脱炭素により5億円の補助金が交付されるとしたら、どのように活用するでしょうか。

環境省が進めている「SHIFT事業(Support for High-efficiency Installations for Facilities with Targets)」という脱炭素化を進める取り組みが、日本では行われており、必要な機器や技術の導入に最大5億円の補助金が提供されています。

旧式の空調や生産機器によるCO2排出量が多く、悩んでいる人も多いはずです。
CO2排出量での悩みは、SHIFT事業の補助金を活用すれば解決可能です。

今回の記事では、SHIFT事業の概要やメリット・デメリット、応募から交付後の対応までの流れをわかりやすく説明しています。

実際にSHIFT事業の補助を受けた企業がどのような取り組みを行い、どれほどの成果を上げたのかも紹介しています。
今回の記事を通じて、予備知識がなくてもSHIFT事業への申請ができるようになります。

SHIFT事業とは?

SHIFT事業は2021年に環境省が開始した、日本の工場や事業場における環境に優しい活動を積極的に進めるための取り組みです。

取り組みの一環として、脱炭素化に必要な機器や技術の導入に補助金を出しています。
SHIFT事業を通じて、脱炭素化のモデルとなる成功事例を作り、SHIFT事業のホームページで公表しています。

他の工場や事業場が成功事例を参考に、脱炭素化に向けて取り組めるためです。
このようにして、2030年度までに2013年度比で46%の温室効果ガスの削減を目指しています。

また、2050年度までに、温室効果ガスの排出量と吸収量が等しくなるカーボンニュートラルの実現を目指しています。

具体的に2030年度の温室効果ガス削減目標とは、2013年度のCO2排出量を基準として、46%を削減を目指すものです。
また、2050年度までに温室効果ガスの排出量と吸収量が等しくなるカーボンニュートラルの実現を目指しています。

SHIFT事業には主に2種類あります。

1つは「CO2削減計画策定支援」、もう1つは「省CO2型設備更新支援」です。
CO2削減計画策定支援では、各工場や事業場の脱炭素化に向けた計画を立てるサポートをします。

一方、省CO2型設備更新支援では計画に基づいて設備や技術を導入したり、電化や燃料の転換・運用の改善をしたりする支援を行います。

SHIFT事業補助金のメリット

SHIFT事業補助金のメリットは、次の3つです。

  • 設備更新や最新技術の導入
  • 企業のイメージアップ
  • エネルギーコストの削減

設備更新や最新技術の導入

SHIFT事業のメリットは、古い設備を更新できたり、最新技術を導入できたりすることです。
省CO2型設備更新支援では、最大5億円という大きな補助が用意されています。

例えばこの補助金を利用して、燃料をガスや電気に転換してCO2排出量を大きく削減する取り組みが可能です。

具体的にはSHIFT事業の目標である年間4000トン以上のCO2削減や、システム全体のCO2排出量を30%減少させる効果が期待できます。

設備更新や最新技術の導入によって、企業のCO2削減量を大きく増やせることがSHIFT事業の魅力です。

企業のイメージアップ

環境を守る活動は企業のイメージアップにつながるため、企業にとって重要な経営戦略の一つだと言えます。

SHIFT事業を通じて脱炭素化に取り組む企業は、社会的責任を果たそうとしている企業として、投資家や行政機関からの評価が上がります。

外部から高評価を受けている企業は、消費者や取引先に魅力的に見えるものです。
「この企業の製品なら安心して購入できる」と、以前よりも多くの人々が企業の製品やサービスを手に取ると考えられます

その結果、企業の競争力が高まり売上が伸びる可能性が高くなります。
SHIFT事業の補助金を利用することは、環境と経済の両面で大きなメリットをもたらすといえるでしょう。

エネルギーコストの削減

脱炭素化を進めることによって、長期的にはエネルギーコストの削減も期待できます。
エネルギー効率の良い設備の導入によって電力消費量が減少し、運用コストも下がるためです。

SHIFT事業の補助金を活用した設備更新によって、年間で約430万円や約895万円ものエネルギーコストの削減に成功しています。

初期投資が必要ですが、10年もかからずに投資を回収できる場合が多いです。
そのため、SHIFT事業で設備更新を行うメリットは十分にあると言えます。

SHIFT事業補助金のデメリット

SHIFT事業補助金にもデメリットが存在します。
例えば、次の3つのデメリットです。

  • 初期投資の必要性
  • 技術的なリスク
  • 複雑な申請手続きと条件

初期投資の必要性

脱炭素化の実現には、高効率な設備を導入しなければなりません。
例えば製造業がCO2排出量を削減するために、既存の高炉から電気炉への切り替えを考えたとします。

電気炉の導入には、億単位の費用が必要です。
仮に補助金で半分をカバーできたとしても、残り半分は企業が負担しなければなりません。

また新しい設備に必要な改造工事や、運用開始までの収益が得られない期間の損失も考える必要があります。
中小企業の場合、大企業よりも信用や実績が少ないため銀行からの融資を受けることが困難なため、資金繰りの問題を引き起こす可能性があります。

参照:巨額の赤字で高炉を休止、日本の鉄鋼メーカーに何が起きているのか | 日経クロステック(xTECH)

技術的なリスク

最新の機器や技術の導入にはリスクがあります。
太陽光発電やエネルギー効率の高い空調システムを導入しても、予測通りの性能を発揮するとは限りません。

最新の機器や技術は実際の運用例が少なく、シュミレーションで得られた結果と同じには機能しない可能性があるためです。
また最新の機器や技術のメンテナンスには、専門の技術者が必要な場合も多いです。

そのため、メンテナンス費用が高くなる傾向にあります。
実際にセーレン株式会社は木質バイオマスボイラーを導入し、メンテナンスコストは増加したと報告しています。

参照:令和4年度 SHIFT事業 事例集 p.17~18

このような事情から、導入する機器や技術が期待通りに機能するかどうか、メンテナンスにどのくらい費用と時間がかかるのかを前もって検討することが求められます。

複雑な申請手続きと条件

補助金の申請するためには、いくつもの応募条件をクリアし、多くの書類を準備する必要があります。
SHIFT事業だと、年間で15%以上のCO2削減などです。

さらに補助金交付後であっても、規定されたCO2削減目標を達成できなかった場合は、補助金の返還が求められる場合もあります。

また提出書類も複雑です。

CO2削減計画策定支援の場合は最大で16枚の書類に加え、「交付申請書」はPDFで、「整備計画書」はExcelで提出するなどフォーマットまで指定されています。

また提出書類には、工場や事業場のCO2排出量を正確に記入する箇所があるなど、専門知識が求められることも少なくありません。

これらの手続きは事業者にとって大きな負担になったり、プレッシャーを感じたりする要因となるかもしれません。

SHIFT事業補助金の対象企業

SHIFT事業は、どのような企業が対象となるのでしょうか。
各事業において対象となる企業や具体的な条件を表でまとめたのでご覧ください。

CO2削減計画策定支援(スマホの場合は画像をタップしてください)

※中小企業の定義
製造業・その他:資本金3億円以下、常用従業員数300人以下
卸売業:資本金1億円以下、常用従業員数100人以下
サービス業:資本金5000万円以下、常用従業員数100人以下
小売業:資本金5000万円以下、常用従業員数50人以下

参照:令和4年度(第2次補正予算)・令和5年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT 事業))CO2削減計画策定支援 公募要領 p.9~11

省CO2型設備更新支援(A標準事業、B大規模電化・燃料転換事業)(スマホの場合は画像をタップしてください)

参照:令和4年度(第2次補正予算)・令和5年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT 事業))省 CO2 型設備更新支援(A.標準事業、B.大規模電化・燃料転換事業)公募要領 p.22~23

省CO2型設備更新支援(C中小企業事業)

対象企業※中小企業
対象設備年間CO2排出量が50トン以上3000トン未満の事業所
対象事業省エネルギー効果が高い設備への更新デジタル化等による生産性の向上・環境に優しい事業活動の推進
その他補助事業の投資回収期間が3年以上

※中小企業の定義
製造業・その他:資本金3億円以下、常用従業員数300人以下
卸売業:資本金1億円以下、常用従業員数100人以下
サービス業:資本金5000万円以下、常用従業員数100人以下
小売業:資本金5000万円以下、常用従業員数50人以下

参照:令和4年度(第2次補正予算)・令和 5 年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT 事業))省 CO2 型設備更新支援(C.中小企業事業)公募要領 p.6~7

SHIFT事業補助金の事業アイデア

SHIFT事業の事業アイデアを出すには、エネルギー消費の内訳やCO2排出量を把握する必要があります。
その中でも大きな割合を占めている設備の更新を考えると効果的です。

例えば空調設備が古くエネルギー効率が低い場合は、より少ない電力で稼働できるヒートポンプチラーへの更新が考えられます。

蒸気ボイラーや燃焼炉のCO2削減量が多い場合、環境に優しいガス式に更新すると効果的です。
給湯設備についても同様で、ヒートポンプ給湯機を導入することで、エネルギー消費量を大きく減らせる可能性があります。

具体的には給湯光熱費を約30%まで削減できます。

参照:ご存じですか?省エネ効果が高い家庭用ヒートポンプ給湯器『エコキュート』の仕組みと特徴について|COOL CHOICE 未来のために、いま選ぼう。

その他にも、太陽光発電設備の導入や蒸気配管の断熱改善、蒸気ドレンの回収システムの導入もエネルギー効率の改善が期待できます。

また空気圧縮機の運用圧力を見直し、不要な圧力を低減したり、エア漏れを防止するための維持管理を徹底することも重要です。

食品業界なら、冷凍冷蔵ショーケースの更新もおすすめです。
古いモデルは冷却効率が低く、電力消費が高いためです。

製造業の場合、古い油圧式の射出成形機から効率の良い電動式への更新を行うといいでしょう。

上記のアイデアは、すべてSHIFT事業で採択されたものです。
これらのアイデアを参考に、大きなCO2削減効果が期待できる機器は何かを考えてみましょう。

参照:令和5年度SHIFT事業 工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業

SHIFT事業補助金の流れ

SHIFT事業には、「CO2削減計画策定支援」と「省CO2型設備更新支援(A標準事業、B大規模電化・燃料転換事業、C中小企業事業)」があります。

まずは補助金の流れと、補助金額、補助率を説明します。

(スマホの場合は画像をタップしてください)

参照:令和4年度(第 2 次補正予算)・令和5年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT 事業))CO2削減計画策定支援 公募要領 p.17, 20~28

参照:令和 4 年度(第2次補正予算)・令和 5 年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT 事業))省 CO2 型設備更新支援(A.標準事業、B.大規模電化・燃料転換事業)公募要領 p.28, 33~35

参照:令和4年度(第2次補正予算)・令和 5 年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT 事業))省 CO2 型設備更新支援(C.中小企業事業)公募要領 p.9, 21~25

補助金申請手続きの事前準備と必要書類

CO2削減計画策定支援の申請には「支援機関リスト」から2社以上の支援計画書、見積書、人件費のわかる資料を取り寄せましょう。

DX型計画策定支援の利用を考えている場合、対応した支援機関から資料を入手しましょう。

DXとはデジタルトランスフォーメーションの略称で、デジタル技術を上手に活用し、人々の生活をよりよくしようとする考え方のことです。

その後は資料内容を比較し、支援機関を選びます。
支援機関から計測対象や実施時期などの合意(マッチング)を行いましょう。

一方、省CO2型設備更新支援の事前準備はSHIFT事業の公募説明資料を読み込むことのみです。

続いて、補助金申請に必要な書類についてです。
申請に必要な書類は、SHIFT事業のホームページからダウンロードできます。

また、各事業ごとに何が必要なのかをわかりやすく表でまとめました。(スマホの場合は画像をタップしてください)

参照:令和4年度(第 2 次補正予算)・令和5年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT 事業))CO2削減計画策定支援 公募要領 p.29~30

参照:令和 4 年度(第2次補正予算)・令和 5 年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT 事業))省 CO2 型設備更新支援(A.標準事業、B.大規模電化・燃料転換事業)公募要領 p.40

参照:令和4年度(第2次補正予算)・令和 5 年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT 事業))省 CO2 型設備更新支援(C.中小企業事業)公募要領 p.29~32

CO2削減計画策定支援では、2社以上から見積書を入手・比較し、支援機関を決定する必要があります。
省CO2型設備更新支援の場合、公募資料を読み込みましょう。

その後は必要な書類をダウンロードし、記入例にしたがって必要事項を書き進めていきましょう。

申請前に確認すべき補助金の審査基準

CO2削減計画策定支援における補助金の審査では、計画の完成度と実現性が重要視されます。
補助金の重複がないか、経費が補助対象外のものを含んでいないかも審査基準です。

さらに2社以上の支援機関から適切に見積もりを取得しているか、人件費や業務費の根拠が明確に示されているかも評価されます。

一方、省CO2型設備更新支援の補助金審査では脱炭素化に関する計画の実効性と持続可能性が重要な評価基準です。

応募者が要件を満たしているか確認された後、CO2排出削減量は大きいか、排出削減率は高いか、費用対効果が優れているかなどの審査項目に基づき採点を行います。

また事業者が中小企業であったり、低炭素電力取り組みの実績があること、CO2削減計画を第三者機関の支援を受けて策定したことがある場合も加点評価を受けられます。

さらにSBT、TCFD、RE100などの環境指標も加点の対象です。

SBT(Science Based Targets)TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)RE100(Renewable Energy 100%)
パリ協定が求める⽔準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減⽬標気候に関する情報開示や金融機関の対応を検討する組織各企業が事業で使用する電力を再生可能エネルギーのみとすることを目指す国際的な取り組み
参照:SBT(Science Based Targets)について | 環境省参照:TCFDとは | TCFDコンソーシアム参照:環境省RE100の取組 | 地球環境・国際環境協力 | 環境省

CO2削減計画策定支援も省CO2型設備更新支援も、応募要件を満たし、計画性や大きなCO2削減効果のある事業者を優先して採択しています。

窓口またはオンライン申請の方法

窓口申請の場合、簡易書留など配達記録が残る方法で提出を受け付けています。
窓口へ直接持ち込んでも受理されないので注意しましょう。

申請に必要なものは、書類とCDまたはDVDの2つです。

提出書類は2つ穴を開け、紐で綴じます。
バインダーの使用は認められていません。
CD・DVDには、提出書類の電子データを漏れなく保存してください。

そして、表面に必要事項を記載します。

必要な記載事項

CO2削減計画策定支援省CO2型設備更新支援
事業者名・支援対象工場・事業場名代表者名・実施場所
令和4年度(第 2 次補正予算)・令和5年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT 事業))CO2削減計画策定支援 公募要領 p.30令和4年度(第2次補正予算)・令和5年度 ⼆酸化炭素排出抑制対策事業費等補助⾦ (⼯場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT事業)) 省CO2型設備更新⽀援 (A.標準事業、B.⼤規模電化・燃料転換事業) 公募説明資料 p.70

電子データは、オンラインストレージや電子メールで送信することも可能です。
ただし、USBメモリやSDカードに保存しての提出は認められていません。

一方、オンライン申請は「jGrants」というシステムを通じて行われています。
オンライン申請であれば、書類を紙で準備する必要はありません。
提出した書類は返却されませんので、きちんとコピーを取っておきましょう。

窓口申請では配達記録に残る方法で紙媒体と電子データの提出が求められます。
それに対して、オンライン申請では電子データのみ「jGrants」経由で提出する必要があります。

補助金の受け取り方法

補助金は、支援機関から指定口座に振り込まれる形で受け取れます。
受け取るためには、まず「完了実績報告書」を提出しなければなりません。

完了実績報告に必要な書類

CO2削減計画策定支援省CO2型設備更新支援(A標準事業、B大規模電化・燃料転換事業、C中小企業)
共通書類様式11:完了実績報告書様式11 別紙1:実施報告書 様式11 別紙2:経費所要額精算調書 実施計画書実施計画確認証契約書・納品書・検収書・請求書・明細書・支払いを証する書類作業記録 
※該当者のみ診断報告書(設備更新事業の未決定者)診断報告書確認証(設備更新事業の未決定者)その他、根拠となる資料の写し様式10:取得財産等管理台帳(DX型計画策定支援の実施者)DXシステムの写真(DX型計画策定支援の実施者)※該当者のみ診断報告書(A・B事業)診断報告書確認証(A・B事業)その他、根拠となる資料の写し完成図書(各種手続等に係る書面の写し) 写真(工程等が分かるもの) その他、参考資料(領収書など)責任者と担当者の所属部署・職名・氏名・電話番号・Eメールアドレス

参照:令和4年度(第2次補正予算)・令和5年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT 事業))CO2削減計画策定支援 p.32

報告書は事業完了日から30日以内、または特定の日付よりも前の提出が求められています。
令和5年度における特定の日付は、CO2削減計画策定支援が令和6年1月22日、省CO2型設備更新支援のA・B事業は令和6年3月11日でC事業が令和6年2月10日です。

提出した書類は審査を受け、問題がなければ交付額確定通知書が送られてきます。
事業者は通知書を受け取った後、14日以内に精算払請求書を提出する必要があります。

このとき、支援機関への支払いを証明できる書類が未提出の場合、合わせて提出してください。
補助金を受け取るには「完了実績報告書」を提出した後、「精算払請求書」を支援機関に提出しなければならないです。

SHIFT事業補助金交付後について

SHIFT事業に関連する財務記録は、他の会計書類と区別して5年間は保管しなければなりません。
このとき、経費の使用目的や支払日、金額が一目でわかるようにしてください。

例えば、下記の書類が該当します。

  • 見積書
  • 発注書
  • 契約書
  • 請求書
  • 受領書
  • その他、経費に関連する書類

事業終了から5年間は、会計検査院による現地検査を受ける可能性があります。
保管している書類を細かく調べられるため、すぐに書類を提出できるように準備しておきましょう。

CO2削減計画策定支援では、事業報告書の提出期限(3年間)が過ぎるまでの間に事業名や連絡先に変更があった場合は、「変更届」でその旨を速やかに通知する義務があります。

一方、省CO2型設備更新支援では、取得財産の管理が求められています。
補助金で導入した機器は、取得財産等管理台帳で管理しなければなりません。

もし機器を処分・譲渡する場合は、支援機関の承認が必要です。
この際、補助金の返還が必要となる可能性もあります。

SHIFT事業が終了しても、関連書類を5年間は管理し、必要に応じて現地検査を受ける必要があるということです。
また、事業名に変更があった場合や補助金で導入した機器を処分・譲渡する場合も、報告が必要です。

SHIFT事業補助金の審査を通りやすくするコツ

必要事項をすべて正しく記載した書類を提出することが、何よりも重要です。
何か1つでも欠けていると、審査は通りにくくなります。

この前提条件を守った上で審査を通りやすくするには、計画を立てることが重要です。
具体的なCO2削減の目標と、それを実現させる方法を記載しましょう。

削減目標は大きい方が有利ですが、達成できなかった場合は返還義務が生じるため、注意が必要です。

省CO2型設備更新支援では、環境指標の認定や低炭素電力取り組みの実績が加点対象となります。
忘れずに「その他の審査項目」に記載してください。

申請時は、CO2排出量や脱炭素化指標などを具体的に記載しなければならないため、専門的な知識が求められます。

SHIFT事業補助金を受け取るポイントや注意点

SHIFT事業補助金を受け取るまでに特定の条件を満たさなかった場合、返還義務が発生します。

例えば、省CO2型設備更新支援を受けた事業者はSHIFTシステムに登録し、定められた排出枠を守らなければなりません。
守れない場合、補助金の全部あるいは一部を返還する必要があります。

補助金で取得した財産は、法定耐用年数内は適切に使用し、支援機関の承認なしで譲渡や廃棄をしてはいけません。
これに違反した場合も、補助金の返還が求められます。

さらにSHIFT事業の補助金は、他の国庫補助金と重複して受け取ることができません。
重複して採択した場合、一方を辞退しなければなりません。
他の補助金との併願は不採択につながります。

また補助事業中の事故によって、補助金を減額されたり、返還義務が生じたりする可能性もあります。
万が一のために支援機関と相談し、対処方法をあらかじめ考えておきましょう。

よくある質問はこちらのサイトに記載されています。
必要に応じてご覧ください。

参照:環境省_よくある質問 | SHIFT事業ウェブサイト

SHIFT事業補助金の事例紹介

SHIFT事業の補助金は、大企業も中小企業も活用しています。
今回は下記3社がどのように補助金を活用し、どのような成果を上げたのかを紹介します。

  • 三井住友信託銀行株式会社
  • 独立行政法人国立病院機構
  • セーレン株式会社

三井住友信託銀行株式会社

株式会社マイステイズ・ホテル・マネジメントと共に、三井住友信託銀行株式会社が「亀の井ホテル別府」の設備更新を行いました。

この計画には、3,650万円のSHIFT事業補助金が活用されています。

具体的には重油が必要な旧式の温水ボイラーを、高効率な温水ボイラーと循環加温ヒートポンプのハイブリッド化を実現しました。

その結果、年間で約2,273トンあったCO2排出量を27.2%削減し、1,654トンにまで減少させました。

さらに、エネルギーコストは年間で約895万円もの削減が見込まれています。
削減の理由は、冷却塔や冷却水ポンプの排除による設備の故障リスクやメンテナンス費の減少や、ピーク電力の抑制、施設側で冷暖房の切り替えができるようになったためです。

参照:令和4年度 SHIFT事業 事例集 p.11~12

独立行政法人国立病院機構

独立行政法人国立病院機構の「久里浜医療センター」は、SHIFT事業補助金を活用して、30年以上稼働してきた古い吸収式冷凍機を、高性能なマルチエアコンに更新しました。

これにより、燃料使用量とCO2排出量が減少し、年間で約430万円ものコスト削減を実現させたのです。
特に空調システムにおけるCO2排出は、前年比で46.5%も削減できました。

SHIFT補助金は、医療施設の環境負荷を減らしながら、運用コストを削減する大きな手助けとなりました。

参照:令和4年度 SHIFT事業 事例集 p.3~4

セーレン株式会社

セーレン株式会社は、福井県で繊維工業を営む「二日市事業所」に対して、SHIFT事業の補助金を活用しました。
具体的には、化石燃料が必要なLPG炊き蒸気ボイラーを木質バイオマスボイラーに置き換えました。

その結果、年間12,206トンのCO2排出を、36.9%の削減に相当する7,702トンまで減少させたのです。
蒸気系統では、41.4%のCO2削減を達成しました。

補助額は約2億4650万円で、補助金を含めた投資の回収期間は約6年、補助金がなければ9年かかると試算されています。
メンテナンスコストは増加するものの、化石燃料の削減により全体のコストは大幅に下がる見込みです。

また染色プロセスの最適化を進め、無駄になるエネルギーの削減も図りました。
セーレン株式会社はSHIFT事業の補助金を活用し、経済と環境の両面で大きな成果を上げることに成功しています。

参照:令和4年度 SHIFT事業 事例集 p.17~18

SHIFT事業の補助金が受け取れない失敗例

SHIFT事業の補助金が受け取れなくなってしまう失敗の中でも、特に多いものが、補助金の併願と応募要件の欠格です。

補助金の併願

SHIFT事業補助金は、一部の他の補助金との併用が認められていません。

例えば、すでにSHIFT事業や⼆酸化炭素排出抑制対策事業費等補助⾦(グリーンリカバリー事業)の補助を受けて機器を導入している場合は、SHIFT事業の補助金は活用できません。

また、同一の工場や事業場が同じ年度内に別の省CO2型設備更新支援に応募している場合も、SHIFT事業の補助金は適用できなくなります。

これは複数の補助金を同時に利用することで不公平が生じたり、一つの事業に対して過剰な支援が行われるのを防ぐためです。

そのためSHIFT事業の補助金を検討している企業は、他の補助金との関係をよく理解し、必要に応じて関係機関に前もって相談することが必要です。

これにより、不採択のリスクを避けられます。

応募要件の欠格

応募要件を満たせていない企業は、補助金を受け取れない可能性が高いです。

例えば省CO2型設備更新支援に応募するためには、必要事項をすべて満たしたCO2削減計画を行い、その計画を実施計画書に記載する必要があります。

さらに、設備を導入した後のCO2排出削減の予測や投資の回収計画などの記載も欠かせません。

これらの要件を満たす書類を提出しない限り、補助金を受け取る資格がないと判断されます。
同様に、応募に必要な書類が一つでも欠けていれば、申請は不完全とみなされ、採択されない可能性が高くなります。

まとめ

SHIFT事業は、「CO2削減計画策定支援」と「省CO2型設備更新支援」に分かれています。
SHIFT事業のメリットは、高性能な設備導入によるCO2排出量やコストの削減、それによる競争力の向上です。

しかし、デメリットとして初期投資の必要性やメンテナンス費用の増加が考えられます。

対象企業は中小企業や法人で、年間で15%以上のCO2削減など一定の効果が見込めることが条件です。
また、補助金は重複して受けられないため、注意しましょう。

事業の大まかな流れは、次の通りです。

  1. 事前準備
  2. 申請書の提出
  3. 設備や技術の導入
  4. 完了実績報告書の提出
  5. 交付額確定通知書の受領
  6. 精算払請求書の送付
  7. 補助金の交付

補助金額はCO2削減計画策定支援だと50~200万で補助率は4分の3、省CO2型設備更新支援だと5000万~5億で補助率は3分の1~2分の1です。
事業内容で異なるため、事前に確認しましょう。

提出書類はこちらからダウンロード可能です。
郵送の場合、紙の書類と書類データを保存したCDまたはDVDの添付が必要です。

オンライン申請はjGrantsから可能で、紙媒体での提出は不要となります。

補助金交付後は、関連書類を5年間、他の書類と区別して保存する必要があります。
会計検査院が現地検査を行う可能性があるためです。

また、補助金で導入した機器を無許可で処分・譲渡できないので注意しましょう。
違反すると補助金を返還しなければなりません。

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。