申請書類の不備や不足の他、企業の財務状況を無視した事業計画の策定などが考えられます。

提出前は記載内容に誤りがないか、財務状況に合った計画かを再確認しましょう。

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。