在宅ワークがカーボンニュートラルを加速させる理由
IT技術の進展とともに、ここ数年は在宅ワークの普及拡大が進んでいます。
コロナウイルスを契機に、在宅ワークを導入する企業や、フリーランスとして自宅で働き始める人達が増えているようです。
そこで注目したいのが「在宅ワークとカーボンニュートラルの関係」です。
在宅ワークは、子育て・介護と様々な事情と仕事の両立を可能にするだけでなく、カーボンニュートラルを加速させる効果があるのです。
在宅ワークがカーボンニュートラルで果たす役割について、今回はじっくり考えていきましょう。
自家用車の減少からCO2削減が期待できる
2021年に国土交通省が行った「運輸部門における二酸化炭素排出量」の統計によると、日本のCO2総排出量10億6,400トンのうち、17.4%を運輸部門(自動車やバスなどの輸送機)が占めていることが報告されています。
なかでも、自家用車と航空機によるCO2排出量が多いのが特徴で、自家用車は、自動車全体の排出量の86.8%を占めているのです。
その量は日本全体の15.1%に相当します。
※当記事における自動車とはガソリン車のことを指しています。
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html
首都圏では、在宅ワーク未経験者の5割以上が、在宅ワークを希望しています。
もし、これら5割が加わるなら最大4,554トンのCO2削減が可能になる予想です。
長距離の自動車通勤者が多いほど、在宅ワークに移行することで効果大です。
通勤時に発生していたCO2排出量がゼロとなり、自社のカーボンニュートラルに大きく貢献できます。
自動車にのっただけでCO2は2倍になる!
自動車の利用を控えることで、1人あたりのCO2排出量は大幅に低減できます。
自動車に1時間乗った場合、自動車を使わない場合と比べると、1人あたりのCO2排出量は2倍以上になります。
自動車に乗った場合の1日のCO2排出量
https://www.mlit.go.jp/common/000024267.pdf
日常の暮らしにおいて、人が1日で排出するCO2は約4kgです。
1時間車に乗ったとすれば、約5kgのCO2が加算されます。
自動車の利用を10分控えるだけで、テレビを1時間控えた時の45倍のCO2が年間で削減できます。
それほどに、自動車が排出するCO2は大きいのです。
削減できたCO2はクレジットにもなる
仮に、在宅ワークの導入から一定以上のCO2削減が実現できれば、削減できた分をクレジットで発行することも可能です。
- 自動車通勤が減少して削減されたCO2
- 商談、出張、会議のオンライン化で削減されたCO2
- ICTの利用によるペーパーレス化で削減されたCO2
自動車通勤の減少や会議のオンライン化で、一定以上削減できたとすれば、その削減分をクレジットとすることも可能です。
クレジットを発行することで、他社のカーボン・オフセットに貢献できるなど、カーボンニュートラルの活性化につながります。
在宅ワークの普及率
在宅ワークが「カーボンニュートラルを加速させる」一因となることがわかりました。
現状では、いったどれくらいの人が在宅ワークに就いているのでしょうか。
ここで、在宅ワークとは、テレワークやリモートワークも含まれるのか?と疑問に思う方もいるでしょう。
普及率を見ていくにあたって、在宅ワーク、テレワーク、リモートワークとそれぞれの用語についても、簡単に解説しておきましょう。
在宅ワークとテレワーク・リモートワーク
在宅ワーク | 自宅で働くこと(レンタルオフィスも含まれる場合有り) |
テレワーク | 会社から「離れた場所/Tele」で働くこと(自宅・レンタルオフィス) |
リモートワーク | 会社から「離れた場所/Remoto」で働くこと(自宅・レンタルオフィス) |
と言うように、会社から離れた場所、自宅やレンタルオフィスなどで働くことを3つの言葉で表します。
これらの用語は、ハイブリッドワークと呼ばれることもあり、近年になって使われるようになった造語です。
明確に分ける境界線はとくになく、総称して、在宅ワーク、在宅勤務、テレワークなどと表現されています。
参照:テレワークとは – KDDI
参照:テレワークとは – 日本テレワーク協会
企業における在宅ワーク導入状況の推移
https://telework.mhlw.go.jp/telework/trs/
上図はここ10年間に渡る、在宅ワークの普及率の推移です。
コロナウイルス以前の在宅ワークは、2018年(平成29年)頃から、やや普及が拡大する傾向にあり、19~20%に増加しています。
在宅ワークが伸び始めた2020年(令和2年)にコロナウイルスが発生し、否応なしの策として在宅ワークの導入が一気に進みました。
在宅ワークは減少傾向にある?
在宅ワークは、コロナウイルスへの緊急策として、2020年から2021年にかけて2倍以上に普及拡大が進みました。
しかし、それはあくまでも一時的な対策だったのです。
コロナからの回復とともに、2022年から2023年にかけて減少し始めています。
緊急事態宣言の解除とともに、オフィス通勤を開始する企業が増えているからです。
AmazonやMicrosoftなど大手IT系でも一旦は在宅比率が高かったものの、オフィス出勤を義務づけています。
国内外を問わず、管理やコミュニケーションの面でオフィス勤務を望む企業が多いとのことです。
そんな企業の思惑とは裏腹に、就業側では自由に時間が使えて利便性が高い在宅ワークが強く望まれています。
「オフィスに戻りたくない」「遠方でも可能な在宅勤務がしたい」と、大手から在宅ワークが可能な企業へと転職する動きすら見られています。
雇用側と就業側とで、在宅ワークに対する考え方は大きく異なるようです。
オフィス勤務の要請が、雇用に影響を与えることを企業側が知り、改めて対応策が練られている状況です。
現在は、コロナ緊急策としてではなく、雇用形態の1つとして、双方が満足できる在宅ワークの仕組みが考案されている段階にあるといえます。
脱炭素への効果も、今改めて見直されているところです。
参照:テレワークに逆風 – 日経TECH
参照:テレワーク率の推計(2023年)‐ ニッセイ基礎研究所
参照:Return to the office?These workers quit instead – The Washington Post
在宅ワークのCO2排出量はどれくらいか?
在宅ワークの普及拡大によるCO2削減が期待できるわけですが、一方では、「排出量が消えてなくなったわけではなく、単に別の場所に移動しただけだ」との指摘もあります。
確かに自宅で電力やガスを使うことになりますので、自動車通勤以外の部分で見れば、在宅ワークがCO2削減に果たす役割は案外小さいのかもしれません。
在宅ワークのCO2排出量は、どれくらいになるのでしょうか?
在宅ワークで排出するCO2いろいろ
業務内容にもよりますが、在宅ワークで主に必要とされる電力はおもに4つの項目を挙げることができます。
在宅ワークで利用するおもな4項目
- 照明(白熱、蛍光灯、LED)
- PC(デスクトップ、ノートブック)
- エアコン(冷房、暖房)
- モニター・その他
上記4つにかかる「CO2排出量」を調べてみました。
下図は、2022年にオフィス設計会社OKAMURAと国立環境研究所が、共同で行ったCO2排出量に関する調査結果です。
在宅勤務に伴う家庭でのCO2排出量の変化
https://www.okamura.co.jp/office/knowledge/001695.html
在宅ワークが増えたことで、家庭による年間のCO2排出量は、コロナ前と比較した場合に1人あたり70.5kgCO₂の増加が見られています。
このCO2排出量を概ねの目安とすることができます。
続けて、オフィスでのCO2排出量の増減と比較してみましょう。
在宅ワークで増加したCO2排出量に対して、オフィスでのCO2排出量は減少しており、-155.8kgCO2という結果が出ています。
在宅ワークでもCO2削減の義務がある
CO2排出量は、在宅ワークで減らすことはできてもゼロになるわけではありません。
Scope1~3と事業活動全体における脱炭素の目標を満たすためには、在宅ワークで生じるCO2も削減していく必要があります。
すでに米国では在宅ワークにおけるCO2削減に取り組む企業が出ています。
ハイテク大手のMetaは、在宅の導入でCO2排出量2トンから、1トンへと削減を実現しました。
さらに、再エネ100%方針をまかなうため、在宅ワーク分のエネルギーをクレジット購入で相殺しています。
米ソフトウェアのセールスフォースは、在宅ワークで1人あたり29%のCO2 削減を果たし、フィディリティ・インベストメンツに至っては87%削減効果を出しています。
ただ、削減効果は見えてはいるものの、大半の企業において、在宅でのCO2算出方法がまだ明確になっていないため、当面はクレジットの購入でCO2オフセットを計っていく方針です。
在宅ワークにおけるCO2削減の課題
現時点では、在宅ワークにおけるCO2排出の算定基準がまだ確立されていないことが、今後の普及における課題となっています。
マイクロソフトが、従業員1人が8時間働いた場合のCO2消費モデルを構築中です。
いくつかの企業は、従業員への光熱費利用の聞き取りを進めてはいるものの、在宅ワークで仕事のために家全体に暖房が入る場合はどうすべきかなど、基準の設定が難しいのが現状です。
使われないオフィススペースでも光熱費が発生したりと、事業体制の根本的な見直しが求められています。
まとめ
雇用側にとって、常時監視できない在宅ワークはリスクがあるのかもしれません。
同時に、交通渋滞の解消、地方移住による空き家問題の解消と、数々の社会問題の解決に貢献できる点も考慮したいところです。
業種にもよるでしょうが、PC1台あれば実現可能な在宅ワークの導入は、思った以上にハードルは低いのではないでしょうか。
ただし、中途半端な在宅ワークの導入は、オフィススペースや維持費に無駄が出たりと非効率な面もあります。
本格的な雇用形態の1つとして、経営上の枠組みが必要です。
総合的にオフィスと在宅ワークにおける消費電力・CO2 削減を計画することで、カーボンニュートラルの目標に向けて素晴らしいビジネスが展開していけるでしょう。
著者のプロフィール
- 太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。
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