気候変動は世界的な課題となっており、企業や金融機関は気候変動に関連するリスクを適切に評価し、管理する必要があります。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、気候変動に関連する情報開示についてのガイダンスを提供することで、企業や金融機関が気候変動リスクを経済的な観点から評価し、適切に開示することを促しています。

この記事では、TCFDの役割とリスク管理の関連性、気候変動リスクの重要性について詳しく説明します。

TCFDの概要

企業が長期的な成長と持続可能性を実現するためには、気候変動や環境変動に関連するリスクを適切に評価し、対策を講じる必要があります。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、この課題に対処するために2015年に設立された国際的なイニシアチブです。TCFDは、企業が気候関連リスク情報を開示するためのフレームワークを提供し、投資家や金融機関が持続可能な投資判断を行う際の情報源として活用することを目指しています。

日本ではこれまでTCFDによる気候関連財務情報の開示は義務化されていませんでしたが、2022年4月に再編された東証市場のプライム市場に対しては義務化されることとなりました。これと合わせて、今後はスコープ3によるGHG排出量の管理や把握についても企業は取り組んでいく必要があります。つまり、企業が気候変動に与える影響は大きく、気候変動や環境に配慮しない企業経営は今後大きなリスクとして捉えられていくことが予想されます。

TCFDとリスク管理の関連性は密接であり、以下のような要素が重要な役割を果たします。
リスク評価とシナリオ分析: TCFDは、気候変動による将来のリスクを評価するためのシナリオ分析を推奨しています。リスク管理は、企業が将来の気候関連リスクや機会に対する露呈度を評価し、それに基づいて戦略を策定するために不可欠です。TCFDのガイダンスに従ってリスク評価を行うことで、企業はリスクを予測し、適切な対策を講じることができます。

TCFDは、気候関連リスクが企業の財務パフォーマンスに与える影響を強調しています。リスク管理は、企業の長期的な価値と持続可能性に直接関わる要素です。適切なリスク管理は、企業の信頼性と透明性を高め、投資家や株主の信頼を得るために不可欠です。

また、 TCFDは、企業が気候関連リスク情報を開示することを推奨しています。投資家や金融機関は、この情報を活用して持続可能な投資判断を行います。リスク管理は、企業が投資家に対して透明かつ信頼性のある情報を提供するための重要な手段です。

TCFDに賛同し、この枠組に則って開示を実施することは、企業にとって重要な利点をもたらします。この利点には、リスクを適切に管理し、機会を見つけるためのフレームワークを提供することが含まれます。また、TCFDに準拠することで、企業は気候変動に対するリーダーシップを示し、投資家や顧客の期待に応えることができるためです。

2023年6月26日時点にて、世界全体では金融機関をはじめとする4,637の企業・機関が賛同を示し、日本では1,389の企業・機関が賛同の意を示しています。

気候変動リスクの評価

TCFDは、気候変動に関連するリスクと機会の評価を企業に促すためのフレームワークを提供しています。気候変動リスクの評価は、企業が将来の気候変動シナリオに対する脆弱性や機会を理解し、それに対する適切な対策を講じるための重要なプロセスです。

TCFDの目的は、企業が気候変動リスクを評価し、それに対処するための情報を開示することで、投資家や金融機関などの関係者が企業の持続可能性と将来の価値を評価できるようにすることです。気候変動リスクの評価は、企業が戦略の見直しや適切なリスク管理手法の導入、持続可能なビジネスモデルの構築につながる重要なステップとなります。

TCFDは、気候変動リスクの評価において以下の要素を考慮することを推奨しています。

シナリオ分析

シナリオ分析は、将来の気候変動の可能性や影響を予測するための手法です。TCFDは、企業が複数のシナリオ(例: 2度目の上昇を達成するための温室効果ガス排出削減シナリオ、4度目の上昇を達成するためのシナリオなど)を採用し、それに基づいてリスクと機会を評価することを推奨しています。シナリオ分析は、将来の変化に対する企業の脆弱性を特定し、適切な戦略の策定に役立ちます。

物理的リスクの評価

物理的リスクは、気候変動による極端な気象イベント(例: 洪水、干ばつ、海面上昇など)や気候パターンの変化によって引き起こされるリスクです。企業は、自社の施設や供給チェーンがこれらのリスクにどの程度影響を受ける可能性があるかを評価する必要があります。これには、地理的な脆弱性の分析や災害リスクマッピングなどが含まれます。

遷移リスクの評価

遷移リスクは、気候変動に関連する規制変更、技術革新、市場の変化などによって引き起こされるリスクです。企業は、将来の気候関連政策や規制の変化が事業に及ぼす影響を評価する必要があります。また、気候変動に対応するための新たなビジネス機会を特定することも重要です。

財務的影響の評価

TCFDは、気候変動リスクが企業の財務パフォーマンスに与える影響を評価することを推奨しています。企業は、将来のリスクに備えるための適切な資金計画やリスク管理戦略を策定する必要があります。また、気候関連の機会を追求することによって企業の収益性や競争力を向上させることも重要です。

リスク管理の実践例

TCFDに基づいたリスク管理の実践方法は、気候変動に関連するリスクを特定し、それに対処するための包括的なアプローチを提供します。以下に、TCFDに基づいたリスク管理の実践方法を例示します。

リスク評価とシナリオ分析

企業は、将来の気候変動によるリスクと機会を特定するために、シナリオ分析を実施する必要があります。複数のシナリオ(例: 温室効果ガス排出削減シナリオ)を採用し、各シナリオに基づいて企業の脆弱性を評価します。さらに、物理的リスク(例: 気象イベント)や遷移リスク(例: 規制変更)を特定し、それらのリスクが持続可能性や財務パフォーマンスに与える影響を評価します。

リスク管理戦略の策定

リスク評価の結果に基づいて、企業はリスク管理戦略を策定します。リスク回避、リスク低減、リスク転換(ヘッジ)、リスク受容など、適切な戦略を選択し、実施する必要があります。また、リスク管理戦略には、物理的リスクへの適応策や遷移リスクへの対応策、新たなビジネス機会の追求などが含まれます。

監視と報告

リスク管理は持続的なプロセスであり、継続的な監視と報告が重要です。企業は、リスク管理戦略の実施状況を定期的に監視し、結果を評価します。さらに、TCFDの要件に基づいた開示報告を行い、投資家や関係者に対してリスク管理の進捗状況や取り組みを透明に伝えることが求められます。

さまざまなステークホルダーとの連携

TCFDに基づいたリスク管理は、内部だけでなく外部のステークホルダーとの連携も重要です。企業は、投資家、金融機関、政府、NGOなどとの対話や協働を通じて、気候変動リスクの共有理解を促進し、持続可能な解決策の開発に貢献します。

今後の展望

TCFDは、気候変動に起因するリスクと機会に対処するための重要な枠組みとして、金融市場におけるリスク管理の進化に大きな影響を与えています。今後の展望には以下のような点が考えられます。

TCFDの普及と強化

現在、TCFDへの取り組みは世界中で広がっていますが、今後はさらなる普及と強化が期待されます。金融機関や企業がTCFDのガイダンスに従い、リスク評価と開示を行うことで、気候変動リスクへの対応が一層進展するでしょう。

ネットゼロ目標の普及

パリ協定の下で多くの国や企業がネットゼロ(Net Zero)目標を掲げています。これは、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすることを目指すものです。今後は、ネットゼロ目標の普及が進み、そのための具体的な戦略や取り組みがますます重要になるでしょう。

適用範囲の拡大

現在のTCFDは主に上場企業や金融機関を対象にしていますが、今後は中小企業や非上場企業、および地方自治体など、さまざまな組織に対して適用範囲が拡大される可能性があります。これにより、より広範な組織が気候変動リスクを評価し、対応策を講じることが期待されます。

気候変動リスクと金融システムの統合

今後は、気候変動リスクが金融システム全体に与える影響をより詳細に理解する必要があります。TCFDをさらに発展させ、金融機関や監督当局が気候変動リスクを適切に評価し、システム全体の安定性を確保するための取り組みが増えるでしょう。

持続可能な金融システムの構築

気候変動に対応するためには、持続可能な金融システムの構築が必要です。金融機関や投資家が環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点を重視した投資や融資を行うことが求められます。また、グリーンボンドなど、持続可能な金融商品の発行や市場の発展も進む可能性があります。

インパクト投資の拡大

TCFDの進化により、気候変動リスクを考慮した投資や貸出の拡大が期待されます。投資家や金融機関は、気候変動に対するリーダーシップを発揮し、持続可能な企業やプロジェクトへの投資を増やすことで、環境と経済の両面でポジティブなインパクトを生み出すことができます。

まとめ

気候変動に関連するリスクを評価し、管理するために、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が重要な役割を果たしています。TCFDに基づいたリスク管理の実践方法は、リスク特定、包括的なアプローチによる対策策定、監視と報告、ステークホルダーとの連携を継続的に行うことで、気候変動リスクに対処し、持続可能なビジネスモデルを構築することができます。

今後、TCFDの指針やガイダンスはさらに進化し、リスク管理の実践が進んでいく可能性があります。企業や金融機関は、気候変動リスクを適切に評価し、機会を見極めることで、長期的なサステナビリティと競争力を確保することが求められます。また、政府や国際機関との連携も重要であり、統一された国際基準の策定や政策の支援が進むことで、TCFDの目標の達成がより実現可能となるでしょう。

<参考サイト>
TCFDコンソーシアム
気候関連財務情報開示に関するガイダンス 3.0
Task Force on Climate-related Financial Disclosures: TCFD
環境省 総合環境政策 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)

著者のプロフィール

福元 惇二
福元 惇二
タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。