省エネ法には、ベンチマーク制度が設けられています。
ベンチマーク制度とは、よりエネルギー効率の高い社会を作るためのは欠かせない制度です。

この記事では、ベンチマーク制度の概要や目的に加え、対象となる企業や業界、そして、事業者クラス分け評価制度や補助金制度といった具体的な活用方法についても詳しく解説します。

省エネ法とは?

省エネ法は、エネルギー消費を効率的に管理することを目的として1979年に施行されました。

省エネ法では、原油換算で年間1,500㎘以上のエネルギーを消費する事業者は、エネルギー使用状況に関する中長期計画書や定期報告書を提出する必要があります。

また、令和5年(2023年)の省エネ法の改正により、再生可能エネルギーの使用状況も報告の対象になりました。

ベンチマーク制度とは?

ベンチマーク制度は、企業がエネルギーをどれだけ効率よく使っているかを比較できるようにする基準や指標を示し、それを元に評価を行う制度です。

具体的には、一定のエネルギー効率や二酸化炭素の排出や削減の目標値(ベンチマーク)が設定されます。
各事業者は、このベンチマークを達成できるように、自社のパフォーマンスを測定や改善したりします。

ベンチマーク制度の目的

ベンチマーク制度を導入する主な目的は2つあります。

1つは、事業者の省エネ法に対する努力が適正に評価することです。
これまでは、1%以上のエネルギー削減を目標に取り組むように指示をしてきました。

しかし、事業者がすでに高いレベルのエネルギー効率を達成している場合、さらに1%削減するのは非常に難しいかもしれません。
このような事業者でも、ベンチマーク制度を用いれば、他の指標でその省エネ努力を評価することができます。

もう1つの目的は、業種ごとに共通の指標を設定することで、各事業者の省エネ努力を客観的に比較や評価できるようにすることです。

これまでの方法だと、事業者ごとに異なる状況や条件で省エネ活動を行っていたため、その成果を公平に比較するのは困難でした。
しかし、ベンチマーク制度があれば、業種全体で統一された基準に基づいて、誰もがその成果を理解しやすくなります。

ベンチマーク制度の対象事業者

2023年10月現在で、ベンチマーク制度が適用される事業者は、以下の19の分野に広がっています。

  1. 高炉による製鉄業
  2. 電炉による普通鋼製造業
  3. 電炉による特殊鋼製造業
  4. 電力供給業
  5. セメント製造業
  6. 洋紙製造業
  7. 板紙製造業
  8. 石油精製業
  9. 石油化学系基礎製品製造業
  10. ソーダ工業
  11. コンビニエンスストア業
  12. ホテル業
  13. 百貨店業
  14. 食料品スーパー業
  15. ショッピングセンター業
  16. 貸事務所業
  17. 大学
  18. パチンコホール業
  19. 国家公務

引用:事業者クラス分け評価制度 産業トップランナー制度(ベンチマーク制度)

上記19の分野は、一体どのような事業内容で、具体的にはどのくらいのベンチマーク指標が設定されているのでしょうか。
それぞれ詳しく解説していきます。

高炉による製鉄業

高炉による製鉄業は鉄鉱石から鋼製品を作る産業です。
最初に鉄鉱石と石炭(コークス)を調達し、高炉でこれらを高温で反応させて銑鉄(生鉄)を作ります。
その後、この銑鉄を加工して鋼塊を製造し、最終的には形鋼、棒鋼、線材などの鋼材に変えます。

このプロセスは大量のエネルギーを使うため、エネルギー効率の向上が求められており、ベンチマーク指標として、粗鋼量当たりのエネルギー使用量を0.531 kL/t以下にすることが設定されています。

電炉による普通鋼製造業

電炉による普通鋼製造業は、リサイクルされた鋼を溶かして新しい鋼を作ります。
この方法はエネルギー効率が良く、環境にも優れています。
作成された新しい鋼は、不純物を取り除いたり特定の成分を加えたりして、最終的な製品になります。

ベンチマーク指標としては、粗鋼と圧延量当たりのエネルギー使用量が0.143 kL/t以下であることが求められています。

電炉による特殊鋼製造業

電炉による特殊鋼製造業は、特定の性質(耐食性や耐熱性など)を持つ鋼を作る専門の産業です。
電炉を使用してスクラップ鋼を溶解し、必要な成分を添加して特殊鋼を製造します。
この鋼は高性能製品や特定の産業で使用されます。

この業界では、粗鋼と出荷量当たりのエネルギー使用量が0.36 kL/t以下というベンチマーク指標が設定されています。

電力供給業

電力供給業は電力の生産と供給を行う産業で、石炭、ガス、石油などの燃料を使ってさまざまな方法で発電します。
業界では、発電の効率を測るための2つの主要指標、AとBが設定されています。

A:各発電方式(石炭・ガス・石油その他の燃料)の発電効率を発電効率の目標値で除した値と各発電方式による発電量の比率と積の和

B:各発電方式(石炭・ガス・石油その他の燃料)の発電効率と各発電方式による発電量の比率と積の和

引用:事業者クラス分け評価制度 産業トップランナー制度(ベンチマーク制度)

Aは発電効率と発電量の関係で、1.00以上がベンチマーク指標となっています。
一方、Bは44.3%以上が目指されています。

セメント製造業

セメント製造業は、石灰石などの鉱鉱を原料としてセメントを生産する産業です。

ベンチマーク指標は、出荷量当たりのエネルギー使用量が3,739MJ/t以下であることとされています。

これは、原料を高温で焼成する過程などの大量にエネルギーを消費する工程を考慮して、設定された基準です。

洋紙製造業

洋紙製造業は、木材やリサイクル紙を原料として、印刷や書き込みに使用される一般的な紙、すなわち洋紙を生産する産業です。
この業界では原料の準備、製紙、仕上げまで、多くの工程があります。

特に製紙過程においては、高温と圧力を使って原料を紙に変換するため、相当量のエネルギーが消費されます。

エネルギー効率の評価においては、洋紙生産量当たりのエネルギー使用量が6,626MJ/t以下であることがベンチマーク指標とされています。

板紙製造業

板紙製造業は、紙やリサイクル材を基に、段ボールなどの厚紙や板紙を作る産業です。
これらの製品は包装材、運送用の箱、建築資材など、多くの用途で使用されます。

業界内での生産過程では、紙のパルプ化から圧縮、そして仕上げに至るまで多くの工程を含んでおり、特に圧縮と乾燥の段階で大量のエネルギーが必要です。

この業界では、板紙生産量当たりのエネルギー使用量が4,944MJ/t以下であることが、ベンチマーク指標として設定されています。

石油精製業

石油精製業は、原油をさまざまな製品に変換する工程を主に行う産業です。
原油は地下から採掘された後、特定の工場である「石油精製所」で処理されます。

この精製所での主な作業は、原油を加熱し、それを蒸留することによってガソリン、ディーゼル、練炭、灯油など多くの石油製品に分離することです。

石油精製業界では、ベンチマーク指標は、標準エネルギー使用量が0.876以下とされています。

石油化学系基礎製品製造業

石油化学系基礎製品製造業は、石油を原材料として化学製品を生産する産業です。
この産業では、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどの基礎化学製品が主に作られます。

これらの製品は、プラスチック、合成繊維、接着剤、塗料など、さまざまな製品として日常生活や他の産業に利用されています。

エチレン等の生産量当たりのエネルギー使用量が11.9GJ/t以下という基準が、ベンチマーク指標です。

ソーダ工業

ソーダ工業は、ソーダ灰や重曹といったソーダ製品を製造する産業です。
ソーダ製品は広範に使用されており、ガラス製造、洗剤、食品加工、水処理など、多くの産業や日常生活に不可欠です。
しかし、ソーダ灰の製造は高温で化学反応を行うため、大量のエネルギーが必要とされます。

ベンチマーク指標は、「電解工程の電解槽払出カセイソーダ重量当たりのエネルギー使用量と濃縮工程の液体カセイソーダ重量当たりの蒸気使用熱量の和」が3.22GJ/t以下であることです。

計算式について、少し分かりやすく解説すると、電解でソーダを作る部分と、その後ソーダを濃縮する部分でそれぞれ消費するエネルギーを足し合わせ、その合計が1トンのソーダ製品を作るのに3.22GJ以下であれば、ベンチマークを達成したということです。

コンビニエンスストア業

コンビニエンスストア業は小売りの一環として、多様な商品を24時間体制で提供する店舗を運営する産業です。
食品、日用品、文房具、タバコといった幅広い商品が手軽に購入できるため、日常生活において非常に便利な存在です。

しかし、その便利さを提供するためには、照明、冷蔵・冷凍機器、エアコンといった電力を多く消費する設備が必要です。

このような背景も考慮し、ベンチマーク指標として、売上高(税抜)当たりの電気使用量が、845KWh/百万円以下が設定されています。

ホテル業

ホテル業は、一時的な宿泊施設を提供する産業です。
多くの場合、部屋の清掃、食事の提供、その他のアメニティやサービスも含まれます。
ホテルはビジネス、観光、イベントなど様々な目的で利用されるため、常に高いレベルのサービスが求められます。

客室、ロビー、レストラン、会議室など多くのスペースを快適に維持する必要があり、そのためには暖房、冷房、照明などで大量のエネルギーを消費します。

ホテル業界で設定されたベンチマーク指標は、エネルギー使用量の加重平均が0.723以下です。

ここでいう加重平均とは、ホテル内の各種スペース(客室、ロビー、レストランなど)が、それぞれどれくらいエネルギーを消費しているかを考慮し、そのスペースの重要性や使用頻度に応じて「重み」をつけて平均を計算する方法です。

詳しい計算式については、資源エネルギー庁のホームページをご覧ください。

百貨店業

百貨店業は、一般的に広い販売スペースに多種多様な商品を提供する大型の小売業の一形態です。
衣料品から家電、食品に至るまで、幅広いカテゴリーの商品が1つの建物内で購入できることが特徴です。

多様な活動とサービスを維持するためには、照明、エアコン、エスカレーター、エレベーターといった多くの設備が稼働しており、結果として大量のエネルギーを消費することになります。

こうした背景を考慮に入れると、エネルギー効率は百貨店業にとって非常に重要な要素です。

効率を測るベンチマーク指標として、エネルギー使用量の加重平均が0.792以下が設定されています。

食料品スーパー業

食料品スーパー業は、主に食料品を中心とした商品を販売するスーパーマーケットを運営する業界です。
スーパーマーケットでは、新鮮な野菜や果物、肉、魚、乳製品、パン、およびその他の食品、さらには日用品や家庭用品までが販売されています。

新鮮な食品を適切な状態で保管し、顧客に提供するためには、冷蔵・冷凍設備が重要であり、これに多くのエネルギーが必要となります。
また、店内照明やエアコン、情報システムなどもマーケットの運営には欠かせません。

このような状況を考慮して、ベンチマーク指標は、食料品スーパー業におけるエネルギー使用量の加重平均が0.799以下を基準としています。

ショッピングセンター業

ショッピングセンター業は、複数の店舗が1つの大型商業施設内に集まる形態の業界です。
ファッション店、家電量販店、食料品店、レストラン、エンターテインメント施設など多様なサービスを1箇所で提供します。

そのため、大量の照明、冷暖房、エスカレーターやエレベーター、セキュリティシステムといった多くの設備が整えられており、大量のエネルギーを消費します。

このエネルギー消費に関して、建物全体の床面積(延床面積)に対して消費されるエネルギーの量が0.0305kℓ/㎡以下をベンチマーク指標としています。

貸事務所業

貸事務所業は、オフィスビルを所有・運営し、その空間をテナントに貸し出すことを主な事業とする業界です。
多くの企業や個人事業主がオフィススペースを必要としているため、この業界は都市部を中心に活発なビジネスが行われています。

貸事務所業界に対して設定されたベンチマーク指標は、エネルギーの削減余地が15.0%以下です。

なお、この削減余地は、下記の専用のツールを使用して算出することができます。

参照:ECCJ 省エネルギーセンター / オフィスビルの省エネルギー / 5. 運用改善による省エネ促進ツール・手法の活用 |

大学

大学は高等教育と研究の場として、数多くの学生、教職員、研究者が集まる機関です。
一般的に、大学キャンパスは教室、研究室、図書館、体育施設、寮など多様な施設を持っており、それぞれの施設における冷暖房、照明、研究機器、コンピュータなどのエネルギー消費が考えられます。

大学においては、エネルギー使用量を同じくらいの規模の他のキャンパスの平均エネルギー使用量で割った値が0.555以下であることをベンチマーク指標に設定しています。

パチンコホール業

パチンコホール業は、ゲームや娯楽を提供する施設、特にパチンコ店を運営する業界です。
パチンコは、日本で非常に人気のある娯楽形態であるため、この業界は多くの店舗と従業員を抱え、経済的にも大きな影響を持っています。

パチンコホール業界の場合、店舗で消費しているエネルギー量を「同じくらいの規模」や「稼働状況にある店舗の平均エネルギー使用量」で割った値が0.695以下であることをベンチマーク指標としています。

国家公務

国家公務とは、政府の行政機関が担当する一連の業務を指します。
これには多くの部門があり、社会福祉、交通、環境保護、教育、保健などの多様な分野でサービスを提供しています。

国家公務は多くの庁舎や施設を運営しており、建物で消費されるエネルギー量は、かなりのものになる場合があります。

国家公務の場合は、施設のエネルギー使用量を同規模・職員数の庁舎の平均エネルギー使用量で割り算した値が0.700以下であることを、ベンチマークとして設定しています。

ベンチマーク制度の活用

ベンチマーク制度は、「事業者クラス分け評価制度」と「補助金制度」に活用されています。

事業者クラス分け評価制度

事業者クラス分け評価制度では、事業者を省エネの進捗度に応じて4つのクラスに分類します。
最も省エネが進んでいる事業者は「Sクラス」とされ、経済産業省のHPで公表されます。

一方、更なる努力が必要な事業者は「Aクラス」、進捗が停滞している事業者は「Bクラス」、そして注意が必要な事業者は「Cクラス」とされます。

クラス分けの基準となる評価は大きく2つあり、過去5年間でエネルギー効率が1%以上改善しているか、業界ごとのエネルギー効率の基準(ベンチマーク)を達成しているかのいずれかです。

どちらか1つでも達成していれば、事業者はSクラスに分類されます。
事業者クラス分け評価制度について、詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。

補助金制度

補助金制度は、もともと「エネルギー使用合理化事業者支援補助金」という名称でしたが、現在は「先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金」として運用されています。

この制度は、企業が省エネに関する投資を行う際に、その経費の一部を政府が補助するものです。
特に、工場や事業場で省エネルギー性の高い機器や設備を導入する場合に適用されます。

さらに、先進的な省エネ技術の導入にも特に力を入れています。
事業者はエネマネ事業者と呼ばれるエネルギー管理支援サービスを通じて、より効果的なエネルギー削減を目指します。

目標としては、令和3年から令和12年までの10年間で原油換算で1,846万klのエネルギー削減を達成することが計画されています。

令和3年度には、約484.5億円の予算が提供されています。
残念ながら、令和5年度の新規事業の公募はありませんのでご注意ください。

参照:令和5年度 先進的省エネルギー投資促進支援事業

補助金対象となるのは、日本に拠点を有する民間団体で、省エネに関する知識と運用能力があり、財務状態も安定している必要があります。

応募資格は厳格で、情報の秘密保持や文書の保存、経済産業省からの以前の補助金に関する交付停止等の措置がないことなどが条件として上げられています。

また、補助金の額は年度によって異なり、最終的には経済産業省との調整後に決定されます。
例えば、1年度における補助上限額は約2.5億円で、そのうち事務費は原則として補助額の10%以内です。
また、特定の条件下で複数年度にわたる補助も考慮されます。

詳しい応募資格や条件については、こちらをご覧ください。

参照:令和4年度「先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金」に係る補助事業者(執行団体)募集要領

ベンチマーク制度の今後の方針

今後のエネルギー効率向上の方針として、ベンチマーク制度を中心にした支援が検討されています。

この制度は、省エネルギーが遅れている事業者を規制で改善するだけでなく、すでに高いレベルで省エネルギーを行っている事業者に対しても、さらなる進展を促すためのものです。

具体的には、省エネルギーで優良と評価された事業者や、ベンチマーク制度で設定された目標に達している事業者への支援を強化する方向で検討されています。

このようにして、既に先進的な省エネルギー措置を講じている事業者も含め、全体としてのエネルギー効率を高めていくことが狙いです。

まとめ

ベンチマーク制度は、企業がエネルギー効率を向上させるための具体的な指標と目標を設定する制度です。
ベンチマーク制度では、現在19業種が対象とされています。

ベンチマークの達成状況に応じて、事業者の評価が行われたり、省エネ対策の補助金が付与されたりします。
達成できなかった場合、原因と対策を数値ベースで検討することができ、達成した場合には、成功事例を他の企業と共有することで、業界全体のエネルギー効率が向上します。

多くの業種、多くの企業で現在も省エネ対策が進められています。
まずは、自社が排出している二酸化炭素はどのくらいなのかを調べてみることをおすすめします。

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。