現代社会において、エネルギーの持続可能性と環境への配慮がますます重要視されています。その中で、再生可能エネルギーは持続可能な社会への重要な要素となっています。再エネ特措法に基づくFIT・FIP制度の策定により、再生可能エネルギーの売買を行うことができるようになりました。その際には申請が必要となりますが、認定・届出の申請手続きが2022年4月から電子化されることとなっています。
本記事では、FIT・FIP制度の概要や電子申請の手続きなどについて詳しく解説していきます。
電子申請の前に知っておきたいFIT・FIP制度
FIT・FIP制度とは、再生可能エネルギーの普及を促進するために導入された政策の一つです。FITはFeed-in Tariff(固定価格買取制度)の略であり、FIPはFeed-in Premium(固定価格買取準備金制度)の略称です。
2011年8月26日に成立した「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(「再エネ特措法」)という法律に基づいて実施がされている制度です。
FIT制度では、再生可能エネルギー発電事業者が発電した電力を一定の価格で電力会社に売ることができます。この価格は一定期間(通常は数十年)にわたって固定されており、再生可能エネルギー発電事業者にとっては安定的な収入源となります。FIT制度は、再生可能エネルギーの導入を促進し、その普及を加速させるために導入されました。
一方、FIP制度では、FIT制度に加えて、さらに一定の買取準備金を支払うことで再生可能エネルギーの発電事業を促進します。この買取準備金は、再生可能エネルギー発電事業者に対して、導入や運営にかかる追加のコストを補填するために支払われます。FIP制度は、FIT制度の買取価格だけでは採算が取れない場合に、事業者の負担を軽減し、再生可能エネルギー発電事業の投資意欲を高めることを目的としています。
FIT・FIP制度の導入により、再生可能エネルギーの導入が促進され、環境への負荷の低減や持続可能な社会の実現に向けた重要な一歩が踏み出されました。これにより、風力や太陽光、水力などの再生可能エネルギーの導入が増え、化石燃料に依存するエネルギー構造からの脱却が進んでいます。
ただし、FIT・FIP制度には課題も存在します。例えば、FIT価格の設定において適切なバランスが求められるほか、買取価格や買取量の制約により、市場の変動に対応しきれない場合があります。また、買取価格の低下や制度の見直しが進行する中で、事業者や投資家の収益性への影響が懸念されることもあります。
FIT・FIP制度は、再生可能エネルギーの普及を目指す上で重要な役割を果たしています。その効果や課題を適切に評価しながら、より効果的な政策の構築と改善に取り組んでいくことが求められています。
また、固定価格買取制度で買い取られる再生可能エネルギー電気の買い取りに要した費用は、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」と呼ばれる再エネ賦課金によってまかなわれています。再生可能エネルギーで発電された電気は日々使う電気の一部として供給されているため、電気を使用している全ての人の毎月の電気料金とあわせて再エネ賦課金が支払われています。
制度の対象となる再生可能エネルギー
この制度で対象となる再生可能エネルギーは「太陽光」「風力」「水力」「地熱」「バイオマス」の5つです。これらのいずれかを使い、国が定める要件を満たす事業計画を策定し、その計画に基づいて新たに発電を始められる方が対象となっています。また、発電した電気は全量が買取対象ではあるものの、住宅の屋根に載せるような10kW未満の太陽光の場合やビル・工場の屋根に載せるような10~50kWの太陽光の場合は、自分で消費した後の余剰分が買取対象となっています。
申請の前に
これまで、再エネ特措法に基づく申請手続きのうち、太陽光(50kW未満)を除く電源種の認定・届出の申請手続きについては、申請書を作成後、必要書類と併せて郵送での申請となっていました。しかし、2022年4月より、これまでは申請書の作成支援を行っていた「再生可能エネルギー電子申請システム」にて、申請手続きまで行える機能が追加されています。これにより、システム上で申請が完結できるようになりました。そのため、今後の申請についてはやむを得ない場合を除き、電子申請の利用が推奨されています。
また、太陽光発電や風力発電、小水力発電などの再生可能エネルギー発電設備を設置して、固定価格買取制度で売電を行う事業者には定期報告という報告書の提出が義務付けられています。この報告書を提出しない場合、経済産業省などから指導が入り、場合によっては認定を取り消されてしまう可能性もあるため、注意が必要です。
まず申請を行う前に、発電設備を設置するまでの流れについて理解しておく必要があります。設置の検討から電力供給開始まで様々な作業や手続きがあり、特に、国からの事業計画認定に当たっては、あらかじめ電力会社から系統接続について同意を得ることも必要です。
必要な書類
・事業計画書(WEB入力)
・接続の同意を証する書類の写し(平成29年3月31日までに売電を開始していない方のみ必須)
事業計画の提出の流れ
①「再生可能エネルギー電子申請」にログインし、事業計画の情報を入力し、「接続の同意を証する書類」をPDF又はZIP形式でアップロードし、事業計画の内容を登録します。
※平成29年3月31日までに売電を開始していた場合は、「接続の同意を証する書類」のアップロードは不要です。
②事業計画の内容が確認され、新制度への移行が完了すると、メールで通知が届きます。
事業計画の提出から確認完了まで1~2か月程度かかるとされています。新制度に移行後に変更を行う場合には、この事業計画を提出し、新制度への移行が完了した旨の通知が届いた後で、手続が可能となるため、早めに提出をすることが重要です。
電子申請の対象となる手続き
今回の電子申請への変更によって対象となる申請手続きは下記の通りです。
・太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスの「新規認定申請」
・太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスの「変更認定申請」
・太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスの「変更届出申請」
・太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスの「廃止届出申請」
電子申請の事前準備
電子申請を行うためには下記3点の事前準備が必要です。
- インターネットに接続可能なパソコン
- GビズIDのアカウント(プライム又はメンバー)及びパスワード
- 再生可能エネルギー電子申請システムのログインID、パスワード
電子申請での新規申請
新規申請をする際の手順は以下のとおりです。また、電子申請の利用にあたっては、「再生可能エネルギー電子申請」のアカウントの他に、GビズIDのプライム又はメンバーのアカウントが必要とるため、事前の準備が必要です。
必要な書類
申請には、下記のうち該当する2種類の認定申請様式が必要です。自身が申請しようとする種類に合わせて作成します。
様式1 再生可能エネルギー発電事業計画認定申請書(10kW未満・10kW以上50kW未満の太陽光発電及び市場取引等による供給事業を除く)
様式1の2 再生可能エネルギー発電事業計画認定申請書(10kW以上50kW未満の太陽光発電事業認定申請書)
様式2 再生可能エネルギー発電事業計画認定申請書(10kW未満の太陽光発電事業認定申請書)
様式2の2 再生可能エネルギー発電事業計画認定申請書(市場取引等により供給する事業を行う場合に限る
手続きの流れ
再生可能エネルギー電子申請の手続きには、以下のようなステップがあります。
①申請にあたり、必ず自身が使用している発電電力の種類における事業計画策定ガイドラインを確認します。
②「再生可能エネルギー電子申請」にユーザ情報を登録し、ログインIDを取得します。
③「再生可能エネルギー電子申請」にログインし、操作マニュアルに従って申請情報を入力し、必要な添付書類をPDF又はZIP形式でアップロードし、申請内容を登録します。
④50kW未満太陽光の場合:事業者から委任を受けた代行事業者が申請する場合、申請内容に問題がないか事業者に確認のメールが送信されます。事業者はメールでの指示に従い、「再生可能エネルギー電子申請」より申請内容を確認の上、「承諾」又は「拒否」を行います。(審査は「承諾」が押されてからの開始となります)
50kW以上太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの場合:電子申請が完了したのち、申請書(添付書類は不要)に返信用封筒を添えて発電設備の立地場所の都道府県を管轄する経済産業局へ送付します。
⑤50kW未満太陽光の場合:認定されると、事業者及び登録者(事業者が自ら行っている場合には事業者のみ)にメールで届き、「再生可能エネルギー電子申請」で認定通知書がダウンロードできます。
50kW以上太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの場合:認定通知書が申請者に届きます。
これらは、書類に不備がなければ、申請してから認定まで3ヶ月程度(バイオマスは4ヶ月程度)で結果が届きます。
電子申請での変更・廃止の手続き
以前紙で申請していた事業についても、認定後にシステムに反映されれば電子申請で変更認定等の手続きが可能になります。また、引き続き紙で申請を行った場合には認定情報がシステムに反映されるまで時間がかかる場合があるため注意が必要です。
太陽光発電50kW以上、風力発電、水力発電、地熱発電は、電子申請システムを利用した手続きが可能です。また、電子申請の利用にあたっては、新規の手続きと同様に「再生可能エネルギー電子申請」のアカウントの他に、GビズIDのプライム又はメンバーのアカウントが必要になるため、申請前に準備をするようにしてください。
手続きの流れ
①事業計画の内容を変更する場合は、その内容に応じて、(1)変更認定申請、(2)事前変更届出、(3)事後変更届出のいずれかの手続をします。
②「再生可能エネルギー電子申請」にユーザ情報を登録し、ログインIDを取得します。
③「再生可能エネルギー電子申請」にログインし、操作マニュアルの通りに申請情報を入力し、必要な書類をPDF又はZIP形式にしてアップロードすることで申請内容を登録します。
④必要事項を入力し、申請書を出力、記載内容を確認した後、GビズID認証が完了すると申請内容が送信されます。
⑤電子申請が完了したのち、申請書(添付書類は不要)に返信用封筒を添えて発電設備の立地場所の都道府県を管轄する経済産業局へ送付します。
⑥書類に不備がなければ、申請してから認定まで3ヶ月程度で結果が届きます。
⑦変更認定通知書が申請者に届きます。認定・受理情報については電子申請システム上でも確認することができます。
電子申請のメリット
申請期間中は24時間いつでも届出・申請が可能
電子申請の最大のメリットの一つは、いつでも申請が可能なことです。従来の紙ベースの手続きでは、事務所の営業時間内に限られていましたが、電子申請ならばオンライン上でいつでも申請ができます。これにより、時間や場所に制約されずに手続きを進めることができます。例えば、急なスケジュール変更や締切間際でも、申請を迅速に行うことができます。
申請書の作成や必要書類の提出が容易
電子申請では、申請書の作成や必要書類の提出が容易になります。オンライン上で申請情報を入力することで、手書きの煩雑な作業を省くことができます。また、必要な書類もスキャンやデジタルフォーマットでの添付が可能です。これにより、事業者は手続きにかかる時間や手間を大幅に削減することができます。
書類の不備等があった場合の再提出が容易
電子申請では、書類の不備や誤りがあった場合でも再提出が容易です。従来の紙ベースの手続きでは、書類の再作成や再送付に時間がかかり、手続きの遅延や追加の負担が生じることがありました。しかし、電子申請ではオンライン上での修正や再提出が可能です。これにより、迅速に問題を解決し手続きを進めることができます。
申請履歴が簡易に確認可能
電子申請では、過去の申請履歴が簡易に確認できます。オンライン上での申請情報はデータベース化され、アクセス可能な形で保管されます。これにより、事業者は過去の申請内容や審査結果を容易に参照することができます。申請の進捗状況や結果の把握がしやすくなるため、事業戦略の立案や今後の手続きに活用することができます。
まとめ
再エネ特措法に基づく認定・届出の申請手続きの電子化は、再エネ関連事業者にとって利便性や効率性の向上をもたらす重要な取り組みです。手続きの簡素化やスピードアップにより、再エネ事業の推進が促進されることが期待されます。ただし、発電の種類によって手続き方法が多少異なったり、ガイドラインが異なったりと煩雑な面があることも事実です。
電子化に伴う変更点や注意点に十分な理解を持ち、適切に対応することが求められます。今後は技術の進化や法改正により、さらなる改善が行われる可能性もあります。再エネ特措法の電子申請についての情報には、公式なガイドラインや関連機関の案内を参考にすることをおすすめします。
<参考サイト>
経済産業省 資源エネルギー庁 なっとく!再生可能エネルギー
経済産業省 資源エネルギー庁 再エネ特措法の申請手続きの電子化について
著者のプロフィール
- タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。